表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
412/675

戦いは突然に

 私、セシルは混乱していた。

 必要なだけの運動をしてから今日は休もうと思っていたのだが、急に現れた謎の光の騎士に私の脳は暴走を極めていた。エレインという男の名前が気がかりだ。私の感情の、冷静ではいられなくなるこの感情の理由が知りたい。

 一体、彼の名前が何だというのだろうか。今の私は過去の記憶が曖昧だ。

 過去の私となにか縁のあった人物なのか、それとも全く関係のない呪文のようなものなのだろうか。


「……ゼイガイア、エレインっていうのは誰なの?」


 私は意を決してそうゼイガイアに聞いてみた。

 父であるマジアトーデがその名前を上げたときに質問しようと思っていた。そのときはあまり聞かないでほしいとゼイガイアの表情が訴えていたために聞かないでいた。自分とは関係のない話だと思っていたからだ。

 しかし、こう何度も頭痛を引き起こしているというのは何らかの関係があるはずだ。


「エレインって人は、私たち魔族の脅威なの? 答えて」


 私がそう加えて彼に質問をした。

 すると、彼は重く口を開いた。


「……そうだな。エレインという人物は脅威だ。この世界を滅ぼすほどに」

「そんな力を持った人間がいるの?」


 ひどい頭痛が再び襲いかかってくる。その痛みに耐えながらもゼイガイアの話を聞いてみる。もう逃げたりはしない。

 私の知らない過去の私、どんな事をしていたのか気になるのだ。


「彼は暴走しているのだ。人間には制御できないほどの力を内に秘めていることだろう。少なくとも、我々魔族が大軍で挑んでも単騎の彼に勝てるかどうかわからない」

「大軍? そんなの不可能よ。ゼイガイアはたった一人の人間に恐れているというの?」

「恐れているのではない。無駄に刺激して、犠牲者を出したくないだけだ」

「……なら、自分なら勝てるのかしら?」


 私がそう聞いてみると、彼は少しだけ口を噤んだ

 魔族の一番の脅威というのなら早い段階で排除するべきだ。手遅れになる前に、計画を邪魔される前に不安要素はすべて消し去る方が良い。


「痛手を負うのは間違いないだろうが、勝てる見込みはある」

「じゃ、やることは一つ、よね?」

「排除するべき、だな」


 彼の計画は完璧だ。人間も魔族も救済できる彼の計画は誰も不幸にならない。

 魔族も独立して生きることができ、そして、人間は一定の自由と一定の安全を保証される。

 もちろん、魔族に奉仕するという形ではあるものの、それらは全体としてみれば大したことはないだろう。生贄という言葉があるように人間も古くから何かを崇拝し、安全を祈っていた。その対象が魔族に変わるだけ、ただそれだけだ。


「だったら、今すぐにでも……」


 私がそうゼイガイアに話しかけようとした途端、どこかから鐘のような音が響いてきた。


「これは?」

「警鐘だが、安心しろ。攻撃を受けているというわけではない」

「え?」

「ただの来客だ。セシルはここで待機しておけ。明日は少し忙しくなる」


 そういって彼は私の部屋から出ていった。

 最初から最後まで彼の考えていることが全く読めない。心のなかではエレインを排除したいと考えているらしいが、何かが彼の実行を邪魔しているようでもあった。

 本当にエレインという存在があるのだとしたら、脅威なのには違いない。

 しかし、魔族の軍勢を単騎で全滅させることができるなんて噂すら聞いたことがない。そもそも人類と魔族の戦いの歴史でみてもそんな人間は誰一人として私は知らないのだから。

 そんな謎の存在を考えながら、私はベッドへと横たわることにした。


   ◆◆◆


 俺、アーレイクは一人かつての旧国へと向かっていた。

 この場所は魔族によって完全に滅ぼされてしまった国だ。当時は特殊な城を中心とした観光都市として栄えていたらしい。それも、俺が生まれる以前の話だがな。

 今は魔族の城へと変わり果ててしまったようで、不気味な建物となっている。

 数百年前までは不落城として名高い人気のあったらしいが、もはやそんな面影は一切ない。城下町は魔族の繁華街と化し、城は象徴としての役割を無くして娯楽会場へと変貌を遂げていた。

 個人的には許されないことだと思っている。数千年も積み立ててきた人間の歴史というものを無残に葬る魔族にはもう関わりたくはない。

 今は俺の目の前で話のできる魔族が警鐘を鳴らして、この地域を牛耳っている魔族を呼び出してもらっている。

 俺がここに来た理由はただ一つ、魔族との交渉だ。


「へへっ、人間が一人こんなところに来るなんてよ」

「交渉のために来ただけだ。何も戦いに来たわけではない」

「……だとしてもよ。ここは敵地だぜ? いつ襲われるかわかったことじゃねぇだろ」

「ふふっ、もう一度言ってみろ。次はお前の顎を”破壊”してみせようか」


 俺の聖剣は大聖剣のクラスに分類されている。名はシルヴェキュート、能力は”破壊”だ。対象の物理的破壊を瞬時に行うことができる。距離は限られているが、間合いにさえ入ればどんなものでも破壊する聖剣だ。

 まぁ発動条件も限られており、俺の寿命と引き換えに強力な力を繰り出しているためあまり乱用はしたくないというのが本音だがな。


「ちっ、聖剣がなければ生きていけねぇのかよ」

「そういうお前ら魔族は人間の肉体がなければ生きていけないのか」

「てめぇ、ゼイガイアの知り合いでなければここでっ!」


 そう目の前の魔族が言葉を荒げた途端、爆音とともに彼は吹き飛ばされていた。

 どうやら目当ての魔族が来たようだ。


「部下が失礼したな」

「慣れていることだ」

「……今回はなんのようだ」


 そう言って彼、ゼイガイアは俺の目を強く睨みつけながら聞いてきた。

 彼とは何度も交渉している。俺の心意を覗き込もうと必死なのだろう。俺も俺とて、魔族の交渉には慣れているつもりだ。


「立ち話もあれだからな。あるのだろ。来客室が」

「悪いが、先約がいる。ここで用件を済ませろ」


 観光地として有名だった城の来客室にでも入ろうと思ったのだが、誰かに使われていしまっているらしい。

 まぁそれなら仕方ないか。そう焦る必要もないだろう。


「単刀直入に言うが、今後の取引はできないとだけ伝えに来た」

「……つまり?」

「人間の死体の提供はできないということだ」

「一方的に契約を破棄する、そう言いたいのか」


 そう、俺はこの連中がエルラトラムへと攻撃してこないようにと思い、人間の新鮮な死体と引き換えに大規模な攻撃を控えるよう交渉していた。

 しかし、それでもエルラトラムを攻撃したいと考えている魔族は目の前のゼイガイア以外にもいるため、すべての攻撃を止めることは出来なかったがな。それでもかなり少なくなった方だろう。

 鋭い眼光で俺を睨みつけてくる彼に俺は小さくため息を吐いてから口を開いた。


「……そのとおりだ」


 そう改めて言うと、彼はゆっくりと目を閉じて大きくうなずいた。


「契約を破棄した場合、直ちに攻撃を開始するとなっていた。それでもいいのか」

「できるものならな」

「やはり、人間は信用ならない。半年の信頼関係は地に付いた」

「そもそも、俺は魔族を信用してなんていない」


 交渉なんてそういうものだ。

 信頼を築こうとするのは間違いなのだ。交渉というのは高度な戦場でもある。取引するのも、譲歩するのも、契約するのも全ては戦略の内だ。

 最初から対等な立場というわけではないのだ。


「……お前は一体どこまで我々魔族を下に見ているんだ」

「逆に聞くが、なぜ俺たちが魔族の下だと思った? 信用できない部下は切り捨てるのが常だろう」

「全ては楽園のため、理想郷のためだ」

「夢を見るのなら寝てからだな」

「くっ!」


 そう言ってゼイガイアが俺へと攻撃してきた。今の俺の実力、そして寿命を考えても彼には勝てない。

 だが、逃げるための手段なら考えている。


「ふっ!」


 俺は大剣を振り下ろし、砂塵を巻き上げる。能力は最小限に抑えて、俺は砂塵の中を走り抜ける。すでに逃げるためのルートは確保している。

 それにゼイガイアも深くまで追ってこないはずだ。一対一で戦えば、相討ちになる可能性が高いからだ。そもそも、魔族の下で生き続けるなんてことはできない。自由を得るために人間は生きているのだからな。

 魔族によって作られた自由の中で、どうして俺たちが生きなければいけないのだろうか。俺たちは人間、どう生きるもどう死ぬも俺たちが決めることだ。


 しかし、アレイシアには何の連絡もせずにやったが大丈夫だろうか。

 まぁ彼女ならうまくやれるか。小さき盾もエレインもいることだしな。

こんにちは、結坂有です。


魔族との全面戦争になりそうですね。

ゼイガイア軍勢、どれほどの勢力があるのでしょうか。

今後の展開は面白くなっていきそうですね。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。

Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。

Twitter→@YuisakaYu

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ