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剣聖の技

 朝食を済ませた俺たちは訓練場へと向かった。

 すでに時刻は九時となっている。少し遅めの朝食だったからな。今、この家には俺たちとカインしかいない状況だ。他の人は議会へと向かっている。

 議会での仕事は小さき盾たちに任せるとして、俺はルクラリズとリーリアに俺の技の一つを教えることにした。どういった技かと言うと意識の死角を狙った戦い方だ。この技は俺の得意としている技の一つでもある。それに彼女たちにもこの技術は有効になってくるはずだ。

 特にリーリアは魔剣の精神分析と組み合わせれば強力に作用するはずだろう。それにルクラリズは聖剣などを持っていないため、これらの技を覚えている方が今後のことを考えると彼女の助けになる。


「……それで、今回はどういったことをするの?」


 訓練場に入るとすぐにカインがそのようなことを言った。

 彼女もティリアのところである程度剣術を学んでおり、それなりの実力を持ってはいるが俺の意識の死角を狙った技を習得するほどの力量はない。

 まぁ彼女もこれらの技を見ておいて損はないだろうから呼んできたのだ。


「カインも習得はしなくていいが、知っていてほしい技があってな」

「私がエレインの技を覚えれるとでも?」

「似たようなことなら誰でもできることだ。というものの、人間なら無意識に行っているようなものだからな」


 そう、意識外に身を置くということは誰でもできる。相手の顔の向き、視線の動きを人間は無意識ながら見ているからな。そこから見ていない、意識していない場所を割り出すことを可能としている。

 ただ、そういった誰もができることを剣術の中に取り込んだだけのことだ。


「それで、どのような技なの?」


 すると、ルクラリズがそう言ってどのような技を教えてくれるのか聞いてきた。


「俺の得意な技の一つ、相手の意識の死角を狙った攻撃法だ」

「……確かに技を聞いただけだと難しそうな気がしますね」

「意識の外を狙った攻撃って、戦っているときにできるの?」


 カインがそう質問してくる。

 確かに戦っている最中は互いに向き合っていることが多いからな。その状態では意識外からの攻撃は少し難しいと言える。

 しかし、それも考え方によっては問題のないことだ。


「奇襲を仕掛ける時、カインならどうする?」

「えっと、背後から狙ったりするかな」

「ああ、相手の視界外から攻めるのが一般的だな。それも相手の意識の死角を狙っていると言えるだろう」

「……そうだけれど、なんかしっくりこないわね」


 まぁ全ての攻撃が奇襲であるとは限らないし、それも相手が自分の存在に気付いていない場合にのみ通じることだからな。


「向き合っている場合にも言えることだ。人間であれば必ずすることがあるだろう」

「もしかして、瞬き?」


 ルクラリズがそう答える。確かに瞬きも隙と捉えることもできるだろう。


「それもある意味では意識の死角と言えるな」

「確かにそうですけど、瞬きと言ってもほんの一瞬です。それを狙うというのはなかなか困難だと思えますが……」


 困難ではなく不可能に近い。

 人間の構造では視覚で得た情報から体を動かすまでの間はいくら頑張ったとしても、ちょうどまばたきの時間の半分ほどだと言われている。

 つまり、瞬きを視認したとしても体を動かすころには相手は瞬きをほとんど終えているということだ。それだと隙を狙ったとは言えない。


「間違いなく瞬きを見て動いていては不可能だろうな」

「じゃ、別のことなのかしら」

「ああ、瞬きと言った物理的なことではないが、相手の思考の隙を狙うんだ」

「思考の隙ってまた難しいそうだわ」


 言葉だけだと難しそうに聞こえるが、コツを掴めばある程度はできることだろう。


「簡単なことから説明すると……」


 俺はなんの前兆を見せずに聖剣イレイラを引き抜いてリーリアへと突きつけた。


「っ!」

「リーリア、これがもし心臓へと突きつけられていたら避けることはできたか?」

「……まったくの予想外でした。エレイン様のおっしゃるとおり、避けることは不可能だったと思います」

「えっと、つまりは予想外なこと?」


 カインは首を傾げながらそういった。


「今回は予想していないことを例に出したが、他にも動いていると思わせないということも同じだな」


 俺が普段構えをしない理由がそれにある。構えを見れば、相手にある程度どのような技なのか予測されてしまうことがあるからな。しかし、普段の楽な姿勢の方が行動を読まれにくいという利点がある。他にもリラックスした状態で素早く行動できるというのも利点の一つでもある。


「学院で何度か使ったことがある技で、膝をほんの少しだけ曲げれば間合いが変わるというのも技術としてはあるな」


 俺は剣を構えながら小さな足捌きで間合いが変化する様子を彼女たちに見せることにした。


「そうね。よく見てたらわかるけれど、実戦でそれをされたら気付かないわね」

「はい。こうして間近で見てみるとよくわかります」


 リーリアも学院での戦闘を見てきて薄々は気付いていたことだろう。第三者からすれば、俺の間合いが自在に変化しているように見えたはずだ。ただ、その理由はよくわかっていなかったようだ。

 まぁこの動きはほんの小さな動きだからな。観客席からだとまったくわからないのも無理はない。


「他にも相手の思考の隙を狙った技はいくつもある。今日はこの二つを習得してもらうつもりだ」

「……確かに使えたら強そうだけれど、理屈は知っていたとしてそれを実戦で使うのは難しいわよ」


 ルクラリズの言うようにこれらの技は自分が意識していないとできないことではあるからな。普通であれば自然にできるようになるまでは時間がかかるのは間違いない。


「ルクラリズさん、だからこそ練習するのですよ。体に覚えさせるぐらい練習しないと自然にはできません」

「まぁルクラリズの場合はベースとなる剣術がない状態だからな。基本的なことから訓練を始めようか」

「教えてくれる、のかしら」

「もちろんだ」


 すると、彼女は若干頬を赤く染めて小さくうなずいた。


「誰かに何かを教えてもらうのって新鮮だわ」

「そうなのか?」

「ええ、魔族なんて千種万様でしょ? 結局、こうした高度なことって自分で開拓するしかないのよ」


 ある程度は護身術を学んでいたと言っていたが、それも基本中の基本と言えるものぐらいだった。

 魔族は体の大きさも違えば、構造も大きく違う。

 人型の魔族も少ないわけではないものの、高度な技を誰かに教授できるほどに発展することはなかったのだろうな。

 似たような体をした人間だからこそ、今までの先人たちが残してくれた技をこうして進化させ続けることができるのだ。形容のまったく違う魔族だとそれは難しいだろうからな。人間の持つ知性の強みだとも言える。


「なるほどな。これからもっと人間のそういった一面が見れることだろう」

「最初はどうなるかと思っていたけれど、楽しくなりそうだわ」


 それら人間の知性というものに触れれば、きっと彼女も感動することだろう。生体的弱者の人間がここまで発展することができたのもこうした知性があったからだ。そのこともおそらく理解するはずだ。

 それから俺はルクラリズに基本的な体の動かし方を教授してから、先ほどの技も練習させることにしたのであった。

こんにちは、結坂有です。


エレインの技はどれも細かな技術の塊とも言えます。

そして、それを完璧に使いこなすことができるというのが彼の強みの一つでもありますね。

それらの技術一つを習得することになったリーリアとルクラリズはどこまで強くなるのでしょうか。

今後の彼女たちの活躍にも期待ですね。


それでは次回もお楽しみに……



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