表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
414/675

早朝、そして戦いの備えて

 翌朝、俺、エレインはいつものようにベッドで目が覚めた。

 横にはリーリアとルクラリズがいる。二人ともぐっすりと眠れているようだ。カーテン越しに外を見てみると日は出ていないようで薄暗いままだ。

 まだ起きるには早いため少し目を閉じて昨日のことを思い出す。


 訓練でルクラリズはそれなりに実力を身につけることが出来た。彼女は魔族であり、とてつもない能力を内に秘めている。そのため、常人では追いつけない量の練習をしても体がバテることはない。

 その膨大な体力でさまざまな型や技術を彼女は身に付けることが出来たのだ。

 ただ、彼女の得た技能の殆どは聖剣大国であるエルラトラムにおいては知っていて当然のことばかりなのだがな。剣術の基礎を知らない彼女がたった数日でそこまでの実力を手に入れただけでも評価はできるだろう。

 昨日の夜までにはルクラリズは剣術学院に入学できる最低要件を満たしたのだ。それに加えて、相手の死角を狙う特殊な技術を含めれば個人でもそれなりに戦えることだろう。しかし、聖剣などを聖剣を持っていないため、国にとっての直接的脅威になることは低い。

 聖剣や魔剣の能力はものによっては強力だからな。剣術の基礎や多少特殊な技能を持っていたからと言って聖剣使いを圧倒できない。


 そんな訓練を終えた俺たちに帰ってきたリーリアがいつもよりも少し気合の入った夕食を振る舞ってくれた。

 訓練の疲れを一気に回復してくれる美味しい料理だった。野菜の端材を煮込んで作った出汁を応用してスープやパスタを作ってくれたのだ。いつも美味しい料理を作ってくれるリーリアにはいつも驚かされる。ルクラリズもこんなにも美味しい料理は初めてだと言っていたぐらいだからな。

 魔族としての生活では何かを食べると言ったことはほとんどなかったそうだ。最低限の体を維持するための水だったりを摂取していただけらしいからな。こうした料理自体初めてのことだったのだろう。

 ただ、急に気合の入った料理を作る彼女にアレイシアやユレイナはなにかあったのかと不審がっていたがな。

 昨日のことを思い返しているとルクラリズが寝返りをして俺の左半身に乗りかかる。


「んんっ……」


 彼女の優しい寝息が俺の頬を撫でる。

 もちろん、俺の左右を挟むようにしてリーリアとルクラリズがいるため避けることはできなかった。避けようとすれば片方を起こすことになってしまうからな。

 長い訓練で疲れたであろうルクラリズとミリシアの依頼を引き受けたリーリアはゆっくりと休ませたいからな。

 俺は彼女の感触や温度を半身で感じながら再び目を閉じることにした。


 それから一時間ほど経った頃、リーリアが目を覚ました。


「……エレインしゃま?」


 少し寝ぼけた彼女がそう呼びかけてきた。


「おはよう。起きたのか?」

「おはようございますぅ。エレインしゃまぁ」


 寝ぼけ眼をこすりながら彼女はゆっくりと起き上がる。

 そして、再び俺の方を向くと彼女の頬が膨らんだ。


「……私もぉ、体には自信があるのでしゅよ?」


 そう言った彼女は俺の顔を覗き込んでいた。美しい茶髪がちょうど出てきた太陽に照らされ輝き、整った顔立ちがより美しく強調される。さらに寝起きで紅潮した彼女の表情は妖艶さを醸し出しており一気に淫らな雰囲気となる。


「よろしい、でしゅよね?」


 つぶやくように言った彼女がゆっくりと顔を近づけてくる。

 さすがに何のことを言っているのかわからないほど、俺は鈍感ではない。おそらく彼女はキスを狙っているのだろう。


「……っ!」


 俺とリーリアの唇が触れそうになった瞬間、ルクラリズが急に起き上がった。


「どうかしたのか?」


 飛び上がるように起き上がった彼女は周囲を見渡していた。その異様な様子に俺は彼女に問いかけると深刻そうな表情で俺の顔を見た。


「動き出したみたい」

「なにがだ?」

「魔族の大軍が押し寄せてくるわ」


 そういった彼女は今までにないほどに真剣な顔をしていた。魔族にしかわからないような異変をどうやら彼女は感じ取ったようだ。

 確かに俺も日が出る前に目が覚めることなんて今までなかったのだがな。

 すると、部屋の扉がノックされた。足音的にミリシアだろう。


「エレイン、起きてる?」

「ああ」


 ベッドから起き上がり、扉を開ける。

 するとそこには剣を携えたミリシアが立っていた。やはり魔族の気配にアレクも気付いたのだろうか。


「魔族の攻撃か」

「まだみたいだけどね。アレクもレイも準備してる。ユウナとナリアもすぐに議会の方へと向かうわ」

「まぁ準備をしておくに越したことはないからな。俺もすぐに取り掛かる」

「……確証はないけれど」


 扉を閉めて準備をしようとするとミリシアはそうつぶやくように言った。


「なんだ?」

「その軍勢の中にセシルがいるような気がするの。もちろん、アレクやエレインみたいに気配で感じ取ったわけではないのだけどね」

「そんな予感がする、か?」

「ええ、そうね」


 確かにミリシアは直感に優れているわけではなく、細かい気配を感じ取れない。しかし、思考から得られる予感においてはミリシアはかなり的中させている。本当にセシルがいるのかはわからないが、可能性を踏まえた上で俺も行動したほうがいいかもしれないな。


「なら、防衛はアレクやレイに任せて俺とミリシアは攻めの姿勢で行くべきだな」

「攻めの姿勢、ね。もし救出できるのだとしたら今しかないからね」


 魔族領はかなり広大だ。もし、今回を逃してしまえば、今度こそどこに彼女が連れて行かれるかわかったことじゃないからな。

 エルラトラムにとっても高い戦力を失うことは非常に困る。それに、俺個人的な理由ではあるが助けたいと思っているからな。俺がヴェルガーに向かったがために守ることが出来なかったのだ。助けたいと思うのは当然だろう。


「……エレイン様、私はどうすればいいでしょうか」


 さきほどの紅潮した表情はなく、平静を取り戻したリーリアが俺の背後から話しかけてきた。


「リーリアはアレクたちに同行してほしい。今回の攻撃で裏の連中も動き出すはずだからな」

「一つよろしいでしょうか」

「なんだ?」


 そう聞き返すと彼女は近づいてきて耳元で囁くように話す。


「……生きて、帰ってきてください」

「ああ、約束しよう」

「約束、ですよ?」

「もちろんだ」


 俺がそういうと彼女は耳元から離れて俺をまっすぐに見つめる。その表情からは嬉しいのか悲しいのかわからない微笑みを浮かべていた。


「私も準備を始めてきます」

「リーリアも気を付けてな」

「はい」


 彼女はそういうと自分の部屋へと戻り、自分の準備へと向かった。


「魔族の軍勢に向かうのは私とエレインと、ルクラリズでいいわね?」

「そうだな。街に向かったときと同じだ」

「……無事に助けられるといいわね」


 まぁセシルがどういう状態なのか全くわからないからな。少なくとも以前であった彼女の父は人間の体裁を保っているように思えたが、魔族のような肉体に変化しているという可能性もある。

 その場合は……それは今考えるべきではないか。


「とりあえず、私も部屋に入っていいかしら?」

「ああ」


 彼女を部屋に入れると、すぐにルクラリズも交えて作戦のことを話し始めた。

 どうやら大軍の攻撃の側面を抜けて、本陣へと侵入していく流れのようだ。そんな作戦を聞きながら、俺はその横で装備を身につけることにした。


「それで、魔族の前線が後退したときなんだけど……」


 すると、そこでミリシアは言葉を止めた。

 横目で彼女の様子を見てみると、俺の着替えをまじまじと見つめていた。


「なにか変か?」

「えっ! いや、なんでもないわよ。なんでもないから」


 顔を真っ赤にして俺から視線をそらした。

 何が彼女をそんなにさせたのかはわからない。戦闘服に着替えているとはいえ、すべての服を脱いでいるわけではないからな。なにも恥ずかしがるところはないように思えるが、感情というのは複雑なものだな。

 それから彼女は頬を軽く叩くと、丁寧に作戦のことについて話し始めたのであった。

こんにちは、結坂有です。


ついに戦いが始めるようです。

これから始める激しい戦いをお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ