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少しオシャレをして

 俺、エレインは目を覚ました。

 パベリ奪還戦を終えてから数日、俺は少しばかり考えていた。今もミリシアやアレクたちは国内の調査に出ている。もちろん、疲れが溜まらない程度に体を休めながらだ。

 戦闘の直後ということで彼女たちもしばらくは休息が必要なのだ。


 アレイシアの部屋で彼女の想いを聞いたあと、セシルやナリアも帰ってきた。彼女たちからも事情を話し合い、今後どうしていくかを共有することにした。今のところ、セシルは当面の間、ナリアの協力をするそうだ。ユウナがいない今、セシルが彼女に協力してくれることは非常にありがたい。

 ナリアは高い実力を持っているとは言えまだ聖剣を持っていない。魔族にある程度対抗することができたとしても完全に殺すことはできないのだ。

 そして、議会に向かっていたということでラクアやマナの様子も見てきてくれたそうだ。彼女たちは議会の中で保護されていたが、緊急事態ということもあって警備の手伝いをしていたそうだ。

 まぁ議会の方まで魔族が侵入しなかったそうで何事もなかったらしい。

 どちらにしろ、今は一段落ついたと言ったところだ。ラクアやマナにも顔を出すべきだろうな。


 そんなことを思い返しながら、ゆっくりと起き上がる。

 俺の横には美しく長い銀髪のルクラリズが眠っている。その髪は朝日に照らされてきれいに輝いている。神秘的にすら見えるその容姿は天使を連想させる。


「エレイン様、起きていますでしょうか」


 扉がノックされ、外からリーリアの声が聞こえてくる。


「ああ、今起きたところだ」

「そうですか。朝食の準備ができています」

「わかった。すぐに向かおう」

「その、ルクラリズさんも起こしてもらえますでしょうか」


 いつもならもう少し寝かしておくのだが、今回は起こしてほしいと言ってきた。この家の中にいて、かつ眠っている間は彼女一人にしたところで別に問題はない。なにか異常が起きれば俺がすぐに気づくからな。

 とは言え、起こしてほしい理由など一つというわけでもないか。


「どうしてだ?」

「今日は久しぶりに商店街に行こうと思っています。せっかくですから、ルクラリズさんと一緒に出かけようと思っているのです」

「なるほどな」


 以前、彼女はルクラリズのおめかしをしたいと言っていた。確かに今のルクラリズは普段着というものを着ていない。戦闘用にも耐えうるように作られており、デザイン性よりも機能性にこだわったものだ。

 カジュアルにも使えるものだが、装飾のないその服は少し地味ではある。


「……その、いけなかったでしょうか?」

「いや、そういうわけではない。リーリアの私情はあるだろうが、ルクラリズのためでもあるからな」


 服など最低限隠すことができればいいと考えていたルクラリズではあるが、少しずつ人間らしい感情を知り始めている。オシャレをしたいや美味しいものを食べたいと言った欲求もまた人間らしさを構成する一つだからな。

 今回、リーリアとともに商店街へとまた向かって普段着などを見たり買ったりすることが刺激になれば彼女にとってもいいことだろう。


「ありがとうございます。では、リビングでお待ちしております」


 そう言って彼女はリビングの方へと戻っていった。

 それから俺は軽く着替えてまだベッドで眠っているルクラリズを肩を揺らして起こすことにした。


「んぅ……すぅ」


 深い眠りに入っているようで軽く揺らした程度では起きないか。

 にしても、気持ちよさそうに眠っているものだな。こうして眠っている彼女の顔をじっくりと見たことはなかった。それほどにここの寝心地はいいのだろうか。


「ルクラリズ」

「……ふへっ、エレイン……」


 一体どんな夢を見ているのかはわからないが、仕方ない。


「ひゃぁあ!」


 肋間へと軽く指を入れると彼女は飛び上がるようにして起きた。

 あまりこうした起こし方は良くはないとは言え、瞬時に覚醒状態にするには必要なことだ。


「起きたか」

「……なにしたの」

「少し刺激しただけだ」

「……私、なにか言ってなかった?」


 確かに寝言のようなことを言っていた。まぁ普通なら恥ずかしいものだろうからあえて俺は聞いていなかったと首を振ることにした。


「いや」

「そう、それならいいんだけど」

「それより、朝食の準備ができているそうだ。それにリーリアと商店街に行くのだろう?」

「そんな話もしてたわね」


 そういって彼女は大きく背伸びをする。

 着崩れた胸元から肌が露出しており、さらに薄明るい朝日が少し乱れた髪を照らして彼女に色気を与える。


「……エレイン、短い髪は好きだったりするの?」

「急にどうしたんだ」

「リーリアが短いほうが可愛いと思うって言ってたから」

「そうか」


 ここで似合えばなんでもいいと答えるのは失礼に値するだろう。

 俺はルクラリズの顔をよく見て短い髪を頭の中で想像する。髪の長さで顔の印象はかなり変わると聞く。彼女は小顔な方ではあるが、雰囲気というものもある。総合的に見てもショートは似合わないだろう。

 ただ、今のように腰まで長い必要性はないか。


「極端に短くなければ可愛いと思う」

「……っ! 面と向かってそう言われると恥ずかしいわね」


 そう言って若干頬を赤くした彼女は俺から視線をそらした。


 それからリビングへと向かって朝食を取ることにした。


「リーリア、商店街に向かうのだったな」

「はい」

「俺も議会に少し顔を出そうと思っている。ラクアたちにも話をしたいことがあるからな」

「そうですか。わかりました」


 形式上はルクラリズを一人で外に出してはいけない。商店街など人の多い場所に連れて行くときは必ず俺がそばにいることが条件となっている。

 普段であれば、リーリア一人で商店街に向かうことが多いのだが、今回は三人で行くことになる。学院に通っていたころはよくリーリアと商店街で買い物をしたものだが、最近はほとんどしていないな。


「……買い物に行くんだ」


 そんなやり取りを横目で聞いていたカインがそう聞いてきた。


「どうかしたか?」

「なんでもないわよ。ただ、ちょっと羨ましいって思っただけ」

「そう思うのなら一緒に来るか?」

「……」


 そう俺が提案すると、カインはリーリアとルクラリズの方へと視線を向ける。

 彼女たちの顔色を伺う必要などないのだが……


「や、やめておくわ。また今度の機会にするから」


 そういって立ち上がったカインは自分の部屋へと戻っていった。


「付いてきても良かったのですが……」

「彼女なりに気を使ったのかもしれないな。まぁ気まずい雰囲気になるのもあれだ。無理に誘わないでおこう」

「そうですね」


 ルクラリズはなんのことだかわからないでいたが、わざわざ説明する必要もないか。


 朝食を終え、商店街へと向かった俺たちはすぐに美容室へと入った。

 女性がよく来る場所のようで店内は控えめではあるものの可愛らしい作りをしている。


「エレイン様、こちらでお待ち下さい」

「ああ、わかった」


 そう言われたように椅子で座ることにした。

 店内の奥経と視線を向けると、リーリアは店員の人と話し込んでいる。彼女もここにはよく来るらしく、店員とは顔見知りなのだそうだ。

 すると、店員は座っているルクラリズの髪を触って何かを確認している。

 オシャレをしたいと一言で言っても実際はいろいろとたいへんなのだろうな。

 俺は彼女たちから視線をそらして待つことにした。


 そして、しばらくするとルクラリズとリーリアが戻ってきた。


「エレイン様、お待たせしました」

「……ど、どうかな」


 俺の前に現れたルクラリズは非常に可愛らしくなっていた。

 腰まで伸びていた髪は胸元あたりに切り揃えられ、若干内側に巻かれた毛先は可愛らしさを醸し出している。それでいて後ろ髪は流れるように真っ直ぐに整えられ、自然な流れを生み出している。

 それに銀色に輝く彼女の髪はいつにも増して艷やかになっている気がする。

 決して派手な髪型ではないにしろ、髪の長さを半分以上も切ったのだ。印象も必然的に大きく変わると言ったところだろう。


「綺麗になったな」

「はい。顔の印象もだいぶ変わったように思います。可愛らしいですよ」

「そ、そう。嬉しい」


 魔族として生活していた頃は容姿などまったく気にしていなかった。気にしたところで誰かに褒められることがなかったからだ。しかし、こうして同じ姿形の俺たちと交流していく中で少しずつそういったものが芽生え始めているのかもしれないな。

 人間として生きていきたい彼女にとって今回はちょうどいい刺激になったことだろう。


「では、次は服を選びましょう」

「服?」

「はい。今の服でも問題はないのですが、普段着というものも買っていいと思います」

「そうだな。髪型だけがすべてではないからな」

「じゃリーリアに任せるね」


 それから商店街の服屋を歩き回って、彼女に似合う服を選ぶことにした。すべてを見たわけではないのだが、その変身具合は家に戻ってからのお楽しみだ。

こんにちは、結坂有です。


美しいから可愛いへと大変身したルクラリズですが、これからどう変わっていくのでしょうか。

容姿を帰るだけでも心持ちは変わるといいますからね。魔族としてではなく、人間として成長してほしいところですね。


それでは次回もお楽しみに……



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