表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
459/675

裏側を考えて

 風呂を済ました俺は一日睡眠を取ることにした。

 戦闘の疲れは取っておくに越したことはない。とは言え、すべての疲労が回復するとは限らない。思わぬ事態で目を覚ますことになることだってあるからだ。


「エレイン様、お休みになられていますか?」

「……軽く寝ていた程度だ。何かあったのか」


 ベッドに入り、眠っていた俺に扉の外からリーリアが話しかけてきた。俺の横ではすでにルクラリズが深い眠りに入っていた。今までの経験からしてちょっとやそっとのことでは目を覚まさないことだろう。

 それより、リーリアが話しかけてきたということは何かあったということなのだろうか。


「失礼します。先ほど、アレイシア様が帰ってこられました」


 そう言ってリーリアが部屋に入ってきた。俺も起き上がって彼女の様子を見てみると、申し訳なさそうにしていた。


「帰ってきたのか。アレイシアも疲れていたことだろう」


 時計を見てみるとちょうど十時を過ぎた頃合いだ。この時間帯に帰ってくるとは緊急会議などで疲れたことだろう。もちろん、彼女の仕事は有事の際に必要なことだ。体を考えて、やめてほしいということもできない。

 ただ、休めるときは十分に休むことをしてほしいだけだ。

 国のためとは言え、重役である彼女が体を崩してしまうことのほうが重大だからな。


「そうですが、話しておきたいことがあるそうです。私も休息を取るよう言って見ましたが、話せるときに話したいそうです」

「なるほどな。それなりに重要なことなのかもしれないな。これ以上待たせるのも悪い。リーリア、ルクラリズの事を見ていてくれるか?」

「はい、わかりました」


 形式上はルクラリズを一人にさせるわけにはいかないからな。リーリア一人だけでもここで残しておくべきだ。


 それから軽く服を着替えて、アレイシアの部屋へと向かう。

 そんなことはないのだが、随分とまともに話していないような気がする。


「あ、エレイン様。こちらです」


 部屋の前に到着すると、ユレイナが扉を開いた。


「小さき盾の人たちも呼んでまいります」


 そう言って一礼をした彼女は地下部屋の方へと向かっていった。

 彼らも交えて話をするということはかなり重要なことのようだ。内容は想像できないものの、心して聞いたほうがいいというのには変わりないだろう。


「エレイン、休んでるところごめんね」


 部屋の中に入ると彼女がベッドに座って俺の方を向いてきた。

 すでに部屋着に着替えており、話を終えてすぐに寝ようとしていることがわかる。とは言え、自分の睡眠を削ってまで話すこととは何なのだろうか。


「疲れと言っても、これぐらいは耐えることができる。問題はない」

「……そうかもだけど、謝るわ」

「それで、話というのはなんだ?」

「軽く説明すると、パベリが攻撃を受けたときにエルラトラムも同時に攻撃されてたのよ」


 そう深刻そうな顔で重たい口を開いた彼女はゆっくりと説明をした。

 ミリシアやアレクが最悪な想定と言っていた事が現実に起きていたということのようだ。あのときはこのパベリの攻撃が揺動だと考えていたが、こうして陥落していないということから、別の目的があったのだろう。

 聖騎士団の半数がパベリに出動したと言っても、エルラトラムには四大騎士も残っていることだ。そう容易く陥落させることは魔族とて難しいはずだ。


「なんとか防ぐことができたみたいだけど、妙な動きもあったのよ」

「妙な動き?」


 すると、後ろの扉がノックされた。


「アレイシア様、小さき盾をお連れしてきました」

「入って」


 ゆっくりと丁寧に扉を開くとユレイナが小さき盾全員を連れてきた。ただの報告だけだとすればミリシア一人でも十分なのだが、こうして全員連れてくるということは相談も含めてということだろう。

 重大な決め事はミリシア一人では決められないからな。


「寝ていたんだが、重要なことなら仕方ねぇ。話ってのはなんだ?」

「ちょうどエレインにも話してたんだけど、パベリと同時にエルラトラムも攻撃されてたって話よ。詳しいことはまだ報告されていないけれど」

「どういった規模なの?」


 すぐに質問したのはミリシアであった。確かに最悪な想定だと一番心配していたのは彼女だったからな。

 もちろん、陥落していないとしても被害が甚大だったのなら話は別だ。


「大きな被害は出ていないわ。幸いにも魔族の練度が低かったみたいなの」

「……パベリの連中もそうだったよな? 数こそ多かったが、聖騎士団に選ばれるほどの実力があればなんの問題はなかったぜ」


 パベリでは数の暴力で制圧してきたものの、高威力の聖剣を持つ聖騎士団であれば何ら問題はない。当初の作戦とは違うが、上位種の魔族を優先的に攻撃したことでその後の奪還作戦は円滑に進んだ。

 その点では今回の攻撃は規模こそ膨大であったものの、個体ごとの練度が低く致命的な損害はなかったのだろう。パベリの半分が失われたのは奇襲によるものが大きい。聖騎士団の少ないあの場所でも前もって準備をしていれば防ぐことができたはずだ。


「妙な動きがあったとも言っていたね。なにがあったのかな?」

「今回攻撃してきた魔族の領主、いわば将軍のような存在の魔族が単騎でエルラトラム国内に深く侵入してきて、数人の人間を殺したの」

「倒せたのか?」

「倒す前に逃げ出したのよ。建物を壊しながらね」


 その数人の人間を殺すだけで他の目的はなかったというのだろうか。

 それにしても不自然な点がいくつもある。


「一番の謎なのが、部下を盾にしてまでその人たちを殺したってことね。それも能力持ちの上位種がその領主の盾となったの」


 魔族でも貴重な上位種、その中でもさらに貴重な能力持ちを盾にしてまで達成したかった目的。どのような裏があるのかはわからないが、彼らにとって達成しなければならないことだったに違いない。

 ただ、その数人の人間の正体が気になる。聞いている限りだと国の重役というわけでもなさそうだ。


「殺されたのはどういう人だったんだ?」

「軽く調べてみたのだけど、普通の一般市民だったそうよ。影響力の少なそうなね。詳しく調べれば悪いことを企んでいるのかもしれないけれど」


 表立って大きなことをしていないということのようだ。

 国の根幹に関わるような仕事をしていたのなら、また話は変わってくるのかもしれないがな。


「昨晩のことも、先日のザエラのこともだけど。なにか大きな謀略を考えているのは間違いなさそうね」

「そのため俺たちを呼んできたのか?」

「無理にとは言わないわ。あなたたちだって人間だし、議会のために人生を捧げろとは言わない。だけど、協力してほしいの」


 そう重たい口調でアレイシアは頭を下げながら言った。

 協力とはいっても死のリスクが今までの任務よりも遥かに大きいということには違いない。魔族の一個師団を相手にするのではなく、一領の魔族全体と戦うことになるのだからな。

 しかし、そんなリスクがあるからと言って俺たちは手を引くようなことはしない。

 結局のところ、誰かがやらなければいけないのだ。それなら作戦が成功する確率の高い俺たちがしたほうがいい。それに、俺たち以外にこのようなことができるとも思えない。


「へっ、協力してほしいって頭下げんじゃねぇよ」

「え?」

「僕たちは運命共同体だ。この国が崩壊すれば、僕たちの居場所がなくなるんだからね」

「そうよ。それに仲間でもあるでしょ?」

「はいっ。アレイシアさんのことでしたらなんでもしますっ」


 この場にナリアはいないが、きっと彼女も同じようなことを言ったに違いない。


「当然だが、俺も協力に拒否するつもりはない」

「……エレイン」

「辛気くせぇことはなしだぜ。助け合うって決めたんだからよ」

「そうね。そうだったわね」


 これで俺たちがするべきことは決まった。

 領主たる魔族の討伐、これが当分の目標とすることにしよう。それにその領主以外にも世界には大量の魔族がいる。今回のことですべてが終わるというわけでもない。

 そして、今回を乗り越えなければ世界を救うことなんて不可能だ。

 まずは俺たちを攻撃してきた魔族の領主を突き止め、できれば領主の治めている魔族領の制圧もしたいところだ。難しいかどうかはどうでもいい。

 やるべきことが決まっただけでも今は十分と言える。


「まぁ今すぐに行動できるってわけでもないわ。私たちも休息がいるわけだし、アレイシアも休むべきよ。幸いにもまだ時間はあるんだから」

「そうだね。またすぐに魔族が攻撃してくるとは考えられないからね」

「ってことで、あんま気を張ってると辛くなるだけだからよ。ゆっくり休め」

「休んだら私たちも作戦を考えることにするわ。早ければ明日にでも報告するわ」

「うん。助かるわ」


 そういって小さき盾の人たちは地下部屋の方へと戻っていった。


「……エレイン、ちょっと待っててくれる?」

「なんだ」

「もし、この国が崩壊しそうになったときあなたたちは迷わず逃げてほしいの」

「どうしてだ?」

「ヴェルガー政府の方にも書簡で正式に伝えておいたわ。あの国ならエルラトラムが崩壊してもしばらくは平和に暮らせると思うから」


 一体なにを彼女は話しているのだろうか。

 今回の作戦は確かにリスクある戦いになるのは間違いないが、俺は命に変えてでもこの国を守るつもりでいる。

 それなのに彼女はどうしてそのようなことを言うのだろうか。


「別にエルラトラムが陥落することなんて可能性としてはゼロだ。想定されないことなど考えるだけ無駄だと思うが……」

「無駄じゃないのよ。あなた、自分を犠牲にしてでもエルラトラムを守ろうとしてるでしょ」

「ああ、そうだな」

「だめよ。それじゃだめなの」


 そう不安定ながらも彼女は立ち上がって俺に強く抱きついてきた。彼女の温もりが全身を包み込み、優しい気持ちを感じることができる。

 少し下を向いて彼女の顔を見てみると、その目は涙に潤んでいる。必死に何かを伝えようとしているようだ。


「この国が崩壊するか、俺が死ぬかを比べれば答えは一つだろう」


 エルラトラムには聖剣を生産するという人類にとって重要な役割を持っている。神樹も守っているという点からも人類や精霊にとって必要な存在だ。

 俺もそれなりに強い存在だと自負しているが、一人だという点ではそこまでの影響力はない。この国には未来があるんだ。俺一人ではでくなくとも未来の人たちならもっと上手くやれるかもしれない。

 未知の可能性に賭けるというのもある種の最善策とも言える。


「そんなことでもないのよ」

「エレイン様、アレイシア様がおっしゃりたいのは人として生きてほしいということです」

「人として?」

「はい。戦士として生きて死ぬというのもまた人生です。しかし、アレイシア様はもっと平凡に生きてほしいと願っておられます」


 平凡に生きる。確かにそれは幸せなことなのかもしれない。

 ただ、こんな世界では魔族と戦わずして生き続けることは不可能だ。誰かが魔族と戦う必要がある。


「このような世界では……」

「戦いだけがすべてではありません。もう少し身の回りのことを考え、想ってください」


 そうユレイナが言った。

 意味はわからないわけでもないが、どうしても俺にはその言葉を完全には理解できなかった。

こんにちは、結坂有です。


エレインにももう少し人として生きてほしいところですね。

最強の剣士として生きるというのも良いのですが、彼には彼を想う多くの人がいるようです。

人との繋がりは戦いだけではどうすることもできませんからね。

人としても成長して行くといいですね。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

誤字脱字等の報告も非常に助かります。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ