固められた最強の守り
私、ユウナは今日もいつも通り議会の警備をしていた。
ナリアも私の横で大きく背伸びをしながら外の様子を監視していた。もちろん、何もないことのほうが多いここの警備ではあるが、それでももしもの時を考えれば私たちが警備をしなければいけないのだ。
すでに空はオレンジに輝き始め、日が沈み始める時間となった。
「……今日はもう終わりね」
「そうですね。何もなかったですが、なにもないのが一番です」
「ええ、毎日何かがあったら困るわ」
彼女の言うように私もそう思っている。
毎日なにかの事件が起きていれば、私でも疲れが溜まってしまうものだ。
「では、下に降りましょうか」
そして、私たちは夜の担当をしている人と交代してから下の階へと向かうことにした。
「アレイシアは先に帰ってても大丈夫って言ってたけれど、どうする?」
「議長は仕事で大変でしょうから、私たちは行かない方が良いと思います」
「まぁそれもそうか。魔族の攻撃でいろいろと大変だろうからね」
それからシャワーを浴びて議会の外へと出ることにした。
そして、しばらく歩いていくと数人の男が私たちを見つめているのが見えた。
「……あの人、誰?」
「わかりませんね」
私たちが存在に気付くと彼らが近づいてきた。
腰には聖剣を携えており、真っ直ぐと堂々と歩いてくるために私はそこまで警戒することはなかった。
「ユウナ、か?」
「……はい。何のようですか?」
「議会に入りたいんだ。アレクに言われてここに来た」
すると、彼はそのように言って議会の中へと入りたいと言った。
「アレクさんですか?」
「ああ、知り合いなんだろ?」
少し怪しい気がする。
アレクが他の人と交流を持っているとは考えられない。まぁ夕方ということもあって何かがあったと言う可能性もなくはないが、怪しいのには変わりない。
「確かに知り合いですけど……」
「何の用事か言ってくれるかしら?」
すると、ナリアがそういって男に質問した。
用事がなければ議会の中へは入れさせることができない。それはいくらアレクの友人だとしてもだ。この人たちは明らかに議会の人間ではない。ここは規則を厳守するべきだろう。
「緊急なんだ。彼ら、怪しい組織に捕まってしまって……」
「怪しい組織ですか?」
「それだったら、議会よりも聖騎士団の方に行くべきだと思うけれど」
「とりあえず、議会に入れさせてくれないか?」
ここまで言うのであれば緊急なのだろうか。
それにしても彼らからは緊迫している様子は伺えない。この目の前で話している人以外は周囲を警戒しているようにも見えるからだ。
「アレクさんならきっと大丈夫ですよ」
「まぁあの人だったら一人でも切り抜けれるだろうしね」
「それでも……」
「あなたはアレクさんを信じていないのですか?」
私は彼が、彼らが誰かに捕まっていたとしても絶対に抜け出すことができると信じている。なぜなら、彼らは聖騎士団に捕まったときもすぐに脱出したからだ。
そんな人たちが得体の知れない小さな組織に捕まったとして、抜け出すことができないわけがない。彼らは絶対に帰ってくるはずだ。
「くっ、信じていないわけではない。だが、もしものことを考えれば……」
「もういい、信頼できる知り合いと言うことが確認できただけでも十分だろうな」
「し、しかし……」
この人たちは一体何を言っているのだろうか。
「ちょっと、どういう……」
ナリアがそう前に出て話を聞こうとすると、男の一人が聖剣を引き抜いて切っ先を彼女に向けた。
「っ!」
「お前ら、囲めっ」
すると、数人の男が私たちを囲むように配置した。
ここは議会の近くではあるものの、監視からはちょうど死角となっている場所だ。叫べば彼らは攻撃してくるだろう。それに、今のナリアは武器を一つも持っていない。この状態では戦うのは危険だ。
私も厳しい訓練をしているとは言え、彼女を守りながら戦うことは不可能だ。それに私のこの剣は攻撃に特化しているもので誰かを守るのには向いていない。
「……ユウナ、どうする?」
「さすがに厳しいですね」
「俺たちの言うとおりにしろ。聖剣を持っているのはユウナ一人だけ、俺たち全員聖剣を持っている」
それは見ればわかる。当然ながら、切り抜けることは難しいと言えるだろう。
だが、ここで私たちが捕まってしまってはいけない。最後まで抵抗するべきだ。私は剣を取り出して、両手で構える。
「……お前一人でやるってか?」
「全員を倒すことはできなくとも、半分ぐらいなら道連れにできます」
「ユウナ……」
私はナリアを守るように前へ立った。
「ここでやり合うのは気が引けるが、仕方ない。やれっ」
男の一人がそう言うと二人が私の方へと走り出した。
二人の剣はどちらも長剣、対する私は大きく弧を描いたような短めの剣だ。
鎌のようにも見えるこの剣は長い剣に弱い。しかし、それはこの剣の能力である”移動”で相手との間合いを縮めればまったく問題ないと言える。
「はぁっ」
瞬間的に移動した私を二人は対処することができなかった。しかし、私とてこの能力を完全に使いこなせているかと言われればそうではないために確実に仕留めることはできなかった。
「……妙な能力だなっ」
「取り囲むように攻撃してくるほうが、卑怯だと思います」
「卑怯だなんて言ってねぇだろっ」
大きな魔族であればうまく立ち回れるのだが、同じ体格相手だとどうしても間合いが掴めない。大きい相手だとその誤差はある程度無視できるが、同じ人間相手だと半歩違っただけで致命的なミスに繋がる。
ここは相手を倒すというよりかは時間をどう稼ぐかが重要となってくるだろう。もし、この状況を誰かが見たりでもすれば、すぐに議会へと連絡が入るはずだ。
「なにしてんだっ。さっさとやれっ」
「……はぁあ!」
「ふっ」
私はまた瞬間的に移動して、彼の攻撃を避ける。
「待ってたぜっ」
そして、移動した先に待ち構えていた男が長剣を力強く振り下ろしてくる。
もちろん、私はそれを知っていて能力を使った。その攻撃を剣の外側で受け止めると剣をひねって相手の剣を固める。
「なっ!」
その固定した剣を対象に”移動”を使って剣を弾き飛ばす。
キャリィイン!
相手の長剣は宙へ舞った。すると、私の背後からも男が再度攻撃してくる。
「てめぇっ」
私は振り返らずにその攻撃を避け、突き出された長剣を蹴り飛ばした。
この技はレイに教わったもの、ミリシアは乱暴だと呆れていたもののこうした場面では教わっておいて損はなかったと思っている。
「これで……」
「ちっ、ナリアだ。そいつをやれっ」
「っ!」
すると、武器を持っていないナリアへと三人が飛び出した。
信じられない。脅威にならない人へそこまで強い圧力をかけるのは卑劣以外、何者でもない。
「悪いが、そうはいかねぇぜっ」
そう低い声が聞こえた直後、轟音が鳴り響く。
地割れでも起きたかと思うようなその音は空間を轟かせ、吹き荒れる砂塵は私たちの視界を一瞬にして奪った。
「なっ、何が起こってんだっ!」
「身構えてろよっ」
ゴスッゴスッと鈍い音が砂塵の中から聞こえる。
「くっ、抜け出してきやがったのかっ」
「そういうことだぜっ」
レイの声が聞こえると砂塵の中から彼の剣が縦に回転しながら飛んできた。
「はぅがっ!」
その魔剣は男の頭部へと剣の側面が直撃する。
刃ではないために男は死んでいないようではあるが、それでもかなりの衝撃が彼の頭部に加わったのには変わりないだろう。
そして、男が倒れると同時に砂塵が晴れる。
「……ユウナ、大丈夫か?」
「レイさんっ。助かりました」
「へっ、巻き込んじまって悪いな」
「いえ、議会を守ると誓ったのですから。危険は承知ですよ」
私の仕事は常に危険と隣り合わせだ。そんなこと、今更後悔などしていない。
すると、ナリアが咳き込みながらレイの服を掴んだ。
「……ゲホッ、砂が入ったんだけど?」
「砂がどうしたんだ?」
「口の中に入ったのよっ」
「あ? 仕方ねぇだろ。うがいでもするか?」
そんなレイの返答に若干の呆れを見せた彼女ではあったが、無事であったのなら良かった。
私の大切な友達が傷ついたとなればショックだからだ。
「まぁとりあえず、こいつらを閉じ込めねぇとな」
「あ、はいっ。私が警備隊の人たちを連れてきます。ナリアさんはこれでうがいでもしててください」
「……ありがと」
ナリアに水筒を渡した私は議会の方へと走った。
少し危なかったが、誰も怪我をしなかったのはレイのおかげと言える。
それにしてもアレクが見当たらないけれど、どこにいるのだろうか。そう思うと心配になってきた。
こんにちは、結坂有です。
なんとか反議会組織の人たちを捕まえることができましたね。
これで一段落がつきましたが、それでもまだまだ問題は山積みですね。
それでは次回もお楽しみに……
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