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力の支配権

 私、リーリアはセシルとともに議会へと向かっていた。

 エレイン様は先にルクラリズさんと一緒に家へと帰った。彼女のことを疑っているわけでもないが、完全に信頼しているわけでもない。メイドとして、一人の人間として接してはいるもののそれでも魔族という片鱗が見え隠れしているのは深く観察すればわかることだ。

 魔族特有の気配もうまく隠されているとはいえ、まだ人間だとは言い切れないのが現状だ。

 ただ、そんなことを考えたところで何かが変わるわけでもない。エレイン様のことを信じて自分は自分の仕事をするべきだ。


「セシルさん、先ほどの魔族は気配をかなり隠していたように思えます。どうしてお気づきになられたのですか?」


 自分の不安を紛らわすように私はセシルにそう話をすることにした。


「……それがわからないのよ。背筋をなぞられたみたいな嫌な予感がしただけで」

「今までそのようなことはなかったのですか?」

「まぁそうね。初めての感覚だったわ」


 魔族化してしまったセシルは人間の心を徐々に取り戻しつつある。そんな中で起きた今回の事件は彼女に変化を与えたのだろうか。

 人が大きなショックを受けた時、なんらかの能力に目覚めることがあるという話を聞いたことがある。

 もしかすると、魔族化したという絶大なショックがセシルに影響し始めているのだろうか。今まで見えていなかったなにかが目覚ているのは間違いない。


「そうなのですね」

「私、自分の力が怖いのよ。自分が人間だと信じたいのだけど、魔族に作り変えられそうになったのは事実で……」

「今は自分のことをどう思っていますか?」

「……それは、人間だと思ってるわ」


 すると、彼女は顔を上げてまっすぐな瞳でそういった。その心があるのなら彼女は人間なのだろう。


「それでしたら人間です。誰も自分のことを魔族と思って生きている人間はいませんし、人間と思っている魔族もいませんから」

「確かにそうだけど」


 それでもまだなにか不安があるらしい。心の問題ではなく、自分の能力について不安に思っているのだろうか。その点に関しては私はなんとも言えない。

 とはいえ、彼女が人間であるのには変わりない。体も心も人間なのだから、何も不安に思う必要はない。持っている力が人間を超えているというのなら私も同じようなものだ。魔剣使いも人間の力を超えているのだから。


「どのような能力を持っていようと人間は人間です。聴覚に優れた人も視力の優れた人もいます。それぞれに異なった能力があるのですから、自分を誇りに思うべきですよ」

「私のは問題ないの?」

「小さき盾の中にレイというお方がいます。彼は魔族のような身体能力を持っておられます。セシルさんだけが特別だということはないのですよ」

「……ありがと、リーリアの言うようにそうなのかもね」


 彼女の中の不安は少し取り除けたようで先ほどまでの硬い表情が緩んだ。

 それからしばらくすると、私たちは議会へとたどり着いた。

 聖騎士団の馬を使えばもっと早くここに来れたのだが、聖騎士団ではない私たちが貴重な馬を自由に使えるわけではないので仕方ない。


「あっ、リーリアさんっ」


 すると、正門で警備をしていたユウナが話しかけてきた。しかし、いつも一緒にいるナリアが見当たらない。今日はそれぞれ違う場所で警備をしているのだろうか。


「ユウナさん、議会に入ってもよろしいでしょうか」

「大丈夫ですよ。何かあったのですか?」

「西側の門で魔族の攻撃があったので、その報告です」

「わかりましたっ」


 私がそう言うとユウナは手慣れた手付きで要件をノートに書き記すと門を開いた。

 警備の仕事はもう慣れてきたのだろう。小さき盾として実力を持っている彼女が議会を守っているのはとても心強いことだ。


「西側の門が攻撃を受けたのは初めてだそうですよ?」

「そうなのですか?」

「はいっ、ミリシアさんと以前調べたことがあって」

「変よね」


 するとセシルがそうつぶやくように言った。ユウナの言葉に私と同じく疑問を覚えたらしい。

 確かに今まで初めてだということはおかしな話だ。

 言われてみれば西側の門だけ古くからあるものを使っている。それは攻撃などを受けて破壊されたことがないからなのだろう。だとしたら、どうして今まで攻撃がなかったのか。

 そして、どうして今攻撃されたのだろうか。


「ユウナさん。貴重な情報ありがとうございました」

「いえいえ、なにかの役に立てたのなら光栄ですっ」


 そう言って正しい所作で敬礼をした彼女は踵を返して詰め所へと戻っていった。

 いろいろと違和感を覚える今回の攻撃ではあるものの、ここで考えたところでなにも解決しない。私はそのまま議会の中を進んでいき、議長室へと向かった。

 扉をノックして部屋に入るとそこには小さき盾の三人も一緒にいた。


「報告したいことがあってここに来ました」


 それから西側の門で起きたことを詳細に報告すると、議長であるアレイシアは小さくため息をついた。


「……次から次へと問題が出てくるのね」

「仕方ありません。小規模の魔族の攻撃はよくあることですから」

「でも、今回は人間の皮をかぶっていたのでしょ? それに門を突破されそうになっていたみたいだし」


 ユレイナの言うように小規模の攻撃なら何回も起きていることだ。しかし、人の皮をかぶって擬態した魔族が侵入しようとしてきたなんて聞いたことがない。

 先の侵攻も地下連絡通路を利用して攻め込んできた。魔族の攻撃も多様化してきたということらしい。


「魔族だろうがなんだろうが、ぶっ叩けば解決するだろ」

「……そうはいかないわ。魔の気配をうまく隠していたみたいだし」

「うん。紫の煙というのも気になるところだね」

「どちらにしても防衛の強化が必要なのは間違いないわね。議長として私もいろいろと手を回してみる」


 今後の事を考え、防衛を強くするのは当面の課題となりそうだ。


「ええ、助かるわ。それにしてもハーエルの言ってたザエラってのも不自然ね。同じ日にこのような事件が起きるって変だわ」

「裏で繋がってるのかもな」

「私たちも急いで調査に向かったほうがいいわね」


 ミリシアがそういうと小さき盾の三人は議長室を後にした。

 小さき盾もこの国のためにいろいろと動いてくれている。エレイン様と同様に彼らも英雄なのだろう。私も彼らに釣り合うような存在にならなければいけない。それはどうやら私の横にいるセシルも同じように思っているはずだ。

 ただ、エレイン様の側にい続けたいだけでは意味がないのだから。


「……ところで、セシル。調子はどうなの?」

「え?」

「魔族と戦ったのでしょ? 聖剣から拒絶されたりとかなかった?」

「それはなかったわ。でも……」


 そこまで言ってセシルは俯いた。

 先ほど言っていた不安がまた過ったのだろう。


「でも?」

「なんでもないわ。私自身の問題だから」

「そう、それならいいのだけど……」


 すると、アレイシアは私の方へと視線を向けた。

 本当に大丈夫なのかと確認を取ろうとしているのだろう。私は大丈夫だと視線で訴えると彼女はリラックスするように背もたれにもたれかかった。


「まぁ自分でも割り切れないなにかがあるのなら誰かに相談した方がいいわ。私でもいいし、もっと信頼できる人がいるのならその人でもいいし……。って言ってもエレインが一番いいのかもしれないけれど」

「できれば、相談するわ」

「私からは一つだけ、自分のことを信じ続けるのよ。その信念だけが自分の力を肯定してるんだから」

「……ありがとう」


 そういったセシルは大きく頭を下げた。

 私もその言葉を聞いたことがある。

『信じることこそが自分の力を肯定し、そして支配する』

 その言葉を言った聖騎士団のとある人は皮肉にも自分を信じることが出来ずに……。今はそんなことはどうでもいい。

 大切なのはその言葉がセシルの心を大きく成長させたことだろう。


「では、私たちは家に帰ります。エレイン様を待たせてしまっているので」

「そうね。私たちもいろいろ手配しておくわ。なるべくエレインに迷惑はかけたくないし」

「……エレイン様はアレイシア様に迷惑をかけたくないそうですが?」

「いいのよ。私の勝手だからね」


 そう言って彼女は書類の方へと手を伸ばした。

 これから議長としての仕事を始めるようだ。それを背に私とセシルは議長室を後にしたのであった。

こんにちは、結坂有です。


聖騎士団の言葉はセシルの心を大きく動かすことができたのでしょうか。

それにしても、とある人物とは一体誰なのでしょう。


それでは次回もお楽しみに……



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