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激戦区に落ちて

 準備を終えた俺はミリシアとルクラリズとともに前線へと向かっていた。リーリアやアレクたちとは一旦別行動という形となる。もちろん、前線が崩壊しそうな場合は支援に来てもらう予定だ。規模が未知数のため複数のプランは立てているが、それもどこまで大軍に通用するのかはわからない。まぁ流石に想定しうる最低なプランは実行しないだろうがな。


「……警報、ね」

「防壁付近で魔族を視認したようだな」


 魔族が来ることはわかっていても防壁近くまで接近しない限りは警報は鳴らないようになっている。だが、警報が鳴っているということは近くにいるということだ。

 どうやらアレクやミリシアの予感は的中したようだな。


「まずいわね」

「走るペースを上げるか」

「ええ、ルクラリズは付いてこれる?」

「もちろんよ。なんならもっと速く走れるけれど」


 確かにブラドを背負っていた時は人間ではない速度で走っていたの覚えている。当然ながら、俺たち人間が普通に走るよりも彼女ならもっと早く到着することだろう。しかし、今の彼女は俺の監視下でしか行動できない事になっている。

 自由に彼女だけを先行させることはできないか。


「……今の状態ではそれはできない」

「そうね。仕方ないわ」


 警報が鳴っているだけでは緊急を要するわけでもないからな。もどかしい気持ちではあるが、人間のペースで向かうべきだろう。

 俺も魔剣を利用して速度を上げることはできるものの、序盤で体力を消耗するのは避けたいからな。


 それから走って防壁近くへと到着する。

 そして、すぐにミリシアが兵士へと状況を確認した。


「状況は?」

「っ! ミリシアさんっ」


 ちょうど防壁の上から降りてきた兵士に声をかけると彼は姿勢を正して敬礼をした。


「今、防壁から数キロ先にて魔族の軍勢を視認いたしましたっ」

「軍勢……規模は?」

「全容は見えていませんが、視認できるだけでも数千の魔族が列を成しているようですっ」


 帝国が滅ぼされた時の数倍多い数の魔族が攻め込んでいるらしい。それだけなら問題はないのだが、波状戦術を仕掛けている場合だって考えられる。

 ルカと共闘した時はもっと多かったからな。最低でも数千よりもさらに数倍規模があると想定したほうがいいだろう。


「確認している中だと、歴史上類を見ない規模ね」

「はいっ」


 甲冑で表情までは伺えないが、声だけでも彼が堅く緊張してしまっているのが伝わってきた。


「その軍勢は防壁の上から見えるのかしら?」

「はいっ。案内を……」

「大丈夫よ。自分の持ち場に向かって」

「はっ」


 そう返事をした彼は再度敬礼をしてすぐに持ち場へと向かった。どうやら彼は近くの聖騎士団駐屯地へと伝令する途中だったようだ。

 この時間帯だと聖騎士団が防壁の警備をしていないのだ。

 そして、防壁へと上がり兵士が眺めている方へと視線を向ける。目を細めて遠くを確認すると、そこには確かに魔族がいた。

 砂嵐のように砂塵を巻き上げ、こちらへとゆっくりと進軍しているように見える。距離からして約二キロほどと言ったところだ。

 すると、ルクラリズが口を開いた。


「数千どころじゃないわ」

「万は軽く超えるだろうな」

「あの砂塵の奥を含めるとそうなるかもしれないわね」


 間違いなくあの規模の魔族がここにこればとんでもない大規模戦闘が始まる。その状況ではまたこの防壁が突破される。しかし、あの時と違うのは闇夜に乗じていないことだ。早い段階で魔族を視認できたため、こちらとしては態勢を整える事ができる。

 とはいったものの、この規模では魔族の側面に回り込むのは不可能に近いか。別の作戦に移行するべきだろうな。そのことはミリシアも同じことを思っているらしく、彼女は視線で作戦変更を伝えてきた。


「よう」


 そんな事を考えていると横から話しかけられた。


「四大騎士のハーエルか」


 彼は雷撃の騎士と呼ばれる四大騎士の一人だ。

 特殊な別任務を引き受けていたと聞いていたが、もう帰ってきていたようだ。


「情報には聞いていたが、この規模とはな」

「事前情報があったのか?」

「急なことだったし、さっき来たばかりだから連絡できなかったがな。他の大騎士も近くにいるぜ」


 一体どんな別任務を受けていたのかはわからない。

 まぁ考えてみればこの規模の魔族が進行してくるということはそれなりに前兆があったはずだろう。それらを察知して彼らに進言したとすれば納得できるか。

 ただ、その進言した本人が誰なのかが気になる。


「そうか。俺たちもちょうど来たところだ」

「その様子だとそうだろうな。他の小さき盾はどうしたんだ?」

「彼らとは別行動なの。私たちにも作戦があるからね」

「なるほどな。俺たちもいろいろと動いているが、小さき盾も裏で動いていたってことか」


 正直なところ誰がどのように活動しているのかをすべて把握はできない。アレイシアから何も聞いていないということは彼女とは別の高位の人から命令されていたのだろう。彼女と同じような地位で大騎士から信用のある人物といえば自然と正体は限られてくるか。


「……大騎士からして、この状況はどう見えているの?」

「あ? 俺か?」

「他の人も含めて教えてほしいわ」

「へっ、ティリアの奴はサンプルが増えると興奮していたな。ルカは門を開いたとしてもすべてを防げるかわからないらしい。マフィは自分の出る幕はないって言ってたな」


 ティリアに関しては置いておくとして、ルカのあの門を出現させたとしてもすべてを防げるかわからないというのは事実だろう。一万の軍勢を全滅できなかった全霊があるからな。しかし、マフィが動けないというのは意外だ。


「そのマフィはどこに……」


 そうハーエルに質問しようとした途端、風が強く吹き始め誰かが俺たちのところへと走ってきた。


「へっ?」

「はぁ、エレインとミリシアは驚かないのね」


 振り返るとそこにはマフィが立っていた。

 ルクラリズはまだ気配の察知に関して未熟なところがあるため仕方ないが、俺とミリシアを焦らせるにはもう少し気配を押し殺す必要があるな。

 まぁそのことはどうでもいいか。


「当然でしょ」

「マフィ、自分に出る幕はないというのはどういうことだ?」

「……あの砂塵の中を疾風の力で駆け抜けながら戦うのは不可能。どんなに身体能力が高いと言ってもあの数で囲まれたらどうしようもない」

「それもそうか」

「逆に聞くけど、エレインはあの中に突撃して生きれるの?」


 少し不服そうな彼女は俺を睨みつけながらそう言ってきた。


「どうだろうな」

「……」


 流石に単騎で突撃するのはリスクがあるから実行しようとは思っていないが、実際に突撃した場合はどうだろうな。実力的にしばらく生存できたとしても体力が追いつかなくなり、力尽きるといったところか。

 そのことを伏せてマフィに伝えると彼女は頬を膨らませて抗議の目を向けてきた。


「はっ、お前の実力はどうだかしらねぇが、魔族の奴らは本気なようだぜ。俺たちも死ぬ覚悟で立ち向かうしかねぇってことだ」

「ああ、当然だな」


 ハーエルもマフィも死ぬ覚悟で戦うのだそうだ。ここにいる他の兵士たちもそれぐらいの覚悟がなければこの前線に立ってないのだろうな。俺もその覚悟を無駄にさせないためにも全力を尽くす必要があるか。

 無事に彼らと彼らの家族を守ることができれば……


「エレインっ!」『我が主っ!』


 ルクラリズの声とアンドレイアの声が同時に聞こえた。

 そして強い衝撃を感じた直後、眼前に小石が舞っている。


「っ!」


 少し遅れて岩が砕けるような音と全身に妙な無重力感が襲う。

 どうやら俺は落下しているようだ。


「んっ!」


 ルクラリスが俺を抱えて地面に着地する。


「……怪我はない?」

「ああ」


 改めて状況を確認する。

 先ほど俺が立っていた場所には大きなクレーターが出来ていた。巨大な岩がそこに直撃していたのだ。

 俺はあれほどの物体が飛んでくるのを察知できなかったのか?


「ゼイガイア陣営の豪傑……アルディアンヌの攻撃ね」

「特殊なのか」


 下ろしてもらった俺は姿勢を正してそう彼女に聞いてみた。上位の魔族には特殊な能力を持っているものもいるそうだ。神を喰らった魔族ならその能力の一部を引き継いでいるらしいからな。


「ええ、音を発生させないって能力なの。でも、彼は奇襲とか暗殺にそれを使うのではなく、前線に出て積極的に戦う戦闘狂よ。相手にするのは非常に厄介と言えるわ」

「なるほどな。それは自分にだけというわけではないのか」

「自分の投げたものも同じく無音にする事ができる。それに、彼は豪腕の持ち主よ。あれぐらいの岩なら軽く投げ飛ばせる」


 上位の魔族を複数相手にするのは厄介なことになりそうだ。


『我が主よ。今まで以上に警戒が必要なのは確かなようじゃな』

『はい。それに強い殺意のようなものも感じます。エレイン様、もしもの場合は……』

「そうだな。気を抜いている場合ではないってことだな」


 本気で立ち向かうべきかなどと考えている場合ではないか。一瞬の気の緩みが命取りになるのだ。今までの戦いとは一線を画しているのだからな。


「エレインっ!」


 すると、防壁の上からミリシアが呼びかけてきた。


「俺は大丈夫だ。ミリシアは?」

「私たちもルクラリズのおかげで助かったわ。でも、何人か兵士が負傷したみたいね」


 あの衝撃だと受け身が取れなければ大怪我に繋がるはずだ。幸いにも誰一人として直撃は免れたか。これ以上怪我人を出すのは相手の思う壺だな。

 距離が離れている以上、彼ら兵士が防壁から顔を出すのは危険だ。


「ミリシア。防壁の上から……」

「もう兵士たちは上から撤退させているわ。私もすぐにそっちに向かうねっ」


 そう言って彼女は魔剣を突き立てて高い防壁から飛び降りてきた。

 彼女の魔剣の能力は”分散”で加える力も加わる力も和らげる能力を持っている。非常に汎用性が高いとはいえ、使い熟すには相当の練度が必要となる。


「っと……まさか、あんな巨石が音もなく飛んでくるとはね……」


 地面に着した彼女は剣を収めながらそういった。

 無音で攻撃できるというのは厄介極まりないな。


「……私なら察知できるわ。同じ種族の力なら感じれるから」


 どうやら同じ上位種の魔族であるルクラリズは彼らの能力を感じることができるそうだ。


「そうか。それは心強いな」

「ええ、信頼してるわよ」


 こればかりは彼女を頼るしかないな。アンドレイアやクロノスの察知能力も低くはないが、手が増えるというのはいいことだろう。


「それで、上から見えたのだけど魔族が走り出して来たみたいよ。どうする?」

「少し早いが、計画を実行するとしようか」

「……いよいよね」


 想定していた第二の計画、まずは突撃してくる魔族の前線を停滞させるために俺たちが正面衝突することだ。

 ただの無謀な突撃のように思えるが、魔族を殲滅することが目的ではない。この規模の軍勢を切り崩すには前線に亀裂を加える必要があるのだ。そして、亀裂が入ったところであの砂塵に紛れて姿を晦ます。

 入り乱れる戦場の中で、視界が悪い状況なら相手は俺たちの存在を見失うことだろう。なによりも防壁からとてつもない攻撃を受けているのなら尚更だ。ちょうど大騎士がいることだ。どこにいるかわからない俺たちの存在に構っている場合ではないだろうからな。

 その停滞した前線の亀裂から奥へとゆっくり攻め込むことで相手の裏に出ることができる。

 いわゆる浸透戦術の一種だ。


 そう、作戦内容を頭の中で反芻していると魔族の足音が徐々に近づいてきた。


「では、行くか」

「ええ」

「うんっ」


 俺は聖剣イレイラを引き抜き、構える。これから行う初撃へと意識を集中させたのだ。

こんにちは、結坂有です。


ついに大規模戦闘の開戦ですね。

これからの怒涛の展開が楽しみです。どうなっていくのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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