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究極を信じるもの

 俺、エレインは湿った空気の漂う地下連絡通路へと侵入した。ミリシアとルクラリズは俺の真後ろに張り付くように走っている。この連絡通路はかつてエルラトラムが軍事的大国だった頃の名残だそうで、いくつもの通路がクモの巣状に張り巡らされている。しかし、今となっては当時のまともな資料がほとんどなくなってしまってすべてを把握できていない。

 ミリシアの記憶ではこの通路は調査されていない場所のようだ。

 近くに魔族の気配はないものの、俺たちが魔族の本隊に近づいていることは気付かれていることだろう。近くにいないからと言って気を抜くことは出来ないか。

 そんな事を考えているとルクラリズが話しかけてきた。


「エレインっ」

「どうした」

「実体のある魔族は近くにいなさそうだけど、ゴースト型の魔族に気付かれていると思うわ」

「そうだろうな」

「……それでも大丈夫なの?」


 少し心配そうに彼女が俺に目を向けてくる。

 魔族として生活してきた彼女は当然ながら、ゴースト型の脅威を深く理解している。見えない状態で攻撃してこないとはいえ、こちらの動きをすべて見られていると考えていいだろう。

 昨日の調査ですでにゴースト型が国内に侵入していることがわかったようで、俺たち人間が感知できないところで魔族は着実に侵攻ルートを調べられていたということらしい。


「この攻撃ルートはずっと前から計画されていたのだろうな。だから、どういった状況でも対応できるよう相手も考えている」

「うん。裏から侵入してこないように上位の魔族を配置していたことだしね」


 俺たちが地下通路へと入る前に二体の魔族と戦うことになった。彼らは地下通路に侵入しようとする俺たちを排除しようとしていたな。


「ここから先、あいつの気配がするの」

「あいつ?」

「ゼイガイアっていう隊長みたいな存在よ。とんでもなく強力な力を持っているわ」

「魔族を統べる存在ってことだし、相当強いのでしょうね」


 確かにかなりの力を持っていないとそういった立場にはなれないだろうからな。しかし、だからといって、逃げていても結局はどこかで戦うことになる。それなら今戦ったとしても同じことだ。

 すると、俺の目の前から強烈な魔の気配を感じた。


「貴様がエレインか」


 薄暗闇の中、巨躯の魔族が現れてきた。


「っ!」

「対策はいろいろと講じていたが、こうも前線に出てくるとはな」

「エレイン、彼がゼイガイアよ。気を付けて」


 気を付けろと言われても俺には戦う以外の選択肢はないのだがな。確かに他の上位の魔族とは比べ物にならないような力を秘めていることは気配だけでわかる。

 そして、それと同時に天界で感じた妙な力も感じる。

 上位種の魔族には神の力を引き継いでいる存在もいるということはルクラリズからも剣神からも聞いている。その存在だとしたら、おそらく目の前の魔族がそうなのだろうな。


「ルクラリズ、どこに行ったかと思えばこんなところで人間の味方をしていたとはな」

「あなたのやり方には反対よ」

「人間に毒されたのか?」

「いいえ、私は私の直感に従っただけ」

「ふっ、人間として美しい美貌を持っているお前は利用価値があると思っていたのだがな。まさか逆に人間に利用されるなんて思わなかった」


 ルクラリズは人間としての魅力を持っているため、誘惑と言う形で人間を陥れることはできるだろう。政府高官などを誑かすには丁度いい存在だったのかもしれないな。

 しかし、彼女は自分の意志で魔族の考えを否定し、人間に協力することを選んだ。


「私は私の直感に忠実なの。魔族に利用されるような生き方はしないわ。もちろん、人間にも利用されてるわけではない」

「まぁどうでもいいことだ。ここでエレインを殺すことには変わりないのだからなっ」


 そう言って、ゼイガイアという魔族は一瞬にして俺の方へと突撃してきた。

 巨大な拳が音速の勢いで俺へと迫ってくる。俺は咄嗟に魔剣を引き抜いてその攻撃を受け止める。


 ゾォゴンッ!


 受け止めたと同時に強烈な衝撃波が地下通路を轟かす。

 魔剣の力を最大限に活かしてなんとかその一撃を受け止めることに成功した。避けることも考えたのだが、この狭い地下通路で完全に避けきることは難しい。それに俺の後ろにはミリシアやルクラリズがいるからな。


「この一撃を防ぐとはな。人間とは言え、剣聖と呼ばれるだけはあるか」

「……自分で名乗った覚えはないが?」

「この国のことはよく知っている。お前が剣聖と呼ばれていることもな」


 一体いつからこの国にゴースト型が侵入したのかは全くわからないが、それなりの期間で情報を仕入れていたというのは理解した。当然ながら、多くの情報を持っているということはある程度、俺の情報も手に入れていることだろう。

 とはいえ、このゼイガイアという魔族を倒すのはなかなか難しいと言えるか。

 少なくとも狭い地下通路では攻撃の手段が限られてくる。まぁ同じくそれは彼にも言えることだがな。


「エレインっ!」

「俺は大丈夫だ。それよりも……」

「はぁあ!」


 俺が忠告した直後、ミリシアに向かって何者かが猛進してきた。

 その攻撃を彼女はうまく剣で受け止める。


「っ! セシル?」

「……私、あなたのことは知らないわ」

「覚えていない、のね」


 ミリシアに襲いかかってきたのは行方不明だったセシルのようだ。しかし、予想されていたように洗脳を施されているようだ。その洗脳を解くにはリーリアの魔剣が必要なのだろうが、今はそんなことを考えている場合ではない。


「ふっ、剣聖のお前も焦りを見せるのだな」

「かなり悪い状況だからな」

「どうする? 俺を倒すか、セシルを倒すか」


 二択で考えれば、ゼイガイアを倒すべきだ。しかし、ここでセシルを逃せば今度こそ救出の目処が立たなくなる。

 魔族領の奥地へと彼女が移動してしまったら奪還なんて不可能に近いからな。

 だからといって、セシルを優先するのはよくない。ゼイガイアという魔族はとんでもない力を持っている。このまま彼がエルラトラム中心部へと侵攻してしまったらこの国は崩壊してしまう。


「選択をしている場合ではないようだな」

「つまり、俺を倒すってことか?」

「いや、お前を倒して、セシルも救う」

「はっ」


 すると、ルクラリズがゼイガイアの横から攻撃する。彼女の持てる最大速度で攻撃したものの、難なく彼はそれを避けた。

 戦いにおいてかなりの実力を持っているのは間違いないようだ。


「エレイン、セシルは私に任せて」

「っ! その名前っ!」

「ちょっ!」


 セシルが猛烈な勢いでミリシアに攻撃を始める。何やら錯乱している様子だ。今の彼女は以前の戦い方とは全く違う。力に身を任せているような印象だ。

 とりあえず、セシルのことは彼女に任せるとして、俺とルクラリズは目の前にいるゼイガイアを対処するべきだろうな。


「バカバカしいと思わないのか?」

「なにがだ?」

「強い人間と弱い人間がいる。すべて平等なんて不可能だろ?」


 彼の言うように人間は二者に分かれるものだ。強いか弱いか、できるかできないか。

 すべての人間を平等に訓練したところでそれに追いつけない人が一定数居るのもまた事実、それは地下訓練施設の時から考えていたことだ。

 皆同じように日々訓練しているはずなのに、俺だけが実力を伸ばすことが出来た。周りの人を置き去りにしてな。世界は不平等なのだとその時に気付かされた。


「まぁ確かにそうだな」

「それなら、剣聖であるお前と俺とで世界を支配しようとは思わないか? 不平等な世の中を逆に利用するってことだ。俺とお前とが組めば最強になれる」

「……悪いが、その提案は受け入れられないな」


 確かに世界を支配して、完全な階級社会を作り上げることができれば世界はもっと単純に動かすことができるだろう。

 それが自然の摂理というものなのだからな。強きが弱きを統べる、そんなこと人間の歴史を見ても同じことだ。しかし、それではなんの意味もない。摂理に従うだけの生き方なんてふざけている。


「なぜだ?」

「不平等だからこその多様性が生まれる。人間の強みというのはそこにあるのではないだろうか」


 なんの考えもなくただ自然摂理に身を任せて生きることは簡単なことだ。とはいえ、人間には感情がある。不幸な運命であればそれを変えたいと思うものだ。本気で死にたいと思って日々生きている人間がいないようにな。

 それに、不平等が必ずしも悪いことかと言われればそうではない。

 いろんな人生を歩み、いろんな人間が形成されていく。十人十色という言葉があるように人それぞれに強みがあり、弱みがあるものだ。それを互いに認め合って協力していく、それが人間の社会というものだからな。


「本心、ということか?」

「ああ、そうだな」

「そうか。なら殺し合うしかないなっ」


 そして次の瞬間、目の前にいたゼイガイアがまた走り出した。

こんにちは、結坂有です。


本日二本目となりました。

いかがだったでしょうか。少し哲学的な内容となってしまいましたが、引き続き激しい戦いが繰り広げられることでしょう。


それでは次回もお楽しみに……



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