さらなる高みへと目指して
俺、エレインは目が覚めた。
最後の記憶はリーリアが俺に魔剣を向けていたところで終わっている。どうやら幻惑の力によって惑わされてしまっていたらしい。
リーリアが対処してくれたようで今は頭痛がしない。
しかし、何かしらの対策をしなければまた重点的に狙われでもすればどうなるかわからない。常に彼女が横にいるというわけでもないからだ。
「あ、目が覚めた?」
どうやら俺はベンチへと寝かされていたみたいだ。
横にはミリシアがいる。
「……何時間ほど眠っていた?」
「三〇分ぐらいよ。リーリアとルクラリズは他の人と一緒に広場へと向かったわ」
「そうか」
ゆっくりと起き上がると周囲を確認する。
魔族によって制圧されてはいるものの、それでもここは比較的安全なようだ。近くに魔の気配はない。
「魔族のことは安心して。アレクとレイが制圧してくれたから」
「迷惑かけたな」
よくよく目を凝らしてみると確かにものすごい勢いで斬撃が繰り出されたかのような跡が建物の壁に残されている。あの暴力的なまで破壊力と無駄がなく綺麗な傷跡はレイが暴れたということが見て取れる。
「迷惑じゃないわ。エレインばかりに負担掛けたくないからね」
「別に俺は……」
俺が言葉を言おうとした途端、彼女は俺の口元へと人差し指を押し付ける。
「負担かかってるから倒れたんでしょ?」
「いや、これに関してはいろいろと理由があってだな」
「それでもよ。幻惑で脳をやられそうになったんでしょ? アンドレイアから聞いたわよ」
確かにリーリアによって意識を止めなかったとしても脳の回路が焼き切れていた可能性が高いな。実際にかなり強烈な頭痛が起きていた。
少なくとも今以上に昏倒していたことだろう。最悪、リーリアやルクラリズまでも迷惑をかけていたはずだ。
「……そうかもしれないな」
「広場の制圧は彼らに任せておいて大丈夫よ。私も広場の方をちょっと見てみたけれど、上位種の魔族はいなかったわ。いたとしても能力持ちはいないはずよ」
「俺もいないと思っていたがな。どこかに隠れていたのかもしれないな」
「幻惑使いらしいからね。それに慎重な性格みたいだし」
まぁどちらにしろ、面倒な相手だということには変わりないだろう。
幻惑を使ってきたとは言え、そうなんども能力を乱用したりすることはしないはずだ。この攻撃の様子から察するに今回の魔族はかなり慎重に作戦を進める性格のようだしな。
失敗したとわかればすぐに次の作戦へと切り替えると考えられる。
そんな事を考えていると広場とは違う方向にある建物が大きな揺れと同時に崩れ始める。巨大な時計台がゆっくりと砂埃を巻き上げながら崩れていく。
「あれは……」
「まだ魔族が残っていたみたいね。それにちょうどあの位置だと聖騎士団がすぐにこれないわ」
「確実に俺たちを孤立させて倒そうとしているみたいだな」
「エレインがここに来るまでに結構な数を倒したってリーリアが言ってたけれど、どれぐらい倒したの?」
正確な数は数えていないものの、俺でも二百体以上は倒しているだろう。
リーリアやルクラリズの数も含めれば三百は超えているか。
「三百以上は倒してるはずだ」
「私たちも百体ぐらいは倒したわ。それでも勢いは衰えていないようね。他にも作戦があるのだとしたらかなりの魔族が侵入してきているようね」
「西門に関してはアレクたちに任せるとして俺たちはあの崩れた建物へと向かうほうが良いな」
俺がそういって立ち上がるとミリシアは裾を掴んで引き止める。
「ちょっと待って、動いて大丈夫なの?」
「ああ、問題はない」
軽く肩を動かしてみたりするが、特に違和感はしない。それに幻惑などがまだ残っているというわけでもないだろう。リーリアがそのようなミスをするとは思えないしな。
「それでももう少しは休むべきだわ。まだ目が覚めて数分しか経っていないし」
「だが、魔族の攻撃は待ってくれない。これ以上面倒なことが起きる前に対処しておいた方がいいだろう」
「……じゃ私も行くわ。エレイン一人に負担かけるわけにもいかないから」
すると、ミリシアも剣を持って立ち上がった。
確かに一人より二人で行くほうが戦力が上がっていいだろう。
ただ問題なのが、これ以上の被害をどう食い止めるかだ。全体の魔族数は推定でも千は超える。あの大きな建物を崩すだけでも相当な魔族が仕掛けているはずだ。それもかなり正確に建物を破壊していることから必然的に魔族の数が多いと考えられるだろう。
「ほら、行くんでしょ?」
ミリシアはそう言って鞘を腰に下げた。
「ああ、すぐに向かおうか」
あまり意識していなかったが、ミリシアのスカートの丈が分かれるより短くなっているように見える。ほんの少しの差とはいえ、ちょっとした動作でも下着が見えそうになる。
まぁ計算し尽くされたかのように絶妙な具合に隠れているのだがな。
それから俺とミリシアは崩れた建物の方へと向かうことにした。
仮に広場へと向かっている彼らが戻ってきたとしても、俺たちがいないとなればすぐに建物の方へと来ることだろう。
◆◆◆
私、リーリアはルクラリズとともにアレクたち小さき盾の支援をしていた。
今いる場所は広場の手前だ。
エレイン様はミリシアに任せるとして、私たちは広場の制圧をしなければいけない。広場を制圧することで西門を閉めることができる。そうすれば魔族が続けて入ってくることはできない。
とはいえ、それらができるのは西門が完全に破壊されていないことが前提だけど。
「広場にいる奴らはもういねぇか?」
「いないみたいだね」
ちょうど私の隣にいるアレクが周囲を確認しながら、そう言った。
先ほど最後の魔族を倒したばかりだ。
広場から逃げ出すような魔族をレイとユウナが対処してくれていた。本当はエレイン様も一緒に戦う予定だったのだが、眠りが深かったために仕方なく私たちは広場に来た。
もちろん、エレイン様の側にずっといることも考えた。しかし、それはエレイン様も望んでいないはずだ。それに広場を制圧することで魔族の勢力を抑えることができる。エレイン様を守るためにも私たちはここに来たのだ。
「へっ、ルクラリズも聖剣を持ってないのに強いもんだな」
「私の本質はそもそも魔族よ? 下位の相手ならどうってことはないわ」
ルクラリズは敬語が変だと言われてからずっとこの調子だ。
エレイン様が良いというのなら無理に敬語を使う必要もないか。私もいつか……いや、私は一生奉仕すると誓った。馴れ馴れしくお付き合いを続けるなど、もってのほかだ。
「それにしても魔族の様子が変だね」
「どういうことですか?」
「上位の魔族がもっといると想定したのだけど……」
「こっちもそんなやつはいなかったな。少なくとも能力持ちはいなかったと思うぜ」
確かに下位種のような上位種もいないわけではない。
とはいえ、ここにいる魔族は容姿から実力までどれも下位種と変わりなかった。それも今まで戦ってきた魔族よりも弱いと感じるほどだ。エレイン様や小さき盾ほど実力が高くない私でも複数戦で負ける気が全くしなかったからだ。
「っ! アレクさんっ」
すると、ユウナが指を指した。
その方角は西門の方だ。
「あ? なんだあいつ」
「想定以上の実力だ。しかし、何も焦る必要はない。あの方の作戦に不可能はないのだから」
「そこで何してんだ!」
人間のようなシルエットをしているが、明らかに魔の気配を感じる。それもかなり強力だ。上位種で間違いないだろう。
レイは剣を引き抜き、地面へと斬りつける。それと同時に強烈な地震が発生するもあの魔族は空高く飛び上がり、それを躱した。
「飛び上がるのはわかっていたことだよ」
そして、それと同時にアレクが剣を振る。
圧縮された衝撃波が魔族へとまっすぐ向かうが、それすらも器用に体をひねることで躱す。明らかに今までの下位種などと比べ物にならないほどに高い身体能力を持っているようだ。
「ただの雑魚ではねぇってことか?」
「……あのような有象無象と一緒にしないでほしい。まぁ結局の所はどうでもいいことだが」
「一体さっきから何を言って……」
パチンっと魔族が指を鳴らすと地面がまた大きく揺れ動いた。
自然災害であるとすれば、記録的な大地震となりそうな勢いの強烈な揺れが続く。
「これでいいでしょう。あとは時がすべて解決する」
「待てよっ! ふざけてんのかっ!」
「あと、西門の遮断装置も破壊済みです。うまく隠していたようですが、我々からすれば全くの無意味。せいぜい長く生を楽しむことだ」
そう言って人の形をした魔族は西門の多くへと飛び降りた。
「あいつ、何者なんだ?」
「西門は完全に破壊されたみたい、ですね」
「それよりも地震の方が気になる。震源は反対側の方だね」
「ええ、私とリーリアが来た方角のようね」
広場に来たのはどうやら無駄足だったようだ。それよりも私たちが来た方角と言えばまだエレイン様がいたはずだ。
ミリシアも付いているとはいえ、二人では限界がある。幻惑を受けた後ということでかなり疲弊しているはず。
急いで向かわなければいけない。
「とりあえず行くかっ」
「「はいっ」」
私とユウナがなぜか同時に声を出してしまった。
想いは違えど、同じ行動になることはよくあることだ。
それから私たちは急いで震源の方へと向かうことにした。
エレイン様、どうか無事でいてくださいっ。
そう願いながら、私は小さき盾と暗い夜道を走るのであった。
こんにちは、結坂有です。
更新が遅くなってしまいました。
明日は昼頃の更新となります。
戦いが激化してきましたね。
これからの展開はどうなっていくのでしょうか。
それでは次回もお楽しみに……
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