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私にもっと力を……

 朝食を食べ終えた私、ルクラリズはエレインとリーリアと一緒に昨日と同じく訓練場へと向かっていた。

 昨日の私はリーリアと違って相手の死角を狙うと言った技術はまだ未熟なままだ。意識すればうまくできるとはいえ、戦いの場という極限状態で技を意識することができるだろうか。

 魔族とは言え、実戦経験の少ない私が覚えたばかりの技を使い熟せるとは思えない。

 エレインを通じて少しずつ実戦を積んでいくしか、今の私にはないのだろう。


「エレイン様、今日はどのような訓練をなされるのですか?」

「そうだな……」


 そう、彼が今日の訓練内容を話そうとした途端、訓練場の扉が開いた。

 扉を開いたのはミリシアで、どうやら何か用があるらしい。


「……ちょっといいかしら?」

「どうかしたか?」

「リーリアに頼みたいことがあるんだけど」

「なんでしょうか」


 そう言ってリーリアがミリシアの方を向く。

 以前、ミリシアとは共に魔族の街へと向かった。そのときに感じた印象としては強い女性と言った感じだ。彼女は頭の賢さと剣術の素早さを兼ね備えているらしく、それらは実際に戦いで活かされているのだろう。


「あの、その魔剣の力を使いたいの。大丈夫かしら?」

「魔剣の能力を使いたいのですか」

「ええ、調査のためにね」


 彼女がそう言うとリーリアはエレインの方を向いた。判断を彼に委ねているようだ。この二人の関係はやはりただの主従関係を超えているような気がする。まぁ私は人間の社会をまだ何も知らないわけで、これが普通なのかもしれないけれど。


「……リーリア、向かってくれるか」

「はい。わかりました」

「助かるわ」


 リーリアはそう返事をすると、ミリシアの方へと歩いていった。

 以前、話で聞いたが、リーリアの魔剣は精神系の能力を持っているようで、それらをうまく利用すれば簡単に人の心を自由に覗き込むことができるそうだ。

 かなり強力なようにも聞こえるものの、相手の精神力が強い場合は少し苦労するのだそうだ。その場合は拷問などで精神的に疲弊させてから能力を使うらしい。


 リーリアが訓練場を出てから、エレインは訓練の準備を始めた。


「それで、今日の訓練は?」

「新しいことを教えてもいいのだが、昨日の続きをしようか」

「続きってことは死角を狙う技術の?」

「ああ、それができたら次の段階に進むとしよう」


 死角を狙ったとしても基礎が追いついていない私にはうまくそれを利用することが出来ない。技という知識はただ持っているだけでは意味がない。それを実行するだけの力だったり経験がなければいけないのだ。

 当然ながら、今の私に必要なのはひたすら基礎を身に付けるべきなのだろう。


「……私はまだまだ弱いままなのかしら」

「俺からすれば十分過ぎる力を持っているような気がするがな。ただ、完全に信頼してもいい存在なのかはまだ判断できていないだけだ」

「信頼出来ていないのに、そんな技術を教えても良かったわけなの?」


 二本の木剣を取り出したエレインは私の目を見て口を開いた。


「一つや二つ技術を真似されたぐらいで俺を倒すことは出来ない」


 そういった彼の目は確信に満ちていた。

 きっとそれは事実なのだろう。それに小手先の技術を教えたとしても彼の強さは揺るがない。数日も彼を見てきてもうそれはわかりきっていることだ。

 彼の強さは高い技術だけではない。どんな状況でも自らの技能を最大限に発揮できるというところにあるのだから。少し訓練しただけの私では到底追いつきそうにない領域だろう。


「ほんと、底が知れないってあなたのことを言うのね」

「そうなのか?」

「少なくとも私では追いつけないでしょうね」

「どうだろうな。ルクラリズも聖剣を使えばもっと強くなれると思うがな」


 そう彼が私の目を見ながら言ってくれた。

 どういった意図でそう言っているのかはわからない。確かに精霊に認められでもすれば誰でも聖剣を手に入れることができる。しかし、本当に強くなれるのだろうか。

 私はもっと力がほしいと思っている。人間になるためにも、人間に認められるためにも自分に力がないとだめだ。魔族という力を持っているものの、それらは人間にとって何の利益にもならない。だから、私は人間としての力がほしいのだ。


「聖剣、本質が魔族の私に扱えるのかしら」

「不可能ではないだろうな。精霊は本人の深層心理を見極める存在だ。もし、ルクラリズが本気で人間や精霊を守りたいと思うのであれば、精霊もそれに応えてくれるはずだ」

「精霊は魔族のことが嫌いではないの?」

「本来、精霊は全ての生物を平等に扱うという掟があったらしいからな。同じく生物である魔族も差別することはない。ましてや味方となる者は拒まないだろう」


 確かにその考えでいけばそうなのだろう。

 それに魔族でも聖剣ではないものの、魔剣と呼ばれるものを所持している者も少なからずいたことを思い出した。記憶の奥底に無駄に自慢している魔族が浮かんでくる。

 とはいえ、彼ら精霊を納得させるほどの決意や覚悟を私が持っているのか?


「まぁそんなに深く考える必要はない。ただ、今は訓練を続けるだけだ」

「……そう、かもしれないわね。まだ聖剣を手に入れるかも決まっていないわけだし、先のことは考えても無駄ね」

「そうだな」


 そう言って、エレインは手に持っていた木剣を私に渡した。

 木剣の形は直剣で比較的扱いやすいもののようだ。しかし、持ってみると木剣の割には少し重たいと感じた。


「……重たいわね」

「ああ、芯に鉄の棒を埋め込んでいるからな」

「どうして?」

「小さき盾の訓練は激しさを極めている。それらに耐えうるようにするには芯を強くする必要があったんだ」


 普段からどのような訓練を行っているのだろうか。彼らとは会話をする程度でまだ訓練しているところを見たことがない。きっと実戦以上に激しいことをしているのだろう。

 そう考えるとエレインや彼ら小さき盾の人たちは今までどんな生活を送ってきたのかが気になってきた。魔族でも彼らほどの実力を高めているのは見たことがない。神を喰らった時点で、上位魔族としての実力や能力がすでに決まっているのだ。訓練をしたからと言ってもそこまで大差はない。

 それほどに魔族というのは能力主義であり、格差社会だった。

 人間もある意味ではそうなのかもしれないが、努力をすればある程度は報われる。そういったところは魔族と違っていいところだと私は思う。


「私も彼らほどの実力を身に付けられるのかしら」

「すぐには難しいが、それなりに高い実力は得られるだろうな。魔族としての実力を合わせれば互角ぐらいには戦えるはずだ」

「……本当かどうかはわからないけれど、エレインの言葉なら信じれるわ」

「そうか。それじゃ昨日教えた型の復習から入るか」


 それから私はエレインの動きをしっかり頭に叩き込んで、そして、それを実践する。

 型自体には実戦性のあるわけではないものの、その中に含まれている動きの一つ一つは実戦でも非常に役立つものなのだそうだ。まだ練習をしている段階ではわからないけれど、それもゆっくりと学んでいくことにしよう。


 こんなにも真剣に訓練はしたことがなかったし、体を最大限に活かすエレインの動きは私にとっても、いや、人間の体をした全てにとって非常に重要な意義のあるもののように思える。

 それほどに彼の動きは無駄がなく、それでいて美しい。そんな彼の技を間近で見れる私はきっと幸せ者なのだろう。

こんにちは、結坂有です。


ルクラリズもゆっくりとですが、これからしっかりと実力を積んでいくようですね。

これからどのように彼女は進化していくのでしょうか。

今後の彼女の活躍にも注目ですね。


それでは次回もお楽しみに……



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