疑うことから始まる
俺、レイは議会の廊下を歩いていた。
もちろん、アレクやミリシアも俺の横を歩いている。ユウナとナリアはもう少しだけ議会の警備をするそうだ。攻撃時のような混乱は収まったとは言え、また市民団体なんかが押し寄せてくる可能性もあるからな。
議会の中に作られた小さき盾の本部はとても広く大量の資料もあるのだが、国内調査を終えた今となってはそれらほとんど意味のないになった。
そして、俺たちがなぜ廊下を歩いているのかというと、アレイシアを迎えに行こうとしていた。小さき盾の本部は議長室から少し離れた場所なのだ。
「……魔族の攻撃があったとしても議会は通常通り動かさないといけないのよね」
「国を運営する上で最重要施設だからね。それに市民の混乱を早い段階で収めることが出来たのは議会のおかげだよ」
思い返してみれば、俺たちが議会に戻ってきてから議員の誰かが率先して国民に説明していたな。詳しい情報でかつ、はっきりと明確に事実を説明していた。どのような攻撃があったのか、今後の攻撃の可能性があるのか、被害はどれほどのものなのか、それらすべてに議会の職員を含め丁寧に応じていた。
国民にとって知らないという以上の恐怖はない。アレイシアがそう指示していたらしいからな。
まぁおかげで今も議会に押しかけてくるような国民がいないようだ。
「にしても、議会の地下にとんでもない連絡通路があるのね」
「うん。数日の間、二十四時間態勢で地下連絡通路の調査と警備をするみたいだね」
「へっ、把握してねぇってのは怖いからな」
「場合によっては封鎖することも考えるみたいだよ」
防壁の外に繋がっているような地下連絡通路はすぐにでも封鎖するべきだろうな。そこからまた魔族が侵入してきては困る。それに今までそのような調査をしてこなかったのに違和感が残る。
少なからず、これら地下連絡通路は昔重要なものだったはずだ。それの資料がまったくないというのは不自然過ぎる。
「そうなってくれればいいんだけどよ。裏でなにか動いてねぇか気になるっていうか……」
「昔の議会が”意図的に”調査しなかっった可能性があるよね」
そうミリシアが言う。
アレイシアが議長になってからはいろいろとザエラって奴が牛耳っていた時代の悪事が今となって露呈している。それらが意図的だったのか、ただの不注意だったのかはわからないがな。
とりあえず、ザエラ議長の時代は悪事で溢れていた可能性があるってことだ。
「もしそうだったとしたら、とんでもない計画を考えていた可能性があるね。ミリシアから聞いた精霊統合化計画とは別のね」
「もしくは議会とはまた別の組織が動いているとか?」
「そのあたりは今後調べていく必要があるね。またあの部屋にある大量の資料を片付けないとね」
「へっ、力仕事なら任せとけ」
そんな会話を続けていると議長室の前へとたどり着いた。
アレクが扉をノックして、返事を聞いてから俺たちが部屋へと入る。
「仕事は終わったのか?」
「ええ、ちょうど終わったところよ」
そう言ってアレイシアが一つの書類を封筒の中へといれた。
何が書かれているのかは俺には見えなかったが、なにか重要そうなものであったのは確かだ。
まぁ議長の仕事に首を突っ込むようなことはしねぇがな。
「一緒に帰ろうと思ってね。私たちもちょうど書類整理が終わったところだから」
「私に合わせなくても良かったのに」
「それもあるけど、議長の警護も含めてだよ。一応市民の混乱が完全に収まったわけでもないからね」
アレクがそう言うとアレイシアは小さくため息を吐いた。
「はぁ、世の中そう簡単にはうまくいかないものね」
「というと?」
「特権持つものは責任を負う、それはわかってるんだけど、こうも押し付けられるというもの嫌なものね」
確かにアレイシアはなりたくて議長になったわけでもないらしいからな。まぁエレインや俺たち小さき盾の活動を保証する上でも、自分がしなければいけないと思ったから議長という座に就いているわけだ。
本来であれば自身の家を継いで、平和に暮らしたいところだったのだろう。
「……巻き込んでしまった、のかな?」
「ううん、あなたたちは関係ないわ。ただの独り言よ。それに誰かがあなたたちを保護しないといけないわけだしね。また悪い人が利用しようとするから」
もともと俺たちはこの国において市民権を持っていない状態だ。いろいろと特例が積み重なって市民と同じような権利を持っているものの、それらの特例はアレイシアによって保護されている。彼女がいなくなれば、それら特例が無効となって悪いように利用される可能性があるだろう。
もちろん、武力だけで言えば議会や聖騎士団を圧倒できるのかもしれないが、権力となれば話は別だ。
「大丈夫だぜ。アレイシアを悪く言うようなやつは俺がなんとかしてやるからよ」
「なんとかするって、具体的には?」
「一発殴れば言うこと聞くだろ」
「ふふっ、本当に頼もしい護衛役ね」
俺がそう胸を張っていうとアレイシアは小さく笑った。
まだ気が滅入っているわけでもないらしい。彼女を守ることが俺たちを守ることに繋がるのだからな。
自分の身は自分で守れるとはいうものの、こうした権利や主張というものは他人の力がいるものだ。協力することにこそ、人間の本領が発揮されるのだからな。
それから俺たちは急ぎで帰宅して、リーリアが用意してくれた夕食を食べることにした。
旬の野菜をふんだんに使った豪華な料理でとても美味しかったな。ミリシアがどのように作っているのか質問していたぐらいだ。
やはりエレインのメイド、リーリアは逸材なのだろうな。
◆◆◆
みんなが食卓を囲んで夕食を食べた後、私、ルクラリズはリーリアを呼んで話していた。
話の内容はもちろんエレインのメイドになるということ。
「……本気、なのですか?」
じっくりと考えたリーリアがそう私の目を真っ直ぐ見ながら質問してきた。
「ええ、私もエレインのメイドになりたい。彼と共に世界を見て回りたいの」
「そうですか。命の覚悟も……」
「あるわ。一度は捨てた命、エレインが拾ってくれたのだから彼のために尽くすのは当たり前よ」
言うまでもなく、私は魔族だ。魔族を裏切り、人間の国にやってきた。
そして、人間の国で拒絶されそうになったところをエレインに助けてもらったのだ。今着ている服も、監視下ではあるもののある程度の自由も提供してくれている。
本来なら今頃、私は議会の地下牢で監禁されているような身だ。
「……わかりました。あなたを信じます」
「じゃ、メイドになれるの?」
「まずはメイド見習いからです。あなたにとってエレイン様はご主人様となります。ですので、敬語なども覚えていく必要があります」
「そう、です、ね」
敬語なんて生まれてから一度も使ったことのない言葉だ。リーリアの話し方からゆっくりと覚えていく必要がるだろう。
「……違和感はありますが、良いでしょう。私も完璧ではありませんし」
「それからご奉仕、です、ね?」
「はい。エレイン様の身の回りのお世話をするのが、メイドの務めでございます」
「つまり……」
ご奉仕という言葉から連想されるのは魔族での街のこと、あれをエレインにすると考えると急に顔が熱くなる。
裸を見られる分には全く問題はない。けれど、実際にするというのは恥ずかしさというか気まずさを感じる。理由はわからないが、これが恋というものなのだろうか。人間の感情は全くわからない。
「あの、何を考えておられるのかはわかりませんが、ルクラリズさんはまだ見習いです。私の助手としてしばらくは一緒に行動しましょう」
「わかっ……わかりました」
「はい。これからお互いがんばりましょう」
そうリーリアは丁寧な口調で言った。
美しい茶髪はひらりと揺れて甘い香りが漂ってくる。私も彼女のように気品あふれるような行動ができるよう頑張る必要があるだろう。
そのためにはリーリア一挙手一投足に注目するべきだ。
こんにちには、結坂有です。
午前中に更新する予定でしたが、夕方となってしまいました。
申し訳ございません。
次回からはいきなり戦闘シーンが始まる予定です。
急に始まる事件、これからエルラトラムはどうなってしまうのでしょうか。そして、裏で動くとんでもない計画とは何なのか。
それでは次回もお楽しみに……
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