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認知の限界を超える

 それから俺たちは魔族を殲滅し続けていく。

 当然ながら、すべてを片付けることは時間的に不可能だ。そろそろアレクたちも広場へと向かっている頃だろう。


「エレイン様、このまま殲滅を続けましょうか?」

「いや、そろそろ広場の方へと向かわないとな。アレクたちも到着しているはずだ」


 周囲に群がる魔族によって小さき盾の気配は正確に感じ取ることはできないものの、少ない情報で推測することができる。

 戦っていてリーリアやルクラリズは気づいていないようだが、先程地面がほんの少し揺れたのを感じた。魔の力というわけでもないことからおそらくはレイの強烈な一撃か何かだろう。


「わかりました。ですが、ここからだとあの魔族の列を突破しない限りは広場にはたどり着けませんね」


 そういってリーリアが指差した方を見てみるとそこには魔族の列ができていた。魔族が道を塞ぐように列をなしている。ここからだとあの一本道を通る方が最短ルートとなるはずだ。

 もちろん、迂回する事も考えたが、広場でアレクたちを待たせるわけにもいかない。

 ここは少しリスクを取ることにしよう。


「仕方ない。突破するか」

「はいっ」


 俺の背後で援護をしてくれるルクラリズにも視線を向けると彼女も小さくうなずいて了承してくれた。

 下位の魔族だけだとしたら、リーリアもルクラリズも問題なく戦える。

 それほどに彼女たちの実力は高いのだ。


「ふっ」


 俺はその魔族の群れへと聖剣イレイラを使って斬り込む。

 聖剣の能力である”追加”を使って無数の剣閃を生み出し、大量の魔族へと斬りつける。

 剣閃一つの威力は小さいものの、確実に急所を狙って相手の機動力を奪う。人間よりも遥かに高い身体能力を持つ魔族は、その身体機能さえ封じることができればそこまで恐れるような相手ではない。それは下位だろうと上位だろうと関係なくだ。


「グルゥウア!」

「はぁ!」


 隠れていた魔族が右側から襲いかかってくる。

 それをルクラリズが対応して魔族の上半身が吹き飛ぶ。

 魔の力によって吹き飛ばされた魔族の体は聖剣などと同様に回復することはなく、そのまま死んでいく。


「エレイン様、列の動きが……」


 すると、リーリアが攻撃の構えを取りそういった。

 列の奥を見てみると、確かに妙な動きをしている。その奥を目を凝らしてじっくりと見てみると今まで以上の魔族が見えた。ほとんどが下位だが、雪崩のように攻め込んでくる。


「っ!」


 その無数の魔族を見つめていると突如として強烈な頭痛とともに電撃が脳内を駆け巡る。


「エレイン様?」

「……なんでもない。あの魔族の大軍は排除が難しそうだな」


 もちろん、聖剣イレイラの力を最大限活かすことができれば無数の魔族だろうと問題はない。

 とはいえこの頭痛の中、脳に負荷をかけるような技を使うのは逆に危険と言えるだろう。アレクやミリシアには悪いが、ここは一旦引くべきだろうか。


「大軍ですか。数は減っているように見えますけれど……」

「減っているのか?」

「すみませんが、私にはそう見えます」

「私も増えているようには見えないわ。気配を隠しているわけでもなさそうだし……」


 いや、それは妙だ。

 明らかに俺の目の前には無数の魔族が迫っている。それもかなり近い。だが、リーリアやルクラリズの言動を見てみても切迫している様子ではない。

 どういうことだろうか。

 すると、そんな事を考えている間にも複数の魔族が俺へと攻撃を仕掛けてくる。リーリアたちにはそれが見えていないのか動いてくれる気配がない。


「くっ」


 耐え難い頭痛の中、俺はイレイラを後ろへと構える。


「……」


 集中しようと攻め込んでくる魔族に剣を振ろうとするが、何者かに俺の動きを止められる。

 咄嗟にイレイラを手放し、瞬時に背後の敵へと意識を向ける。


「お主……」

「なっ」


 アンドレイアの声をした醜い魔族が俺の両腕を引き止めていた。

 さすがの俺でもこれはおかしいと感じた。どうやら俺の脳は何らかの力によって惑わされているらしい。

 どうやら俺一人でどうにかできる問題ではないようだ。


「リーリアの娘よ。これは幻惑じゃ。自分のなすべきことを頼む」

「幻惑……エレイン様、無礼をお許しくださいっ」


 リーリアの声を最後に目の前の視界が真っ白になった。


   ◆◆◆


 私、リーリアはエレイン様に向けて魔剣の切っ先を向けていた。一時的に彼の精神を乗っ取り、気を失わせたのだ。

 どうやらエレイン様自身も幻惑には気づいたようで私の干渉にも抵抗することなく気を失った。

 幻惑という能力は聖剣でも存在する。

 それらの能力は対象の脳へと多大な負荷をかけて発動するもの、普通の幻惑ではエレイン様は惑わされないが、想像を絶するような負荷がおそらく彼の脳にかかったのだろう。

 そして、力なく倒れ込む彼の体を私は抱き込むようにして地面へと寝かせる。

 ルクラリズはエレイン様が弱らせた魔族の列を殲滅している。あの調子だと私の援護は必要なさそうだ。


「エレイン様、大丈夫でしょうか」

「気にせんで良い。わしがこうしてお前に話せている時点で死んではおらん」


 彼の魔剣に宿っている堕精霊の一人、アンドレイアはそう言いながらイレイラを拾い上げて鞘へと納める。

 とはいえ、どうしてエレイン様だけに幻惑の攻撃を受けたのだろうか。同じく私たちにも幻惑を見せればもっと時間を稼ぐことができたはずだ。


「ですが、エレイン様だけにとは不自然ですね」

「ふむ、我が主の認知能力は人間のそれとは比較にならないほどに高い。それゆえに重点的に狙ったのじゃろう」

「認知能力、ですか」

「お前も気づいておるのじゃろう? 我が主の持つ異常な能力のことは」


 もちろん、その事は知っている。認知能力も人並みよりも優れていることも十分承知しているつもりだ。

 ただ、私の理解できる範囲でしか私は把握できない。彼の限界がどれほどのものなのかは全くの未知数だ。精神干渉している私ですらまだわからない。

 それに対してアンドレイアやクロノスはエレイン様と契約を結んでいる。血の契約はとてつもなく強力で互いの能力を知り合い共有することができるのだ。当然ながら、彼女たちはエレイン様の能力について私よりも深く知っているはずだ。


「もちろん存じておりますが、どれほどの能力なのかは想像できません」

「……まぁ仕方あるまいの。じゃが、話は後じゃ。我が主に変わってわしがあの群れを始末しないといけないの」


 そう言って彼女は魔剣を引き抜くと上位種の魔族のように目を光らせると、魔剣から火花を撒き散らして姿を消した。

 そして、少し遅れて空気が勢いよく吹き荒れるとルクラリズの周囲にいた魔族の群れが爆裂した。


「え!」


 いきなりの光景にルクラリズは困惑しているが、すぐに状況を理解すると私の元へと駆け寄ってきた。


「……あれって、アンドレイアの力?」

「はい。エレイン様の魔剣に宿っている堕精霊の一人でございます」

「あんなのを使役してるって本当にエレインは強いのね」

「強いですが、人間には変わりありません。当然ながら、限界というものも存在するのですよ」


 私がそういうとルクラリズはエレイン様へと視線を落とした。

 人間であるという最大の欠点、それは限界というものが存在するということだ。天界に住まう神とは全く違う。


「そのために私たちがいるのよ。人間って協力し合うことで本領を発揮するのでしょ?」

「そうですね」

「最強だとしても一人だけでは限界があるのなら、みんなで協力すればいいだけ」


 確かにルクラリズの言うとおりだ。

 エレイン様の限界は私たちで支援する。そのために私はメイドになったのだ。

 いつまでもお仕えするだけでは意味がない。

 本当の意味でも私はもっと精進しなければいけないと実感したのであった。

こんにちは、結坂有です。


エレインを狙った攻撃、果たしてエレインはそれを克服することができるのでしょうか。

そして、これからどのような天界になっていくのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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