気持ちを追い求めて
俺、エレインは訓練場へと向かっていた。後ろからはリーリアも付いてきてくれている。彼女はどうやらなにかを言いたそうにしている。
もちろん、その内容については俺もよく理解している。講義したくなる気持ちもわからなくもない。
「エレイン様、さっきのことは……」
「セシルと俺とでグランデローディア領へと向かうということだな」
「はい。当然ながら、私もその領主を討伐することには疑問を持っておりません。ですが、二人でと言うのはあまりにも危険過ぎる気がします」
「本当に二人でなら勝算は確かに低いだろうな」
そう講義してくる彼女に対して俺は答えた。
すると、彼女は大きくうなずいて俺の前へと立った。
「そうです。前々から思っておりましたが、自己犠牲的な考えはどうか……」
「別に死ににいくつもりはない。セシルを連れて行くのだからな」
「え?」
「安心してほしい。考えがあってのことだ」
「……よくわかりません。教えていただけるでしょうか」
頭にはてなを浮かべた彼女は落ち着きを取り戻した。
確かにあれだけの情報では確かに誤解の生まれる言い方だったかもしれないな。しかし、今回に限って言えば死ににいくつもりはない。当然ながら勝つつもりでいる。
ゼイガイアのときは自分でも無茶をしたと自覚しているが、今回は計画があっての発言だ。
「もう一度いう。死ににいくつもりは一切ない。自己犠牲精神では決してない」
俺はそう言ってリーリアの横に手を伸ばし、訓練場への扉を開く。
それを横目で追いながら、彼女は口を開いた。
「考え、とはなんでしょうか」
訓練場へと入り、扉を締めてから俺はゆっくりと説明することにした。
今回俺の考えている計画についてだ。なにも勝算のない計画ではないことをリーリアに理解してもらう必要があるからだ。それに今回の作戦に関しては彼女も大きな役割を担っていることになる。
早い段階で説明しておいても問題はないだろう。
「美容室で待っている間に考えた作戦がある」
「作戦ですか」
そう言って彼女は少し乱れた服を整えて俺の話に耳を傾ける。
「ああ。潜入部隊として俺とセシル、もう一人ぐらい連れて行ってもいいのだがな。その部隊をまず先行させる。そしてあとから高火力を持つ小さき盾のレイヤミリシア、あわよくば四大騎士の力を借りて正面から攻撃するんだ」
「……つまりは揺動、ということでしょうか」
「そうだな。相手は間違いなく俺たちが反撃を仕掛けてくると踏んでいるからな」
「そうなのでしょうか? グランデローディア側もかなりの損害が出ていると思います」
リーリアのように普通に考えれば、確かに魔族側は防衛に徹することを考えるのが普通だ。しかし、パベリでの戦いでもそうだったのだが、今回の攻撃に関して魔族側は不自然な点がいくつもあった。
大規模な攻撃ではあったものの、そこに参加していた相手はあまりにも弱い連中だった。それが一つ、数の割には本気で壊滅させようとしていなかったという点もある。先に突撃した俺たちを確実に倒そうとしなかったところからもわかる。そういったいくつもの不自然な点があったのだ。
仮にあのパベリを攻撃してきた部隊が囮だった場合、そのつじつまが合うのだ。囮にしては大規模ではあったが、魔族側からすればそれが必要だったのかもしれないな。セシルから聞いた話でここエルラトラムにも攻撃を仕掛けてきたのだ。
「おそらく大した被害は出ていないんだろうな」
「……どうしてでしょうか。少なくとも千体以上の兵力を失っていることになります」
先の戦いで討伐した魔族は千を超える。まったく損害がなかったということではないだろうが、それでもグランデローディアにとっては大きな問題ではない。
「大規模ではあったものの、囮だったとすればどうだ?」
「囮、あれは私たちの考えを撹乱するための作戦だったのでしょうか」
「仮定としてだがな。そうだとしたら、今頃追い打ちを仕掛けてくるであろう俺たちを迎え撃つ準備を進めているに違いない」
手負いを攻めるのは考えて行動しなければいけない。相手が劣勢だと油断してはならないのだ。
油断している相手を倒すのは非常に簡単だ。そのような脆い部隊は一瞬にして崩壊してしまうのだからな。まぁエルラトラムの議員らがそうしようと考えていたところ、ミリシアたちが根拠を示して止めてくれた。しかし、すぐに攻撃こそしなかったものの、着々と攻撃に向けての準備を開始している。
「まぁ相手がどうであれ、こちらの士気はかなり高まっている状態だ。今、全力で攻撃すれば、善戦したとしても完全な勝利とは言えない」
「……双方の被害が甚大、ということですね」
最悪な場合、エルラトラム側の攻撃部隊が全滅なんてこともあり得るからな。
とはいえ、攻撃しないという選択肢がないのもまた事実だ。
「ただ、俺たちエルラトラム側の士気はかなり高まっている状態だ。これを維持したまま攻撃したいというのもある」
「士気ですね。確かに兵士たちにとっては重要な要素になりますね」
「そう考えればなるべく早い段階であの領主を倒したいところだ」
「そのために潜入して、待ち伏せている敵を撹乱するのですね。相手がしてきたように」
「ああ、そのためにはなるべく少数の部隊で挑みたい」
二人、もしくは三人で行動したいところだ。アレクが一番適任なのだが、彼を引き連れていくのは難しいだろうがな。
「……そうですか。そのようなお考えがあったのですね」
「リーリアならその魔剣である程度わかっていたんじゃないか?」
「いいえ、エレイン様に対して魔剣の能力を向けるなど今後とも一切ありませんし、したくもありませんから」
精神干渉の能力があるとはいっても、それを俺に向けようとは考えていないようだ。
普通であれば他人に心を覗かれるのは不愉快なものだからな。
「そうか」
「……その、エレイン様」
「なんだ」
「さきほど、三人でもいいと言っていましたが、私ではだめなのでしょうか」
確かにもう一人連れて行っても問題はないとは言った。
そのときに思ったことなのだが、リーリアが一緒に行きたいと言うに違いないと思った。
当然ながら、一緒に連れていきたいのだが……
「わがまま、でしょうか」
今までにないような、切ない表情で彼女は俺を見つめてくる。
一緒に行きたいと懇願しているかのような、それでいて何かを狙っているかのようなその目に俺は何もできずにいた。
やはり、リーリアのその目には敵わないのかもしれないな。
「わかった。付いてきてもいい」
彼女には重要な役割を与えるつもりだったのだが、それができないからといって大きな問題が起きるというわけでもない。
「ありがとうございます」
すると、彼女は嬉しそうに言って頭を下げた。
「……本当にご迷惑ではないでしょうか?」
「問題ならなんとかする」
「どういった問題なのでしょうか」
「ルクラリズの件だ」
「彼女も一緒に、というのは難しいのですか」
難しいというわけでもないのだが、なるべく避けたいところだったな。
作戦上、いくつか問題は起きるかもしれないもののなんとかするべきだろうな。そもそも計画通りに事がうまく運ぶとも限らない。
潜入部隊は四人で行くことにしよう。
「……四人で潜入部隊を編成するか」
「はい。そうですね」
俺だけで考えていればどうしても効率だけを考えてしまう。すべての人間が効率だけを考えているわけでもないからな。
彼女らとは今後とも長く付き合っていくことになる。こうしたことで関係性が崩れてしまうことだってあるかもしれない。俺としてもそれだけは避けたいところだ。
そう、今後のことも考えていると訓練場の扉が開いた。
「……ここでいいのかしら?」
訓練場の中に入ってきたのはセシルだった。
それと同時に横の窓へと視線を向けるとルクラリズがこちらを向いている。どうやら俺とセシルの訓練を見るつもりなのだろう。
「ああ、早速始めようか」
「なにを?」
「ここは訓練場だ。やることは一つしかないだろう」
「……訓練かしら」
「そうだ。少し特別な訓練だがな」
俺はそうとだけ言って鉄でできた重たい剣を手に取った。
こんにちは、結坂有です。
本日三本目となりました。
いかがだったでしょうか。今回でグランデローディアとの決戦に向けて具体的な作戦が決まりましたね。
今後、始まるであろう決戦はどのような戦いになるのでしょうか。
そして、無事にセシルは切り抜けることができるのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに……
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