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開かれた門

 俺、エレインはルクラリズとともに家へと戻ることにした。

 玄関の扉を開くとそこにはカインが立っていた。表情からして出迎えてくれたわけではなさそうだ。


「どうかしたのか?」

「エレイン、ルカが起き上がってすぐにどこかに行ってしまったの」


 すると、そう言って彼女は深刻そうな表情でそういった。それにカインがそんな状態のルカを外に向かわせるわけがない。

 おそらくは少し目を離した瞬間に逃げ出したのだろう。

 カインも武術をある程度習得している。ということは走ったに違いない。


「そうか。怪我はまだ治っていなかったな」

「ええ、あの状態だとまともに戦えないわ」


 かなり失血していたようだからな。走るというだけでも体に大きな負荷がかかっていたに違いない。貧血で倒れていないといいが、それよりもどこに向かおうとしたのかが気になるところだ。


「向かった場所に関してはわかりそうか?」

「わかってたら私も追いかけたわ。でも全く検討がつかないからこうしてエレインたちを待ってたの」

「なるほど、確かに二人ともいなくなっては俺も何があったのかわからないでいたからな」


 どうやら俺たちに情報を伝えるためにもこうしてカインが待っていてくれたようだ。とはいっても書き置きでも残してくれたらそこから俺たちも動くことは出来たのだが、そんなことは今咎めたところで意味はないか。

 どちらにしろ、良い判断をしたのには間違いないのだからな。


「ハーエルって人は議会に向かったと言っていたけれど、あれから結構時間がたったわね」


 すると、ルクラリズがそう俺に聞いてきた。


「そうだな。だが、ハーエルと合流したとは考えられないな」

「どうして?」

「理由としてはいくつもあるが、ルカのことだ。一人で解決しようと奮闘するはずだ」


 となれば答えはザエラを探しに向かったと考えるほうがいい。

 まぁさすがの彼女も自分の状態を把握できないほど頭が悪いわけではない。勝機のない戦いは挑まないだろう。しかし、それでも何をするかは本人次第で予測は不可能に近い。

 彼女がどこにいるのかだけでもはっきりさせたいところだ。


「……だとしたら、すぐに探さないといけないね」

「ああ、カインはここでリーリアたちが返ってくるのを待ってほしい」

「リーリア?」

「報告のために俺たちとは別で議会に向かった」

「わかったわ。ここで待ってるね」


 その返事を背に俺とルクラリズは家を飛び出した。

 情報が全くないとはいえ、ルカの取れる選択肢は限られている。

 一つ一つ確認していけばいずれ彼女を見つけることができるだろう。

 まずは四大騎士の人に聞くべきだ。ここから近いのはマフィ・ウィンザーだろう。剣術学院に四大騎士としての権力を使ってルカとともに侵入していた。

 今はしっかりと仕事を行うようにしているらしい。

 とりあえずは彼女の家に向かうことにしよう。


 それからしばらく走り、マフィの家へと到着した。

 それなりに立派な門があり、それをノックする。そして、中から門番らしき人が出てくる。


「……なんのようだ」


 四大騎士の屋敷は門下生たちが数人いるようでその人たちが屋敷の管理をしている。


「エレイン・フラドレッドだ。マフィは中にいるのか?」

「剣聖と言われた男か。だが、今は接客中だ。日を改めて……」

「この気配、いるわよ」


 すると、ルクラリズがそういってルカの気配を察知した。

 俺よりも気配に敏感な彼女なら多少離れていたとてすぐに気づくだろう。それに今朝目にしたばかりだしな。


「その客人を呼び戻しに来ただけだ。入らせてもらう」

「……それはできない。そう指示があるのだ」


 まぁ四大騎士同士の話し合いともなれば、誰かが来て干渉しないよう指示するのは当然と言えるか。しかし、俺は全くの部外者でもない。

 少しぐらいは干渉したとて問題はないはずだ。


「なら、無理やり入るだけだな」

「なっ、貴様っ」


 俺は門を押し込んで無理やり中へ入ろうとする。

 向こうは三人がかりで門を閉じようとしているが、力の使い方がまだ未熟なのか一人である俺に力負けしている。


「お、応援を呼べっ」

「ですが、相手は二人で……」

「誰も中に入れるなと命令を受けたではないかっ」


 門越しに慌ただしい話し声が聞こえてくる。別に攻撃しようとしているわけではないのだがな。


「くっ、抜刀の準備をっ!」


 一人分の通り抜けれるほどに門を開くとそこから俺とルクラリズが中に侵入することにした。

 こうしてマフィの屋敷に来るのは初めてだな。

 彼女らしい広い屋敷は疾風の能力を使えるような場所となっている。そして、門を開いてすぐのこの広場は門下生たちが日々訓練している場所でもあるのだろう。


「動くなっ。これ以上の侵入は許さんっ」

「俺に攻撃の意思はない。それにマフィとは知り合いだ」

「知り合いだろうが剣聖だろうが関係ない。四大騎士でもない貴様が入れる場所ではないっ」


 確かエルラトラムでは四大騎士と剣聖は同格として扱われるはずだったが、どうやらこの門下生たちはマフィにかなり心酔してしまっているらしい。

 そのことに関してはルカのメイドを見てみても同じようなものだったか。


「……ルクラリズ、少し離れていたほうがいい」

「え?」

「彼らは全力攻撃してくるらしいからな。自分の安全だけを考えてくれ」


 まぁ門の中に入った以上、危険なことには変わりないのだがな。


「くっ……いくら剣聖だろうと、十人を同時に相手などできるはずがないっ」

「そうか。やってみるか?」

「正気なのか?」

「やらないのなら、このまま進むだけだが」


 俺がそう言うと門下生たちが少し動揺するが、剣を強く握り込むと姿勢を正して攻撃態勢に入る。


「か、覚悟っ!」


 そういった直後、息を合わしたように攻撃を仕掛けてきた。

 急な状況ということで十人全員がうまく連携できているというわけではないが、咄嗟にしては十分な出来だ。厳しい訓練をしてきたというのが彼らの動きから見て取れる。


「ふっ」


 俺は剣を引き抜くことはせず、体術のみでそれらの剣撃を躱していく。

 別に難しいわけではない。十人程度の動きならすべて把握できるからな。わかりきった攻撃ほど避けるのは容易い。

 良くも悪くも彼らの動きは教科書通りだからだ。


「どうしてっ」

「止めることが出来ないのか?」

「このっ! 能力を使えっ」


 一人がそういったと同時に周囲の空気が一変する。

 聖剣の能力を使って俺の歩みを止めようと考えているようだ。しかし、能力を使ったとて戦況が大きく変わるわけでもない。結局のところ、攻撃が通らないでは意味がないのだからな。


「はあっ!」


 一人の男が風を剣に纏い、俺へと攻撃を仕掛けてきた。

 先程の攻撃よりも素早く、強力ではあるもののそれだけでは意味がない。


「ふっ」


 体を瞬時に回転させ、それらの斬撃を寸前で避けきる。

 マフィの大聖剣のように問答無用に風が襲いかかってくるわけでもないからな。大聖剣でもない彼ら門下生の攻撃なら苦労することはない。


「バカなっ!」

「……何してるの」


 と、小さくつぶやく冷たい声が聞こえた。


「マフィ様っ。侵入者がっ!」

「侵入者……剣聖が侵入者……?」

「っ!」


 怒りを含んだその言い方に門下生たちは一斉に動きを止めた。


「マフィ、ルカがここにいるのか?」

「……うん。こっちに来て」


 そう言って彼女は少ない言葉で案内を始めた。

 無口な彼女ではあるが、戦闘の際は少しばかり口数が増えるのが特徴的だ。根っからの戦闘狂であるハーエルほどとは違うが、戦いが好きなのだそうだ。

 それから案内された場所に向かうとそこにはルカがぐったりと椅子に座っていた。

 かなり無理してここまで来たというのがよく分かる。


「エレインか。まさか追ってくるとはな」

「単騎で戦えるほど回復しているわけでもない。それなら誰かのところに向かうだろうと思ってな」

「それで、あそこから近いここに来たということか」

「まぁそういったところだな」


 俺の読みが外れて、ルカがもし単騎でザエラに戦いを挑んでいたとしたら状況はもっと深刻だったことだろう。

 そうだったとしたら、魔剣を使って別の解決策を取らざるを得なかったな。


「ルカから聞いた。ザエラが戻ってきたって」

「それを伝えるために?」

「ハーエルのやつが何も言わずに議会に突っ走って行ったからな。それにエレインも急にどこかに行ったときた。それなら自分が動くしかなかろう」


 ルカが自分の行動が正しかったと言いたげにそういった。

 言い分としては筋は通っているものの、カインを使えば全て解決したと思うのだがな。ここまで無理をする必要など一つもなかった。


「……でも、ルカが来てよかったと思う。多分、あの人たちが通さないと思うから」

「お前も見ただろう。ここの門下生は随分と用心深いからな」

「まぁ確かにそうか」


 カインは剣聖という称号もなければ、有名というわけでもないからな。そんな人が急に来たとしても彼らが通すとは思えないか。


「だが、謝罪をするべきではあるか。悪かったな。エレイン」


 すると、そう言ってルカは小さく頭を下げて謝罪をしたのであった。

 そのとき、俺はなにかとんでもなく嫌な予感がした。


   ◆◆◆


「門がっ! 門が打ち破られてっ!」

「一体何が起きてるんだっ」

「こ、こんなはずでは……」

「市民の避難を優先しろっ」


 人々は混乱に満ちていた。

 どこからか漂ってくる砂塵が視界を奪い、天から降り注ぐ強烈な熱波に肌がジリジリと焼かれていく。

 それによって、広場にいる人々は痛みという感覚が麻痺していた。

 温もりに酔いしれ、焼かれながらも天を仰ぐ者、肌に纏う砂塵を振り払おうと掻き毟る者。血塗れの自分たちがこれからどうなるのかすら想像できずに。


「急過ぎるっ! あまりにも急過ぎるっ」

「隠れていたのか? この中にっ」

「そんな事がありえるわけ……」


 最後まで奮闘していた兵士たちの声を最後に耳をつんざくような金属音が響き渡る。そして、沈黙だけが広場に残ったのであった。

こんにちは、結坂有です。


夕方の更新となってしまいましたが、明日は午前中の更新となります。(おそらくは十時頃に……)


そして、急激に変化していく物語。

これからどのような展開が待ち受けているのでしょうか。気になりますね。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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