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戦いの結果

 ミーナは俺の訓練に一週間も耐えた。

 そして、音で剣先を読み取れるまでに成長したのであった。

 今、俺とミーナは朝の訓練場で最終調整をしていた。


「エレイン、本当に私は強くなったの?」


 強くなったかどうかなど、彼女自身にはわからないものだ。

 しかし、俺が彼女の成長を感じているのは確かだ。

 彼女なら一度ぐらいであれば、二位に勝てるのかも知れない。俺はそう確信している。


「確実に強くなっているはずだ。これなら十分に見返してやることもできるだろう」

「本当……なの?」

「間違いない」


 俺がそう迷わず答えられるのには理由がある。

 まず一つに、間合い内であれば音だけでも剣筋がわかるという点だ。

 それだけでも十分に彼女の能力に欠かせないものであるのは間違いないだろう。


 そして、二つ目に彼女自身の剣術だ。

 受けの剣術であるのだが、反撃への手段が豊富なあの剣術ならフィンに勝てるはずだ。

 彼女の剣術はどの状態でも自分が優位に働くように動きが洗練されている。

 当然、フィンも初見では彼女の反撃に対処が遅れることが予想される。


「自分の力を十分に発揮することができれば、問題はない。好きに動け」


 俺は彼女に合わせるだけだ。

 セシルも本気で挑んでくると言っていた。

 彼女の聖剣も非常に厄介だということは知っているのだが、一体どれほどのものなのかは受けてみないとわからない。

 俺も不安要素はある程度残っているものの、今のままではどうすることもできないことばかりだ。

 そんな小さなことで試合を棄権するなどあり得ないのだ。


「うん。私、頑張ってみる」

「その調子だ」


 ミーナの目はすでに決意が固まっているようだ。

 底辺が成績最上位と戦う。

 そんな話題性の高い試合が今始まろうとしているのだから。


 教室に向かうと皆が俺たちを見つめる。


「エレイン様、必ず勝てますよ」

「応援してくれるのか」

「応援などではありません。確信です」


 リーリアはそう真っ直ぐな目で俺を見つめてくる。

 その目は確信を抱いているように感じた。

 まぁ何があっても負けることはないだろう。


「エレインは本当に何者なの?」

「ただの養子だ」


 書類上ではただの養子、誰かの息子というわけでもなく何かの剣術の使い手でもないのだ。


「それだけだとは考えられないけどね……まぁいいわ。また後で」


 そういうとミーナは自分の席へと向かった。

 俺も自分の席に着くことにした。

 すると、リンネが話しかけてくる。


「別の意味で有名人ね」

「注目されるのは好きではないのだがな」

「……気にしていないように見えるけど?」


 リンネは肘をついて、俺の方を向く。


「気にしたところで何も変わらないからな」

「へぇー 大人なんだね」

「そうか?」


 俺がリンネの方を向くと頬を赤くしていた。

 彼女が俺に抱いている感情とは一体何なのだろうか。俺にはよくわからない。

 そんなことを聞いてみると、数人の教師が教室に入ってきた。


「おはよう、今日は剣術競技がある。時間があまりないからな。すぐに対戦表を発表するぞ」


 そう言って教師の一人が黒板に対戦表を張り出した。


「皆が注目しているのは一番最初にある最上位と最下位の戦いだろうな。対戦者は早速準備に取り掛かってくれ」

「お前ら逃げんじゃねぇぞ!」


 すると、フィンが立ち上がって俺とミーナの方に視線を飛ばした。


「あの人たちは逃げないわ。行きましょ」


 セシルが威圧をしている彼を引っ張るように連れて行った。

 まぁいつまでも威圧している場合ではないからな。

 彼も相当昂っているようだが、ミーナなら問題なく対処できるだろう。




 それから俺とミーナは対戦場の控え室へと向かった。

 リーリアは少し離れた場所で見ることとなったために先に対戦場へと向かっていった。


「エレイン、私はいつも通りでいいのよね」

「ああ、平常心が大切だからな。何も特別なことを考えなくてもいい」


 俺はできそうにないことだが、ミーナは平常心で戦うことができる人間だ。

 そのためいつでも平均的な実力を発揮する。

 しかし、それが逆に短所でもある。


「わかったわ。あなたもセシルには気をつけてね」

「お互いに頑張ろう」


 俺がそういうとミーナは大きく頷いた。


『エレイン、ミーナ。シールドを装着して会場に入ってください』


 そうアナウンスが鳴る。


「行くわよ」

「ああ」


 そして、俺たちは剣を持ち会場へと向かった。


 会場にはすでにセシルとフィンが立っており、剣を構えていつでも戦える状態を作っていた。


「ミーナ。フィンの持ち手は順手だが、急な攻撃には気を付けろ」

「え? どういうこと?」


 彼女は首を傾げてそう言った。

 フィンの攻撃は非常に激しいものだろう。セシルほどの素早さがなければ、対処は難しい。

 しかし、それを全て受け切れるほどの防御力がある。

 そして何よりもカウンター攻撃が極めて強力だ。その点で言えば、どの剣術よりもグレイス流剣術が優れていると言える。


「剣撃は音で判断しろ、見るべきところは相手の足だ」

「……よくわからないけれど、そこを目で見ればいいのね」

「そうだ」


 足を見ることでどのような動きをするか推測を立てることができる。

 剣に関しては音や空気の流れである程度対処できるところまでミーナは進化している。

 俺のそれなりに素早い剣撃を何回か防いでいたからな。

 一週間にしては成長が早い。


「わかったわ」


 そう言ってミーナは剣を構える。

 その構えはグレイス流剣術の基本の構えだ。

 俺もそれをみた後に構えをとる。

 まぁ俺の構えは側からすればただ剣を持っているだけに見えるだろうがな。


『それではカウントダウンを開始します』


 そうアナウンスがいうと、モニターに数字が表示される。

 十秒間の見つめ合い。その間にフィンの動きを考える。

 彼に関しては一度も見たことがないから、予想を立てるのは難しい。

 あの視線の動き、そして上段の構えから上から斬り下ろす形の攻撃に違いない。

 威力は全力の一歩手前、そうすることで追撃の幅を増やす算段だろう。

 俺なら剣を交えずに避けることで一瞬で倒せるが、ミーナにはそれができない。


『始め!』


 電子音とともに開始の合図が鳴る。


 やはりフィンが一番先に走り始めた。

 彼は一直線にミーナに突撃する。セシルは彼のその巨躯に隠れるように走ってきている。

 フィンの体格で姿は全く見えないが、空気の流れと音は完全に聞こえている。

 ミーナも冷静なところから受け止めれる自信に満ち溢れている様子だ。


 上方向から大きな刃の戦斧が振り下ろされる。そして、それをミーナはいとも簡単に防ぐ。

 だが、ミーナは反撃をしない。なぜならフィンの足が浮いているからだ。

 防がれたと理解したフィンは一瞬にして体を回転させ、横方向からの攻撃を加える。


 よく足を見ていたな。俺の忠告をしっかりと聞いていたということだろう。


 フィンが一瞬で回転できた理由、それは足を浮かせていたからだ。 連続した攻撃が得意のようだ。洗練さはないもののその暴力的な手数で相手を圧倒するタイプのようだ。

 事実、ミーナは反撃するタイミングを逃している。

 そして、俺もセシルの攻撃を防がなければいけない。


「はっ!」


 一瞬で畳み掛けるつもりだったのか、強力な突きが俺の胸元へと襲いかかってくる。

 間合いの長い剣のためいつもより素早い判断が必要だ。


「なっ」

「その程度では遅過ぎる」

「奇襲のつもりだったけど見破られていたわけね」

「あの戦略を取るのなら足音も同調させるべきだ」


 すると、セシルはぷくっと頬を一瞬膨らませたが、すぐに表情を戻して襲いかかってくる。

 セシルの剣撃は非常に素早く、なかなか受け切るのが楽しい。

 そして、彼女自身も楽しんでいる様子だ。


 とは言っても、勝負の時間はそう長くはない。

 フィンの手数が明らかに減っているのがわかったからだ。


「こいつっ!」

「何?」


 明らかにフィンは動揺している。

 それもそのはずだ。ミーナのそれは手数を封じる剣術でもあるのだからな。

 俺もそれには驚いたが、順応するのにはそう難しくはなかった。

 ミーナの剣に意識を取られていてはいけないのだ。


「雑魚のくせによ!」


 すると、彼は俊足で駆け出し、素早い横方向の連続的な攻撃でミーナを攻める。

 だが、その速さではミーナは物足りないように感じただろう。


 フィンは俺が想定していたよりもずっと遅かったのだからな。彼の筋肉量からすればもう少し素早く重い攻撃が可能であるのに、技術が伴っていない証拠だ。

 それゆえに洗練されていない攻撃となっている。そのような剣筋ではミーナの構えを崩すことはできない。


「嘘だろっ」

「せい!」


 素早い攻撃だが、洗練されていないがゆえに隙が生まれている。その一瞬の隙をミーナは見逃さなかった。

 彼女の大きな大剣が回転する。

 その回転の力でフィンの剣は絡めとられ、完全に態勢を崩してしまった。

 どうやら勝負はあったようだ。


「最下位をあそこまで成長させるとはね」


 セシルがそういうと同時に会場がどっと盛り上がる。

 それもそのはずだ。弱いと蔑まされていたミーナが学院二位を破ったのだからな。

 観客にとっては英雄譚でも見ているかのようだろう。


「想定よりもフィンが弱かったようだ」

「彼の連撃は強力、よく受け切ったわね」


 確かに強力だが、洗練されていない。もう少し自分の剣と向き合うべきだったな。


「でも、よそ見をしている場合かしら」


 セシルが走り出してきた。

 間合いの取り方は非常にうまい。お手本のように丁寧な動きをしている。さすがは学院一位の実力者。

 だが、それが(あだ)となってしまっているのだがな。


「悪いがよそ見など生まれてから一度もしたことがない」

「え?」


 一瞬の隙よりもさらに短い、刹那の隙。

 俺はそれすらも見逃さない。

 人間の意識というのは案外何も見ていない。どこかを注視すればその他が疎かになる。

 そして、完全な意識外からの攻撃は誰であっても対処することはできないのだ。


「勝負はあったようだな」


 俺のイレイラの剣先はセシルの首を捉えている。

 彼女の剣はまだ振りかぶったまま、間合いを詰める前に俺が先手を打ったということだ。


「……どうして」

「間合いは十分に取れている。だが、俺の足を見ていなかった。それが敗因だ」


 すると、セシルは俺の足元を見る。


「うそ……」


 彼女は俺の足の角度を見て驚いている。


「人の脳というものは全てを正確に捉えていない。目で捉えたものを脳は簡素化して処理しているからな」


 事実、全てを正確に認識するには人間の脳では荷が重過ぎる。そのため、必要ではない箇所を勝手に脳が置き換えている。

 そうすることで脳は低いエネルギーで高い能力を発揮しているのだ。


「いつの間に足を曲げていたの」

「セシルが走り出す前からだ。自分で気付いていないようだがな」

「……私の負けよ」


 彼女の宣言とともに会場が興奮と混乱の入り混じった複雑な声を上げている。


『勝負あり。勝者はエレインとミーナ!』


 こうして俺たちは学院一位に勝ってしまったのであった。

 すると、セシルが声をあげた。


「エレイン、トレードを申請するわ」

「どういうことだ?」

「私のパートナーのフィンとあなたを入れ替える。それでいい?」

「一体何を言っている?」


 パートナーは一年間一緒ではないのだろうか。セシルの発言に俺が理解できずにいると、彼女は口を開いた。


「学院上位としての権利を使うわ」


 意識していなかったが、学院上位帯となって何も権利が生まれないわけがないのだ。

 俺はそんなことを全く考えてなどいなかったのであった。

こんにちは、結坂有です。

先に一つ連絡を……更新遅れました!申し訳ございません!(全力土下座)

加筆していると思いの外、まとまりが悪くなってしまって修正に時間がかかってしまいました…

それではいつものまとめです。


ミーナはエレインとの訓練で凄まじい実力を手に入れたようで、学院二位を負かすことに成功しました。

そして、グレイス流剣術の強みを活かして自分の剣術が雑魚ではないということも証明したようです。

それにしてもセシルの策略にまんまと嵌ってしまったエレインはこれからどうなるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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