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未完成の剣術

 翌日、俺はいつも通り学院に向かっていった。

 そしていつも通りの場所でセシルと出会う。


「奇遇ね」

「いや、この時間帯で二度も遭遇している。偶然というには変ではないか?」

「ふふっ、ちょうど私もこの時間帯に寮を出るのよ」


 セシルはそう言って小さく笑った。

 どうやら嘘を隠し通すつもりはないらしいな。


「そうか」


 俺がそういうと当たり前のように俺の隣へと近づいてくる。

 彼女とは反対側に立っているリーリアが彼女を睨みつけた。

 それに臆することなくセシルは俺の隣で歩いている。そして、リーリアよりも近い。


「少し近過ぎる気がしますけど……」

「横で三人歩くには道幅が狭いのよ」


 セシルはそう言っているが、まだ余裕があるのは誰が見ても明白だ。

 三人並んだところで道の半分も埋まっていないのだからな。

 それにしてもセシルは一体何が目的なのだろうか。

 パートナーだということ以外にも何かを考えているようだが、それが何なのかまだわからない。


「あなたが近くてはエレイン様が歩きづらそうです」

「……そんなことないわよね?」


 大して歩行に支障があるというわけではないからな。

 ここは否定しなくてもいいだろう。

 俺はセシルの言葉に軽く頷いてみせる。すると、リーリアはジト目で俺を見つめた。


「どうかしたか?」

「いいえ、エレイン様がいいのでしたら私も何も言いません」


 そう言って前に視線を戻した。

 すると、セシルが横から顔を近付けて話しかけてくる。


「ねぇ、エレインはどうしてそんなに強いの?」

「日々繰り返し訓練を続けてきただけだ」


 訓練を続けてきたのは確かだが、それが普通だとは全く考えていない。俺が受けてきた訓練はいかに異常だったのか自覚している。


「それだけじゃないような気がするけど…… だって私も毎日訓練を続けていたけど、そんなに強くはなれなかったから」

「気にすることはない。人それぞれだということだ」

「私もエレインみたいに短い期間で強くなれたらいいのだけどね」


 俺だって決して短い間で強くなったわけではない。

 何時間も同じ事を繰り返し、何日も対戦を続けてきたからこそ手に入れた実力だ。

 もし他の人も俺と同じ施設で同じような訓練を受けていればかなりの実力が手に入っていた事だろうな。


「短い期間で全てが手に入れば何も苦労することはないのだがな。そういえば、セシルの剣術は変わっているな」

「え? まぁ言われてみたらそうなのかもね」


 彼女は意外そうな表情をしてそう答えた。

 昨日の夜、少し考えてみたのだがやはり彼女の剣筋は妙だったからな。


「ああ、特に剣筋が特徴的だ」

「剣筋?」

「直線的な動きは非常に速い。だが、セシルの場合は少し違うようだな。連続攻撃は苦手そうに見える」

「……どうしてわかったの?」


 どうしてと言われてもただの感想なのだがな。

 彼女の反応を見るにどうやら連続攻撃が苦手なのは間違いないようだ。


「わかってしまったと言うべきだろうか」

「そう、やっぱりそう見えるのね」

「剣術的には連続攻撃を意識しているようだが、一撃を大切にしているのだろ」

「ええ、そうね。私は父のようにうまくはできなかったの。まだまだ剣術について教えていただく予定だったのにあの遠征で亡くなってしまって……」


 セシルは俯きながらそう答えた。


「悪いな。嫌な事を思い出させてしまって」

「いいの。だから私は父を超えるためにも教えてもらった事を下地に新しい剣術を開発しようとしたの」


 どうやらそれで妙な剣術になってしまっているようだ。

 もともとは連続した攻撃に特化した剣術や剣技であったが、セシルが独自に発展させた結果一撃を素早く、的確に当てるようなものになったようだ。

 確かに言われてみればそうなのだろう。

 技自体は洗練されているのに、構えや動き方などに迷いがあったからな。


「なるほど、それなら納得がいく」

「何それ、勝手に分析されてたの?」

「防衛の時から気になっていた事だからな」


 俺がそう言うとセシルは頬を膨らませた。


「そう言うエレインは剣技とか構えとか全く見せないけど、その辺りは分析されないようにしてるわけ?」

「ああ、それもあるな」

「構えもなしでよく動けるものね」


 確かに構えは重要だ。

 技の正確性を上げるには有効だからな。

 しかし、それゆえに予測されやすいと言う点もある。


 技の派生が多い場合は問題ないのだが、読まれてしまってはほとんど意味をなさない場合だってある。

 時には自由な構えで戦闘する方が重要だったりするものだ。


「それほど凄いことではないがな」


 そう付け加えるとセシルは「むー!」と言って顔をしかめるのであった。




 それから学院に入るとやはり今日も視線が痛い。

 畏敬や羨望の眼差しに加え、嫉妬も混ざった複雑な視線が俺を四方八方から突き刺してくる。

 心臓を抉る鋭いナイフのような衆目はどうも慣れる気がしない。

 そんな視線に耐えているとセシルが凛々しい目で口を開いた。


「昨日から思っていたのだけど、何か用があるのかしら?」


 そう言うと皆の視線は俺から離れた。


「まさかこうなるとはね。なんかごめん」

「別に謝ることはない。こうなることも自然なことだからな」


 セシルも俺に視線を向けてくる生徒たちも悪いわけではない。

 こうやって上位帯が注目されるのは自然なことだから仕方ないだろう。


「それでも辛いでしょ」

「エレイン様はそのようなことで辛いと言ったりしませんよ」

「ああ、気にしなくていい」

「……そう、それならいいのだけど。じゃ、また休憩の時にね」


 そう言って彼女は自分の席に着いた。


「エレイン様、私も後ろで待機していますね」


 リーリアはいつものことだがそう言って教室の後ろの方に向かった

 俺も自分の席に着くことにした。


「大変そう」


 そう他人事のように声をかけてくるのは俺の席の隣にいるリンネだ。


「昨日もそのような事を言っていたな」

「そう? 意識していなかったわ」


 彼女は悪戯顔でそう言っている。

 からかっているのだろうな。アンドレイアもそうなのだが、いたずら好きには困ったものだ。


「意識していないのなら尚更、嫌味にしか聞こえない」

「別にそう言った意味はないし」


 そう言って不機嫌そうに顔を背けるリンネであった。

 一体何を考えてそんな行動を取っているのかわからないな。


 まぁそんな事よりもセシルの剣について少し考えてみるとしようか。

 授業までまだ少し時間があるからな。

 彼女の剣術は新しいものだろう。しかし、まだ洗練されていない部分があるのも確かだ。

 これからの訓練では彼女のその”未完成な剣術”を確立することが目的となりそうだ。

こんにちは、結坂有です。


エレインが思っていた違和感とはセシルの剣筋が変わっていたと言うことでした。

そして、セシルもミーナと同じく父から剣術を教わっていたのですが、全てを教わる前に亡くしてしまったようですね。

これから彼女の剣術は素晴らしいものになるのでしょうか。気になるところですね。


それでは次回もお楽しみに。



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