早まった事件
私、ミリシアはブラド団長と共にある場所へと向かっていた。
今私は仮面を被っており、素顔は見られない状態となっている。そして腰に一つの剣を携えている。これは聖剣ではなく、普通の剣だ。
普通の剣と言ってもかなり高い品質の物を選んでもらっている。
「団長、どこに向かっているの?」
「議会だ」
「議会に何か用事があるとか?」
しかし、団長は答えることはしなかった。
そうして辿り着いた議会は重々しい空気に満ち溢れていた。
その会場は私からすれば全員が敵対している目に見えた。
「ブラド団長、その横のお付きのものは?」
「私の護衛の一人だ。別にいいだろう」
「……よかろう。それで今日は何のようだ」
議長は私を一瞥するなり、すぐに団長へと目を向けた。
「議会の越権行為についてだ。高度剣術学院の生徒に対して執拗な干渉行為を行なっているようだな」
すると、周囲にいる議員たちも野次を飛ばしてくる。
「我々が不正行為を働いているとでも?」「生徒に何の用があって干渉しなければいけないんだ」「そこまでいうのなら証拠を見せてみろ!」
そのような言葉を一通り聞いた団長は顔を上げて机に録音装置を置いた。
「証拠ならここにある」
「……受け取りを拒否する」
しかし、その証拠となる録音装置を議長が拒否する。
ここで拒否するということはおそらくそれが不利になると分かっているからだ。
周りで野次を飛ばしていた議員たちも今は口を閉じていることからこれは議会全体で行われている不正行為。
明らかな越権行為であり、権力の独占行為でもある。
「ということは不正を認めるということか?」
「肯定も否定もしないと言っている」
すると、団長は強く口を開いた。
「では、俺たちもそれ相応の権利を行使することになる。それでもいいのか」
「権利? 聖騎士団の持てる権利などたかが知れている」
議長は私たちがどのような存在なのかを完全に知っている。
聖騎士団ができることは団長から詳しく聞いている。主に魔族に対する攻撃や防衛に対しての権利があり、それらを自分で判断する権利も持っている。
「議会がどう思っているか知らないが、聖騎士団はそう言った越権行為は認めない」
「いずれ認めざるを得なくなるのだ」
「それはどうかな。魔族に攻撃を仕掛けてその防衛を全て放棄することだってできるのだ」
「……それをすればどうなるか分かってて言っているのか」
議長は私たちがそんなことをしないと分かっているような言い方をしている。
しかし、それは間違いだ。
団長はどんな手段を使ってでも議会を崩壊させたいと考えている。
すでにその一つが実行されているのだから。
「何をしている?」
団長は無線機を取り出した。
隠し持っていたもので本来なら持ってきてはいけないものであった。
議長が警戒するように目を細めた。
「実行だ」
団長は無線機を耳に当て、そう言った。
「なっ! 団長を取り押さえろ!」
キュリィィン!
甲高い音と共に団長の剣が引き抜かれた。
その瞬間、警備隊の剣全てが破壊された。
「それは、魔剣か!」
「魔族に対する全ての権利を持っている。そう言ったな」
「これは戦争だぞ」
「ああ、望むところだ」
団長がそういうと議長は立ち上がり、宣言を開始した。
「ただいまより我々は聖騎士団との軍事提携を破棄する。続けて、魔族防衛に討伐軍を集中させるように。議員は直ちに仕事にかかれ」
議長がそういうと議員たちは次々に怒号をあげながらも会場から出て行った。
一気に静まり返った会場は団長と議長、そして剣を失った警備隊だけだ。
「これは反逆行為だ。その罪は重いぞ」
「勝利すれば、反逆行為などなかった。それは全て正当化される」
常に勝者こそが正義なのだ。
歴史がそれを証明している。今回は明らかに議会の行き過ぎた行動が原因だが、問題はそれ以外にもある。
議会に権力が集中したことも原因の一つだろう。
「馬鹿げている。議会が全てを決定するんだ」
「誰もそのようなことは望んでいないんだ」
団長はそう言って会場を後にした。
議会から出た私たちは街中を警戒しながら歩いていた。
これから本部に戻って色々と作戦を伝える準備をしなければいけないからだ。
「団長、いくら何でも強引すぎるでしょ」
「文句でもあるのか」
「……別にいいけど」
いずれこうなることは分かっていた。議会が私たちの用意した証拠を受け取らないと言ったり、不十分だと言ったりするのを予想していた。
全てが丸く収まるなど考えてもいなかった。
「なら問題ないだろう」
「そうね」
そう言って私たちは帰路についた。
今のところ討伐軍は魔族からの防衛に対して集中している。その間にどう議会を壊滅させるかを考えることにする。
すでにいくつかの作戦は考えてあるが、まだどれも確実に壊滅させるようなものではないのだ。
◆◆◆
学院を終え、俺はいつものように家に帰ることにした。
ミーナとは少し話したが、フィンとはうまくやっているようだ。
朝練の相性も良いとのことだし、これからも実力は上がっていくことだろうな。
「エレイン! おかえり!」
「ただいま」
玄関を開けるとアレイシアとユレイナが出迎えてくれた。
当然と言えば当然なのだが、それがなぜか幸せだと感じる。
「エレイン様、おかえりなさいませ」
ユレイナはアレイシアの勢いを崩さないためか、少し間を開けてそう言った。
玄関を上がり、俺は自分の部屋に入る。
部屋に入るなり、すぐにアンドレイアは姿を現す。
「それにしてもセシルというやつも侮れんやつじゃ」
「どういうことだ」
「お主は気付いていないのかの?」
正直何のことだか全くわからない。
セシルから敵意と言ったものは感じられない。それに何かを企んでいるような素振りもない。
「ああ」
俺は上着を着替えながらそう答える。
すると、アンドレイアは俺の体をなぞるように目で追いながら口を開いた。
「……お主のその鈍感さには驚くものじゃ」
鈍感、か。
人の感情を読み解くのは俺にとって難しい。
幼い頃からいろんな人と普通の会話というものをしてこなかったからな。
「このことはお主が気付いてからいうとするかの」
そう言って彼女は俺のベッドへと寝転がった。
俺の枕に顔を必要以上に擦り付ける。
「何をしているんだ」
「お主の香りを楽しんでおるのじゃ」
俺の香りとは一体どんなものなのだろうな。
自分では自分の匂いなどわかるわけもないのだが、少し気になるところではある。
「そういうことか」
すると、アンドレイアはジト目でこちらを見つめてきた。
「本当に襲うつもりはないんじゃな?」
「誰を襲うんだ」
「わしじゃよ」
俺はその言葉を聞いて小さくため息を吐いた。
「またそのことか。何度も言っているが、精霊を襲うなど考えたこともない」
「わしじゃて人間に近いんじゃよ?」
「……」
その言葉を聞くと何も考えられなくなってしまった。
「なんじゃ、乗る気になったかの?」
そう誘うような目で俺を見つめてくるが、彼女の誘惑には乗らない。
「それよりもセシルの剣術で気になる点があったんだ」
「いきなりそんなことを聞くのかの?」
「ああ、彼女の剣筋が少し変なんだ」
すると、アンドレイアはまるで不思議なものを見ているかのように首を傾げた。
俺が剣筋を変だというのがそんなに珍しいのだろうか。
「確かに変わった太刀筋をしているの。じゃが、特別なものとも感じられんかったがの」
彼女はそういうと足をバタつかせた。
なるほど、俺だけがそのような違和感を覚えているのだろうか。
「変わったところがなかったなら良いんだがな」
「今後もセシルとやらは注意してみるからの。何か変わったところがあればすぐに伝えるとするかの」
そう言って背伸びをして布団に丸まった彼女はどうやらそのまま寝るつもりらしい。
「夕食には起きろよ」
「分かっておる。じゃが、今日は疲れたのじゃ」
そう言って駄々をこねるように体を揺らした彼女は子供のようであった。
こんにちは、結坂有です。
議会と聖騎士団の関係は最悪なものとなりました。
エルラトラムを支える二大勢力のこれからはどうなるのでしょうか。
そして、エレインが感じたセシルの剣術の違和感とは何だったのか。その辺りも気になるところですね。
それでは次回もお楽しみに。
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