感覚で戦う理由
レイの攻撃によって大多数の魔族が私たちも周りに集まってきた。
もちろん、作戦としては潜入ということだったがこうなった以上は積極的に戦う方針へと切り替えるべきだ。
それに、潜入と言ってもいつかは限界が来る。その時になって魔族に囲まれたでは今と同じ状況だ。早いか遅いかの違いなのだから気にするだけ無駄と言える。とはいえ、少しは休憩したかったというのは内心に留めておくとしよう。
「ちっ、こいつらどっから来てやがんだっ!」
「パベリを陥落させるのだからそれなりに大規模だと予想していたが、まさかこれほどの規模とはね」
アレクの言うように想定以上の規模で攻め込んでいるのは間違いないようだ。
攻撃を初めて半日で国土の半分を奪った。エルラトラムと比べて狭い領土とはいえ、半分は大きな損害だ。
「ですけど、そこまで強くないですよね? なんでこんなにも……」
そう、私たちだけですでに百体以上は倒している。
まだ三十分も経っていないのにだ。魔族の多くは武装しているが、武器を使い熟せているようにも見えない。先日、エルラトラムに攻め込んできた魔族のほうがよっぽど強いと言える。
もしかすると、魔族の強さというよりかは圧倒的な数で攻め込んでいるということなのだろうか。
それなら私の能力よりもアレクやレイの持つ剣の能力が役に立つはずだが……
「くそっ、なんか暑くねぇか?」
「そりゃ体を動かしてたら暑くはなるわよ」
「ちげぇよ。気温が上がったように感じるんだが?」
「気温?」
そういえば、少し蒸し暑いという感じがする。この時期の夜にしては変だ。
上位の魔族にはとある能力を持ったものが存在するとルクラリズが言っていた。この先にその能力持ちの魔族がいる可能性が高いか。
「今までも不自然な現象はなんどもあったからね。魔族だろうと堕精霊だろうと同じことだよ」
「はいっ。私たちもその敵と戦うための力は持ってますよっ」
「だったら、もっと先に進むかっ」
すると、レイはとてつもない勢いで剣を振り回し始める。
その剣風は空気を轟かし、強烈な衝撃波を生み出す。それらは魔族の群れをなぎ倒していき、追撃にアレクやユウナが殲滅していく。
私は彼らが取り逃した魔族を相手している。大多数を相手にできるような能力でもないため、私にはこの役割がちょうどいい。
そして、私たちは西側の広場へと向かう。
地理情報は壁を乗り越える前に地図を見て頭に叩き込んだ。方角的にもルート的にも合っていることだろう。
それからしばらく魔族を相手に先へと進んでいく。
広場へと辿り着く直前、妙な視線を私たちは感じ取った。
「っ!」
「……下位の魔族がいないわね」
「おまけに妙な気配がするな」
そう、先程から感じていた違和感。夜なのにも関わらず、太陽の熱を感じるようなこの感覚は間違いない。
上位の魔族が近くにいるのだろう。
「隠れてねぇで出てこいよ!」
「我が光に誘われた人間よ。愚かなるその性を恨むがいい」
どこからともなく聞こえてくる重低音なその声は魔族のもので間違いないだろう。
それにしては意味のわからないことをいう。わざわざ声にして出すということはそれなりに意味があると捉えるべきなのだが、あまりにも抽象的な表現に私は首をかしげた。
「なに意味のわからねぇ事を言ってやがるっ! 殺したいならさっさと姿を出せっ」
苛立ちを抑えれないレイはそう見えない魔族へと怒鳴る。
しかし、それでもまだ姿を表す気配がない。
「……我が熱で焼かれろ。愚かな人間どもよ」
すると、周囲の熱が上がり始めたのを感じた。
まるで炎がすぐ真横で燃え上がっているかのようだ。しかし、熱源は見当たらない。燃え上がる炎すら見えないのだ。
「姿が見えない以上、僕たちはただ焼かれるだけみたいだね」
「あ? 雑魚そうな魔族なのにか?」
「あの言葉をそのまま受け取るのだとすれば、どうやら僕たちは本能のままに動いた虫と同じってことだろうね」
「飛んで火に入る夏の虫、ってことかしら?」
つまりは愚直にも真っ直ぐに来た私たちはまんまと魔族の仕掛けた罠にかかったということらしい。
「まぁそういうことだね」
「ど、どうするのですか? このままだと焼かれてしまいますよぉ……」
「熱がなんだか知らねぇが、こういうことだろっ!」
レイはそう言って剣を振り上げると一気に地面へと突き刺した。
そして、地震のように大きく地面が揺れ動く。
「これでどうだっ!」
すると、私たちの背後からある気配を感じた。というか動いたといった方が正確だ。
「そこだね」
「え? どこですかっ」
ユウナは気づいていないようだけど、アレクはその僅かな動きを逃さない。
「はっ」
彼が剣を振ると剣閃が建物の影へと伸びる。
グジュンッ!
肉が千切れるような嫌な音とともに魔族が姿を現した。
「……てめぇかっ!」
「ぐぅう、愚かな人間どもよ。我が光で……」
そういった上位の魔族は腕を天に振り上げる。
微かに空が光ると強烈な熱波が私たちの頭上から降り注ぐ。
「悪いけど、そうはさせないわ」
私の魔剣の能力は”分散”だ。主に力に対して働くその能力だが、もちろん、熱も分散させることができる。
強烈な熱波ではあるものの、火傷しなければただ暑いだけだ。
剣を振り、魔剣の能力を発現させると肌を焼くような熱は引いていく。これなら皮膚がただれることはないだろう。
「レイっ」
「助かるぜっ!」
ズンっと地面を踏み鳴らし、電光石火の如く突進する彼は切っ先で地面をえぐりながら魔族を胴体を斬り上げる。
「に、人間ごときにっ!」
レイの強烈な斬り上げによって巨体を大きくえぐられた魔族はそのまま力なくくずおれた。
「妙な技で誤魔化そうとしても無駄なんだよ」
その言葉はどうも魔族に言ってるのではなく私にも言ってるようなそんな感じがした。
まぁ彼のことだから深い意味はないのかもしれないけれどね。
「……それ、誰に向かっていってるのかしら」
「あ? ミリシアのことじゃねぇよ。こいつに言ってんだ」
「じゃあ私の技は無駄なの?」
「……ミリシアのは本物だろ。妙な技じゃねぇ」
「そう、それならいいのだけど」
私はレイやアレクのように力を持っているわけではない。だからいろんな技を編み出した。もちろん、エレインもいろんな技を持っているが、それは効率よく自分の力を発揮するためだ。
私は技術を使って力の無さを隠している私とは全く違うのだ。
「とりあえずは片付いたようだね。夏の暑さも引いたみたいだ」
「はい……少し肌寒いぐらいですねっ」
ユウナはそう言って自分の肩を擦っている。
目的地はもうすぐだ。
西側の広場にはもうエレインが到着しているのだろうか。そんな期待を胸に私たちは広場の方へと走っていくのであった。
◆◆◆
俺、エレインはリーリア、ルクラリズととともに北側から西側の広場へと向かうことにした。
壁を乗り越えたあたりからすぐに魔族と接敵したものの、それでも強いというわけではないため難なく進むことができた。
リーリアも精神を司る能力を持つ魔剣のおかげもあってか、一対一ではとんでもなく強い。純粋な戦いだとしたら、俺と彼女とは互角にやり合えることだろう。そして、ルクラリズも上位魔族としての高い身体能力に加え、俺が指導した剣術や体術を習得しているために高い実力を持っている。
下位の連中相手なら余裕で一掃できるはずだ。
「……それにしてもエレイン様、魔族があまりにも弱くありませんか?」
「そうだな。武器は持っているが、扱いが雑すぎる。まともに訓練していない証拠だな」
「ゼイガイア陣営ではこんなことはないのにね」
ルクラリズの言うようにゼイガイアがエルラトラムへと侵攻してきたときはもっと強い魔族が大勢いた。上位だけでなく下位もある程度は動けていた。
それと比べてあまりにもこの陣営の魔族は弱すぎる。
「陣営によってこうも考え方が違うのか?」
「それでもあまりにも極端よ。理由はわからないけれど、なにか裏があるとしか思えないわ」
「なるほど」
それから俺たちは二百を超える魔族の群れへと突き走ることにした。
住宅地の少ないこの地区ではあるものの、それでも魔族の待機場として多くの下位種が集まっているようだ。
小さき盾の方はまっすぐ突破する作戦を取ることになるはずだ。あのレイが大人しく潜入をするはずがないからな。
俺たちはあとのことを考えて、多めに魔族を蹴散らしてから目的の広場へと向かうべきだろう。
こんにちは、結坂有です。
戦闘も盛り上がってきましたね。
ミリシア率いる小さき盾は部隊単体でも十分に戦えそうですね。
とはいえ、彼ら小さき盾の人数は多くありません。多方面からの攻撃をすべて守ることはできません。
これからの展開が楽しみですね。
それでは次回もお楽しみに……
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