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得する者、損する者

エレインと別れた僕、アレクはそのまま地下部屋へと向かった。

 地下部屋ではカインが夕食の準備を一人で進めていた。ここは個人で食事を作ったりできるように食材は定期的に冷蔵庫に入れている。もちろん、ユレイナやリーリアに伝えて上で食事することもできるのだが、自由に食事をしたい場合は個人で食べることが多い。まぁ今回は俺とカインだけなのだが。


「……アレク、帰ってきてたのね」

「ああ、エレインたちも帰ってきているよ」

「そうなんだ。後で様子を見てきた方が良いかしら」


 彼女は確かにエレインと親しいようではあるが、今回は別のことで話がしたい。僕は隠し持っていた瓶をテーブルの上に置いて口を開いた。


「いや、それよりも話しておきたいことがあるんだ」

「なに?」

「この瓶、見覚えはないかな」


 僕はテーブルに置いたその瓶を示しながらそう聞いてみた。すると、彼女は瓶のラベルをじっくりと見つめ始める。


「うーん、この瓶はみたことないけれど、ここのラベルに書かれているマークは見たことがあるわ」

「マーク?」

「ええ、これはセレシス商工会議所の紋章だったと思う。確か、医薬品の取り扱いもしている大きな組織だったはずよ。そこの薬か何か?」


 どうやらセレシス商工会議所の紋章だそうだ。商業や工業を主体に活動している法人団体でセレシス町の商人や職人たちが集まって形成されているらしい。

 そして、セレシス町では医薬品や医療器具などの製造も盛んに行われているのも確かだ。そこでこの瓶が作られたということだろうか。それとも、中の薬液もその商工会議所の連中が作ったということでもあるのだろうか。

 どちらにしろ、エルラトラムにとっては都合の悪いものであるのには変わりないだろう。


「僕の調査でたまたま見つけたものでね。水源にこれを流して洗脳に利用しようとしていたんだ」

「……無茶苦茶な事考える連中もいるのね」

「まったくだね。でも、理にかなっているとは思うけどね」


 人々全員が絶対に口にするもの、それは水だ。一定の食料品であれば嫌いな人は食べなかったりするものだからな。水に関してはほとんどの人間が飲むことになる。早かれ遅かれ、その水源の水を飲んでいるほぼ全ての人間に影響を与えることができる。


「事前に阻止できたのはいいとして、他でも似たようなことをしている可能性があるってこと?」

「まぁそう考えていいだろうね」

「信じられないわ。こんなことをしてなんのメリットがあるのやら」

「そうだね。少なくとも社会にとっては不利益でしかない。でも、個人ならメリットは有ると思うよ。例えば、地位や権力だったりね」


 権力以上の魅力的な報酬はないものと言えるだろう。人間は安全を好むものと言われている。だから、長期的に融通の効く権力を得ようと考えるのだ。

 だが、これをやっているのはエルラトラム議会の議員というわけではない。おそらくは魔族の連中が(そそのか)しているのかもしれない。


「馬鹿みたい」

「仕方ないよ。常に正しいことを考える人間なんていないんだからね」

「……アレクは正しいことをしていると思ってるわけ?」

「少なくとも権力に魅了されたりはしないかな」


 すると、彼女はほっと息を吐いて安心した。

 僕は権力に魅力は感じない。けれど、他のことだったらどうだろうか。その時は自分の心を偽って間違った行動をしてしまうのかもしれない。

 全てが確実ではないこんな世界で断言できることは一つもないのだからね。


「小さき盾とかエレインが悪人になったらどうすることもできないからね」

「本当にどうすることもできないのかな?」

「あったりまえよ。自分の力、過小評価しすぎじゃないの」


 そう彼女は少しだけ呆れたようにそう吐き捨てた。

 まぁそのようなことを聞いたのが行けなかったのだがな。

 それから僕はカインと一緒に夕食を食べることにしたのであった。


   ◆◆◆


 久しぶりの熟睡から目が覚める。

 本質的には魔族であるルクラリズは俺の横ですぅと寝息を立てている。こうしてみているだけだとまるで天使のように美しい女性なのだがな。目は緑と赤のオッドアイで魔の気配を漂わしているのは魔族のそれだ。

 ただ、そうした一面を除けば普通の女性であるのには変わりない。今後とも人間に慣れて、しっかりと人権を得ることができれば幸いなのだがな。そのためにはもう少し時間がかかることだろう。


「っん……」


 すっと背伸びをするように彼女は手を伸ばした。その手は俺の胸元へと置かれ、そして抱きつくように身を寄せてくる。

 彼女も熟睡していなかったことだ。外は明るくなり始めているが、ここは起こさない方が良いだろう。

 それからしばらくこの状態でいると部屋がノックされた。


「エレイン様、朝食の用意をいたしますが、よろしいでしょうか

「すまない。もう少し時間がかかりそうだ」

「……何かありましたか?」

「んぅ……」


 すると、ルクラリズが艶かしい声を上げた。

 その声は当然ながら、扉で耳を当てているリーリアには聞こえたことだろう。


「……失礼します」


 そう言って彼女は扉を開けた。


「いやらしいことは、していないのですね」

「ああ、当然だ」

「ルクラリズさんはまだ眠っているのですか?」

「そうだな。あの地下部屋では熟睡できないことだろう」


 ミリシアやアレクたちが寝ている場所はしっかりとベッドがあるのだが、急にここに来たルクラリズの寝る場所はなかった。そのため、しばらくの間は物置のような場所で監禁に近い状態で寝ていたからな。

 こうしてベッドでゆったりと寝れるのはなかったと言える。


「そうなのかもしれませんね」

「だから、もう少しだけ寝かせてやりたいんだ」

「……エレイン様、今度はご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」


 少しだけ頬を赤く染めた彼女はそうお願いするように言った。

 確かに彼女としても俺のことが心配なのには変わりないことだ。次回だけならまぁ大丈夫だろう。

 このベッドも一人にしては大きすぎるわけだしな。


「ああ、問題ない」

「ありがとうございます。エレイン様」


 そう言って彼女は俺の部屋から出た。

 どうやら朝食の用意をゆっくりと進めるそうだ。


 その後、ルクラリズが自然と起きてから朝食を食べることにした。

 もちろん、俺のことを強く抱きしめていたことは彼女の記憶になかったようだ。まぁそんなことはどうでもいいことなのだがな。


「エレイン、ちょっとお願いがあるのだけど」

「なんだ?」

「私にエレインの技を教えてほしいの」


 ルクラリズがそう真っ直ぐな目で俺を見つめながらそういった。

 その言葉を聞いたリーリアが朝食を机に並べている手を一瞬だけ止めた。


「急にどうしたんだ」

「私にも力がほしいのよ。マジアトーデの攻撃を防げるほどの力がね」


 昨日のことを言っているのだろう。確かに彼女は一歩も動くことはできなかったわけだからな。ミリシアは対処できずにいたが、それでも魔剣の力を使ってうまく防御ができたはずだ。

 ただ、ルクラリズに関しては聖剣もなければ魔剣も持っていない。ただ高い身体能力だけで戦うというのは酷だと言える。ミリシアの”閃走”は汎用性が高いために教えるのは難しいが、体の簡単な動かし方ぐらいは教えてもいいか。彼女が味方だと確信できればもっと複雑な技術も教えてもいい。

 聖剣や魔剣を持っていないのだから技能で勝負するべきなのだ。

 当然魔族同士であれば、魔族を殺すことができると聞いている。いずれは俺の……それは考えるだけ無駄か。


「なるほどな。技の一部なら教えてやってもいい」

「ほ、本当に?」

「ああ、リーリアにも教えたいのだが、どうだ?」

「……私ですか?」

「そうだ。リーリアも十分に実力を持っている。新たな技術でも習得すればもっとうまく立ち回れるかもしれない」

「よろしいのでしょうか」


 彼女も強くなりたいと願っている。当然ながら、強くなるためには積極的になるはずだ。


「当然だ。朝食を済ましたらすぐにでも訓練を始めるか」

「はいっ。では、すぐにでも食べましょう」


 そう言って彼女は皿を並べる手を早めたのであった。

こんにちは、結坂有です。


シリアスな展開が続いてきましたね。

これからどうなっていくのでしょうか。次回はもう少しですが、戦闘シーンがあります。


それでは次回もお楽しみに……



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