正義という闇
私、ミリシアはアレクとレイと共に聖騎士団の管轄している監獄へと向かうことにした。議会や議長であるアレイシアの警護はユウナとナリアに任せている。彼女たちなら二人でも十分過ぎる戦力であるため、大丈夫だろう。
そして、この施設はもともと議会軍の兵舎だった場所だ。しかし、今は議会軍は解散してしまったためにその多くの施設は聖騎士団によって再利用されている。
ここは建物の作りが独特で監獄として利用するにはちょうどよかったのだそうだ。特に警察では手に負えないような聖剣使いの犯罪者を収容している場所となっている。もちろん、中には軍出身の人も多くおり高い実力を持っている危険な犯罪者もいるらしい。
「見るからに怪しい施設だってわかるな」
フェンス越しから顔をのぞかせている収容者たちは私たちを鋭い目つきで睨みつけてきている。彼らは朝の運動をしているようだ。
「怖そうな人が多いのは当然だろうね」
「まぁある程度覚悟してたけれど、ここまで面相が悪い人が多いなんてね」
「別にどうってことはねぇだろ。聖剣を持ってないみたいだからな」
当然ながら、彼ら収容者の聖剣は別の施設で厳重に保管されている。場合によっては別の持ち主に渡っていることだってあるだろう。聖騎士団によって収容された彼らはもう聖剣使いとしての人生はもうないに等しいのだ。
「私たちからすれば脅威ではないのかもしれないけれどね。それでも気を抜くのは危険だわ」
「そうだね」
それから私たちは突き刺すような視線の中、施設の中へと進んでいく。
すると、施設の中には聖騎士団の人が数人態勢で出迎えてくれた。昨日の内にここに来ることをアレクが連絡してくれていたようだ。
「アレクさん、お待ちしておりました」
「それで、昨日の人たちはどこにいるのかな?」
「リーダー格と思われる人は別の部屋で待機しております。こちらへ……」
そう言って聖騎士団の人が案内してくれた。
施設の奥へと進んでいき、次第に収容者の声が小さくなっていく。ここは施設の中心部で重大な犯罪を犯した人たちしかいない場所だ。当然ながら、外に出ることも他の収容者の人と交流することすらできないまさしく隔離された場所なのだ。
「この鉄扉の奥に待機しています。私たちはここで警備をしておりますので、何かあったら声をかけてください」
「わかったわ。ありがとう」
団員はそう言って鉄扉の鍵を開けて私たちを部屋の中へと入れるとすぐに扉を閉めた。
部屋の中に入っていくとそこにはアレクとレイが拘束したと言っていた反議会組織のリーダーと思われる男が椅子に拘束されていた。耳は塞がれていないものの、視界は封じられているようだ。
「……誰だ?」
「僕だよ」
すると、アレクが彼にそう言って椅子へと座った。
「ちっ、てめぇか。俺たちを騙しやがって」
「僕たちも好きでやってるわけではないんだ。でも、議会を守るために必要なことなんだよ」
「って言ってもとんでもねぇ事をしようとしていたのは間違いねぇだろ。それ相応の罰があるもんだぜ」
「……へへっ」
レイのその発言に彼はなぜか不敵に口元を緩めて笑った。
「あ? なに笑ってんだ?」
「いや、あんたらもおかしなことを言うなと思ってな」
「おかしなこと?」
「俺たちは正しいことをしている。正義のために動いている俺たちがこのようなことで屈すると思うなよ」
どうやらリーダー格の彼は完全に自分たちのことを正義だと信じ切っているようだ。洗脳されているのか、妄信しているのかはわからないが、彼を改心させて情報を得るのはかなり難しいと言えるだろう。
それに拷問などを行ったとしてもそう簡単には口を割らないはずだ。たとえ、レイの拷問で瀕死に近い状態になったとしても有効な情報を吐き出すとは思えない。正義に心酔してしまった人は自分が死ぬことになっても意見を変えるようなことはしないのだから。
「本当に正しいと思っているのかい?」
「逆に聞くが、あんたらはどうなんだ? 議会が正義だとどうして言い切れる」
「その話をするにはまず、正義という定義について考える必要があるね」
確かに個人の正義なのか社会の正義なのかでも答えは変わってくる。
社会的に見れば議会のやっていることは正しいように見えても、一個人からすれば悪だとも捉えることができる。おそらく彼の話したいことは個人的な正義についてだろう。
「客観性やら社会性やらどうでもいい。あんたら自身の考えがどうだってことだ。議会が正義だと思ってんのか?」
「……私は議会が正義だと思っていないわ」
「なら、あんたは俺と同じ考えってことか?」
私がそう言うと、彼は見えていないのにも関わらず顔を上げて私の方へと向いた。しかし、彼の思っていることとはまったく違う理由で私はそういったのではない。
「それは少し違うわ。何事にも正しいことなんてないのよ。善と悪は表裏一体、見方によって変化するものよ」
「はっ、綺麗事言ってんじゃねぇよ」
「綺麗事ではないわ。事実だからよ」
「議会だって人が運営している以上、完璧なことなんてないからね。議会の指示だからってなんでも僕たちは受け入れているわけではないんだ」
そう、アレクの言ったように私たち小さき盾は議会の指示を拒否することだってできるのだ。それはアレイシアが私たちの権利を尊重してくれたために追加で作ってくれた内容でもある。
そのため、受け取った指令を実行するかどうかは私たちで判断できる。議会が小さき盾を好き勝手に利用することができないのだ。
「へっ、俺たちのことを議会の犬だと思ってたようだが、それは違うな。俺たちは自分の意志で行動してるってことだ」
「なら、騙されてるってことはないのか? あんたらが思ってる以上に議会は……」
「何が言いたいのかははっきりしないけれど、私たちは決して魔族に命を売るようなことはしないわ」
私がそういうと彼はあからさまに頭を下げて、小さく口を開く。
「どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ」
「なにか聞き出せるかと思ったんだが、この様子だと無理そうだな」
「ええ、そうね。このままだと難しいわね」
「……仕方ないね。今回は帰るとしようか」
そう言ってアレクが椅子から立ち上がった。
確かにこのまま拷問に移行してもいいのだが、無意味なことをして時間を割くのはもったいないと言える。今回はこのまま議会に戻ってアレイシアに報告したほうがいいだろう。
「待てよ」
鉄扉の外で待っている団員にノックをして合図を出そうとすると、リーダー格の彼が私たちを呼び止めた。
「なにかな?」
「……あんたら、必ず地獄を見ることになるぞ」
「あ? 脅してるつもりか」
「あんたらが思っている以上に魔族って存在は強力だ。この世界に俺たち人間の居場所なんてないんだよ」
彼は体を震わせながらそうつぶやくように言った。
おそらく彼の言っていることは上位種の魔族のことだろう。確かに強力な力を持っているが、大多数で攻め込んで来なければ直ちに脅威となることはない。
まぁそれを地獄だと表現するのは間違いではないと思うけれど。
「大丈夫だよ。僕はすでに地獄を見てきたからね」
そういったアレクの目はどこか遠くを見つめている様子でもあった。あの帝国での戦いを思い出しているのだろうか。
私は前線に向かわず、エレインのところに向かったために凄惨な前線の戦いを知らない。だけど、後から聞いた聖騎士団の話を聞いてみると想像ができる。
「……」
アレクのその重たい声に彼は言葉を返すことなく、ただただ俯いたままでいた。
それから私たちは鉄扉をノックして外に出る。
そして、外に立っていた団員に明日も来ると伝えてから、私たちは議会に戻ることにしたのであった。
こんにちは、結坂有です。
小さき盾たちの経験してきた戦いというのは凄惨という言葉では表せないものでしょう。
そんな彼らが今後、同じような未来にならないようどう立ち回っていくのか、気になりますね。
それでは次回もお楽しみに……
評価やブクマもしてくれると嬉しいです。
Twitterではここで紹介しない情報やたまにつぶやきなども発信していますので、フォローお願いします。
Twitter→@YuisakaYu




