小さな光を見つめて
私、セシルは議会へと向かった。
日が沈み、夜になった頃に小さき盾とフィレスがある報告をしに家に来た。アレイシアは議会での緊急会議で家に帰ってこれなかったが、パベリの援助をするために聖騎士団や小さき盾を派遣することを許可したらしい。
エルラトラムとほとんど隣接している国ということでパベリは重要な場所となっている。もし、パベリが失われてしまったらエルラトラムは完全に孤立してしまう。そうなってしまったらこの国の維持が難しくなるのは言うまでもない。
それから急いで議会へと向かうと、慌ただしく職員の人たちが動いていた。
夜ということで人手の数が少ない状況らしく、仕方のないことだろう。
「……セシル」
議会の中に入ってしばらくすると後ろから話しかけられた。
「ナリア、議会にいたのね」
「ええ、まだ聖剣を持っていないわけだから。それより、セシルはパベリに行かなかったの?」
「まだ自分の中でも受け切れているわけではないからね。自分の力にも状態にも不安しかないわ」
もちろん、私もパべりの支援には向かいたかった。それでも不安が残る状態では戦うことは避けたほうがいいとアレクに言われたためにこうして議会の警備に向かうことにした。
最前線に向かうには覚悟が必要だ。以前の私ならある程度覚悟が持てたのかもしれないけれど、今の私には雑念が多すぎると自覚している。
「そう……」
「でも、議会の警備は協力するわ。全く動けないわけでもないからね」
「じゃ私と一緒に行動してほしい」
「わかったわ」
ナリアはそれなりに長い間ここの警備をしている。彼女の手伝いなら私でもできるだろう。私も剣士としては実力がある方だと思っている。それに彼女の持っていない聖剣を私は持っている。何もできないということはないはずだ。
「アレイシア議長は緊急会議で話すことはできないけれど、ユレイナなら議長室にいると思うわ」
「話は通しておくべきね」
慌ただしい廊下を抜けて、私たちは議長室へと向かっていく。
階段を上がり、先程の事務室の近くのように騒がしくはない物静かなフロアへと入る。そして、一本道の廊下を歩くと議長室がある。
その扉をノックして中へと入る。
「……セシルさん、丁度いいところに来ました」
扉を開けるとすぐに資料を持ったユレイナがそう話しかけてきた。
「え?」
「小さき盾のみなさんがパベリへと向かったのはご存知ですね?」
「エレインたちと一緒に……」
「ですが、この国もどうやら狙われているようです。おそらく魔族側はパベリを陥落させると同時にエリラトラムにも攻撃を仕掛けようとしています」
魔族の狙いが全くわからないが、ユレイナがそう資料を見ながら言っているということはどうやら事実なようだ。ミリシアの言っていた話では魔族は私たちの地理的な孤立を狙っているとのことだが、それ以外にもなにかあるのだろうか。
今のところ限られた情報しかないため、これ以上の推測は意味がないか。
「ということは、防壁付近の防衛をしないといけないのね」
「そういうことになります。大規模な攻撃から数日ですが、手伝っていただけるでしょうか」
「もちろんよ。そのためにここに来たのだからね」
「助かります。では、アレイシア様には私からお伝えしますので、すぐに任務へと向かってください」
そういって彼女は手に持っていた資料を私に渡した。
軽く資料に目を通してみるとどうやら先日攻撃のあった西側の門が狙われているようだ。防壁の外にいくつかある拠点は一旦手放すとして、防壁での戦いに重点を置くことが資料に書かれている。
確かにエレインとともに拠点の防衛を手伝ったことがあるが、人手不足の現状であのようないくつもある拠点をすべて守れない。必然的に一箇所を重点的に防衛するべきだ。
「ナリア、魔族の攻撃があるみたいだけど……」
「魔族を倒すことはできなくとも足止めぐらいならできる。その間にセシルにとどめを刺してくれれば問題ないわ」
「じゃ一緒に協力して戦いましょうか。私もまだこの力に慣れていないわけだから」
そう、私には魔の力がある。
確かに強力な能力なのだが、それが一体どれほどのものなのか、果たして私にそれが使いこなせるのかは未知数だ。
それでも何もしないよりかは動いた方がいい。
改めて自分の戦う意味を頭で復唱した私は西側の門へとナリアとともに走ったのであった。
◆◆◆
私、ミーナは議会からの要請で西側の防壁へと向かっていた。
もともと私は学院寮で寝泊まりしていた。魔族の攻撃によって学院としてほとんど機能していないとはいえ、日々の訓練ができないほどではない。もちろん、私以外にも人類のために魔族と戦いたいと思っている人は多い。
私のパートナーであるフィンは父に憧れて聖剣使いになったと言っていた。私は彼の言う憧れとは少し違うものの、それでも父の影響で聖剣使いになったという点では同じと言える。
最弱と言われた父の名誉を挽回すると言った私の願いは不純なのだろうか。それでも私は進み続ける。
私の父が残してくれた剣術を守り続けるためにも。
「ミーナ、魔族の気配は?」
そんな事を考えているとフィンがそう話しかけてきた。
彼も要請があってこの門に来た。もちろん、私とは違う場所を担当していたのだが、様子でも見に来たのだろうか。
「さっきと変わりないわ」
「そうか。あいつら、一体何を考えてんだ?」
「攻撃するタイミングを狙っているのかもしれないわね」
ここに集まっている兵士に話を聞いたのだけれど、ここを警備して門の近くまで魔族が集まったのは初めてだそうだ。それに普通であれば、魔族があのように前線を作って待機することもなかったらしい。
もちろん、そのような戦略的な動きをするということは学院の授業でもなかった。
よくよく考えてみれば、学院を狙った魔族の攻撃も不自然なところはあった。あの時の魔族は学院だけを狙った攻撃をしていた。そのため市民への被害はほとんどなかったと聞いている。
近年になって魔族の攻撃傾向が変わりつつあるのだろうか。
「あいつら、こっちが攻撃してこねぇってわかってるみたいだな」
「……そうね。松明を持って堂々としているものね」
真っ暗な夜にどうして前線を張っているのかわかるのかというと、彼らはわかりやすくも松明を持って並んでいるからだ。
「ちっ、命令があれば真っ先に突撃してやるのによっ」
「仕方ないわ。エルラトラムとしては門さえ突破されなければいいわけだからね」
それに無理して前線に攻撃するとかえって危険になる。パベリが攻撃され、それの支援に人手を割いている以上は持久に徹する方がいいだろう。強力な四大騎士の力も今は先日の戦いで衰弱している。
被害を出さないことを第一に考えて行動するしかないのだ。
「くそっ、あいつら何を考えてやがるんだ?」
「パベリの攻撃、多大な被害を出したとの報告だけど、あの前線にいる魔族も相当数いるわよね。不自然だと思わない?」
「あ? わかんねぇよ。俺、頭が悪いからな」
確かにフィンは学院のときも座学はほとんど寝ていたように記憶している。彼の性格から考えて座学などは苦手なのだろう。
それでも剣術の歴史に関してはまじめに授業を受けていたように思える。戦いに直結するようなことであれば貪欲になるようだ。
「……そう、でも、この戦いは無意味なものになりそうだわ」
遠くで不気味に揺れる松明の炎を見ながら、私はそうつぶやいた。
こんにちは、結坂有です。
夜遅くになってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
これから本格的な戦いに突入していく予定です。
果たしてどのような戦いになるのでしょう。そして、ミーナの感じた直感はどういう意味なのか……
それでは次回もお楽しみに……
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