タイタンの討伐へ
私とレイはタイタン級の魔族の足から離れてアレクたちとの合流を急ぐことにした。
彼が全力で剣を振り下ろしその足へと攻撃しようとしたのだが、斬ることはできても切断することや大きな傷を負わせることはできなかった。ただでさえ、とてつもなく大きな魔族でもあるのだ。いくら異常な力とは言え、一人では限界がある。
「斬り甲斐があるっていうもんだぜ」
「……そうなんですか?」
「大きなものを斬るってのは技術のいるもんだ。力だけじゃねぇ。だから燃えるってもんだろ?」
「私にはそのような経験がないので、なんとも言えませんが……」
確かに彼の性格からすればそうなのかもしれない。
だが、いくらなんでもこのタイタン級の魔族相手では一撃で仕留めることはできない。
「案外面白いもんだ。今度やってみるか?」
「いえ、遠慮しておきます」
レイの指導は見ていて豪快な剣技が多い。それでいて細かい技術までもがその一撃に組み込まれている。
アレクの流れるような美しい剣技とは対照的だが、決して豪腕なだけが彼の取り柄ではない。彼の力はとても複雑で私の言葉では説明できないのだ。
「っ!」
「こっちだっ」
すると、彼が私の腕を引っ張る。
それと同時に強烈な爆発のような音が聞こえる。
振り返るとそこには先程の魔族の足が踏みつけられていた。全く気配がなかったが、また彼に助けられてもらったらしい。
「音もなく踏みつけてきやがる……一体どうなってんだ?」
「再度助けていただき、ありがとうございます」
「気にすんな。リーリアが死んだってなりゃエレインがキレっからよ」
「そう、かもしれませんね」
そういえば、エレイン様が怒りに満ちた姿は想像したことがない。もし私や小さき盾の誰かが死んだとなれば彼はなにをするのだろう。彼の超常的な力は私たちの想像を超えるもの、どんな風に怒るなんて想像すらできない。
「まぁどっちでもいい。時計台に進みにはあのタイタン級をどうにかするしかねぇな」
「はい。ですが、どうやって倒すべきでしょうか」
「足を斬り倒すってのは現実的じゃなさそうだ」
レイの超人的な豪腕ですら不可能なものらしい。それでも全く倒せないというわけではない。
なにかきっかけのようなものがあれば打開策が浮かび上がりそうなものなのだけど。
「とりあえずはアレクのところに行こうぜ。二人じゃ無理があるだろ」
「そうですね。少し戻ることになりますが、合流いたしましょう」
それから頭上に注意しながら私たちは近くの交差点へと戻ることにした。
どうやら私たちよりも一足先にアレクたちが戻っていたようだ。誰もはぐれている様子はない。
「リーリアっ」
「ルクラリズさん、ご無事でしたか」
彼女は私を助けようと走り出したのだが、それをユウナに引き止められたそうだ。
引き止められていなければ私ではなく、彼女が踏み潰されていたことだろう。
「二人とも無事でよかったよ。それにしてもあのタイタン級が厄介だね。時計台に向かわせないように僕たちを妨害しているみたいだ」
「はい。あのままだと時計台の方へとたどり着けませんね」
「どうしましょうか……」
ユウナは不安そうにそうつぶやいた。
打開策を見つけない限りはこのまま立ち往生となってしまうだろう。それだけはやってはいけない。
エレイン様とミリシアは今も時計台のところで大量の魔族と戦っているはずだ。数千を超える魔族と戦い続けていればいくら超人とはいえ、疲れてしまうことだろう。そして、その疲労は思わぬミスを生む。
ほんの小さなミスが命を失うことだってあるのだ。
それを私は聖騎士団時代に嫌というほど思い知らされたのだから。
「それにしてもよ。あんな巨大な図体、どこまででけぇんだ?」
「はるか上空に薄っすらと赤い眼のようなものが見えますね」
ユウナは上を見上げながらそういった。
私も見上げてみると先ほど、私たちを睨みつけてきた赤く光る三つの眼が浮かび上がっていた。
月明かりのない真っ暗な闇夜のため、距離はわからないがそれでも見上げなければ見えないほどに高い位置に眼がある。
「タイタン級……こんなのを出してくるなんて、こっちの軍勢はかなり本気のようね」
「そう言えば、タイタン級の魔族ってどういうときに出すものなんだ? あんな奴がいるなんて話にも聞いたことがねぇ」
「そうだね。今まで使ってこなかったのには理由があるのかな?」
「……簡単に言えば切り札のようなものよ。敵味方関係なく踏み荒らす目的でね。タイタン級は賢いとまでは言えないけれど、知性もあるわ。だから、確実に攻め落としたい時に使うの」
あれ程の魔族はそこまで多いとは言えないだろう。
ある意味希少種でもあるタイタン級を今回の戦いに持ち出してきたということはどうやら魔族側はかなり本気だということが伺える。
目的がなんであれ、パベリをなんとしても守るべきだというのは変わりない。
「完全破壊を目的としたもの、ということだね」
「ええ、今回のように通路を塞ぐと言った目的に使うなんて私も聞いたことがないわ」
ということは軍勢によっては使い方は異なると言ったところだろうか。
ルクラリズのいたゼイガイア軍勢はおそらく目標の完全破壊のときに蹂躙する役として使われるようだ。
それにしても疑問が残るのも確かだ。以前の戦いのとき、どうしてタイタン級を使わなかったのだろうか。とはいえ、今はそんなことを考えている場合ではない。目の前の問題を解決することが先決だろう。
「考えられるとすれば倒す方法は一つだね」
「アレク、なにか打開策でも思いついたのか?」
「うん。そうだね。ただ、やれるかどうかは運次第だけどね」
「おもしれぇ。やってやろうじゃねぇか」
そういうとレイは拳を叩いてやる気だとアレクに見せつける。
この二人なら本当にやってのけるだろうという安心感はあるが、一体どういった作戦なのだろうか。
「……まず方法としてはタイタン級の魔族が片足立ちになる瞬間を狙うんだ。そして、反対側の足を強烈な斬撃で破壊するんだ」
「だけどよ。流石に俺の一撃だけで切断ってのは無理だぜ?」
「はい。私も見ていました。人が入れるぐらいの大きな裂傷ができましたが、それでも回復されてしまいました」
衝撃波とともに生み出された彼の強烈な斬撃は確かにタイタン級の皮膚を斬り裂いた。しかし、私たちからすれば大きな傷でもあの巨大な魔族にとってはそこまで大きな傷ではない。
当然ながら、それが致命打となることはなく、そのまま回復されてしまった。
それにあの攻撃を受けたとしてもタイタン級はびくともしなかった。
「それでいいんだ。あれほどの大きな体を片足で支えるには膨大な負荷がかかってるはずだよ。そこを狙えばレイの作った裂傷をきっかけにあの魔族は崩れるはず」
思い返してみれば、よくある話だ。
小さな怪我だと思っていても戦っていくうちに悪化していくことがある。力が加わったりして傷が開いてしまうからだ。戦闘では小さな怪我でもしっかり考慮しながら戦わなければいけないと剣術を習っていた時によく言われたものだ。
「力の加わる場所が弱点ってことか?」
「そうだね。片足状態を作り出して、その部分を重点的に攻撃する」
「確かにそれは強そうですっ。やってみましょうっ!」
ユウナが妙に納得してやる気を出した。
まぁ方法としては間違っていないように思えるが、本当に大丈夫なのだろうか。
不安は残るものの、何もやらないわけにもいかない。
彼らを信じてみるしかないのだろう。
「それじゃ、作戦を始めるとしようか。僕とユウナは左足の方に向かうよ。レイたちはもう片方の足に向かってほしい」
「おうよ。タイミングを合わせるってことだな?」
「そういうことだよ」
アレクはそう言ってユウナとともに左足の方へと走っていった。
今回、私は特に役割を与えられたわけではないが、作戦が成功するよう祈ることにしたのであった。
私にできるのはこれぐらいなのだから。
こんにちは、結坂有です。
戦闘もかなり進んできましたね。
これからもまだまだ続く戦いは激しさを増す一方です。
それでは次回も楽しみに……
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