上位帯となった副作用
二日に分けて行われた剣術競技を終え、土日を挟むとまた学院が始まる。
土日はアレイシアと買い物を行ったりといつもと変わらない日常を過ごしていたのだが、やはりリーリアの様子が変であった。
まだそこまで長く付き合っているわけではないのだが、今までとは明らかに違和感を感じていた。
ただ、いくら考えたところで答えなど見つかるはずもなく月曜となってしまった。
「エレイン様、今日もお弁当を作ってきました」
「いつもありがとう」
「これもメイドの務めです。それにアレイシアの好意でもありますから」
アレイシアが俺のために弁当作りを手伝っているのはすでに知っている。
とてもありがたいことなのだが、足が不自由なアレイシアにとっては辛くはないのだろうか。
無理をして怪我をしないか、それだけが心配なのだ。
「まぁそうだが、毎日はやはりしんどいものだろう」
「そのようなことはありません。私は料理をするのが好きですよ」
「それならいいのだがな」
好きでやっているのならいいのだが、無理をしているのは申し訳なくなるものだ。
もし無理をしているのであれば、昼の弁当作りをやめてくれてもいいぐらいだ。
「はい、私はエレイン様のことをお慕えしている身です。なんなりとお申し付けください」
そう言ってリーリアは丁寧に頭を下げた。
彼女は本当に俺のことを慕っているようだ。守るに値するかどうかを彼女自身に託したのだが、どうやら本当に守る価値があると判断したようだ。
それなら普通に嬉しい。
「何か困ったことがあれば伝えるようにする」
「はい」
そう天使のような微笑みで彼女は返事をした。
学院の敷地内に入るとすぐにセシルが駆け寄ってきた。
「やっぱりこの時間なんだ」
「いつも同じ時間帯に登校するものでな」
「規則正しい生活をしているってことよ。尊敬するわ」
セシルはそう言って頬を膨らませた。
「朝は弱いのか?」
「ええ、そうよ。朝練などは一度もしたことがないぐらいにね」
なるほど、時間の感覚というのは人それぞれだから必ずしもこれが正しいということはない。
朝練をしなくてもセシルのような剣術を身につけることができるのも確かだ。
正直言えば、俺も早朝に関しては体が動きにくいと感じるからな。
あまり意識していなかったが、改めて考えてみると俺も朝が弱いのかもしれないな。
「そうなのか。俺も朝は弱いのかもしれないな」
「……それでもいつの時間でも実力は発揮できるでしょ?」
まぁそう訓練されているからな。
いついかなる状況においても一定のポテンシャルを発揮できるよう訓練されているからな。
「確かにそうだな」
「はぁ、エレインがいうと全てが嫌味にしか聞こえないわね」
「ミーナにも言われたことがあるな」
一度言われたことは何度も言われるとよく聞くが、どうやら本当のようだ。
それにしてもセシルがそんなことを言うのは意外だな。
「誰でもそう言った反応するわよ」
「そうか、セシルが弱音を吐くとはあまり聞かないな」
すると、俺の歩幅に合わせるように彼女は俺の横を歩く。
「私、そんなにプライド高そうに見える?」
「ああ」
正直、入学式の頃の印象が強いためそのような印象を持っている。
実際に話してみると確かに話しやすい女性ではあるものの、その凛々しい立ち居振る舞いから近寄り難い雰囲気を醸し出しているのは確かだ。
「そうなのね。これからは気をつけるとするわ」
「気をつけたところで変わらないように思えるがな」
俺がそう言うとセシルはムッとした表情でまた頬を膨らませるのであった。
教室に着くと、皆が俺たちの方を向いた。
学院一位のパートナーを得ることになった俺たちは一瞬にして学院中の注目の的だ。
「エレインはやっぱり強いよ!」「でもフラドレット流は知らないのよね?」「いやいや、新しいフラドレット家の奥義かもしれないんだぞ」「みんな騒ぎ過ぎよ。エレインはただただかっこいいのよ!」
俺を見つけるなり議論が始まる。
あれだけでこれほどの反響があるとは思ってもいなかったが、特に剣術らしいことはしていない。
俺の能力に気付いている人も今のところいないようだからな。
作戦としてはうまく行っていると言ったところだろう。
「ねぇ、注目の王子様ね」
「王子様にしては気品に欠けているがな」
俺がそう言うと横にいたリーリアが首を横に振った。
「いいえ、エレイン様はお食事の時も音を立てずにお食べになられます。また、他にも動作が美しかったりと気品に満ち溢れていると思います」
「そうよね? 姿勢だってすごく綺麗だし」
「姿勢は剣を握る上で重要だ。そこを怠ることはしない」
姿勢を正しく保つと言うことは体全身のバランスを整えることと同義だ。
体のバランスがしっかりとしていれば、体幹が定まる。
体幹を鍛えると言うのは剣術のみならず、全てに通ずるところがある。
「確かにそうだけど、四六時中美しい姿勢をしているのはエレインぐらいよ」
「そうなのか」
姿勢を崩すのは寝る時ぐらいで十分だ。
いや、わざと姿勢を崩すことで不要な筋肉を休ませているのだろうか。それはそれでとても効率がいい技であるが……
「疲れるわよね?」
どうやら単純に疲れるからだろうな。
セシルがリーリアに向かってそう言うと、当然のことながら彼女も大きく頷いた。
「疲れるものですよ。私も時間を見て姿勢を崩しているぐらいですから」
確かにリーリアは適度に姿勢を崩していることがあるな。
食事を作っている時や食べる時は特にそうだ。
しかし、普通はそれぐらいでいいのだ。
俺みたいにずっと姿勢を維持して体幹をしっかりと整えるのは意味があってのことだからな。
「じゃ、そろそろ授業が始まるから。また昼食の時間に」
「ああ」
そう言った会話をしていると何人かの男子生徒から睨まれるような視線を感じた。
この日常的な会話に何か問題があったのだろうか。
軽く考えてみても理由が思い浮かばないな。
そんなことを考えながら、俺は自分の席に着くと横にいるリンネが話しかけてきた。
「すっかり有名人ね」
「入学した時とほとんど変わっていないように思えるがな」
この程度の話題なら入学式とほとんど変わっていない。
唯一違うと言うのは横にセシルがいると言うことだけだ。それが一番大きな要因位なっているのだろうが、教室中は俺たちの話題でいっぱいとなっていた。
「セシルと手を組んだことで敵を作ってしまわないようにね」
「どう言うことだ?」
「だって、セシルを狙っている男子多いのよ。あんなに親しく接していたら嫉妬する人も増えるはずよ」
話す程度で嫉妬するのか。なんとも器の小さな男だ。
セシルはアレイシアに勝るとも劣らない美貌の持ち主だ。
あの攻撃的な視線や威圧的な態度がなければ間違いなく美人の称号を独占していたことだろう。
「別に俺とセシルはそう言った関係にはならないと思うがな」
「どうかなぁ。私的には脈ありだと思うんだけど」
そう言ってリンネはセシルの方へと視線を向ける。
「そう見えるのか?」
「声のトーンとか、目線とか……あとは女の勘ってところかな」
淡々と述べているように聞こえたのだが、視線は明らかに敵対的な目をしていた。
殺意のようなものは感じられないし、殺伐とした雰囲気でもない。
なんとも妙な感じだな。
それにしても女の勘というものはよく知らないのだが、直感というものはその人の経験や知見から導き出されるものだからな。
参考にしてみてもいいだろう。
「そうか。注意しておくよ」
「ちゅ、注意?」
「ああ、妙な噂が立っては本人にも悪いだろう」
俺の言葉がおかしかったのか、リンネは小さく笑った。
「むしろ噂が立ってセシルを困らせるとかしないの?」
悪戯心の豊かなリンネならでは発言だろうが、今回はそんなことをしている場合ではない。
「困らせても俺に何の利益もないからな」
「ちょっと面白いじゃん」
「……そうかもしれないが、俺はしないでおくよ」
セシルがいつもと違う表情をするところは見てみたいところだが、こうして罠にかけるようなことはしたくないからな。
俺としても彼女とは友好な関係を築きたいと思っている。
そして、セシルには少し訓練をさせることでその能力を最大限に発揮することだろう。
なんとも将来が楽しみだな。
こんにちは、結坂有です。
剣術競技にてセシルにかったエレインは教室では注目の的のようですね。
そして、セシルを狙う男子からも嫉妬の目を向けられるようになってしまいました。
それにしてもこれからこの二人はどのように発展していくのでしょうか。気になるところですね。
それでは、次回もお楽しみに。




