狙うは影から
翌日、小さき盾である俺はアレクとともにすぐに議会へと向かっていた。議員はまだ集まってもいない明け方だ。
まだ議会の中は薄暗く人気はまったくないものの、それでも重要な情報が集まる議会は警備がしっかりしていた。
「ここの議長よりも早く来たんだが、なにすんだ?」
「昨日のアレイシアの話が気になってね。僕たちでも調査をしようと思ってるんだ」
「議員の連中のことか?」
「議員の可能性は低いだろうね。もしあの手紙をここの議員が書いたのであれば、確信があるか、ただの馬鹿だね」
確かに議員は俺たち小さき盾がどれほど強い実力を持っているのか知っているはずだ。魔族の大軍を四人で制圧したという実績はエルラトラムのどの部隊を見てみても成し遂げていない。
まぁ聖騎士団という強力な聖剣使いの集団が裏で関わっているとなれば話は別だが、彼らが関わっている可能性は極めて低いと思っていいと昨日、ミリシアが言っていたな。聖騎士団は団長を中心とした組織のためありえないそうだ。
団長を務めているアドリスはアレイシア以外の議員を信用していない様子だし、なによりも自分の考えをしっかりと持っている。そんな彼が怪しい議員の話など聞く気にもなれないだろうな。
「アレクがそこまで言うのならそうなのだろうな。だが、低いってだけでゼロってわけではないんだろ?」
「警戒はしておいたほうがいいからね。今集中するべき相手は議員よりもその周辺が危険だろう」
「秘書だったり、事務員だったりか?」
「うん。そうだね」
信頼できる議員の秘書だからといってその人も同等に信頼できるとは言えない。あくまで他人同士なわけだからな。事務員の人でも同じく言える。議員のように極秘資料などを読むことができない上に、議会のやり方に疑問を抱いている人も少なからずいるはずだ。
そういった人たちはどこかのタイミングで反逆行為に及ぶ可能性が非常に高い。多くの人間が支持する今の議長でも全員が支持しているわけではない。反対する連中も大多数ではないもののそれなりの数がいることだろう。
「あの反議会組織の人たちも聖剣使いの人が多かったことが怪しい。きっと議会に関係している人で、それでいて軍部の管轄をしていたのかもしれないね」
「議会軍ってやつか?」
「うん。まずはその議会軍を取り仕切っていた人のリストを探して……」
すると、アレクは別の方向へと視線を向ける。
「どうした?」
「廊下の奥で誰かに見られた気がする」
「……へっ、隠れたってことはビビってるってことだろ。気にすることはねぇ」
「そうだね。資料室に向かおうか」
それから俺たちは議会の地下にある資料室へと向かうことにした。
◆◆◆
俺、エレインは妙な圧迫感に目が覚めた。
「……」
その圧迫感の正体は俺の両端にいる二人の存在だ。
右隣にいるのはリーリア、彼女は無意識なのか俺の腕を抱き枕のようにして眠ることが多い。そのため、彼女の豊満で柔らかい胸が腕を包み込んでいる。
そして、左にいるのはルクラリズだ。彼女は俺を抱き枕のようにはせず、ただ寝転んでいるだけではあるのだが、それにしても顔が近く、彼女の吐息が俺の首元をくすぐる。
「エレイン様?」
身動きが取れずにしばらく待っているとリーリアが目を覚ました。
「……起きたか」
「おはようございます。エレイン様」
「おはよう。起きるにしては少し早過ぎるか?」
彼女はゆっくりと俺の腕を解放すると起き上がって時計を確認した。時刻は五時を過ぎた頃を指していた。
「そうですね。ですが、私は朝食の準備をしますので丁度いい時間です」
「そうか。俺はもう少し横になっておくよ」
「……わかりました」
まだ薄明かりのため表情まではよく見えなかったが、物悲しそうなその声である程度は察しが付いてきた。
彼女とは長い付き合いなのだ。少しぐらいは俺も彼女の感情がわかるようになってきたのかもしれない。俺はすぐにリーリアを呼び止めることにした。
「リーリア」
「はい、なんでしょうか」
「こっちに来てくれるか?」
「……はい」
首を傾げながら近づいてくる彼女の頭を撫でようと茶色の美しい髪に手を置く。
「ひゃぁ……」
すると、小さくも明らかに動揺している声を上げた彼女はまるで子猫のように顔がとろけていた。撫でられるという感覚に気持ちが良いとはまだ感じたことがないが、それを嬉しいと思う人が多いということは知っている。特に好きな相手からされるとよりいいということもだ。
もちろん、リーリアが俺に対して好意を抱いているということは知っている。いつも無理をさせていることだろう。たまにはこうして接するのも悪くはないはずだ。
「んぅ……エレインしゃまぁ……」
なで続けていると彼女の可愛らしい表情は色気を纏い、潤んだ目は次第に俺をまっすぐに見据えてきた。
これは以前にもあった表情だ。これ以上は彼女の感情が暴走してしまうかもしれないな。急に俺の部屋へと来たということで今の彼女は魔剣を持っていない。
「終わりだ。朝食の準備を頼む」
「……とても、とても心地の良い時間でした。こんなにも私のことを想ってくださり、私は幸せものです」
俺が彼女の頭から手を離すと息を整えて彼女は理性を取り戻した。
「それでは、食材に限りがありますけれど、美味しい朝食を愛情を込めてお作りさせていただきますね」
「ああ」
そう言って彼女は機嫌よく厨房の方へと向かった。
それから俺は目をゆっくりと閉じて周囲の気配へと集中することにした。。
ユウナやナリアは議会の警備のため昨日は帰ってきていないとして、アレクとレイがいないのは不自然だな。
アレイシアの部屋で何かを話していたようだが、なにか仕事を引き受けているのだろうか。それにしてはミリシアがまだ地下部屋に残っているというのが不自然だな。まぁ頭の回るアレクがいることだ。安心して彼らに任せてもいいだろう。
「……エレイン」
「ルクラリズも起きたのか」
「エレインの……すごく、いいよぉ」
そう普段言わないような柔らかい声色で吐息混じりに口を開いた。
どうやらすっかり熟睡してしまっているようで、妙な寝言を言ってしまっているようだ。まぁ昨日は特殊な訓練ということでかなり疲れたはずだからな。無理に起こすのはよくないか。
それにしても彼女も夢を見るのだな。
夢を見るということは自分を客観的にも見ることができるということであり、そして自分を脳内で仮想的に思い浮かべることができるということでもある。人間を含め、高度な動物は夢を見ることができると言われているが、魔族でも同じなのだろうか。
それとも、ルクラリズが少し特殊なのだろうか。
まだその実態はわからないものの、少しずつ理解し始めているのは明らかだ。
そんな天使のように美しく、魔族とは思えない優しい寝顔の彼女を起こさないよう俺はベッドから降りて、服を着替えることにしたのであった。
こんにちは、結坂有です。
夕方にしては少し遅くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。
いつも凛々しいリーリアの可愛らしい反応、夢を見ているルクラリズは意外な一面でしたね。
それでは次回もお楽しみに……
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