隠された力
俺、エレインは家で待機していた。
ルカはカインに任せている。深くまで傷が広がっていたもののすぐに治療を開始したため命に別状はないようだ。
ただ、それよりもザエラがまだ生きていたということに驚きだ。
死んだという報告は聞いていたが、実際に死体を確認したわけでもないからな。ブラドが殺しそびれたという可能性はないと考えて、一度死んだザエラがなんらかの方法で魔族として生き返ったと考えたほうが自然だろうか。
事実、ヴェルガーにてそれに近い事例を見たばかりだからな。
「エレイン、また考え事?」
すると、俺の斜め横に座っているセシルが話しかけてきた。
「……すまない。何か話していたか?」
「何も話してないけれど、いつも一人で悩んでる」
「別に悩んでいるわけではないのだがな」
「悩んでなくてもよ」
そう言って彼女は俺の顔を覗き込んでくる。
確かに彼女の言うように俺は一人で考える事が多い。しかし、だからといって悩んでいるかと言われればそういうわけでもない。
うまく解決できる方法はないかと考えているだけであって悩みというほど深刻に考えていないのだ。
「まぁ深いことも考えていない」
「それでも他人に話してみるのはどうなの? 私だって少しは頼りになれると思うのだけど」
そう言ってセシルは自分の胸に手を置いた。
人に話して解決する場合もあるが、今回の場合はそれだけでは解決できないことだろう。彼女はまだ自分の力について知らないことも多い。
それに強力な力をうまく活用できるほどの実力はまだ持っていない。そのあたりはルクラリズも含めて魔の力の制御を訓練していく必要がある。まぁそういう俺も魔の力について理解できていないところが多いのだがな。
「頼りにはしているが、セシルはまだ訓練途中だ。まだ魔の力の制御もできていないのなら尚更だな」
「……それはそうだけど、すぐにでも強くなってみせるわよ」
「その前にミリシアやアレクが解決するかもな」
彼らならザエラを倒すぐらいは簡単にやってのけるだろう。
しかし、彼を倒すだけでは不十分だ。
死んでもまた蘇るのだとしたら、その根本を破壊しない限りは永遠に同じことが繰り返されるだけだ。
ザエラの死体を厳重に管理したとしてもまた別の人間が利用されるだけだ。彼を利用しているのはおそらく魔族、その元凶を断つことが難しいと言えるだろう。
「あ、あのエレイン様」
そんな事を話しているとルクラリズがリビングへと入ってきた。
俺とリーリアがアレイシアたちを見送った時には食器を片付けていたらしい。リーリアからメイドとしての仕事がこなせるようしっかりと指導を受けているそうだ。
ただ、まだ慣れない家事に苦労しているのは言うまでもないだろう。
「どうかしたのか?」
「食器を片付けている時、急に騒がしくなったのですが、大丈夫だったのでしょうか」
「ああ、少し事情があっただけだ」
「……事情、ですか」
そう言ってルクラリズが俺の横の席へと座る。
慣れない所作だが、美しく振る舞おうとしているのは見て取れる。リーリアの動きを思い返しながら、動いているのがわかる。
体術などはかなりの実力を持っているようで、体の動かし方に関しては普通の人間よりもできている。ただ、行儀のよい滑らかな動作を習得するには時間はまだかかりそうだ。動きは覚えれたとしても常にそれができるわけではないからな。
「四大騎士の一人が重傷を負ってしまったみたいでな。ここのカインに治療してもらっているところだ」
「大丈夫、だったのですか?」
「ああ、傷は癒えたとはいえ、完治したというわけでもない。しばらくは安静にしないといけないな」
出血量から考えてもかなり衰弱しているのは間違いないだろう。それに先日の戦いで力を消費したばかりだ。ルカの体は限界に達しているはずだ。
人の生命力と引き換えに強力な力を引き出す四大騎士の聖剣はこの国にとっての諸刃の剣、むやみやたらに使うべきではない。とはいえ、彼らの力が必要となるのは仕方のないことなのかもしれないのだがな。
「……そうですか。四大騎士は先日の戦いでしばらくの休養が必要と言っていましたが、また危険が迫っているのでしょうか」
「わからないな。四大騎士は使わない方向になるのは間違いない。必要なのは俺や小さき盾と言った都合のいい存在が動くべきだろうな」
「都合のいいって……」
セシルはその言葉を聞いた途端に俺から視線をそらした。
彼女も彼女なりになにか思うところがあるのだろう。しかし、それは仕方のないことだと俺は思っている。
この国を守るためには誰かが動かなければいけない。そのためなら俺はどんなことでも協力する。俺の存在する理由は”人類を守るために死地に残る”ことだからな。
「セシルさん、エレイン様はそれを覚悟しているのですよ」
すると、奥からリーリアが戻ってきた。
ルクラリズの片付けがしっかり出来ているか確認していたらしい。
「でも、それって……」
「別にそれでもいい。俺の価値なんてものは戦うことだけだからな」
人類が生存するうえで戦うことだけがすべてではない。自然という弱肉強食の世界ではそれだけでも十分な能力なのかもしれないが、人間社会という中ではあまり重要視されていない。
戦うことだけ、それだけが俺のできることなのだからな。
「そうじゃないのに……」
「ところで、ルクラリズさん」
「は、はい」
少し驚いたのか急に姿勢を正してルクラリズがリーリアの方を向いた。
「食器に水滴が少し付いていました」
「残って……すみませんでした」
「ですが、汚れは一切ありませんでしたよ。湿気はカビの原因になります。次からはしっかりと拭いてくださいね」
「わかりましたっ」
本当に師匠と弟子の関係のように見えてきた。
まぁルクラリズもそれを望んでいるようだからな。ゆっくりと仕事を覚えていく方がいいだろう。
「……待って」
リーリアも椅子に座ろうとした途端、セシルが急に声を上げた。
「どうした?」
「魔族の気配がするわ」
「私はまだ感じてないですけど」
「どのあたりからだ?」
「わからない。でも、国内に侵入してきたのはわかった」
どういうことだろうか。
エルラトラムは広大な土地を持っている。ルクラリズもその全てに気配を巡らせることなんて不可能だ。空間系を司る一部の精霊ぐらいしかできない。
しかし、それでもセシルには察知できたということだろうか。
「もともと、魔の気配は漂っていたけれど、急に強くなったのよ。何者かが侵入したのは間違いないわ」
「なるほど、なら行くか」
「わかりました。私たちも準備をします」
すると、リーリアはそう言ってルクラリズと一緒にメイドの待機部屋へと向かった。
それにしても急だ。ザエラと言い、魔族の侵入と言い、状況が急激に変化してきている。
先の戦いで消耗したと踏んだ別の魔族軍が攻め込んできたと考えるのが普通だが、どうも俺には別の思惑があると考えている。
どちらにしろ、魔族を倒すことには変わりない。
幸いにも俺にはまだ戦う力があるのだからな。
こんにちは、結坂有です。
日付が変わってしまいましたが、次回は朝に更新できますのでお楽しみに。
刻一刻と変化していく状況ですが、これからどのようになっていくのでしょうか。
そして、セシルやエレインの隠された力とはなんなのでしょうか。気になることばかりですが、今後も応援してくださると嬉しいです。
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