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初めての公務

 俺、エレインは議会に呼び出されていた。

 もちろん、その内容はわかっている。俺は今日、マリセル共和国へと公務として向かわなければいけないのだ。そのための最終確認ということだろう。

 剣聖としての仕事で初めて議会から出された任務とも言える。

 どうして俺がそのような任務を受けることになったのか、理由は今から一週間ほど前になる。


   〜〜〜


 年明けまで活動を休むよう議長命令と受けた俺は小さき盾とともに溜め込んでいた問題を解決しようと動いていた。

 まずグランデローディア領を奪還したことで様々なことが露呈した。それらの問題は聖騎士団が先導して解決してくれた。その問題というのは大きく分けて、取り戻した領土の完全制圧だ。すべての魔族が撤退したと報告されているが、まだどこかに潜んでいる可能性だってあるからな。数ヶ月は聖騎士団がくまなく調査することが必須となっていた。

 そのために聖騎士団が他国への支援に行くことができない状態となってしまった。まぁ聖騎士団の人もアレイシアからの指示ということもあって快く引き受けてくれたのだがな。


 それは彼らに任せるとして、俺がしなければいけないことの一つとしてラクアとマナの居場所についてだ。

 幸いにも俺に心当たりがある。

 それは俺がフラドレッド家の本家の方に戻ることだ。そうすれば今いる家に空きができ、彼女たちを住まわせることができる。そのためにはこの家の主である人物にも話を通しておく必要があった。

 まぁそのことはアレクがどうやら済ませてくれたようで難なく話が進んだ。

 一番の問題はアレイシアをどう説得するかだ。


「……アレイシア、話があるんだが」


 議長室で俺がそう彼女に問いかけるが、彼女は俺が部屋に入ってからというものずっと表情をムッとしている。理由はわかっている。俺が本家に戻ろうとしていることを彼女が知ったからだ。

 確かに最初に相談するべき相手というのはアレイシアだとわかっていたが、そこまで気が回らなかったといったほうが正しい。


「もう……本家に戻るならもっと早く言ってよねっ」

「すまなかった。伝えるのが遅くなってしまったな」

「……まぁいいわ。それで、ラクアとマナのことよね。別に家主も納得してくれているのなら私がどうこういう必要もないわね。あのおじいさん、私がなにか言うときは文句ばかり言ってくるのに……」


 そう言っているが、それは俺が学院に行くからという勝手な理由で家を貸し切ろうとしていたのだ。最初は文句の一つや二つは言うものだろうと思う。

 そこは彼女の顔に免じて、と言った形になったのは容易に推測できる。


「俺があの家にいては家の空き部屋がないからな。俺が本家に戻るということなら問題ないだろう」

「……」


 すると、彼女はまたムッとして俺を睨みつけてくる。


「本家に戻るのは別に構わないわ。でも、あの家に戻るということはあの執事と一緒ってことよ?」


 思い返してみれば、確かに本家での暮らしは快適とは言えなかったな。

 アレイシアの執事をしていた男がなにかと俺に難癖をつけてくることが多々あった。正式な跡継ぎというわけではないのだからな。

 しかし、その程度のことは我慢できる。マナが自由に過ごせるようになるのならそれで問題はない。それに今はリーリアもいることだ。

 あの執事でも実力者として名高いリーリアを無碍に扱うことはできないはずだからな。


「……もっと一緒に過ごしたかったのに」


 加えて彼女はぼそっと小声でそう言った。


「アレイシア様、エレイン様にもお考えがあるのです。ここは素直に許してはどうでしょうか」

「でもよ? 本家とあの家とでは少し距離が離れてるわ。それだけ私とエレインの距離が開くってことなのよ?」

「馬車で三十分程度です。それぐらいの距離でアレイシア様とエレイン様のご関係に傷が付くとは考えられません」


 ユレイナがそう話を円滑に進めようとしてくれているが、アレイシアの感情はどうにも止められそうにないようだ。

 仕方ない。ここは……

 そう俺が話しかけようとした途端、ノックが議長室に響いた。


「アレイシア議長、マリセル共和国からの緊急伝達ですっ」

「……入ってっ」


 普段なら俺と話しているときは断るのだが、緊急伝達ということもあってか彼女は事務の人を通した。

 彼女のその言葉で扉の中に入ってきた事務の人は少し急いだ様子でアレイシアに伝達の内容を話し始めた。


「マリセル共和国からの伝達っ、聖剣取引のことのようです」

「後回しにしてたのが今になって来たってことね」

「はいっ、視察に十分な準備ができているのだそうです」


 聖剣生産国としてエルラトラムは様々な国を調査している。それは聖騎士団を派遣して調査を行っている。理由としては単純だ。聖剣を受け渡して大丈夫な国なのかということを調べるためだ。

 そう簡単に他国を信用するのはできないということだ。それに前の議長はマリセル共和国をないものと考えていたそうだしな。


「それで、緊急だっていうの?」

「そのようです。すぐに聖騎士団を派遣してほしいのだそうです」

「確かに国外に派遣していた聖騎士団に招集命令を出してから随分経つからな」

「……アレイシア様、聖騎士団は今奪還した領土の完全制圧を優先しています。マリセル共和国に派遣できません」


 グランデローディア領の制圧までにはまだまだ時間がかかることだろう。あの領土はかなり大きいものだったからな。

 制圧したことで受けられる恩恵はかなり大きい。貿易が今までよりも安全になるのだからな。優先すべきことなのには変わりない。


「でも、一部はもう確保できているのでしょう?」

「そうですが、それでも完全制圧までには時間がかかります」

「……」


 すると、彼女は深く考え始めた。

 マリセル共和国の視察も考えなければいけない。それに奪還した領土も制圧しなければいけない。

 二つを両立させることはなかなか難しい。


「なら、俺が視察に向かうというのはどうだ?」

「え、エレインが?」

「ああ、リーリアももともと聖騎士団で上位にいた経歴がある。彼女と一緒に向かえば問題はないだろう」


 もう年は明けて、休暇しろと言われた期間はもう過ぎているからな。

 溜まっていた疲れももうなくなっているはずだ。


「……でも」

「俺ならもう大丈夫だ。十分に休暇は取れた」

「アレイシア様、ここはエレイン様に任せてもいいのではないでしょうか」

「……」


 また深く考え始めた彼女は大きく息を吐いて俺の方を向いた。


「わかった。エレイン、マリセル共和国の視察に、剣聖として向かいなさい」


   〜〜〜


 それが俺がマリセル共和国に向かうことになった経緯だ。

 それから俺はラクアとマナに家を案内して、数日は本家にリーリアと過ごした。

 ルクラリズもあの家に残って過ごすことになるそうだ。しばらくはラクアとルクラリズ、そしてセシルの三人は小さき盾の人たちと厳しい訓練をすることになるのだろう。

 それも彼女たちが強くなるためだ。


「エレイン様、レイさんが来られました」


 マリセル共和国の視察に向かうにあたって、もう一人連れて行くことにした。それは小さき盾のレイだ。

 なにかと面倒事に巻き込んでしまっている自覚はあるのだが、今回はミリシアがレイを連れて行ってほしいと指示したようだ。最初は俺とリーリアの二人で行くつもりだったのだがな。

 まぁレイなら安心はできるか。俺の護衛という名目も果たせそうではあるしな。


「へっ、議会に来るなんて何ヶ月ぶりだろうな」

「小さき盾も休暇だったな」

「ああ、退屈で仕方ねぇぜ」

「ラクアやセシルは毎日地獄だと言っていたがな」


 俺がそう言うと彼は小さく鼻で笑うと口を開いた。


「あの程度で地獄かよ」

「……レイさんの訓練は見てるだけでも辛そうです」


 リーリアでも彼の指導する訓練は辛そうに見えるようだ。

 まぁ実際に普通の人間からすれば信じられないような訓練だからな。木剣で鉄製の剣を破壊するなんて訓練は一般的には行われない。


「どっちにしろ、ちょっとは退屈しのぎにはなりそうだしよ。今回のは」

「退屈しのぎ程度ならいいのだがな」


 まだマリセル共和国に着いたわけではないのだが、嫌な予感がするのは確かだ。

 急な視察要請、その裏に隠されている事情はどうも怪しい。

 しかし、それは考えるだけ無駄だということだ。今の俺にできることは唯一つ、公務を執行するだけだ。

 俺はそう言って議会の門をくぐった。

こんにちは、結坂有です。


剣聖としての初めての仕事、ヴェルガーのときは少し違いましたが、今回はそれも国外に向けての正式な任務です。

一体どのような任務になるのでしょうか。

果たして、無事に任務を遂行することができるのでしょうか。

今回の裏の事情とは……


それでは次回もお楽しみに……



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