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太刀筋を揃えて

 俺、レイはアレクたちと別れて単独で魔族の発生源へと突き走っていった。

 上位種も何体かはいるようだが、そんなことよりもどこからこいつらが出てきたのかが気になった。アレクやリーリアの話によれば地下通路らしきものがエルラトラムの地下に走っているようで、そこから来たようだ。かつて、このエルラトラムは軍事的な大国でもあったとのことで複雑な連絡網を有していた。

 しかし、魔族の大発生によってそれらの連絡網は意味を果たしていない状況となった。そもそも、このエルラトラムも歴史全体で見れば国土が半分以下になっているのだ。その上、無線機などの短距離通信機器の登場により地下の連絡通路がなくともこの国土程度なら問題なく連絡できるようになったからな。そう考えると地下通路なんて面倒で管理の難しいものは廃れてしまったのだろう。

 まぁ今となっては後処理ぐらいはしっかりしてくれたらよかったのによ。


「人間一人がこんなところに来るなんてな。最強の軍隊を持っているって噂だが、結局は能無しの集まりか」


 すると、目の前から上位種の魔族が五体も現れた。

 どいつも生物とは思えないほどの巨大な腕をしている。中には四本の腕を持っているやつもいた。

 そしてなによりもその禍々しい力は離れていても感じ取れる。


「あ? 誰が能無しだ?」

「貴様だ。人間」

「こいつ、数も数えれねぇバカなんじゃねぇのか?」

「それもそうか」


 五体の魔族は俺を見て笑っている。

 なぜかバカにされた。確かに俺はアレクやミリシアからすればバカなのかもしれない。しかし、自分の強さを盲信しているわけではない。戦いにおいては俺も十分に強いんだからな。


「だったら、俺を殺してからバカにしやがれっ」

「……バカが吠えたところで状況は変わらない。ジェバリア、殺れ」


 一体の魔族がそう指示をすると四本の腕をした魔族が俺に飛びかかってきた。

 どこまでも余裕そうな魔族だが、俺にとっては剣術の何たるかを知らないこいつらの方が弱いと思うのだがな。


「オラァ!」


 俺は魔剣リアーナを引き抜いて向かってきた魔族の腕を一本だけ切断した。

 逆袈裟によってこいつの腕は宙を舞っている。


「なっ」


 何の考えもなく人間を掴みかかってくるなんて俺以上にバカなのかもしれないな。

 その飛んだ腕を見ている魔族に対して、更に追撃をする。体を回転させ、勢いを最大限に利用した斬撃は魔族を横に両断したのだ。


「っ! こいつっ」

「内側にいる連中は雑魚だって言ってなかったか?」

「へっ、前線ばかりに兵士が集中するって考えてたのか? 悪いが、俺たち小さき盾は別行動でな」

「小さき盾? 俺たちが把握していない部隊ということか。だが、所詮はお前一人だ」

「四対一、優位なのはどっちだろうな?」

「来いよ。まとめて始末してやるぜ」


 俺は剣を一回転させ、魔族に挑発する。そうすれば一斉に彼らは俺へと攻撃してくるはずだ。もちろん、それでも対処できる自信はあるがな。

 すると、魔族の一体が先ほどの余裕そうな表情を崩した。俺の挑発で彼らが怒りに満ちているというのは明らかなようだ。

 さぁ、どう来るんだ?


「左右から挟み撃ちにする。それでいいなっ」

「骨もろとも粉砕してやるぜっ」


 そう言って魔族が二手に分かれた。左右から同時に攻撃してくるらしい。

 普通の人間なら対処に困る状況だ。右か左かで迷うことだろう。しかし、よくよく状況を把握すればそんなことは簡単なのだ。

 同時に攻撃とは言っても完全にタイミングが合致することはない。小数点以下の僅かな時間だが、絶対にずれてしまうものだ。鏡合わせのようにそれぞれの攻撃が完全に重なることはない。

 そう考えれば、左右に分かれたとしても複数で攻撃してきたとしても結局は一対一の延長線上だ。


「悪いが、そう簡単には死なねぇよっ!」


 左から攻めてきた魔族が一歩だけ速く攻撃してきた。当然ながら、そいつを優先して対処する。


 ズゴォンッ!


 攻撃を防いだ魔剣から唸るような重い金属音が響く。相手は素手とはいえ魔族という強靭な肉体を持っているのだ。強烈な一撃が魔剣越しに俺の全身へと伝わってくる。


「バカがっ!」


 そして、俺の背後から二体の魔族が走り込んでくる。

 それを察知した俺は受け止めた魔剣の向きを瞬間的に変えることで魔族から受けた攻撃の方向を変える。力の方向を変えるにはそれなりに力量のいる技術ではあるが、そんなことは地下訓練施設のときから何度もやってきたことだ。


「バカはどっちだろうなっ」

「くそっ!」


 殴ってきた魔族の腕は俺の体を掠めることなく、横方向へと外れる。


「はぁ!」


 そして、そいつの開いた体を縦に斬り上げて両断。その勢いを殺さずに背後からの魔族を攻撃する。


 ザンッザンッ


 二体の魔族に対して魔剣をハの字に動かして斬り伏せる。


「貴様っ!」

「雑魚はどっちだろうな」


 最後の一体が遅れて俺へと攻撃してくる。思い返してみれば、ほんの一瞬だけ隙があったのだがな。その間に攻撃をしてこなかったこいつが悪い。


「うぅぐっ!」


 最初の奴と同じく最後の魔族は俺へと掴みかかってきた。俺は伸ばされた腕を体を捻ることで避け、相手の腹部へと魔剣を深く突き刺す。

 そして、そのまま斬り上げて相手を絶命させた。


「上位なのかもしれねぇが、所詮は弱いってことか」


 上位種の魔族は神を喰らった存在だとルクラリズから聞いている。中には神の能力を引き継いでいるやつもいるようで警戒してはいたが、うまく能力を使い熟せてない奴らに関しては下位の魔族と何ら変わりはないってことらしい。

 しかし、中には神から奪った能力を使い熟すような強いやつもいるというのは確かなようだ。気を抜いている場合ではないな。

 俺は魔剣に付着した血糊を払い落として鞘へと収める。

 それにしても、上位種の魔族が大量に攻め込んできているわけではないようだ。

 そんな事を考えながら殲滅してきた下位の魔族を見ているとそこから一人の人間の姿が見えてきた。


「ここはあぶねぇからよ! すぐに避難した方がいいぜ」

「……」


 そう話しかけてみたが、その男はゆっくりと俺に近づいてくる。

 明らかに怪しい。そして、俺に近づいてくるごとに彼から殺気を感じる。どうやら人間の姿をした彼は俺に向けて殺気を放っているようだ。


「人間は決して魔族の呪縛から逃げられない」

「あ? てめぇは誰なんだ?」

「……マジアトーデ、かつての人間だった魔族。つまりは新たな存在だ」

「なにをゴタゴタ言って……っ!」


 かなりの距離があったのだが、一瞬にしてマジアトーデと名乗る男が詰めてきた。

 そして、彼も人間と同じような剣で俺へと攻撃してくる。


「て、てめぇ!」


 音速に近い速度で振り下ろしてくる彼の剣を寸前で避けることに成功した。しかし、一瞬でも油断していれば、今頃俺の体は半分になっていたことだろうな。


 ズンッ!


 地面を割る勢いで彼の剣が刺さる。

 俺も剣を引き抜いて臨戦態勢を取ることにした。人間だか魔族だか知らねぇが、敵であることには違いないようだ。

 そういえば、ブラドがこいつの名前を言っていたな。二重人格とか言っていた。


「ブラドの言ってたヤツってことか」

「……ブラド、いるのか。ここに」

「あ?」

「ふははっ。いいねぇ。あいつの言ってた強い騎士ってのは君のことなのかねぇ?」


 一瞬にして態度の変わった彼は俺へと剣を向けてきた。

 そして、ほんの少しの変化だが、構え方が違うように見える。俺の知らない持ち方に立ち方だ。なぜか見覚えのある構えだ。


「あまりふざけてるとどうなるかわかってんのか?」

「ふざけてなんてないよ? 至って冷静に、かつ慎重にお前を殺すとしようかねぇ」

「殺す、味方ではねぇってことか」

「人間の味方とは一言も言っていないのだけどねぇ」


 挑発的なふざけた態度とは裏腹に俺からすぐに攻撃できないような間合いを保っているようで保守的な性格なのだそうだ。

 最初に顕現していたのが攻撃的な性格、そして、今の彼が保守的な性格らしい。まぁどっちにしろ、倒すのには必要のない情報だがな。


「随分自分が強いって思っているようだが、どうなんだ?」

「何を言っているのかねぇ?」

「魔の力を持っているらしいが、俺の知っているやつと比べれば弱く見えるぜ?」

「何を言ってるんだ……」

「てめぇと同じく魔の力を内に宿してる人間がいるってことだぜ」


 そう、マナという議会で保護している女子だ。彼女はヴェルガーでエレインによって保護された。彼女も内に魔の力を宿している。彼女とはラクアとともに少しだけ訓練に付き合った事があるんだが、攻撃的な上にうまく魔の力を活かしているようにも思えた。

 あのまま訓練を続けていればあの二人はかなり強い剣士になるだろうな。目の前の変な男と違ってな。


「そんなはずは……ない」

「なら、証明してみろよ。自分が強いってことをよぉ!」

「……どこまでも、バカにするんだねぇ!」


 すると、保たれたままの間合いが縮まり、一気にマジアトーデが攻撃を繰り出してくる。

 とてつもなく強力で高速な剣捌きだ。


「っ!」

「まだだよ」


 そして、さらにそれらの攻撃は勢いを増していく。


「先ほどのは見栄だったのかねぇ?」

「うるせぇ!」


 彼の攻撃は的確に人間の急所を狙ってきている。しかし、それゆえに次なる攻撃を推測することができる。まぁそんな余裕があればの話だが。


「まだ、まだだねぇ!」


 最終段階に入った彼の攻撃はアレクの連撃に匹敵する勢いだ。

 ただ、彼と違うのは滑らかさがないことだ。アレクの技は流線形の美しい太刀筋をしているのが特徴的、速度自体は最速でないもののすべての攻撃が繋がっているかのような連続攻撃は防ぐのが難しい。

 そんな彼に対して、マジアトーデの攻撃はどれも形式に囚われている気がする。つまり、術を重んじるがあまりに動きの連続性が失われているのだ。


「調子に乗るなよっ!」


 俺はその技の連続性が失われた瞬間に魔剣を彼の胸へと突き刺した。


「ぐっ!」


 しかし、突き刺した程度ではすぐに死なないようだ。それでも致命傷を負ったために俺から距離を取り始める。

 俺はとどめの一撃を与えるべく、剣を強く握る。


『剛なる力、すべてを滅せよ』


 すると、魔剣リアーナからそんな声が聞こえた。

 そして次の瞬間、魔剣が輝き始め徐々に自身の力が漲ってくるのを感じた。これが魔剣リアーナの本領というわけか。なかなかおもしれぇもんだな。


「オラァ!」


 内から溢れ出る力を剣先に集中させて袈裟斬りをする。

 ドゴォオンっと雷鳴の如き轟音が鳴り響き、マジアトーデの体は一瞬にして破裂してしまったのであった。

 まぁ数分後にやり過ぎてしまったと感じたのは言うまでもないだろう。

こんにちは、結坂有です。


いかがだったでしょうか。

レイの能力である”超過”は恐ろしいものを感じますね。

アレクやエレインの方はどうなっているのか、気になりますね。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

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