表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
457/675

誓いの証

 朝食を食べていると小さき盾のみんなも上がってきた。美味しい料理の香りが地下の方にも広がっていたらしい。

 当然ながら、彼らも人間である上に腹が減っていた状況を考えるに仕方ない反応と言えるだろう。まぁ煮込み料理でかつ、大人数で食べることを想定されている料理のため、みんなが食べれた。

 ただ、気になった点があるとすればミリシアがこの料理の作り方をリーリアから聞き出そうとしていたところだった。リーリアは別に隠すようなことでもないと丁寧に説明していたが、ミリシアも作ってみたいのだろうか。そう言えば、興味があるとか言っていた気がする。


 にぎやかな大人数での食事は心身ともに疲れを癒やしてくれる。死と隣り合わせの戦場、それでいて今まで経験してきたなかでもかなり厳しい戦いが続いたのだ。

 いくら小さき盾でも人間であることには変わりない。休むことが必要だ。

 朝食を食べ終えると、彼らは「ごちそうさま」と言って地下部屋の方へと向かっていった。ミリシアはなにか話したそうにしていたが、思った以上に疲労が溜まっていたらしく今日は休むことを優先した。


「エレイン様、お次はお風呂にいたしますね」


 食器を片付け終えたリーリアは厨房から戻ってきてそう話しかけてきた。

 この服は天界で作ってもらって代物で、目立った汚れなどは一切ない。もちろん、戦っている最中は汚れていくものの、時間が経つにつれて自浄作用が働き、新品同様の美しさへと戻っていく。

 そんな聖剣に匹敵するような服ではあるものの、結局のところ体は汚れたままだ。

 汗まみれの状態では睡眠の質も低下することだろう。今すぐ寝たいところではあるが、ここは明日のためにもきれいにするべきだな。


「ああ、だが……」

「すでに温めておりますので、すぐに行きましょう」


 そう言って彼女はどこか楽しそうにタオルを二人分持ってきた。

 その様子をみたカインは勢いよく立ち上がってリーリアへと詰め寄る。


「ちょっと、二人で入るつもり?」

「はい。そのつもりですが、なにか問題でもありますか?」

「男女が二人お風呂なんて……。エレインもなにか言うことないの?」

「カインはまだ知らないだろうが、学院にいた頃はよく二人で入っていた」

「え……」


 俺がそういうと彼女は言葉を詰まらせる。


「……ルクラリズは、どう思ってるのよ」


 少しの沈黙の後、彼女はゆっくりと椅子に座ったままのルクラリズにそう問いかけた。


「私はそれもメイドの務めだと思ってるわ」

「当然のことだと?」

「まぁそうね」

「はい。ルクラリズさんもそうおっしゃっていることですので、私たちはこれで失礼します」


 リーリアがそう言って話を締めると俺の腕を優しく引っ張り上げて風呂場の方へと誘導していく。その表情は高揚しているような、それでいて少し色気を含んでいるような気がした。

 いつものことなのだが、それでも今は疲れの方が勝っている。無意味に抵抗する気力もない。


 それからしばらくして、風呂場へと向かうとすでに湯気が立ち込めており、湯船に湯が張っていることがわかる。


「エレイン様、失礼します」


 そう言って彼女は俺の着ている服のボタンを外していく。


「はぁ……」


 色気のある吐息を吐きながら、彼女はゆっくりと俺の服を脱がしていく。

 よくよく考えてみれば、今の状況を誰かに見られたとしたらきっと誤解されることだろうな。


「……汚れなんてなさそうに見えます」

「汗まみれなのだがな」

「見てる分にはそうは見えません」


 確かに鏡で自分の体を見てみても目立った汚れなどはない。かと言って洗わないわけにもいかない。


「わ、私も脱ぎますね」

「……」


 じっと見ているわけにもいかないだろうと思い、俺は視線を横にそらした。

 すすぅっと衣が擦れる音が耳を撫でるように聞こえる。意識していないのだが、静かなこの環境ではどうしてもその音が耳に入ってしまう。

 それでいて、体の奥底から謎の高揚感のようなものすら感じる。


「エレイン様、入りましょうか。このままではお体が冷えてしまいます」

「そうだな」


 タオルを巻いたリーリアは浴室への扉を開ける。

 すると、温もりのこもった湯気が全身を包み込んでくる。これだけでもかなり心地の良いものなのだがな。


「どうぞこちらに。私がお手伝いいたしますので」


 そう言って椅子へと俺を座らせる。

 そして、湯船からお湯を取り出して俺の体へと流す。


「お湯加減はいかがでしょうか」

「丁度いい具合だ」

「よかったです。では、洗いますね」


 石鹸とタオルをこすり合わせ、ほどよく泡立てると彼女は優しく背中から洗い始めた。

 途中から生暖かくも柔らかい何かに変わったのだが、あまり深くは考えないでおこう。


 それから全身を洗い流す。

 ベトベトと汗まみれだったがきれいに洗い流すことができた。自分では洗いにくい場所も他の人が洗ってくれるときれいに洗えるものだ。

 とはいえ、自分で洗えるようにしないといけないものなのだがな。


「きれいになりましたね」

「ああ、リーリアのおかげだ」

「いえいえ、エレイン様のためでもありますので……。私もお体を洗います」


 そう言って彼女は自分の体を隠しているタオルを取ろうとする。

 俺は咄嗟に視線をそらして、直接見ないようにする。以前のこともあるのだが、じっと見つめられるというのはかなり恥ずかしいようだからな。


「……俺は湯船に入っておく」

「待ってください。エレイン様も私のことを洗い流してください」


 そう彼女は俺を引き止める。

 確かに彼女の体を洗い流したことはあるし、アレイシアやセシルにもしたことがある。 それに彼女も疲れているはずだ。そんな中でも俺のことを優先して洗ってくれたのだ。恩は恩で返すというしな。


「わかった」

「……嬉しいです」


 小さくだが、はっきりとそう彼女はつぶやいた。

 俺も彼女と同様にほどよく泡立てて彼女の体を洗っていく。

 美しいその素肌は滑らかで触っていて心地の良いものだ。そして、それでいて筋肉は引き締まっており、無駄な肉などない綺麗なシルエットでもある。


「ん?」


 戦いによって洗練され、それでいて女性らしいその体を洗っていくと違和感を覚えた。

 以前、リーリアの体を触ったときとは違った感覚がしたのだ。


「どうかなさいましたか?」

「……いや、なんでもない。気にするな」

「そう、ですか」


 とはいったものの、気になるものは気になる。

 タオル越しではよくわからないため、俺はその気になる部分へと直接触れてみることにした。


「ひゃっ」

「悪いが、少し我慢してくれないか」

「んっ……わ、わかりましたぁ。エレイン様のためならなんでもぉ……」


 俺は彼女のくびれ辺りから腰にかけて撫でるように触っていく。

 明らかに前と違って筋肉の質が変わっている。

 ビクビクっと体を震わせているが、それでも違いがわかる。どこで覚えたのかはわからないが、少し忠告したほうがいいだろうな。


「……リーリア、もしかして俺の訓練を真似してるのか?」

「っ!」


 背中から見ているのだが、明らかに俺の言葉で動揺したのが見て取れる。


「腰辺りの筋肉の質が以前と違って変わっている。特殊な訓練をしない限りはそうはならない」

「申し訳ございません。見様見真似ではありますが、エレイン様の訓練場での動きを模して自主練を……」

「俺の動きはリーリアの教わってきた流派とは全く違う考えのもとで作られた技だ。確かに流用できるものもいくつかはあるが、癖が身に付いてすでにある実力が下がることだってある」


 俺がそういうと彼女は振り返って俺の目をじっと見つめる。

 その目はまっすぐで覚悟を決めているようなそんな印象すら受ける。


「それは承知の上です。流派を変えた方の話を聞いたことがありますので、その大変さは知っています」

「では、どうしてだ?」

「エレイン様に近付きたいのです。持っている流派は違いますが、少しでもエレイン様から技を習得したい……。ルクラリズさんに技を教えたように、私も、教えてほしいのです」


 自分に合わないものだとわかった上で俺の訓練を真似たのだろう。それもかなり前から続けていると考えられる。

 一朝一夕であのような筋肉が生まれるわけがないからだ。少なくともヴェルガーに行く前から隠れて続けていたのだろう。それもすべては自身を俺に近付けるため、技を習得するためだそうだ。

 技を盗む、という言葉もあるぐらいだ。それが自分の実力を向上させることもあるが、低下させる一因になることだってある。そんなリスクを犯してまで彼女になんのメリットがあるのだろうか。


「リーリアはすでに強い。一対一では小さき盾といい勝負ができることだろう。それでも俺から技を得たいと考えるのはどうしてなんだ」

「ある種の”誓い”のようなものです。私はエレイン様のために生き、そしてエレイン様のために死ぬ覚悟があります。身も心も、自らの技もエレイン様のためでありたいのです」


 リーリアの流派は正直なところ人を守るようなものではない。必要最小限な動きでかつ、最低限の損傷で相手に最大ダメージを与える、そのような考えのもとで作られたものだ。人を守るのには向いていないものの、一対一などの戦闘という点で考えればかなり有効に働くことだろう。

 それでも俺から何かを習得したいと考えるのは自分に足りないものを得ようとしたいからだ。複数戦における技術は彼女にないものだ。

 俺を守るため、俺の役に立つために自らの技を進化させたいのだろう。なんともリーリアらしい考えだ。


「……わかった。別にそれを咎めることはしない」

「あ、ありがとうございます」

「だが、一つだけ約束してくれるか」

「なんでしょうか」

「俺の見えないところで訓練はするな。見様見真似では上達に限りがある事だろう。俺がしっかりと指導しよう」

「っ! エレイン様……大好きです」


 そう言って彼女は椅子に座ったまま俺に抱きついてきた。

 彼女の素肌の温かさが自分の腹部に伝わってくる。

 人の想いに触れるとは、こういうことを指すのだろうな。

こんにちは、結坂有です。


リーリアの隠し持っていた想いはエレインに届いたようですね。

裏で必死に努力するというのは彼女らしく、良い一面でもありますが、一人で抱え込んでしまいがちと悪い一面もあります。はじめの頃のように窮地に立たされてもエレインのために生きたいという彼女の想いが伝わってきましたね。


また、誤字脱字等の報告ありがとうございます。

これからもよろしくおねがいします。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ