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戦いを始めて

 私、ミリシアは少しだけ機嫌が悪かった。

 理由としてはまたエレインが危険な場所へと自分の判断で突撃していったことだ。

 あの後、私たちが地下室で急いで準備を始めている間にエレインたちは先に向かっていったそうだ。そのことはリビングにいたカインから聞いた。

 今私たちは家を出て、グランデローディア領とエルラトラムの間に向かっている途中だ。このあたりは魔族がいる様子もなく、誰かに見られているという感じではない。聖騎士団の人も何人か見かけたものの、大きな動きはなさそうだ。

 おそらく私たちが一番早くに行動しているとわかる。

 彼は私たちに何も言わずにグランデローディア領へと向かったのは私のことを気遣ってのことだろう。それはわかっている。私もエレインと同じ立場だったらきっと似たようなことをしたはずだ。


 でも、それでも私には納得できなかった。

 どうして、エレインが危険な場所へと行かなければいけないのか、それがずっとわからないでいた。

 地下訓練施設のときからそうだ。エレインだけがあの謎の部屋に入って、エレインだけがすぐに逃げられないような場所に監禁されていて……

 思い返せば、彼は常に危険な場所ばかりいる。

 話の聞いていないこともあるかもしれないが、きっと私の知らないところでも危険な状況に陥っていた可能性だってある。

 彼がいくら強いからと言ってわざわざ危険な目に合う必要なんてないのだ。


「……ミリシア、機嫌直せよ」

「おかしいと思わない? エレインばかり……」

「そりゃ、こんな状況なんだから仕方ねぇだろ」

「確率的にもおかしいわ。いくらなんでも不運すぎるわよ。学院生活だってもっと平和だったらよかったのに」


 思い返せば、魔族のこと以外でもいろいろとあった。

 学院でも当時の議会は彼を危険視していた。だから、彼を完全な手駒として扱おうと企んでいた。私も聖騎士団団長だったブラドと協力していろいろと妨害なんかはしてたけれど、エレインへの被害は完全に防ぐことはできなかった。


「話を聞いた限りだと確かにそうかもしれないね。彼はあまりにも巻き込まれすぎている気がするよ」


 そんな事を話しているとアレクが同意するかのようにそう言ってくれた。

 どうやら彼もエレインが危険に巻き込まれやすいということはわかってくれているのだろうか。


「だったら……」

「それでもだよ。彼がそれを解決したいと動いているのは間違いないよね」

「それは、そうだけど」

「魔族は人類にとって解決しなければいけない問題だからね。巻き込まれることで解決していくのなら僕はそれでも問題ないと思っているよ」

「へっ、向こうから問題がやってくるんだからなっ。そりゃ楽だわな」


 楽といえばらくなのかもしれいないけれど、それは問題が解決できるものならという前提がある。

 何でもかんでもエレインだけですべてが解決するとは限らない。私が最強の剣士だと思っているとしてもかれは全能の神でもない。人智を超えているとは言っても限界はあるものだ。


「楽って、無事に問題が解決できたらの話でしょ? こうしたことって命に関わることだし、そう簡単に解決できるとは思えないわ」


 それに、体は無事だったとしても精神的に疲労が溜まってしまうことだってあるだろう。

 こうも何度も危険な場所に行くことはいくらなんでも精神衛生的にもよくないことだ。


「だから心配し過ぎだって」

「死ぬかもしれないのよっ」

「僕はエレインを信じてるよ。僕たちが僕たちの実力を信じてるようにね」

「……」


 もちろん、私も自分の実力にある程度自信を持っている。アレクやレイの実力も信頼している。エレインのことも信頼している、つもりだ。

 彼がそう簡単に死ぬような人間ではないこともよく理解している。あの訓練を最後までやり遂げた最高の人間なのだから。それでも必ず生きて帰ってくるという確証はない。

 物事に絶対がないように、生きて帰れるかもわからないのだ。


「エレインって男はな。とんでもない才能を持ってるんだ。俺の知ってるエレインが敵地に向かったとて無事に帰ってくることだろうぜ」

「うん。レイの言うとおりだね。僕もエレインが帰ってくると信じてるよ」


 すると、私たちのやりとりを後ろで聞いていたユウナが口を開いた。


「信じているのなら最後まで信じましょうっ」


 彼女の真っ直ぐな目はどこまでも実直なのだなと思った。

 私もその目を見て、改めてエレインのことを考えてみた。

 ()()を成し遂げた彼なら生きて帰れるかもしれない。いや、間違いなく帰ってくる。


「……少し落ち着いたわ」

「そうか。それなら良かったぜ」

「はいっ。ミリシアさん、部屋に戻ってからずっと不機嫌でしたから怖かったですぅ」

「ごめんね。今はもう大丈夫だから」

「ミリシアも本調子に戻ってきたところで、さっそくぶちかましてやるかっ」


 私がそういうとレイはその大きな魔剣を引き抜いて地面へと突き立てる。

 そして、それと同時に強烈な衝撃波が発生する。

 彼が一体何をしたのか、それは私たちのグランデローディア領に向けての合図だ。今から攻撃を仕掛けるというもの。


「魔の気配も強まってきたな。来るなら来いよ。全員蹴散らしてやるよっ」

「この先からはグランデローディア領だからね。この音は絶対に聞こえたはずだよ」


 そうアレクが言った直後、薄っすらと感じていた魔の気配が強くなり始める。

 そして……


「ギャガァア!」


 魔族の咆哮が聞こえてくる。それを皮切りに様々な場所から同じような咆哮が立て続けに聞こえてくる。

 数はわからないが、かなりの数の魔族がこの一帯にいるのだろう。

 エレインはどのルートから侵入したのかは知らないけれど、ここではなかったようだ。


「へっ、どうやらあたりだったな」

「どうだろうね。でも、はずれではないことは確かなようだね」

「ではっ、私はアレクさんと前衛に出ますっ」

「ええ、お願いするわ。私とレイは後ろから援護するから」


 私がそういうとアレクとユウナは一気に駆け出した。

 アレクはその美しい剣技で魔族を圧倒し、ユウナは短い距離の瞬間移動を駆使して魔族を一体一体確実に倒していっている。

 それらとは対照的にレイはその超人的な力で魔族を文字通り破壊していく。

 爆音が轟くと魔族の体が吹き飛んでいく。


「暴れるってのは楽しいなっ」

「……私は楽しいと思わないけれどっ」


 当然だが、私はレイと違って乱暴な戦い方はしない。相手の弱点を確実に狙って無力化していく戦い方、つまり体力を削る戦術なのだ。

 レイやエレインは私のそれとは違い、確実な一撃で相手を無力化する戦い方だ。無駄がなく、それでいて対複数戦においても有効な戦術の一つでもある。まぁエレインの場合は状況によって戦い方を変えているのだけど。


「暴れたりねぇだけだぜ。本気で暴れりゃ楽しいってもんよっ」

「ちょっと、ペースを乱さないでよねっ」

「問題ねぇぜ。こいつら想定していたよりも弱いからよっ」


 確かにそのとおりだ。パベリの頃よりももっと強い魔族がいると考えていたが、とてつもなく強いというわけではない。普通に強いというだけだ。

 この程度なら私たちだけでも何ら問題はない。それに今は四人もいる。

 数百もの数がやってきたとて、私たちの侵攻を止めることはできないだろう。このまま上位種が現れなければの話だが。


「僕たちもペースを上げるよ。一気に仕掛けるほうが良いからね」

「……そうね。そうした方がいいかもしれないわ」


 こうして大暴れしているのだけれど、エレインの方はどうなっているのだろうか。

 魔族の方も私たちの攻撃を食い止めようと、いや、罠に嵌めようとしてくるはずだ。

 私たちの実力的には無理やり押し切る作戦もできなくはない。だけど、もっと確実に突破するにはエレインたちによる二面攻撃が必要だ。


「エレイン、私たちも頑張ってるんだから負けないでよねっ」


 私はここにはいない彼にそう言って地面を蹴った。

 目の前の魔族は私の動きに反応できていない。それも当然だ。私の動きは直線的で、とても高速なのだ。いくら魔族でも私の動きに対応してきたのは今まで上位種のごく一部だけ。こんな下位種の連中相手ならなんの問題もないというわけだ。

こんにちは、結坂有です。


いよいよ戦いが始まりましたね。

初動は順調そうですが、待ち構えている敵に突撃するのはかなり危険ですからね。

これからどのような展開になるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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