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絶対を超える力

 私たちは上位種の魔族と戦っていた。私以外にもアレクやレイも上位種と戦っている。しかし、それでも能力持ちというわけでもなく、そこまで苦戦するほどのことでもなかった。

 生死を別ける厳しい戦いであるのには変わりないが、私たちの実力からすればなんとか乗り越えることができることだろう。実際に被害は殆ど出ていない。


 戦いの最中、ハーエルが他の聖騎士団の状況を話してくれた。

 それによると、聖騎士団は私たちの後ろから追いかける形でグランデローディア領へと攻撃を仕掛けているらしい。私たち小さき盾を槍先のようにして陣形が組まれているらしい。

 部隊名の小さき盾に相応しくない立ち回りだろう。いや、ある意味では正しいか。

 どちらにしろ、聖騎士団が下位種の相手をしているのなら問題はない。

 若干の不安があったものの、こうして作戦通りにことが流れているのは良い兆候だ。

 後はエレインがグランデローディアを討伐するだけ。


「はっ」


 私の右でアレクが宙に舞う。

 そしてその直後、美しく流れるような曲線を剣先で描くと魔族の四肢がゆっくりと切断され、最後には首元へと剣閃が走った。


「オラァ!」


 左ではレイが持ち前の特大威力で上位種を圧倒している。


「せいっ」


 少し離れた場所でユウナが瞬間的に移動して魔族を翻弄している。

 いくら魔族と言っても目で世界を見ている。目で追えない速度の攻撃によって魔族の腹部はえぐられる。ショーテルという独特な形状のため、その深い一撃は致命傷になったことだろう。

 ユウナの剣では死にたくない。


「ウガァア!」


 目の前の魔族がおおきく振りかぶった棍棒で私へと攻撃してくる。

 私の得意とする技”閃走”は直線的な動きによって自らの残像を残したまま、移動すると言った私が独自で作り出した技術だ。

 訓練時代の私には他の人と違って特技と言ったものがなかったために必死に作ったもの。


「ふっ」


 シュンッと空気が裂かれる音とともに私の視界は一気に加速していく。

 そして、私の剣は魔族の胸部へ大きな裂傷を与える。


「グブルルゥ……」


 何が起こったのかわからない様子だ。


「な、何が……確かにここに……」


 能力持ちでないこの魔族には私の攻撃はどうやら速過ぎたらしい。

 苦しませるのも私の趣味ではない。ここは楽にしてあげるべきだろう。

 そう思った私は大きく開いた胸を抱き込むようにして悶ている魔族を背後から剣で突き刺した。

 当然ながら、心臓を確実に捉えた攻撃のため魔族は即死した。


「……ミリシア、大丈夫かい」

「ええ、問題ないわ」

「それにしても、まだまだ上位種の魔族がいるみたいだね」

「休んでいる暇はないわ。引き続き、魔族を処理していきましょう」

「ああ、そうだね」

「わ、私もがんばりますっ」


 少し離れた場所からユウナが大きな声でそういった。

 すると、左側からレイが彼女の方を向いた。


「へっ、なら倒した数で勝負でもしようか?」

「レイさんはもう数え切れないほど倒してますよっ」

「そんなこと言ってるようじゃ俺には勝てねぇぜ?」

「か、勝つつもりなんて微塵もありませんっ」


 相変わらずレイとユウナはいつもこの調子だ。戦いに支障が出ない程度にしてほしい。

 まぁともあれ、私たちはこのままの調子でなんとかグランデローディア領中心部へと辿り着くことができそうだ。


 あとは、エレイン。すべてはあなたの活躍次第よ。


 そう私は胸の中でつぶやいた。


   ◆◆◆


 俺、エレインはグランデローディア領中心部へと辿り着いていた。

 ほとんどの魔族はどうやらさきほど爆発音のあった方向へと向かっているようで今まで大きな戦闘はなかった。

 しかし、リーリアは少しばかり息が上がっているように見える。


「リーリア、疲れたか?」

「はぁ……大丈夫です」


 大きく息をして、彼女はそういった。

 無理をしているようには見えないが、これから厳しい戦いが起きるかもしれないとなると少し休憩するべきだろうか。


「無理そうなら言ってくれ。ペースを合わせる」

「いえ、私のせいで作戦が遅れては元も子もありません」

「この戦いで犠牲者を出すわけにはいかないからな。作戦の成功よりも生きて帰ることが重要だ」


 俺がそういうと横でセシルが少し呆れたように口を開いた。


「こんな無茶な動きしててよくそんな事が言えるわね」

「どういうことだ?」

「エレインはどう思ってるのか知らないけれど、数百もの魔族を突っ切るなんて正気の沙汰ではないわ」

「下位種ばかりだった」

「そういう問題じゃないのよ。とりあえず、ペースを落とすわ。リーリア、これは私が言ったから気にしなくていいわ」


 まだ体力が有り余っている様子のセシルだが、リーリアの状態を見て代わりに言ったのだろう。

 確かに普通ではないのかもしれないな。俺や小さき盾を基準に判断するのはよくない。


「わかった。それより……」

「エレインっ」


 すると、ルクラリズが俺の名前を呼んだ。

 その直後、強烈な魔の気配が俺の背後に迫ってくる。


「っ!」


 咄嗟に俺は魔剣を引き抜き背後からの強い殺気へと構える。


 ギャギギィインッ!


 耳をつんざく金属が削れる音、そして強烈な衝撃は俺の腕を破壊してくるようだ。


「ぬっ、この攻撃を受け切るとは……」

「グランデローディアっ」


 俺を襲ってきた魔族に対してセシルがそう叫んだ。

 どうやらこの魔族がここの領主らしい。


「まさか、このような攻撃をしてくるとはな。それも……」

「はぁあ!」


 その直後、セシルが一気に攻撃を仕掛ける。非常に素早い攻撃ではあるが、少し甘い攻撃となってしまっている。

 当然ながら、その攻撃にこの魔族は反応してくる。


「ふんっ」

「あぐぁ」


 その魔族の強烈な蹴りにセシルは吹き飛ばされる。受ける直前に剣を盾にしたために怪我はないようだが、それでもあの衝撃は尋常ではない。

 今までの上位種の枠を超えた力、能力持ちであることは間違いないようだ。しかし、その能力が一体何なのかはまだわからない。計画通り、魔剣で様子をみることに……


「お前の考えていることはよく理解できる。様子見をしようとは思うな。本気で挑め」

「……」


 思考を読まれたかのようにグランデローディアが話しかけてきた。

 しかし、こんなことで動揺してはいけない。多少計画が読まれたからと言って直ちに不利になるわけでもない。


「次はこう考えているのだろう。いっそのこと自分の二刀流で倒そうと、本気で挑もうとな。少なくとも、お前の取れる選択肢は限られている」

「……」

「悪いが、全て手に取るようにわかる」

「根拠がないな。ハッタリを仕掛けてるように見えるが?」


 挑発にもならないが、そう言ってみる。

 その間にも俺は魔族から十分な間合いを取って警戒を始める。迂闊に攻撃すればセシルのように吹き飛ばされる可能性がある。その彼女はまた立ち上がって剣を構えている。その横でルクラリズ、リーリアも剣を構えている。

 リーリアはまだ息が整っていない。額には若干の汗、不安と蓄積された疲労から来ているのだろう。あまり無理させるわけにはいかない。

 ルクラリズはこの魔族から放たれるとてつもない魔の力に圧倒されていると言った様子だ。とくにそういった力に敏感な彼女だからこそ怯えるのも無理はない。ゼイガイアに近い力を感じるからな。

 しかし、ゼイガイアほどのものでもない。


「ここがどこなのか、わかっているだろう。我が領内だ。領内のことはすべて把握している。お前らの仲間の居場所やその考えもすべて」

「……」


 そういった能力があるとは一言も言っていない。それこそ、脅威というレベルの話ではない。

 もし、彼の言っていることがすべて事実なのだとしたら、最初から最後まで作戦が読まれていたということになる。目に見えていた罠はすべて偽りだったのか?


「我が”絶対”の力に敗北という文字はない」

「つまり、どういうことだ?」

「今ここで勝者と敗者が決まった。お前らの、人類の敗北が決まったのだ」

「……」


 なるほど、そういうことか。

 すべてが決まった存在、つまりは絶対というものを打ち壊す必要があるということか。

 考えられるほぼすべての選択肢は狭めることができる。いろんな要素を作り出すことでな。今、俺がここで取ることのできる選択肢は大きく二つ、グランデローディアに斬りかかるか、逃げるかだ。

 相手の選択肢を狭めることで自らの”絶対”を作り出している。しかし、世の中、そのような絶対ということはない。

 すべての人間が選択肢をなぞるというわけでもないのだからな。そう、俺のようなイレギュラーな存在なら特にな。


「ふっ!」


 俺は魔剣に全身全霊の力を込めて空を斬った。

 もちろん、グランデローディアを斬ったわけでもない。目に見えない誰かを斬ったわけでもない。ただの素振りだ。


「……何をしている?」

「これは想定外か? そもそも俺が本気でお前に挑むなどと思っているのか?」

「想定……なっ」


 ほんの一分いちぶでも可能性が生まれれば確率も狂い始める。

 そう、自分の作り出した”可能性の中”でしか動けないグランデローディアにとっては”想定外”こそが唯一の天敵なのだ。俺の動きに彼の予想できない不確定な要素があればそれだけで十分だ。何も神の能力と本気で力比べしようなどと考えるべきではない。

 彼の敗因は俺との《《本気の勝負》》を仕掛けたことだ。


「お前が今考えていることは……負けるかもしれない、そうだろ?」


 彼の思考の中に一分でも敗北の可能性が生まれれば何ら問題はない。

 低い確率だろうと引き当てて見せよう。

 今の俺はその突破口を切り拓くだけの実力と能力がある。不安がる要素など一つもないのだ。最初から俺は勝利を確信していたからな。

 言っていただろ。俺はこの戦いで死ぬつもりなど、負けることなど到底ないとな。


「人間ごときが、我が絶対の領域に踏み込むなど言語道断っ。殺す、殺してやるっ」

「エレイン様っ」

「安心しろ、必ず勝つ」

「我が絶対の力っ! ここに示さんっ」


 魔の力が一点に集中し始める。

 大地が震え、空気が共鳴する。地震のような重低音を響かせながら魔の力がグランデローディアの両腕へと集まっていく。


「これは……」

「この力が、絶対たる証っ。この世の全てを覆う、強大な力っ」

「……この世は誰が支配していると思っている」

「力こそが、力こそがすべてを支配するっ」

「話にならないな」


 俺は魔剣を構える。

 そして、魔剣の中に宿っているアンドレイアへと合図を送る。


「死ねっ。この世とともにっ!」


 禍々しい輝きを放つ彼の両腕が俺へと迫ってくる。

 俺は冷静にそれを見据え、一歩前へと踏み出す。


『愚者は時の流れを知らぬ……。”時の剪断せんだん”』


 神速の一閃は確実にグランデローディアの腹部へと走る。


「ぬっぐ」

「この世は”神のことわり”によって支配されている。そこに絶対の力などない」

「……うぐぐううぅうううあああぁあああ!」


 すべてが力で解決できるのなら神はそもそも天界で危機的状況になることはなかったはずだ。

 神自らが作った理が奇しくも自らを滅ぼしかけたとは皮肉なものだがな。


 切断された時空は神の理によって強制的に修正される。

 その切断された狭間にいるグランデローディアは自分が作り上げた絶対の力で抵抗している。しかし、それも無駄なことだ。

 人間も、魔族も神に作られた存在。神を真似ることはできても、神になることは到底できることではない。


『全ては収束へと向かわん』


 クロノスの澄んだ声とともに両断された時空が修復され、グランデローディアの体が音もなく両断された。

 この戦いにおいて俺は、人類は初めて魔族領領主を倒したことになった。

 それはつまり、人類が世界を取り戻すきっかけとなったということでもあった。

こんにちは、結坂有です。


エレインと魔剣のとてつもない力が炸裂しましたね。

いくら絶対と言えど、世界のルールの中でしか動けません。その世界のルールすら味方に付ける剣聖エレインはやはり最強ですね。

ところで、ザエラらしき存在はどうなっているのでしょうか……


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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