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力を追い求めて

 私、セシルはレンガ造りの城の中にいた。少し古さの残るこの城は過去、人間が使っていたもののようだ。その証拠にサビてしまった人用の甲冑などがいくつか飾られている。


「セシル、この城は拠点の一つとなっている場所でな。非常に重要な役割を持っている」

「役割?」

「ああ、人間をうまく奴隷化するためのものだ」


 どうやらこの城は人間を奴隷化するための施設のようだ。見たところそのような様子はないのだが、離れた場所に牢獄のような建物も見えた。おそらくはそこで行われているのだろうか。

 私は人間が魔族に隷属することは賛成している。人間の利用価値など、魔族を楽に生かせるぐらいしかないからだ。それなら人間は早い段階で奴隷として生活したほうが幸せと言える。


「どちらにしろ、ここが人間に奪われるのは我々にとってかなりの痛手になる」

「そうでしょうね。人間を隷属させる事のできる魔族は一体だけ……」

「バルゲスだな。あいつがもし人間にやられてしまえば、我々は人間を隷属させることができなくなる。そうなれば、人間を糧に生活する魔族が飢餓に苦しむことだろうな」


 全ては魔族を平和に統治するための方法だ。人間にとって私たちは悪の存在なのかもしれないが、私たちだって生き残るためにやっていることだ。仕方のない必要悪なのだ。


「まぁ私も必要なら魔族のためにこの生命を捧げるつもりよ」

「……それは我々としても困るんだがな。こうして得た同志だ。仲間は大切にしないとな」


 子供の頃の記憶はないが、目の前にいるゼイガイアのことは信頼している。落ちぶれた私を掬い上げ、ここまで強く成長させてくれた存在だからだ。

 姿形は違えど、私をここまで育ててくれたのには感謝しなければいけない。

 もともと私は死んでいたも同然だった。助けてもらった命、私は彼に忠誠を誓っているのだ。


「嬉しいけれど、もしもの場合は私を糧に利用しても構わないわ」

「その仮定が現実になれば同じことを言ってくれ。この城を案内しないといけないからな」

「そうね。次はどこに行くのかしら」

「もともと訓練場だった場所だ。今は闘技場のようになっているのだがな」


 そういって彼は廊下の窓の外を指差した。

 見下ろしたその先には人間と魔族が戦っている。人間も魔族も似たような武器を持っており、実際の戦いに近い状況になっているのは確かだ。

 しかし、ここではっきりしていることがある。人間と魔族の大きな違い、生命力の差だ。魔族は普通の武器では殺せないぐらいに強い生命力を持っている。そんな魔族相手に普通の武器で人間が挑むのは無謀の他ならない。


「……どうしてあんなことを?」

「無駄だと思っているのだろう」

「ええ、確かに実戦形式で戦うのは有効的だと思うわ。だけど、あれだとただの動く人形と戦っているようなものよ」


 私がそういうとゼイガイアは固く腕を組んで私の方を向いた。


「確かにお前の言うとおりだ。死の駆け引きがあっての実戦経験だからな。ただ、全ての物事に意味があると思ってはいけない」

「意味がない、ということかしら」

「正しくは意味がないわけではないがな。あの戦いに訓練の意図はない。ただの娯楽なのだからな」

「……それにも複雑な意図があってのこと?」

「明確な敵がやられていくのは爽快なものだ。俺たち魔族とて楽しいことをしなければいけない」


 確かにストレスの発散になっているのなら、あのようなパフォーマンスはあっても問題はないのだろう。ある意味、それで兵士たちの士気が保てているのならまったくの無意味というわけではないか。

 それに人間が死んだとしても食糧にすれば何ら問題はない。


「ある程度娯楽がないと苦痛でしかたないわね」

「あのようなものだけでなく、他にもこの城には娯楽がある。お前も自分にあった娯楽を見つけるといい」

「……長いことここで生活することになりそうだからね。考えておくわ」


 私も楽しいことは大好きだ。

 戦うことも好きなことの一つではあるものの、身も心も極限の緊張状態のために酷く疲弊してしまう。そんなことばかりしていてはいつか倒れてしまうだろう。

 そうならないためにも戦うこと以外の娯楽を見つけるのはいいことなのかもしれない。

 ただ、そんなことを考えている自分になぜか嫌悪感がした。理由はわからない。

 魔族が生き残るためには人間を犠牲にしなければいけない。だから、人間を隷属させることは正当なのだ。脳はそう考えれて入るが、体がどうしても拒否反応を示していしまう。


「大丈夫か?」

「ええ、少し考え事よ」

「……楽に生きる方法を教えようか」

「楽に?」

「魔族である以上、自由な存在だ。自分の直感を信じ、まっすぐに生きるべきだ」


 ゼイガイアのその言葉は私を落ち着かせる。体の中心がほんのりと温かくなるような感じがした。


   ◆◆◆


 私、ルクラリズは考えていた。

 エレインの強さについてだ。もちろん、ミリシアも動きからしてとんでもなく強いことは理解できた。

 あの視認できないほどの速度で動くマジアトーデの攻撃を見た後ですら、動揺は最小限にとどめてすぐ次の行動に移すことができていた。あのとき、私は彼の超常的な動きに何かを考えることすらできなかったのだ。

 私が思っている以上に人間という存在はとても強力なのではないだろうか。確かに肉体的には弱い部分は多い。ただ、それを差し引いてもエレインの言う人間の知能が強力なのかもしれない。

 エルラトラムに帰ってきてしばらくするとアレクという人が話しかけてきた。


 それからはお互いに状況を報告していた。特殊な薬品を上流に流そうとしていたようだが、どういったことなのかはまだわからないそうだ。おそらくは洗脳しようとしていたと考えられる。

 そして、家へとたどり着いた。玄関の扉を開けるとそこには美しい髪をした女性が立っていた。


「おかえりなさいませ。エレイン様」


 彼女はリーリアと言う女性でエレインのメイドだ。彼女が戦っている姿は見たことがないが、それでもかなりの実力者であるということはエレインから聞いている。もちろん、彼女の行動の節節から高い実力を持っているのがわかる。

 彼女の美しい立ち居振る舞いには無駄な動きがないのだ。


「ああ、すっかり休むことができたみたいだな」

「はい。お体の心配まで考えてくださり、本当に私は幸せ者です」


 彼女はエレインのことが大好きなのだろう。いくら私でもそれぐらいは理解できる。しかし、本当に彼がそれほどに値するのかどうか怪しい。

 確かにエレインは強い人だ。それは誰もが認めることだろう。ただ、強いだけで心身ともに一生寄り添えるかと言われればそれは怪しい。きっと、彼には強い以外にも何らかの魅力があるのかも知れない。

 それは今後、わかってくることなのだろうか。

 もし、その魅力に気づいた時、私もあのリーリアと似たような感情を持つことに鳴るのだろうか。まだわからないことばかりだが、楽しみにでもある。


 今後のエレインとの生活は私にどのような影響を与えるのかは計り知れない。まぁ一つ言えるとすれば、魔族として生きてきた私にとっては非常に刺激的なことであるのには変わりないということだ。

こんにちは、結坂有です。


認知が歪められてしまったセシルですが、まだ完全には洗脳できていないようですね。

そして、どのような洗脳を受けたのかも想像できていると思います。


それでは次回もお楽しみに……



評価やブクマもしてくれると嬉しいです。。

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