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焦らずに冷静に

 私、リーリアはアレクと一緒に魔族と戦っていた。

 とはいってもここに来ている多くの魔族は上位というわけではなく、下位の魔族だ。アレクの予想では上位種が多く来ていることだろうと考えていたそうだが、その予想は外れたようだ。


「大丈夫かい?」

「大丈夫です。もう少し前に出るのですか?」


 すると、アレクが振り返って話しかけてきた。

 私自身も魔族との戦闘には慣れているつもりだ。それに今の私は聖騎士団時代の技とエレイン様の心の中を覗いた時の技とが織り交ぜられている。

 昔の私よりも今の私の方が強くなっていると自負しているつもりだ。

 しかし、エレイン様の心を覗いたという罰はいずれ受けるべきなのには変わりない。然るべき時期を伺って自分の罪を告白しなければいけないだろう。


「うん。そろそろ聖騎士団の人たちも来るみたいだからね。僕たちができることは発生源の突き止めることだよ」

「はい。レイさんは私たちとは別の方へ進んだようですが……」

「彼なら大丈夫だよ。もっとも、彼の役割は遊撃がしっくり来るからね」


 目標を定めず、臨機応変に動き回る立ち回り、それができるのはかなりの実力があっての役割だ。

 聖騎士団にもそのような立ち回りをする人もいるが、その多くがベテランの剣士だった。下手な実力では短時間で状況を把握するなんてできないからだ。そして、ベテランの人でも状況を把握できずにうまく動くことが出来ず、死ぬことだって私が現役だったころも多かった。

 戦術的に重要な役割であるのだが、その危険さ故に遊撃部隊は常に人員不足に悩んでいたのを思い出した。確かに死ぬ可能性の高い役職に就くというのは抵抗があるから仕方ない。


「僕が道を作るから、後ろは任せたよ」

「はい」


 そう言ってアレクが魔族の群れへと走っていく。数は数十体ほどでとんでもない数というわけではない。とはいっても一人で立ち向かうには恐怖を感じる。

 それに聖騎士団は近くにいるものの、支援を受けれる場所に私たちはいない。状況的にいえば孤立している状態だ。それなのにアレクやレイは恐怖を感じている様子はなかった。私は魔剣の力によってそれらの感情はある程度抑制されているが、絶対的強者という人は彼らのことを指すのだろう。


「ふっ」


 彼が剣を振るうと魔族の体が衝撃波とともにはち切れ、周囲に血の雨を降らせる。私に血しぶきを浴びせないためにうまく彼は立ち回ってくれているようだ。そこまでの配慮は必要ないのだが、どこまでも紳士的な彼は迷惑をかけまいと動いてくれている。

 それからしばらく進んでいくと低い声が聞こえてきた。人間とは思えない声色と声量ではあるが、明らかに人間の言葉を話している。


「お前らっ、後ろから上位種の支援があるんだっ! もっと前に出やがれっ!」


 その声にアレクは一瞬だけ立ち止まった。


「あの声はなんだろうね」

「……おそらく上位種の魔族がいるのでしょう。そして、支援する上位種もまた多くいると思われます」

「つまりはここに来ている魔族たちが本隊だってことだね」


 ここまで上位種が多く来ているということはこの部隊が本隊だということになる。魔族の陣形の多くは下位の魔族が前衛、上位が後衛という形をとっている。まれに戦術的な意味で上位種単独で行動する部隊を作っているときもあるのだが、今回はどうなのだろうか。

 そのあたりは今考えている場合ではなさそうだ。エレイン様や他の人が頑張ってくれることを祈るしかないだろう。


「そうなりますね」

「大多数との戦いはエレインとレイに任せたいところだったけど、僕たちも動かないといけないみたいだね」

「アレクさんは苦手なのでしょうか」

「別に苦手ってわけではないのだけどね。まぁとりあえず行ってみようか」


 大多数との戦いは得意ではないのだろうが、全くの不得手というわけでもなさそうだ。ただ、作戦上で少し不都合が出る程度のようだ。私も全く支援の出来ないということもないため別に問題はないと思える。

 それにしても、今頃エレイン様はどこにいるのだろうか。防壁の外で大軍と戦っているのか、それとも別の場所で戦っているのか。

 気になることではあるのだが、今はここを防衛しなければいけないのだから。


「っ!」


 アレクが下位の魔族を粉砕するように斬り飛ばすと、そこから四本の大きな腕をした魔族が飛びかかってきた。

 しかし、それに素早く反応した彼は体をうまく避けて私を守るように構える。


「下位の連中がとんでもねぇ勢いで消えていくから何かと思えば、たった二人じゃねぇか」

「悪いね。けど、こんなところで暴れられると困るんだよ」

「知ったことか。貴様ら人間は弱い存在だ。弱い存在は弱いまま、俺たちに支配されとけよ」

「……摂理を破るのが僕たち人間の罪でもあり、権利でもあるからね」


 そういったアレクの言葉はなんとなくしっくり来た。

 確かに人間は自然の摂理に反した生き方をしている。弱肉強食の世界が自然の摂理というのなら、人間は社会という目に見えない人工的なルールでそれらを打ち破っている。

 強きは弱きを守り、弱きは強きを支える。そうすることで人間の社会というものは成立しているのだから。


「へっ、一度は天界から見放された存在だろ? 貴様ら人間の世界なんてくだらねぇもんだ」

「どうだろうね。少なくとも僕はそう思わないけどね」


 そういって彼は剣を構える。

 その芸術的ともいえるその立ち居振る舞いはまるで美しい完成された剣舞を見ているようだ。


「俺たち魔族はな。自らの意志で世界を築き上げてんだ。貴様らは俺たちに利用されるだけの存在なんだ」

「自然の摂理というものを破ったように、君たちの摂理も破るだけだよ」


 剣を動かさずにアレクの体だけが前に進んでいく。スピードはエレイン様やミリシアよりも遅いものの、それでも流れるような彼の動きは常に速さが一定なのだ。


「ふっ!」

「はぁあ!」


 アレクの聖剣が相手の腕へと斬り込む。しかし、その刃は魔族の体を傷付けることなくそのまま表面を撫でるだけだった。


「……不思議だね。それが君の能力なのかな?」

「俺の、アルディアンヌの力はこんなもんじゃねぇよ。俺の硬化と強化という能力は最強なんだぜ? 貴様ら人間には到底出来ないようなことを見せてやるよっ」


 そう言って魔族は地面へと一本の腕を突き刺す。すると、地面から大きな岩を取り出した。巨大とまではいかないが、それなりに大きな岩を片手で持ち上げると一気に投擲態勢に入る。

 アルディアンヌという魔族はそう言って自らに二つの能力を神から奪ったと豪語している。それは本当なんだろうか。確かに一つの聖剣に二つの能力があるということもエレイン様の魔剣を例に入れれば存在はする。

 しかし、能力を複数持った精霊なんて存在はしない。エレイン様の魔剣も二人の精霊がいるから能力を複数持つことが出来ているのだ。


「くっ、目を守ってっ!」


 アレクが振り返って私に言葉を放った。

 私は咄嗟に自分の目を覆う。


 ガジャァアン!


 その直後、砂が私の腕をチクチクと刺激する。そして、衝撃波が私の体を突き飛ばすように襲いかかる。


「岩盤を砕いただとっ!」

「はっ!」


 飛びかかってくる砂を腕で払って状況を確認する。アレクは上位の魔族へと斬り込んでいる。先ほどと同じように彼の聖剣は魔族の肌を撫でるだけで斬れることはなかった。


「岩を砕いた程度で調子に乗るなよっ!」


 肌を撫でる剣を厄介そうに魔族が振り払うとアレクは体を捻ることで態勢を維持したまま地面に着地する。


「……斬れないとは、なんとも不思議だね」

「聖剣なんざに頼ってる時点で雑魚なんだよ。貴様ら人間はなっ!」

「それはどうだろうね。でも、これでわかったよ。君の能力がね」

「あ?」

「君の能力は硬化でも、強化でもなんでもない。軟化みたいだね」


 皮膚を強く硬くする硬化というわけでも、筋力などを引き上げる強化でもないようだ。しかし、柔らかくなるということは力が入らないような感じもする。それでもアレクにはそう断言できるなにかがあるのだろう。


「ふざけてんのか?」

「刃が肌を撫でる現象、あれは聖剣の刃部分を瞬間的に柔らかくしているのだろうね」

「へっ、硬化もできれば軟化もできるってことだろ?」

「もう一つ、その四本の腕をうまく利用すれば遠心力を利用して強力な力を生み出せるよね。君はただ器用に体を使って自分が強いと見せかけているだけだよ」

「き、貴様っ!」


 ドンッと強く魔族が地面を鳴らす。

 その反応からもアレクの言ったことは事実なのだろう。


「……だが、俺の能力がわかったからと言って俺に勝てるわけでもねぇだろ」

「やってみるかい?」


 そう言って、アレクは再び美しい立ち居振る舞いで構えを取った。その目はエレイン様の目と同じく魔族を真っ直ぐに鋭く見つめている。


「は、ハッタリかましてんじゃねぇ!」


 すると、魔族は大きく踏み出してアレクの方へと襲いかかってきた。

 魔族は四本の腕をうまく器用に動かして勢いを増してからアレクへと一撃の殴りを放つ。

 しかし、その瞬間……


「なっ!」


 アレクの美しい流線形の剣閃が走り、魔族の一本の腕が斬り上げによって宙に舞った。


「悪いね」

「バカなっ!」


 彼が飛び上がると流れるような剣閃が走る。そして、その剣閃が消えると魔族の体が流れた剣閃に沿って斬り裂かれていくのであった。

こんにちは、結坂有です。


一日遅れの更新となってしまいました。

本日の夕方五時頃にも再度更新される予定ですので、お楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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