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異国、そして気配

 エルラトラム議会からあらゆる説明を聞いたあと、俺とリーリア、そしてレイはすぐにマリセル共和国へと向かった。

 ヴェルガーのときのように船に乗ってどこかに向かうというわけではないが、一日半もの時間をかけての長旅だ。当然ながら、道中では野宿もすることとなった。俺とレイだけであれば、休むことなく共和国へと辿り着くことができるとはいえ、リーリアにはそれほどの体力はない。

 まぁ彼女のことだから無理をしてでも俺たちにペースを合わせようとするだろうがな。

 別にそこまで緊急の要件というわけでもないからな。ゆっくりと旅をした。


 そして、エルラトラムを出てちょうど二日が経った。共和国に入る手前でもう一度野宿をして、それから共和国へと入ることにした。

 大きな門が朝の鐘と同時に開き始める。俺たちの他に貿易商などの人がその門の前に集まっている。彼らへと耳を傾けるとどうやらグランデローディア領を奪還したことで物資の貿易が気楽になったのだそうだ。

 確かに魔族に狙われるという心配がないのだからな。確かに命を落とすリスクが減ったとなれば安心もするか。

 まぁ俺たちはローブで容姿を隠しているため、俺たちが剣聖だとは気付いていないようだ。別に自慢したいわけでもないからな。今はこの状態でいいだろう。


 門番に自分たちの身分証明書を提示すると俺たちに向かって共和国式の敬礼を始めた。

 左肩に右拳、そして後ろに左拳を作り顔は斜め上を向く。この国ではそのような所作で敬意と忠誠を示すのだそうだ。

 俺たちはこの国のトップにいるわけではないのだが、まぁ尊敬の念を抱くのは無理もないか。この国でも小さき盾や俺の話は伝わっているのだろうからな。

 敬礼したマリセル共和国の兵士たちの間を通るようにして共和国内へと入っていく。兵士たちの後ろには聖騎士団の服を着た人も何人か立っていた。魔族が来たとしてもここである程度は食い止めることができるのだろう。しかし、紋章を見る限りそこまで高い地位にいる人ではないようだ。


「……エレイン様、みなさんの目を見てください。尊敬の眼差しでエレイン様を見られています」

「そのようだな」

「へっ、尊敬ね」


 レイはそんなものなど気には止めないような性格だからな。いい意味でも悪い意味でも自己中心的な男だ。

 共和国内へと入ると、活気だった市場がすぐに見えた。貿易商たちがここでものを売り買いするためなのだろう。平和が保たれているのか朝から非常に活気だっている様子が見て取れる。

 しかし、それよりも妙な視線を感じる。


「……」


 ふと横に立っていたレイへと視線を向けると彼もその妙な視線を感じ取っているようだ。

 少し不愉快そうな表情をしている。


「レイ、実害がない以上は無視したほうがいい」

「……でもよ」

「自分で言うのも何だが、最強と言われている俺たちを警戒するのは当然だろう。監視役の一人や二人いたとて不思議ではない」


 逆に俺たちを遠くから護衛している目的なのかもしれない。

 ただ、どちらにしろ尾行されているというのは気分のいいものではないからな。尾行の理由が何であれ、俺たちは平静を装うべきだ。


「まぁお前が言うのならそうなのかもな」


 すると、彼は後頭部を掻きながらそういった。

 ここに来てそうそう問題を起こすのもエルラトラムの信頼を損ねる行為だからな。よほどの事がなければ自分から動く必要はない。


「エレイン様、このまままっすぐ向かうと兵士たちの訓練施設があるようです」


 リーリアが議会から渡された地図を見ながらそういった。

 この国に来た目的は視察だ。聖剣を受け渡しても問題ない国なのかどうか、それを見極めるために来たのだ。

 それ以外のことなど考えるだけ無駄だ。この国の問題を他国の俺が干渉するのは避けたいからな。


「別のルートを探してみますか?」

「……いや、その地図に書かれている通りにする。別にどのルートで行っても同じなのだからな」


 少し考えた俺はそう答えることにした。

 尾行されているのなら地図とは違うルートで向かうべきなのだが、悪い目的で俺たちを尾行しているというわけでもないのなら何ら気にする必要はない

 それにこの地図に書かれているルートが最短ルートとも言えるしな。


「わかりました。エレイン様、こちらです」


 そう言って一歩だけ前に出た彼女はそのまま道を案内し始めた。


   ◆◆◆


 私、アイリスは命令通り、エルラトラムで剣聖と呼ばれている人物を尾行していた。

 私の横にはシンシアがいる。ルート上には別角度からコミーナとリシアも監視を続けている。


「今のところ、対象には気付かれていないようね」

「……」


 横でシンシアがそういった。

 しかし、私には尾行されていることが気付いていると思っている。根拠と言えるものはあまりないが、私の直感がそう言っている。


「移動を始めたわね。あの道だと……」

「書かれているルート通りです」

「では、予定通りに私たちも動くべきね」

「……」


 若干の戸惑いはあるものの、作戦の妨げになるかもしれない。それにもし尾行に気付いているのだとしたらあの地図に書かれたルート通りに行くわけがない。

 いや、気付いた上でルート通りに進んだ可能性もある。もしそうだとしたら……


「アイリス、行くわよ」


 コミーナとリシアに合図を出したシンシアがそういった。

 今は考えている場合ではない。後手に回ろうと私たちには任務がある。無事に遂行することが私たちの使命なのだから。


 それからしばらく彼らの後を付けていった。

 彼らの目的はこの国の視察だ。聖剣を受け渡しても問題ないかの調査らしい。普通なら聖騎士団が来るところなのだそうだが、今回は特別に剣聖が視察を担当している。

 ファデリードが何かしたと考えられるものの具体的に何をしたのかはわからない。まぁ私たちには関係のないことだ。考えるだけ無意味だ。


「……あの人」


 シンシアが剣聖の方を見ながらそう声をこぼした。

 私も物陰から片目を出して剣聖の様子を伺う。すると、どうやら一般訓練施設の前に着いたようだ。

 ルートも地図に書かれた通りだった。

 しかし、問題はそこではない。彼らが対面している人が想定外だったのだ。


「ファデリード司令官が自ら施設を案内するのですね。話ではそのようなことは一度も言っていませんでした」

「ええ、だけど中断するわけにも行かないわ。むしろ好都合と言うべきね」

「……」

「尾行を続行するわ」


 私は反論することなくシンシアの言うとおりに動くことにした。

 剣聖は十中八九私たちの存在に気付いている。それならどうしてルートを変えないのだろうか。それとも問題がないと思っているのだろうか。

 考えれば考えるほど悪い方向へと私の思考が進んでいく。訓練施設にいたときはもっと多方面から考えることができたのだが、今の私にはできない。いや、多角的に考えれるほどの余裕がないというべきだろう。

 もうこうなっては考えて行動することは不安を煽るだけで行動の邪魔になる。

 成り行きに任せる方がいい。

 そう結論付けた私はシンシアの後ろに続いた。

こんにちは、結坂有です。


今後のエレインとアイリスの展開が気になるところですね。

ちなみにアイリスの印象は清楚な妹系っぽい感じです。つまり、お約束の展開に……

詳しくは本編で描かれていきます。


それでは次回もお楽しみに……



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