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幻影を追い求めて

 一〇分ほど経っただろうか。

 強烈な頭痛に襲われ、このベンチに座り込んでいた私はふと顔を上げた。

 まだ若干の痛みはあるものの、かなりマシにはなってきている。


「……」


 ゼイガイアは別の方向を向いてなにかを考えている様子だった。彼は私のもうひとりの父のような存在だ。きっと彼は記憶が曖昧な私のことを考えてくれているのだろう。マジアトーデが実父ではあるものの、ゼイガイアも同じように尊敬している。いや、敬愛に等しいものなのかもしれない。


「もう痛くはないのか?」

「あ、ごめんなさい。もう大丈夫よ」

「気にするな。ここは戦場でもなんでもないからな」


 確かにここは魔族の中心地となっている場所の一つだ。世界にはいくつかこのような場所がある。上位の魔族が世界を統一するためにはこうした大きな拠点が必要となる。もちろん、こんなところを人間が攻め込んでくることはほぼ不可能で安全と言えるだろう。

 土台には神樹の亡骸を使っているため、資源には困らない。体を維持するための食糧や水も豊富だ。


「……それにしても、急に頭痛なんて初めてだわ」

「そうか。昨日の交流会で疲れていたのかもな」

「しっかりと睡眠したつもりなんだけどね」


 彼の言うように疲労が溜まっていたのだろうか。もしくはなにか嫌な前兆なのだろうか。どちらにしても今はあまり深く考えない方がいい。


「無意識に疲れは溜まるものだ。あの魔族の連中と夜中までゲームをしていたのだろう?」

「まぁ確かにそうね。睡眠があまり取れていなかったのかもしれないわね」

「……それと、マジアトーデが相手したヤツのことは気にしなくていい。俺たちの問題だからな」


 そう言って彼はまた私には関係ないと突き放す。

 私にもゼイガイアのやろうとしていることを応援したいし、支援もしたい。できることならもっと私にも戦わせてほしい。

 今こうしてベンチに座っている間にも一部の上位種と下位の魔族はどこかの人間の領土を攻撃している。私には十分な力があるのだ。

 それは昨日のゲーム、狭い部屋で魔族に捕まらないように逃げ回るというゲームだ。鬼ごっこのようなものではあるが、巨大な体躯を持った魔族が多く集まっていたためにかなり苦労したのを思い出した。

 ゲームの結果は私の勝ちで、一度も魔族に捕まることがなかったのだ。もし敵に囲まれた場合でも私一人でなんとか逃げ切れる自身はある。あの魔族の熾烈な攻撃を避け続けることが出来たのだから。


「その顔、自分も戦いたいという顔だな」

「……え?」

「気にしなくていいが、今のお前では無理だ」

「どうしてかしら? 私は一人でも十分戦えるわ」


 私が戦えない理由はなにもないはず。彼も私の実力は知っている。日々訓練も続けているのは戦うためではないのだろうか。


「高い実力を持っているのは確かだ。俺も認めている。だからこそ前線に出てほしくない」

「実力がある者が戦う、そうではないの?」

「戦うべき日のために今は訓練を続けてほしいだけだ。お前の役目はもう少し後で決める」

「……それまではただひたすら訓練を続けるということ」

「不満は残るだろうが、俺とて考えがあるんだ。悪いな」


 何か戦略上の理由があるらしい。それなら私もこれ以上のことは言えない。ここ一体の魔族を牛耳っているのはゼイガイアなのだ。つまり彼中心ということ、彼の判断に私たちは従うしかない。


「本当の楽園を作るためなら何でもするわ。戦いたいというのは私のわがままだから」

「そうか」


 そういった彼の表情は私の目を見ているようには見えなかった。どこか遠くの何かを見つめている、そんな印象を持った。


 それからまた城へと戻った。

 睡眠不足という可能性もあることから、今は休んでいたほうがいいとゼイガイアが判断したからだ。別に何か予定があったわけでもないし、一日ぐらいは何もしない日があってもいいかもしれない。

 彼が言った心のケアに睡眠が含まれていることだ。訓練は軽く体を動かしただけにとどめておいて、今日は休むことにしたのであった。


   ◆◆◆


 俺、レイは議会の倉庫にいた。目の前には剣を振り下ろしたアレクが立っている。


「……へ?」


 椅子に座っているルーリャは一瞬の出来事のため、何が起こったのかわからずにいた。

 しかし、すぐに自分の髪の毛が半分に斬られているのを彼女は気付いたようだ。


「き、斬られたの?」

「ああ」

「おいら、生きてるッスか?」

「もちろんだよ」

「……本当は首だけとか、ないッスか?」


 慌てて自分の体を手で確認し始める。

 アレクが神速の技で斬ったのは彼女の髪の毛だけだった。当然ながら、どこも怪我をしていない。

 まぁあの攻撃に殺意があれば、今頃彼女は体ごと半分に斬り裂かれていたことだろう。


「はっ、首がくっついているッス」

「いちいちうるせぇ。とりあえず、お前は今さっき死んだばかりだろ」

「……」


 すると、ルーリャは周囲を見渡し始めた。そして、次第に彼女の表情が青ざめていくのがわかった。


「あ?」

「……やっぱりここは天国ッスか!」

「違うよ。ここは議会の倉庫で、君はここで死んだことにしておくってことだよ」

「死んだことにしておく、ッスか?」


 彼女は首を傾げてそう聞いてきた。

 確かに本人からすればどういう意味があってそのようなことをしたのかわからないか。


「うん。君は誰かに狙われているんだったね。でも、作戦に気付かれて君は死んでしまった。それなら誰も君を罰することは出来ないよ」

「……確かにっ。いい考えッス!」

「理解できたんなら、この袋の中に入ってくれ」


 俺は倉庫の中にあった死体袋をルーリャの目の前に投げる。

 肩を震わせて恐怖に驚いた様子であったが、すぐに死体袋の口を開ける。


「このまま、どこかの山奥に……」

「生き埋めなんて悪趣味なことしねぇよ。さっさと入れ」

「りょ、了解ッス」


 俺がそう言うと彼女はささっと素早く袋の中へと入っていった。

 とりあえず、ルーリャを説得させることが出来たのはよかったが、これからどうするべきだろうか。

 まず、彼女を脅した連中の正体を暴く必要があるな。

 上位の魔族がすでに国内に入り込んでいるというのは可能性としてはあった。ミリシアの予想が当たっているとは驚きだな。まぁ存在するということだけでもわかったのは大きな進歩と言えるだろう。

 先の計画を本格的に始めるときが来たようだ。


「その死体袋を背負って議長室へと向かうとしようか」

「おうよ」


 俺は死体袋を背負う。すると、一瞬暴れたもののすぐに力がなくなり、死体役を努めてくれている。

 この上体なら誰もが死体を運んでいるとわかることだろう。


「外に三人、気配があるね」

「少しだけ見せておくか?」

「そうだね。まずは……」


 アレクが俺のために丁寧にわかりやすく作戦を教えてくれた。

 まず、アレクが扉を開ける。そのときに一瞬だけ外に俺が死体袋を背負っているのを見せることにしたのだ。そして、すぐにアレクが台車を持って倉庫の中に入り、少ししてから俺たちは倉庫を出る。

 それだけ見れば何か荷物を持って移動しているように見えるはずだ。

 そして、細かい配置や角度なんかも考えたあと、俺たちはその作戦を実行することにした。


 倉庫を出てしばらくすると、アレクがそう話しかけてきた。


「……作戦はうまく行ったようだね」

「わかんのか?」

「うん。僕たちが台車を持って倉庫を出てきたときに妙な動きがあったんだ。おそらく僕たちの行動を見てルーリャが死んだと思ったんだろうね」


 どうやら作戦は成功しているようだ。気配で相手の動きがある程度わかるっていうアレクの能力にはいつも驚かされている。まぁ今となっては当然と言えるのかもしれないがな。


「へっ、作戦成功ってことか」

「かなり自然にできたからね。大丈夫だよ」

「……」


 台車の中に押し込められているルーリャが何かを言おうとしたようだが、まぁ気にしないことにした。

 それからしばらく台車を転がして、俺たちは議長室へと入ることにした。

こんにちは、結坂有です。


ルーリャはどうやら無事だったようですね。

これから彼女は活躍するのでしょうか。それともただの警備員なのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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