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力の所在について

 私、ラクアはマナと一緒に部屋で待機していた。

 先日の魔族の攻撃は異質だった。あれが魔族との戦争の現実なのだろう。もし、私の体内に精霊が宿っていなければ戦うこともできなかったかもしれない。

 私はあの戦いの時、前線で魔族と戦う聖騎士団の支援をしていた。聖騎士団団長であるアドリスとともに突破されそうな箇所の支援を行っていた。流石に今の私には前線を維持できるほどの実力があるわけでもなく、支援に徹していたのだが、それでもかなり辛い経験でもあった。

 日々、レイが厳しい訓練をしてくれているのはおそらく魔族との戦いを耐え抜くためのことなのかもしれない。

 あれほど苦しい経験はヴェルガーでは経験できないこと、魔族との最前線で戦うエルラトラムでしか経験できないことだ。 私はもっと強くなりたい。だから、エレインや小さき盾に付いていく。いずれエレインの横に立てるように……

 これは恋愛感情なんかとは少し違うと考えている。それでもエレインと同じ土俵に立ちたい。なぜだろうか。この感情はなかなかに表現できない。


「ラクア、難しい顔してるよ?」

「え?」

「なにか考えてた?」


 目の前で本を読んでいたマナがそう私に話しかけてきた。


「昨日の魔族との戦いを思い返していただけよ」

「それだけじゃないでしょ」

「……勘ぐるのだけは得意なのね」


 子どもは感情に敏感だ。ほんの少しの表情ですら見抜いてくる。

 それに彼女は魔の力を内に秘めている。人間からすれば脅威の対象になる存在ではあるが、人間と敵対しているわけではない。むしろ、彼女は人間になりたがっている。

 エルラトラムに来てわかったことなのだが、魔の力を持っていたり、魔の気配を放つような人間が少なからず存在するらしく、この国でもある程度認知されつつあるようだ。マナだけが特段というわけでもない。


「ラクアってわかりやすいから」


 そういった彼女はなぜか少し笑った。


「……エレインにはいろいろと助けてもらったし、いつか私も彼と同じような立場になりたいなって思ってね」

「できてるんじゃないの?」

「ううん、私なんてなんにもできてないわ。昨日の戦いだってアドリス団長にに助けてもらってばかりだったわ」


 もし、あの前線に私一人だけが向かったところで何かができたとは思えない。多少なりとも実力はあるとはいえ、それが実戦に役に立つのか、前線の兵士の役に立つのかはわからない。

 いくら技術があったところでそれらを実戦で活かす事ができなければ意味がないのだから。


「一人じゃ何も出来ないよ? 誰だってそうだと思う」

「エレインは一人でも魔族と戦えるわよ」

「戦うだけじゃないと思う。いろんな人に助けられてるってエレインが言ってた」

「……そうなのね」


 エレインも自分ひとりでは生きていけないということなのだろうか。

 あれ程の実力があってもできないことってなんだろうか。思い返してみればリーリアというメイドが彼の世話をずっとしていた。そこに理由があるのだろうか。

 彼女とエレインとの関係も知っていくべきだろう。ヴェルガーで共に旅をしたからと言って彼のすべてを知っているわけではない。

 私はゆっくりと立ち上がった。


「どこか行くの?」

「うん。エレインの家にね。もう起きてる頃だろうし」


 時計を見てみると五時を過ぎたころだ。怪我をしたとはいえ、流石に一日以上も寝ているということはないだろう。


「そうなんだ。私も行きたいな」

「……無理そうね。夕食もそろそろでしょ?」

「うん」

「それなら仕方ないわね。またここに顔を出すよう私からも言っておくわ」

「ありがとうっ」


 すると、落ち込んでいた彼女の表情が明るくなった。

 それほどにエレインと会いたいのだろう。あと半月ほどはこの生活が続くことになる。こんなところにずっと閉じ込められているというのも彼女にとってかなりストレスなはずだ。

 なるべく早く自由にさせてあげたい。


「じゃ、行ってくるわ」

「気を付けてねっ」


 そう言って手を振る彼女は元気という言葉を体現したように見えた。


   ◆◆◆


 俺、エレインは家の中の訓練場へと入った。

 カインに治してもらった腕を動かすためだ。そこまで激しい動きをするわけでもないが、何度も彼女が気にしてきたから仕方なく動くことにした。

 まぁずっとベッドで寝ていたということもあって、少しぐらいは動いた方がいいのだろう。準備運動程度に留めておくとするか。


「……まずはこの剣を振ってみて」


 そう言ってカインが取り出した剣は比較的軽い木だけで作られたものだ。普段の訓練で使用しているものは芯材に太い鉄筋を埋め込んでいるもので重量もそれなりに重たいものだ。


「軽いものだと思うのだが……」

「とりあえず、順にやっていくのよ」


 そういって力強く突き出された木剣を持ってみることにした。案の定、今までとなんの変わりもなく普段通りに剣を振るうことができる。


「こんなところか」

「そう、じゃ、これっ」


 次に渡された剣は同じく木剣で形状が違うものだ。大剣の部類に入るものだろう。これも同じく今までと変わりはない。


「今までと感覚は変わりないが?」

「じゃあ、これは?」


 そういって渡されたものは芯材に鉄筋の入った木剣だ。いつも訓練に使用している少しだけ重たいものだ。

 型稽古に使われるものではなく、主に筋力トレーニングで使われるものだ。まぁレイはこれぐらい重たくないと意味がないって言ってたがな。

 俺は渡された剣を軽く構えてみる。


「……どう?」


 持った瞬間、違和感があったもののすぐにそれはなくなり、いつもと変わりない感覚に戻る。


「今のところは大丈夫そうだ」

「エレイン様、ユウナさんに見せた光る剣閃をしてみてはいかがでしょうか」

「そうだな」


 少し離れたところで見ていたリーリアがそう話しかけてきた。

 確かに持って構えるだけなら誰でもできる。少しだけ普通に振ってみるか。


「ふっ」


 ヅォンっと空気を斬り裂く音が轟き、振った剣閃が光り輝いた。

 威力も精度も意図した通りに繰り出すことが出来た。しかし、なにか違和感が残る。


「すごいけど、感覚はどう?」

「そうだな。違和感はあるものの、筋肉的な違和感はないな」

「というと?」

「……わからないな」


 正直なところこの違和感の正体がなんなのか全くわからない。もちろん、意図したように体や剣を扱うことができるため、深く気にする必要もないのかもしれないがな。


「やっぱり、治癒に問題が……」

「大丈夫だ。何かの後遺症というわけでもない。治療とは全く別の問題だろう」


 それだけは断言できるが、その正体がなんなのかは不明のままだ。


「……エレインから妙な力を感じたのだけど」


 すると、そうルクラリズがつぶやくように言った。


「妙な力、ですか?」

「うん。魔族とも違う別の力かな。私もよくわからないのだけど」

「それが違和感の正体なのだろうな。これからゆっくりと調べていくべきだな」


 自分の体のことだ。調べないわけにはいかないだろう。

 それにまたいつ魔族が攻撃してくるかわからないしな。その時までになんとか正体を暴かないとな。


「私も協力するわ。医学的知識はある程度持ってるし、役に立つと思う」

「ああ、助かる」

「それでは、夕食にしましょうか。五時を過ぎたところですし」

「そうだな」


 これからの方針が決まったところでリーリアがそう言った。

 一日寝ていたとはいえ、腹は減るものだからな。それに戦いの後ということで体力も減っているはずだろう。

こんにちは、結坂有です。


次回はもう少し早くに更新できる予定です。


それでは次回もお楽しみに……



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