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挑むべき正攻法

 それから俺たちは小さき盾たちよりも少し早めに戦闘準備を始める。

 もちろん、彼らにも話をするつもりだ。まぁ彼らならもう気付いている頃だろうな。

 自室の扉の奥から複数の足音が聞こえる。足音的にリーリアが小さき盾の人たちと会話をしているのだろうか。

 と、そんな事を考えていると自室の扉が開かれた。


「エレインっ、一人で行くって本当なのっ」


 扉を勢いよく開いたミリシアは開口一番にそういった。

 おそらく俺たちの動きをいち早くに察知し、そう言ってきたのだろう。


「ミリシアさん、エレイン様はお考えがあっての決断です。それにエレイン様お一人で行くのではございませんよ」

「私が言いたいのはそうじゃなくて、なんで危険な場所に自ら行こうとしているのかって話よ」


 確かに危地に向かうというのは事実だ。それもただの国外というわけではない。魔族が領主となっている正真正銘の敵地という場所だ。当然ながら、安全とはかけ離れている。普通に死が隣と合わせといった場所に、俺は彼らの援護無しで向かおうとしているのだ。

 いや、援護という意味ではないな。ミリシアはそんな場所に俺を行かせたくないという思いのほうが大きいのかもしれない。

 あまり思い出したくないが、帝国での出来事を踏まえると彼女はそういった事で怒りを顕にする。


「別に死ににいくつもりはないからな。安心してほしい」


 当然ながら、俺としてもこんなことで死ぬわけにはいかないからな。

 領主を討伐して、魔族領を奪還することは人類に取って大いなる前進になることなのかもしれないが、俺はそれ以上のことをしなければいけない存在だ。

 魔族から人類を完全に救う。

 それができなければ、俺は俺の持つ大きな罪を償うことはできないのだから。


「死なないって誰が保証するのよ」

「俺だ」

「ちょっとそれだと意味が……」


 俺を説得させようとミリシアが迫ってくるがそれを制止したのはリーリアではなく、アレクだった。

 彼は俺の考えを上手く汲み取ってくれる人だ。戦闘での作戦といった意味ではミリシアよりも俺は信頼している。


「エレインには考えがあるって言っていたよね。なにか確実に打倒するための作戦でも思いついたのかな?」

「……作戦のことなんて」

「重要なことだよ。僕たちは今戦争の最中なんだ。危険というのは向こうからもやってくる」

「だけどっ」

「へっ、どうせ死ぬんならできる限り足掻くってもんだろ。ただ死期が早まるだけなんだからよ」


 そのあたりのことは俺が話すよりもアレクやレイの方がしっかりと考えられているようだ。

 今、作戦を立てて戦い、それで負ければそれはつまり死を意味している。相手も戦争を仕掛けてくる。戦って死ぬか、何もできずに死ぬかでは戦って死んだほうがよほどマシと言えるだろう。

 エルラトラムの兵力は余分に残っているとはいえ、完全とは言えない。招集したもののまだ世界各地に聖騎士団が残っている状況だからな。いずれ大戦争になるのなら今するも後でするも同じなのだ。


「そうだけど、わざわざ危険な場所に行くなんて……」

「それで、君の作戦というのはどういったことなのかな」


 まだ納得しきれていないミリシアではあるが、俺はアレクやレイに説明を始めることにした。


「俺としては二つのルートで攻撃を仕掛けようと思っている。一つは正面からの正攻法だ」

「……もう一つが内側からの攻撃、ということだね」

「そうだ。内側からの攻撃に関して言えば、俺がルクラリズと協力して突破口を開いてそこから侵入する」


 俺はグランデローディアが外からの攻撃に警戒していると考えている。そのことは当然と言える。彼らは待ち構える側だからだ。

 作戦において待ち構えるということは背後を見ずに正面だけに意識を向けるものだ。

 そんな中、意識していない背後から攻撃されれば相手は動揺する。それと同時に正面からも攻撃されているとなれば、相手の陣形は完全に崩壊することだろう。

 細かいことは現地で確かめながら動くことになりそうだが、あらかたそういった流れに持っていこうと考えている。


「確かに内側からなら勝機はあるかもしれねぇな」

「でも、正面からの攻撃はどうするんだい?」

「それはミリシアの考えている方法でいいだろう」

「それって、どういう……」

「ミリシアのことだ。俺から危険を遠ざけるには正攻法が一番だと考えるだろうと思ってな」


 俺がそういうとミリシアはびくっと肩を震わせた。

 図星だったのだろう。戦いのことを意図的に話していなかった。


「……バレてたってわけね」

「この時期に戦いの話をしないという事自体が不自然だったからな」

「迂闊だったわ」


 俺のことまで意識できないほどにグランデローディア領の攻略が難しいということでもある。

 さっき言った二面攻撃もうまく行くかはわからない。

 まぁ弱気になるよりかは勝ち目があることに喜ぶべきだろうな。弱った本国を攻撃されるよりかはこっちから攻撃できる猶予があるのだから。


「へっ、俺は最初からバレてるって言ってたぜ」

「……私たちは私たちでそのまま作戦を実行するだけ、エレインはその間に魔族の内側へと侵入する。その後はどうするのよ」

「どうするとは?」

「エレインはどうやって私たちと合流するのってこと」

「合流するつもりはない」

「え?」


 戦闘の最後まで俺は彼らと合流することはないと考えている。

 いや、合流を考えて行動するよりもまず優先するべきことがある。


「グランデローディア討伐が最優先だからか。それに敵地での合流は不可能に近いだろう」

「そうだね。エレインの言うとおりだよ。何が起きるかわからない敵地だからそういった行動はやらないほうが良いかもしれないね」

「……」


 ミリシアはどうしても俺の安全を確保したいと考えているらしいが、敵地である以上はそういったことはしたくない。

 彼女の作戦は堅実だ。しかし、私情を挟んだ途端にその堅実性は崩れていく。特に俺のことになればそれは顕著に現れる。

 恋愛的な意識が彼女をそうさせているのかもしれないな。


「なら、俺から言えることは一つだな」

「なんだ」

「死ぬなってことだ。絶対に生きて帰ってこいよ」

「ふっ、最初からそのつもりだ。ミリシア、それなら大丈夫だな」


 俺がそういうと彼女は小さくうなずいた。

 まだ受け止めきれていないのかもしれないが、納得はしてくれたそうだ。まぁ懸念があるとすれば今の考えが雑念となって戦闘でミスをしないか心配だな。

 いや、彼女ならうまく切り替えられるか。

 それに今回は彼女だけが危険に巻き込まれるわけではない。周りにはアレクやレイも付いていることだしな。俺も自分のすることを第一に考える必要があるということだ。


「……とにかく今は動くことが大事だ」

「わかったわ。絶対に、ね」


 そう言って振り返ったミリシアはある種の覚悟のようなものが見えた。

 何を考えているのかはわからないが、とんでもないことを考えているというわけではなさそうだ。とはいっても少し心配なところはある。

 彼女のコントロールに関してはアレクやレイに一任するか。

 俺は彼らに視線で合図だけ送ると、アレクはすぐに汲み取ってくれた。彼は声に出さずに小さくうなずいてミリシアの後に続いた。レイに通じたのかどうかはわからなかったが、おそらくわかっていることだろう。

 彼はよく周りのことを見ているからな。

 すると、ミリシアたちと入れ違いで準備を終えたセシルが部屋に入ってきた。


「ミリシア、すごい目つきだったけど大丈夫なの?」

「戦闘前はいつも殺気立っている」

「……温厚そうなのにそういったところは戦士なのね」

「それより準備はできたか?」

「ええ、見てのとおりよ」

「それなら行くとしようか」


 俺がそう言うと彼女たちは大きく返事をして俺の後に続いた。

 向かうはグランデローディア領。俺の戦いを始めるとしようか。

こんにちは、結坂有です。


一日遅れの更新ですが、いかがだったでしょうか。

次回からはさっそく激しい戦闘から始まります。

今回はどのような戦いになるのでしょうか。エレインたちに作戦通りになるといいですね。


それでは次回もお楽しみに……



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