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怪しい気配は闇に漂い

 それから私たちは魔族の群れを斬り開くように進んでいく。

 殲滅することよりも突破することに集中したことですぐに時計台の方へと辿り着いた。


「なかなか豪快に崩したみたいだな」

「ほんと、大通りが完全に塞がってしまってるわね」


 倒壊した時計台は大通りを塞いでいる。塞いでいる大部分はレンガの壁で破壊することができれば道は開通することだろう。しかし、それには爆発的な力が必要だ。聖騎士団に爆薬があれば別だが、それを準備している時間はもったいないと言えるだろう。

 レイの持っている魔剣の能力”超過”という力なら難なく破壊することができるはずだ。


「どちらにしろ、ここの防衛が必要なんだな」

「そうね。壁は破壊できなくとも彼らが到着するまで守ることができれば少しは楽でしょうしね」

「まぁそうだな」


 流石にこのレンガの壁はエレインでもすぐに破壊することができない。それならレイたちが戻ってくるまで待つほうがいいだろう。

 それに、ここに辿り着くことに専念していたために私たちの背後にはまだ大量の魔族がはびこっている。彼ら魔族は私たちを殺そうと必死なようだ。


「アレクたちがここに来るまでの間、俺たちはここを確保し続ける。それでいいのか?」

「ええ、魔族の数はとんでもないけれど私たち二人ならなんとかなるわ」

「前回とは違うということだな」

「私たちの力、見せつけてやるわよ」


 そういうとエレインは聖剣イレイラを引き抜く。

 それと同時に私たちの周囲から力強い足音が聞こえ始める。今まで下位種の、それも弱い魔族と戦ってきたのだが、これからは少し違ってくると予想している。

 それなりに強い魔族が多く集まってくるだろう。上位種でかつ能力持ちではなくとも苦戦を強いられることになるのは間違いない。


「それもそうだな」


 すると、エレインは強烈な斬撃で空を斬る。その斬撃は離れた魔族の胸部を大きく斬り裂く。

 それを合図に私は前衛へと向かった。


   ◆◆◆


 私、リーリアはアレクたちとともに崩れたとされる時計台へと走っていた。

 道中、魔族の死体をいくつも見てきた。おそらくエレイン様とミリシアが戦ったのだろう。

 斬られた傷を見るとどうやらエレイン様は無事なようだ。幻惑で太刀筋に迷いがあるわけでもない。


「俺たちが来る前にあいつら先に行ったみてぇだな」

「そうだね。エレインたちに任せっきりもよくない。僕たちも急ごう」

「はい」


 まだ時計台まで時間がかかる。

 ここは急いでエレイン様のところへと向かわなければいけない。二人での戦闘にはいずれ限界が来るものだ。

 魔族の総勢力がどこまでのものなのかはわかっていないが、少なくとも数千体はいたと予想される。能力持ちの魔族もいたとのことで彼らはおそらく苦戦を強いられているに違いない。

 私はエレイン様のメイドであり、護衛でもある。何があってもすぐに助け出さなければいけないのだ。


「リーリア」


 そう決意を固めていると背後からルクラリズが話しかけてきた。


「どうかされましたか?」

「ただ魔族の気配が妙だと思ってね」

「気配、ですか?」

「私の勘違いってこともあるんだけど……」


 すると、前を歩いていたアレクが振り返った。


「ルクラリズの言うように確かに変な動きをしているのは確かなようだね。だけど、何をしているのかはわからない」


 どうやらアレクも同じように妙な気配を感じ取っていたようだ。

 私には全くわからないが、気配に敏感な二人が言うのだからそうなのだろう。


「どのような気配なのでしょうか」

「そうだね。僕もよくわからないんだ。だけど、明らかに今までとは違う動きだね」

「へっ、さっきの変なやつの仕業なんじゃねぇのか? よくわからねぇこと言ってたからな」


 さっきの西門を上に立っていた能力持ちの上位種魔族のことをレイは言っているのだろう。あの魔族が指を鳴らした瞬間に時計台が崩れ始めた。

 そして、地響きのようなものも感じた。大きな何かが動いているようなあの振動は一体何を意味しているのか、全く想像できない。


「そうですね。私も危険な何かが始まってるとは思っています」


 ユウナも同じように思っていたようだ。

 直感的な彼女ではあるが、明らかに違和感を感じ取っているらしい。


「ルクラリズさん、なにか思い当たる節はありませんか? 小さなことでもいいのです」


 私は彼女が魔族として生活していたときの知識は私たちの知らないことばかり。魔族のことに関して言えば私たちよりも遥かに多くのことを知っているはずだ。


「……そうね。強いて言えば、タイタン級が考えられるわね」

「タイタン……巨人のことかな?」

「うん。魔族の中でもとくに強力な力を持っているわ。普段は下位種として存在してるのだけれど、すごく少ないけれど上位種でも存在してるの」


 大型の魔族はゴーレム型は知っているが、タイタン級と呼ばれるような存在は聞いたことがない。


「ゴーレム型とは違うのでしょうか」

「全く違うわ。ゴーレム型は知能的にも上位種になることはないわ。彼らは考えることをしないからね」


 確かに彼らは命令されたことしか実行しない。機械のような存在だと聖騎士団では教わった。実際に戦ったときもそのような印象を受けた。

 ということは、ある程度の知能を持っていると考えたほうがいいということのようだ。


「さっきから妙な振動が続いているけれど、これはタイタンの足音だと思っていいのかな?」

「わからないわね。私はそう感じるってだけだから」

「つまりはやべぇやつがいるって思っておけばいいんだろ? それだけで十分だぜ」

「うん。教えてくれて助かったよ」


 もし彼女の言うようにタイタン級の何かがいるのだとすればそれは大問題だ。エレイン様とミリシアの二人だけにそのような魔族が襲いかかったとなれば……

 そんな最悪な事態は想像するだけ意味がない。不安はさらなる不安を煽るだけだ。今はまっすぐにエレイン様の元へと辿り着くことだけに集中しよう。


「もしタイタン級だとしたら、この魔族軍は本気だということよ。危険なことを考えているのは間違いないわ」

「……僕もそう思うよ。最悪な結果は常に想定できるからね」

「例えばなんだ?」

「これが陽動だという可能性だね。もしそうなら本国が攻撃を受けているかもしれない」


 隣国を助けようとした結果、本国の防衛が疎かになりそのまま陥落なんてことは戦争の歴史を見てもたくさんある。

 魔族がそのような戦略的な行動をしてくるとは考えられないが、それでも想定される最悪な事態は考えておくに越したことはない。

 なにしろ、こうしてエレイン様と私たちは分断されてしまっているのだから。


「少なくとも今はパベリに侵入してきた魔族の頭数を減らすことを考えよう。攻撃されているとして、エルラトラムには強力な剣士が何人もいるからね。すぐに落とされるってことはないと思うよ」

「そうですね。今はエレイン様たちと合流することだけを……」


 すると、次第に振動が強くなっていく。


「リーリアっ」


 ルクラリズが叫ぶとレイが私を突き飛ばした。


「っ!」


 そして、それと同時に巨大な足が私の立っていたところを踏みつけた。


「悪ぃ、手荒だったか?」

「いえ、怪我はしていませんので……」


 私は巨大な足の全貌を見ようと見上げる。


「た、タイタン級よっ」


 その全貌は見えない。

 しかし、今までのゴーレム型とは規模からして違う。下半身だけでも建物より大きい。

 こんな魔族が存在したなんて信じられない。


「クソッ、こんなやつが魔族にいたなんてなっ」


 私の横でレイがそう叫ぶ。

 すると、その声に反応したのかはるか上空から三つの赤く光る眼のようなものが私たちを見つめた。


「ちっ、頭だけでもあんな上かよ」


 そういって彼は魔剣を引き抜いて攻撃態勢に入る。


「レイっ、そっちの方は大丈夫か?」


 真っ黒な足の奥からアレクの声が聞こえてきた。


「大丈夫だ。アレクの方は?」

「僕たちも怪我はないよ。僕たちは反対側の足の方へ走っていくから、レイもそこで合流しよう」

「わかった。リーリア、立てそうか?」

「はい。立てます」


 勢いよく突き飛ばされたとは言え、受け身をうまく取った私は無傷だ。どこかを痛めたというわけでもない。それに今の状況の中、軽傷で文句を言えるほどではないのだ。

 なんとしてでもこのタイタン級の魔族をどうにかするべきだろう。


「ここまでの大きさに気付かなかったなんてな」

「仕方ありません。ここまでの規模が闇夜の奥で立っていてもわかるはずがありません」


 少なくともこの状況が最悪だと言うことは間違いない。

 このような魔族が存在したとすれば必ず文献などに残っているはずだ。しかし、そのような話や噂すら聞いたことがない。

 つまりは魔族の中で切り札的な存在なのだろう。それも秘密にしなければいけないほどの。

 ルクラリズが本気だと言っていたことがようやくわかった。

 倒す方法まではわからないが、どうにかして私たちはこの巨大なタイタン級の魔族を倒すべきだというのは理解したのであった。

こんにちは、結坂有です。


魔族側は本当に人類を殲滅しようと画策しているようですね。

ゼイガイア的にはまた違ったやり方のようですが、そのあたりはどうなっているのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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