ときに暴れるも必要
地方にあるカフェで私はとある宗教団体の調査をしていた。
そして今、私とアレクはその宗教団体と対峙している状態となっている。別に捕まってなにかをされるということはない。彼らは私たちにとってそこまで脅威というわけでもないからだ。
アレクが私に目でなにかを伝えようとしている。私はそれに許可するように小さくうなずく。
すると、彼は一気に床を蹴って目の前にいる強面の男へと攻撃を開始した。
そう、その男というのは私に対して下卑た目で見つめてきたような男だ。誰がどう見てもその男は悪党であるということは明白だ。こんな男が宗教団体の、それも幹部に位置しているとは、この団体の本性が気になるところだ。
「ふっ」
「なっ、てめぇっ!」
男がアレクの攻撃を防ごうと両腕を交差させて待ち構える。しかし、その程度の防御では全く意味がない。
「ぐっ」
なぜなら彼は殴ろうとしているのではなく、つかみ技を仕掛けようとしているからだ。
交差させて自分を守っているその腕は彼にとって掴んでくれと言っているようなもの。それを掴まれた男は抵抗しようと体を踏ん張り始める。
それも間違いの一つだ。自身の体へと力を入れると簡単に崩されてしまう。こういったときは冷静になり、自然な状態である程度脱力したほうがいい。
「はっ」
腕を引っ張り、男の懐へと潜り込んだアレクはそのまま男の重心を利用して回転させる。
「ぐぁはっ……」
勢いよく飛ばされた男は地面へと強烈に叩きつけられ、一瞬にして意識が刈り取られた。訓練時代はそこまで体術は得意ではなかった彼でもレイとともに訓練を続けていればそれなりに強くなるものだ。かくいう私もある程度は体術を習得することができた。
「なんて強さなんだっ」
「さては普通の部隊ではないな」
「君たちが……それはどうでもいいでしょう」
そういったローブの男はゆっくりと立ち上がり、店の裏口の方へと歩き始める。堂々とした歩き方をしているが、逃げようとしているのには変わりない。
「待ってくれるかな。僕も聞きたいことがあるんだ」
「……話すことなどありません」
「では、強引にいこうか」
すると、アレクは華麗なステップを踏んで瞬間的にローブの男へと突撃していく。もちろん、それを阻止しようと周囲に集まっていた男たちが彼の前に飛び出るが、誰一人として彼の邪魔となった者はいなかった。
「速いっ」
「捕まえろっ」
「ど、どうして……」
いろいろと試みたものの、努力虚しくアレクはローブの男へと辿り着く。
「さて、僕たちに付いてきてくれるかな」
「……はっ」
そうアレクが彼の肩を掴もうとした瞬間、氷の矢がどこからともなく出現してきた。
「っ!」
その矢をアレクは義肢の腕で弾き落とす。
刹那、ローブの男は振り返ってアレクへと両腕をかざすと大きな氷柱が出現する。
「くっ」
勢いよく出現したその氷柱はアレクを突き飛ばす。
「アレクっ」
その隙を見たローブの男は走り出す。
私も追いかけて裏口へと辿り着くが、扉を開くことができなくなっていた。取っ手が非常に冷たくなっていることから扉をあの氷で塞いだに違いない。
魔法など全く信じていないが、あのような信じられない光景を見たあとではその印象も大きく変わってしまうものだ。あのローブの男はこれ以上追いかけることは難しい。想定以上の事が起きてしまったから仕方ないか。
まぁそもそも宗教団体を連行するつもりでここに来たわけでもない。無理に追いかける必要はないか。
それから私たちはカフェに集まっていた男たちを国家反逆の罪で連行することにしたのであった。
◆◆◆
日が沈み始め、リーリアがそろそろ夕食の準備を始めだした頃、俺とルクラリズは自分の部屋に戻っていた。
今回、セシルのうちに眠っていた魔の力がどうして覚醒したのかについて話がしたいそうだ。当の本人にはあまり聞かせたくない内容のようで今は二人で話している状況だ。
「……今から話すことは魔族での話だからね」
そう言って前振りしたルクラリズは俺のベッドへとゆっくりと座ると、説明を始める。
「上位種の魔族が日々訓練しているのはその魔の力を十分に発揮するためにしているって話したわよね」
「ああ、使っていくごとに力が上がっていくのだろう」
「ええ、でも、それ以外にも理由があるの」
訓練場でセシルの力が目覚めたとき、ルクラリズは魔の力を長時間使うには訓練を続ける必要があると言った。
しかし、それ以上のことはあまり説明しなかった。
「それ以外の理由?」
「そうよ。魔族が魔族で有り続けるために魔の力を日々使い続けることで上位種の格が維持されるのよ」
「……よくわからないのだが、魔の力というのは使わないとなくなってしまうのか?」
「いいえ、そうじゃないわ。本質的にはなくならないの。だけど、消えていく」
確かに存在はしているが、それが見えなくなるということだろうか。
どちらにしろ、魔族のことは知らないことばかりだ。ルクラリズからいろいろと話を聞きたい。
「消えていく、か。事情がありそうだが、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
俺がそう聞いてみると、彼女は部屋の外に気を配りながら小さくつぶやくように口を開いた。
「上位種の力は強大。それゆえに力を維持するのが難しいの。だから、日々訓練を続けている」
「つまりは多くの力を日々使い続けなければいけないのか」
「ええ」
「それ以外にも方法はないのか」
「……一応あるにはあるの」
そう言って一息吐いた彼女は言葉を続けた。
「人を喰らうことよ」
あまり聞きたくない言葉だったが、どうやら人を喰らうことでも魔の力を維持することができるらしい。
とはいえ、それは人間として生活していく上ではやってはいけないことだ。セシルの力を維持するたびに人が死ぬのでは意味がない。それなら魔の力を使わずに過ごすほうがよっぽどいいだろう。
「私はどうしても人を食べたくなかったから、訓練を毎日続けていたの。そのときに体術を交えてね」
体術に関して少し心得があったのはそのおかげなのだろう。戦闘向きではない彼女は魔の力を維持するためにそうして生活してきたらしい。普通であれば、人を喰らって楽に過ごす事ができたのかもしれないがな。
「つまりは、セシルの力を維持するにはその力を使い続ける必要があるのか。そうしなければ、すぐに力が薄れていく」
「あくまでそれは魔族の中での話。セシルにも当てはまるのかはわからないわ」
まぁ確かにセシルはかなり異質な存在だ。人間でもあり、魔族でもある彼女がそれらの常識に当てはまるのかと言われれば怪しいところではあるな。
ただ、そのことに関しては話半分にとどめておくべきだろう。
当面の間、優先するべきことはグランデローディア領のことだ。その大きな問題を解決しない限りはセシルのことも、ラクアやマナのことも解決できないのだからな。
こんにちは、結坂有です。
セシルの力、強大過ぎるがゆえに維持するのが難しそうですね。
今後、どうなっていくのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに……
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