力を蓄える時
私、ミリシアは議会でレイとアレクとで書類の処理をしていた。
今朝はアレイシアよりも早く外に出て議会に来ていた。今はもう彼女は議会に来ている頃だろうけれど。
それより必要のない書類はこの前に片付けたのだが、それでもここ議会では毎日のように書類が溜まっていくものだ。ここに集まる書類の多くは私たち小さき盾が調査を依頼していた物で目を通して置く必要があるものだ。
ほんの小さいものであっても不審な動きは察知しておく必要があるからだ。また魔族がどのような作戦を実行してくるかわからない。
「……国外から色んな人が出入りしているようだけど、その人たちすべての出どころを調べるのは不可能ね」
「そうだね」
「へっ、少しぐらい脅し文句でも言って様子を見れば分かるものじゃねぇか?」
実力のない人であれば間違いなくそれであぶり出すことは可能だろう。しかし、悪いことをしてると自覚のない人間、もしくは騙すことになれた人間であればそうはいかない。
すべての人間が賢いわけでもないため、利用される可能性だってあるはずだ。
実際、魔族と戦ったことのある人ですら魔の気配を察知できずに利用されてしまう聖剣使いがいる。自分のやっていることが正義だと信じた人であれば、脅し文句の一つや二つで揺らぐことはないだろう。
「すべての人間が同じ考えを持っているわけでもないからね」
「うん。言葉で解決できるのならどれだけ簡単か……」
話しただけで人の心が理解できたら、私の中にあるエレインへのモヤついた気持ちも少しは晴れるのにな。
「とりあえずは、今すぐに行動するようなことはなさそうだな」
「ええ、不審な動きはあるものの、議会の危険になるようなことはないわ」
「アレイシアに報告か?」
「そうね。異常がない今だからこそ、できることが多いからね。特に兵力の増強とか」
この国の魔族に対する防衛力は度重なる攻撃によってかなり脆弱になりつつある。今は聖騎士団がある程度戻ってきているから維持できているものの、また大規模な攻撃があればどうなるのかは未知数だ。
特にエルラトラムの地下に張り巡らされている連絡通路なるものもすべて管理できていない。
ともあれ、何も行動しないのでは無意味だ。小さいことであってもできることを一つ一つ実行していくことこそが大切だ。
「それじゃ、行こうか」
アレクが書類をまとめて立ち上がる。
それから私たちは書庫に立ち寄ってから議長室へと向かうことにした。
「……嫌な予感がする」
議長室へと向かう途中、アレクがそう言った。
「あ? どういうことだ」
「信じられない速度で何者かが……っ!」
すると、彼は急に振り返って聖剣を引き抜いた。
私もそれを見て振り返ると廊下の奥からバチバチと静電気が強く走るような音を立てて、光が迫ってきた。
どうやらその光は私たちの向かおうとしている議長室を目指しているようだ。
「させねぇよっ!」
レイが魔剣を引き抜いて力いっぱいに空を斬る。その衝撃波が廊下の空気を轟かし、雷の動きを喰い止める。
「っ! てめぇ!」
バチンッと嫌な音を立てると、その光の中から一人の男が出てきた。
「確か、四大騎士の……」
「邪魔すんなっ。そこをどけっ」
自分の動きを止められたことに怒っているようだが、あれでは誰がどうみても攻撃しようとしているように見えるだろう。
すると、後ろの議長室の扉が開いた。
「何かありましたか?」
議長室からはアレイシアのメイドであるユレイナが出てきた。
ハーエルが彼女を見るなり、私たちの間を縫うようにまた雷となって移動する。
「……」
「アレイシア議長に用があんだっ」
「わかりました。中にお入りください。それと、申請なく大聖剣の力を振るったことも聞かせていただきます」
「緊急なんだから仕方ねぇだろっ」
そう言いながらハーエルは議長室の中へと入っていった。
彼ら四大騎士の持つ大聖剣は暴走すれば大災害を引き起こすことができるほどの力を持っている。そのため、かなり慎重に扱う必要があり、自分の敷地外で力を発揮することに関しては議会の許可がいる。
もちろん、他国にも大聖剣と呼ばれる強力な能力を持ったものは存在するが、四大騎士のものと比べれば力は少し劣るらしい。
まぁどちらにしろ、緊急だったのなら許可の必要はないのだけど。
「小さき盾の皆さんもお入りください。おそらく聞くべきだと思いますので……」
そう言ってユレイナは鋭い視線を議長室の中にいるハーエルへと向けた。
彼女も元は聖騎士団の一員、美しい所作を心がけているようではあるが、ところどころで騎士のような振る舞いをする一面がある。
「わかったわ。行きましょう」
「……おう」
議長室へと入るとアレイシアの机に手を突いて話し込んでいるハーエルがいた。
「だから、アイツがいたんだよっ。ザエラのやつがっ!」
「……そんな急に言われても」
「今すぐにでも聖騎士団やら有志軍の奴ら総出で捜査するべきだろ」
ザエラという名はアレイシア議長の前にいた議長だ。正確に言えば、代行していたブラドの前にいた最悪な議長だ。
「……本当にザエラだったの? 確か、死んだはずよね」
「死んでねぇ。俺が見たのは間違いなくアイツだった。あの見たくもねぇ面はアイツしかいねぇ」
そう、ザエラは私の前でブラドが殺された。
捕らえていた魔族を利用して聖騎士団本部へと入ってきた彼を罠に嵌めたのだ。いや、あの時ザエラは一人で本部に来たのだから、自分から罠に嵌ったようにも言えるけど……
自分から?
「ザエラって言うのは?」
すると、私の横でハーエルの話を聞いていたアレクがそう聞いてきた。
「一言で言えばクズね。議長って座を悪用してこの国を混乱させた人よ」
「……誰だか知らねぇがハーエルがあそこまでキレてるってだけで理解できるぜ」
まぁハーエルは誰にでも怒るような人だけど、顔が赤くなるほどに怒りを顕にすることはあまりない。
彼がガチギレするほどにザエラという男はとんでもないクズ議長だったのだ。
「いいか、アイツは特殊な能力を持ってやがる。急いで対策しねぇとまた大きな被害が出る」
「特殊な能力?」
「氷を操ってるみてぇだな。ルカのやつがそれで怪我をしたんだ」
「待って、被害が出てるの?」
「当たり前だろっ。そうでもなきゃこうしてここに来ねぇよっ」
どうやら見かけたというだけでなく、実害が出ているらしい。朝に集まっていた資料には怪しい動きはないように思えたけれど、監視の目が届いていないところで何かが起きていたということらしい。
「それなら私たち小さき盾が対応するわ」
「あ?」
「聖騎士団はすぐに動けないし、有志軍もまだ軍としては機能できていない。それなら数は少ないけれど、私たちなら少しは役に立てると思うわ」
「ザエラについてはよく知らないけれど、国難に直結するかもしれないとなれば僕たちは動くよ」
小さき盾はそのために存在する。
必要な時に必要なだけ、必要なことを行う。それが私たちの部隊だ。
「小さき盾は有事の際に……」
「有事なんでしょ?」
私がそうハーエルに向かって質問した。
「ああ、もちろんだぜ」
「なら問題ないと思うけれど?」
そうアレイシアに聞いてみると、彼女は小さく息を吐いてうなずいた。
「わかったわ。議長の権限で出動の許可を出すわ」
私たちを守りたいと思うアレイシアからすれば小さき盾を出動させたくないことだろう。でも、これは私たちだけでなく、この国の未来のためでもある。
帝国で特殊な訓練を受けた私たちは一度故郷を失った。もう失いたくない。
何も出来ずに失うことの怖さは私たちもエレインもよく知っているのだから。
こんにちは、結坂有です。
十日間ほど、急に休んでしまいました……
申し訳ございません。
今はもう落ち着いていますので、毎日投稿していきます。
これからもよろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに……
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