洗脳を解いて
私、リーリアはアレクと一緒に地下連絡通路へと突入していた。
上に溢れ出して来た魔族たちはレイや他の聖騎士団に任せるとして、私たちは撤退仕掛けている魔族を追い討ちしようとしていた。理由としては以前、全滅させずにいたせいで地下通路に残党が隠れてしまったことがあったからだ。
もちろん、今回も同じような事が起きないように私とアレクがこうして地下通路へと突入しているのだ。
「魔族の気配が濃いね」
「はい。やはりこうした通路が魔族に知られてしまっているのでしょうか」
「そうだろうね。エルラトラム側としてはこうした脆弱性はなるべく排除しなければいけないことになるね」
少なくとも今回私たちを攻撃してきた魔族はこの侵入経路を熟知していたようだ。そのために綿密な計画を立てていたのは間違いないだろう。
それに魔の気配が強まってきているということはここから先に魔族がいることは間違いない。私はさらに警戒を強めて進むことにした。
「アレクさんっ、魔族がいます」
しばらく通路を進んでいくと魔族の残党を見つけた。
彼らは私たちに気付くとすぐに攻撃を開始してくる。
「僕に合わせてくれるかい?」
「わかりました」
そう私が返事をするとアレクは一気に走り出した。彼ならもっと速い速度で走ることができるのかもしれないが、私が追い付けるようにペースを落としてくれているようだ。
それでも全力疾走のような勢いで魔族の残党へと突撃していく彼はエレイン様を見ているような気持ちになる。
エレイン様やアレクたちは同じような施設で訓練をしていたと言っていたのだが、一体どのような厳しい訓練を生き抜いてきたのだろうか。エレイン様の心の中を覗いた事があるとは言え、記憶の中まで見ることは出来ない。気にはなるのだけれど、聞く勇気が出ないのだ。何か触れてはいけないと感じるからだ。
「ふっ!」
アレクが剣を引き抜き飛び上がると強い衝撃波とともに魔族が斬り裂かれていく。流れるような剣捌きとどこまでも美しい彼の動きで複数の魔族を翻弄している。精神系の魔剣を持っている私ではあるが、あのような動きでは対処できないだろう。攻撃を予測することが出来たとしてもその攻撃を受け流す術がないのだ。
それほどに小さき盾の人たちが強いということ、技術や実力が私たちとは桁違いだ。
「に、人間の奴ら、こんなところまで来やがったのかっ!」
魔族の群れの中から声が聞こえてくる。明らかに人間ではない重低音なその声は上位種の魔族がいるということを示している。
数万もの下位魔族を引き連れてきているのだが、上位の魔族はそこまで多くはないようだ。今回の攻撃に参加している上位種の推定としてはおそらく二〇体ほどなのだろう。かなりの規模で攻撃してきてはいるものの、総攻撃というわけでもないらしい。
もし総攻撃だった場合、エルラトラムは防衛できたのだろうか。そんなことは今考えても仕方のないことか。
「悪いけれど、逃がすつもりはないよ」
「くっ、数で抑えろっ。相手はたった二人だぞっ!」
そう言って上位種の魔族が下位にそう指示をする。
すると、魔族が通路を遮るようにして壁を作る。
「時間稼ぎのつもりかな?」
しかし、そのような壁は今のアレクには全く通用しないようで、聖剣の力を解放した彼は衝撃波を発生させて魔族の壁へと突撃する。
私はというとなんとか必死に彼を援護出来ているが、これ以上の速度で戦い続けると孤立してしまう。
そのあたりはアレクも理解しているようで、私のペースを合わせてくれている。エレイン様やレイ、ミリシアならもっと速く彼に付いていくことができるのだろう。私ももっと精進しなければいけない。
「こんなはずがっ!」
「逃がすつもりはない、そういったよ?」
そう言ってアレクは剣を回転させ下位に命令を出していた上位種へと攻撃を加える。もちろん、抵抗をしたものの華麗な剣技によって魔族の体は両断されてしまった。
「はっ」
私はアレクの攻撃を避けてきた残りの魔族を始末する。下位の魔族であればすぐに精神干渉ができるため、そこまで苦労はしない。当然ながら、アレクやレイにとっては腕慣らしにもならないことだろう。
「……取りこぼしてしまって申し訳ない」
「いえ、魔族の多くはアレクさんが始末してくださったので苦労はしていません」
「それならよかったよ」
彼はそう小さく微笑むとまっすぐ前を向いた。
「ここ一帯は始末できたのだけど、どうにもまだ嫌な予感がするんだよね」
「嫌な予感、ですか」
「そうだね。まぁ気のせいということもあるけどね」
「気のせいではないと……」
すると、通路の奥から強烈な爆発音のような音が轟いた。少し遅れて地下通路内に突風が吹き荒れる。
「最悪な状況じゃなければいいけどね」
そう言ってアレクが走り出す。
私も彼に続いて通路の奥へと向かうことにした。
方向的にこの先は防壁の方へと続いている。もしかすると、エレイン様が危険な状況になっていることだってあるだろう。
それからしばらく通路を走っていくと剣を交わす音が聞こえてくる。
「ミリシアっ」
「え? アレク?」
まだ薄暗い状況ではあるが、アレクにははっきりとそこにミリシアがいることがわかったようだ。
「……その人は、セシルなのかい?」
「っ! また私の名前を……。私は一体っ!」
かなり錯乱している声だが、明らかにセシルの声だ。
洗脳されているのだろうか。もしそうなのだとしたら、私の精神干渉でそれを解き放つことができるはずだ。
「何が起きているのかはわからないけれど、セシルを救出できるなら今しかないようだね」
「はい。行きましょう」
私がそういうと一気にアレクが駆け出した。今までとは比べ物にならないほどの速度でセシルへと攻撃を仕掛ける。
「はっ」
「なっ、どうしてっ!」
「エレインから聞いていたけれど、綺麗な動きをしてるね」
「なにを言って……。うぐっ!」
アレクがセシルの攻撃を華麗に躱すと一気に姿勢を低くして彼女の腹部へと膝蹴りを加える。
「セシルさん、これでっ」
私は蹴り飛ばされてきた彼女の精神に魔剣スレイルで干渉することにした。
魔剣のラインが赤く光り始める。かなり強い洗脳を施されているようだが、全く問題はない。なぜなら私の魔剣にはエレイン様の精神がコピーされているからだ。
洗脳される前の彼女はエレイン様に恋愛的に好意を抱いていた。それは横からずっと見ていた私だからわかること、洗脳を解くきっかけを作るには丁度いいはずだ。
「っ! またこの感覚が……」
「苦しかったですね。ですが、もう安心してください。ここがあなたの、セシルの故郷なのですよ」
「わ、私は……」
そう言って彼女は全身から力が抜けたように頽れる。
すると、奥からミリシアとアレクが走ってきた。
「セシルは?」
「大丈夫です。気を失ってるだけですよ」
「……それより、エレインはどこに?」
アレクがそう問いかける。その言葉と同時に私の胸は強く熱く鼓動を始めた。
「奥で休んでるわ」
「無事、なのですね?」
「大丈夫だと思うけれどね」
無事ならなんでもいい。
私にとってエレイン様は命よりも大事な人だ。
「っ! エレインっ」
「アレクか、そっちは大丈夫だったみたいだな」
薄暗闇から現れたのは私がもっとも敬愛している人物であった。
気が付いたら私はもうすでに走り出していた。
こんにちは、結坂有です。
夕方になってしまいましたが、明日は午前中に投稿できると思います。
そして、次回でこの章は最後となります。
なんとも激しい戦いが続きました。
ですが、全面戦争というわけでもなく、完全に脅威が消えたわけでもありません。
これからもエレインの世界を救う物語は続いていきそうですね。
それでは次回もお楽しみに……
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