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正しく生きるとは

 勝負に勝った俺たちは審判の指示により、すぐに退場させられた。

 当然、俺たちの後にも試合は続く。

 円滑な試合運行をするためにも素早く退場する必要があるということだろう。

 控え室に戻るとミーナが不安そうな顔で俺に声をかけてきた。


「エレインはやっぱり一位の人と組みたいよね……」

「どういうことだ?」

「ほら、私たちって底辺同士でしょ? やっぱり上位の人と組みたいよねって」


 なるほど、先ほどセシルが言っていたトレードという言葉、それを引きずっている様子だ。

 しかし、それはミーナだって同じではないだろうか。

 トレードということは二位のフィンとミーナが組むということになる。

 そうなれば相対的にペアとしての順位はかなり高くなるはずだ。


「俺が目指しているのは聖騎士団に入団する資格だ。そのためにも上位に行かないといけないからな」

「エレインは聖騎士団に入りたいの?」


 少し悲しげにそう聞いてきたミーナも同じく聖騎士団を志望していたはずだ。

 聖騎士団に入るのは利点しかない。

 もちろん、討伐軍でも魔族と戦うことはできるのだが、議会の指示で動く彼らは自由に行動できないのだ。


「魔族がいつ攻撃してくるかわからない。それに議会などという制限が少ない聖騎士は俺にとってちょうどいいんだ」

「そうだよね。エレインにも夢があるんだものね」


 夢、か。

 確かにこれは夢に入るのかもしれない。

 ただ、夢を叶えた後のことは一切考えていない。

 俺ができることなど、剣を振るうことだけなんだからな。


「夢なのかもしれないな」

「じゃ、私も必死に頑張る。だから一緒に聖騎士団に入団しましょう」


 悩みが吹っ切れたのかミーナの目にはある種の覚悟のようなものが宿っていた。

 先ほどの不安は一体何だったのだろうか。


「ああ」


 まぁそのことを今追求したところで、その覚悟がまた揺らぐことになってしまうかもしれない。俺はそれ以上言葉を続けなかった。


 シールドを外し、控え室を後にした俺たちは審査員の人から評価表を受け取ることになった。


「これが今回の評価表だ。しかし君は凄まじい技術の持ち主だな」


 評価表を渡した審査員の人はミーナに対してそう言った感想を述べていた。


「それほどでもないですよ」


 それを鼻に掛けることもなく、淡々とそう答えるのであった。

 俺も評価表を見ると、そこにはいくつかの情報と評価値が記載されていた。

 まぁあの程度のことであれば、そう言った評価になるのも無理はないか。

 相手の隙をついた攻撃しかやっていない。俺の剣術評価に関しても何か技を披露したわけでもないからな。

 特別評価が上がるようなものではないが、記載されている備考欄にはこう書かれていた。


『エレインには潜在的才能がある』


 誰がこんなことを書いたのか知らないが、盛り過ぎではないだろうか。


「エレインはどんな評価だったの?」

「こんな感じだ。ミーナは?」


 俺は自分の評価表をミーナに見せると、少し複雑な表情をしていた。


「これだよ」


 お互いに評価表を交換する。

 ミーナの評価は防衛に特化した剣術としてはかなり高い評価値を獲得している。

 確かにグレイス流剣術は防衛に特化していた。さらにフィンの猛攻を簡単に凌いでいたからだ。

 当然ながらそれは評価に値するものだろう。

 すると、彼女は俺の表を見て複雑そうな顔をする。


「エレインがもっと評価されるべきなのに……」

「実際に何か剣術を披露したわけでもないからな。剣術評価としては低い」

「それでもセシルの剣撃を躱したりとか技術は高いはずよ?」

「その点は備考に書かれている。審査員の人たちも案外よく見ているものだな」


 俺がセシルの剣撃を寸前で躱していたということも書かれていた。

 映像で見返したりしているのか、よく見ているというのは確かなようだ。


「技術が高いだけでは評価は低いままなんだね」

「これは剣術競技だ。剣術で競い合うのだから当然だろう」


 剣術競技というのはそういうものなのだ。

 それに、俺は実力をわざと低くして勝ちに持っていっているからな。


「私は納得いかないけど、エレインがいいなら何も文句はないわ」

「そうか」


 そう言って俺たちは控え室を後にした。


 控室から出てしばらく歩いた先にフィンとセシルがいた。

 この場所は休憩所となっているようで、いくつかベンチが置いてある。

 そのベンチに二人は座っている。


「エレイン、こっちよ」

「どうしたんだ」


 セシルが俺たちを見つけるなり、すぐに呼んだ。


「さっきも言ったけどトレードの件よ」

「ああ、俺たちも話し合った」

「それで、検討してくれたの?」


 セシルがそういうとミーナが先に口を開いた。


「もちろん、トレードのことについては話し合ったわ。それで一つ条件なんだけど……」

「何かしら」

「絶対に卒業時にはエレインを上位に維持させてよね」


 どうやらミーナは俺の心配をしているようだ。

 セシルの実力であれば、上位は安泰だろう。しかし、それでも絶対ではないのは確かだ。

 その点を心配しての条件のようだな。


「ええ、そのつもりよ。私も聖騎士団に入りたいのだから当然だわ」

「それならトレードは引き受けてもいい」


 そう覚悟を決めた目でセシルを見つめる。

 もちろん、セシルも何かしらの覚悟を決めているようにも思えた。


「じゃ、これに手をかざして」


 そう言って彼女が取り出したのは電子デバイスであった。

 手のひらの生体認証で登録が完了するようだ。

 俺はそのデバイスに手をかざすと、画面にはフィンとのパートナー交換を受け入れたとの主旨で文章が表示される。


「これでエレインとフィンが交換されたわ。これからよろしくね」

「ああ」


 俺とセシルは改まって挨拶をした。


 そして、フィンもベンチから立ち上がってミーナの方を見る。


「先週は悪かったな。雑魚剣術なんて言ってしまって」

「いいえ、私の運用の仕方が悪かったから最弱だったの」

「それでも人を罵るのはよくねぇことだった。謝るよ」


 そういうとフィンは大きく頭を下げて謝罪をした。

 どうやらあれから色々と自分の考えを整理したようだな。


「いいのよ。これからもパートナーとしてよろしくね」

「俺も……よろしく」


 ミーナとはあまり視線を合わせなかったが、お互いに握手をしてこれから頑張っていくようだ。

 それにしても剣を交えるというのはこんなにも相手の本気がわかるものなのだな。


「これを先生に渡してくるから、エレインたちはこのまま帰ってくれるかしら」

「別に構わない」

「うん。いいよ」


 そう言ってセシルとフィンは最終的な報告として教師たちに連絡をしにいったようだ。

 果たして、これから俺はセシルとどう言った生活を送るのだろうか。

 そんな不安と期待で胸が躍った。


 このような感覚はいつぶりだろう。今まで過ごして来た中で感動した場面など数えるぐらいしかなかったからな。

 またこんな感覚に陥ったのは随分と久しぶりであった。

こんにちは、結坂有です。


エレインとミーナはこれから別々のペアとして活躍していくようです。

夢のため、大義のために生きることを誓った二人にはここでなんとしても上位に入る必要があったのですね。

これからエレインとセシル、ミーナとフィンはどう発展と遂げるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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