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狙われる情報

 ミーナとの訓練を終えた俺は訓練場を出て、リーリアと合流する。

 そして、これからの訓練内容をミーナに伝えると一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに表情を戻した。

 距離がこれからは遠くなるということだけで、なぜ嫌そうな顔をするのだろうか。

 まぁ最初は苦労とは言え、慣れてきたら十数メートルまでは自分の聴覚範囲を広げることができるだろう。


「別に難しいこととはない。ゆっくりと確実にその感覚に慣れていけばいいだけだ」

「それが難しいって言ってるの。それでも、ありがと」


 ミーナは顔を逸らしながらそうお礼を言った。

 そんなところを見るとやはり優しい性格だ。


「じゃ、私はこのまま寮に帰るわ。また明日」

「また明日な」


 そう言って校門を超えたところでミーナと別れた。


 それからはいつも通り、リーリアと商店街を抜けて家へと向かう。

 今までとなんら変わりない通学路、それにしても今日は一段とうるさいな。


「エレイン様、どうかなさいました?」


 リーリアが俺の様子を伺いながら、そう聞いてくる。

 まぁうるさいだけで実害がないのであれば、全く問題ない。


「少し気配を感じただけだ。気にするな」

「……そうですか」


 すると、普段なら人通りが全くない道に珍しく男が立っていた。

 それも聖剣を持った人物が。


「エレイン様、警戒を」

「ああ」


 リーリアも嫌な予感を感じ取ったのか、そう伝えてくる。


「そこにいるのはエレイン・フラドレッドだな?」

「……」


 俺たちが沈黙を貫いていると、男は近寄ってきた。

 服装は討伐軍の制服、やはり議会の手下の可能性が高いか。

 それにしても聖剣の扱いがこの前に襲撃してきた奴らと少し違う。

 まさか、討伐軍に成り済ましているのか? いや、そんなことを考えている場合ではなさそうだ。


「知ってんだぜ、お前がエレインだってことをな」

「話があるのなら手短にしてくれ。訓練の後で疲れている」

「そう焦んなよ。ゆっくり話そうぜ」

「悪いが、家には待っている人がいるのでな」


 俺がそう言うと男は何やら合図を出した。


「待っている人っていうのはこのアレイシアって奴か?」

「っ!」


 拘束された状態で運ばれたアレイシアは怪我こそしていないものの、かなり疲弊している様子だ。

 逃げている最中に捕まったのであろう。靴には雑草の汚れが薄らとだが付着している。


「可愛いお義姉さんを取られてどんな気分だ?」

「エレイン! この人に構ってはダメよ。逃げて!」


 議会もここまでのことをするとはな。

 国益のために手段を選ばないのは百歩譲って許容したとしても、今は一市民であるアレイシアを人質に取るというのは見過ごせないな。


「逃すとでも思っているのか?」

「逃げるのはそう簡単ではないな。右後方の建物に五人、左前方の建物にも五人、そして下水道にも三人ほど待機させているようだな」


 それ以外にもいくつか監視カメラのようなものがある。


「……なんのことやら」


 俺がそういうと明らかに動揺した。

 まさか、俺がこんなわかりやすい尾行に気付かないと思っていたのだろうか。

 だが、それでもたった一人だけ別行動をしている人がいる。

 俺に対して攻撃の意思はないようだが、一体誰だろうか。


「もう一つ言おうか。武器はそれぞれ長剣、短剣に弓。さらには盾も装備している奴もいるな。構成としては悪くないが、その程度で俺は止められない」

「どうしてそこまでわかる?」

「音、空気の流れ。その全てが俺に伝えてくれる」

「エレイン様、話が過ぎます」


 リーリアがそう忠告を入れてくれるが、俺はやめない。

 養親の家族とは言え、俺の大事な家族なのには変わりない。そんな彼女を人質に取った奴だ。この俺が許すとでも思っているのか。


「リーリア、これを頼む」

「え?」


 俺はそう言ってリーリアにイレイラとアンドレイアを渡した。


「持てるか」

「この黒いのは重たいけど大丈夫、です」


 腕を真っ直ぐにしていかにも重そうに俺のアンドレイアを持っている。

 絶対に後で怒って出てくるだろうな。


「何をしているんだ?」

「俺の情報が目当てなんだろ。なら、情報がわからないようにするだけだ」


 俺はそう言って駆け出した。

 男とその周りにいる奴は剣を引き抜いて、防衛態勢に入る。

 その時、俺はそのもう一人に視線で合図を送る。

 やはりあの人か。


「剣を持たずに無謀だぞ!」

「どうかな」


 男の振り下ろした剣を体をねじることで回避する。そして剣の腹を掌で弾きながら、男の喉元へと手刀を入れる。


「ぬぐっ!」

「ボ、ボスがやられた!」


 なるほど、こいつらは討伐軍ではないようだな。隊長振っていたがボスと言うとはな。

 どうやら犯罪集団みたいだ。それなら容赦なく戦えると言ったところだろう。


 すると、先ほどから建物内で待機していた奴らも出てくる。

 十四人以上の混戦となったが、それでも俺はなんとか応戦した。


「こいつ、剣を持っていないのに……」

「ぐああ! 腕が!」

「あ、足を折られたっ!」


 次々と俺に攻撃を仕掛けてくるが、その(ことごと)くが意味のないものとなっていった。

 それにしても盾使いが面倒だ。格闘に対して盾だけは練習相手にいなかったからな。

 だが、扱っている奴も下手なのか全く使いこなせている様子ではなかった。


「うわぁ!」


 軽く蹴り飛ばしてやるとすぐに尻を地面に付けた。

 これなら簡単に倒すことができるだろう。


「ぶっ!」


 腹部への強烈な踏み込み、重力と筋力が合わさって鎧すらも凹ませる。

 次は短剣が相手か。

 非常に素早い攻撃を繰り出してくるものの、基本的には格闘と変わらない。

 残念だが、俺は格闘で一度も負けたことがないからな。


 とは言っても、それは全てに言えることだな。格闘以外で本気を出したことなど魔族侵攻の時以外ないのだ。


「ああ! ぎゃあ!」


 痛々しい声を上げながら、腕を押さえている。

 軽く神経を刺激した程度で大袈裟だ。

 すると、上空から女性が剣を突き立てて地面に着地した。


 ガリィィン!


 地面を削るように甲高い音を立てて彼女が斬り裂いたのはアレイシアの拘束具であった。


「ユレイナ?」

「お待たせしました、アレイシア様。エレイン様が好機を作ってくれました」

「でも、エレインがまだ……」

「エレイン様なら大丈夫ですよ」


 アレイシアのもとにリーリアも向かった。

 十五人の聖剣使いを俺は素手で全員倒したのだからだ。

 今彼らはただ悶えているだけだ。


「リーリア、持ってくれて助かった」

「いいえ、お役に立てたのなら光栄です。しかし、私も戦えましたよ」


 彼女は口先を尖らせてそう不満を言った。


「エレイン」

「どうした?」


 俺のもとにアレイシアがゆっくりと歩いてくる。


「なんで危ないことしたのよ」

「アレイシアを守りたかっただけだ」

「っ!」


 アレイシアの表情は一瞬にして赤くなり顔を背けた。


「そ、そんなこと言ってみたって許さないからねっ!」

「俺の意思に従ったまでだ。怒られる覚悟はある」


 どうやらアレイシアは俺の危険を案じているのだろう。

 まぁこの程度に剣を抜く必要はない上に、実際に勝てたから問題ない。


「別に怒らないわよ。怒らないけど……怒る」

「どう言う意味だ」

「アレイシア様はエレイン様のご活躍に見惚れているのですよ」


 すると、ユレイナがそう悪戯顔でそう言った。


「ユレイナ!」

「どうかしましたか? アレイシア様」


 なるほど、どうやらアレイシアは感情に忠実だ。全く可愛らしい女性である。




 それからは聖騎士団に連絡を入れて、彼らは適切に治療を終えた後牢獄へと入れられるそうだ。

 家に着くとアレイシアはユレイナに介抱されながら一緒にお風呂へと入り、疲れを癒している。

 俺はその後から入ることになっている。

 風呂の順番を待っていると、リーリアが話しかけてきた。


「今日はお疲れになられましたね」

「別に疲れてなどいないが、色々あったな」


 アレイシアが拉致されかけたり十五人の聖剣使いと素手で戦ったりとしたが、この程度子供の頃の訓練と比べればお遊びと変わらない。

 ただ、それにしても体が少し鈍っていうのは確かだ。

 少しは感覚を取り戻す訓練もしなければな。


「エレイン様の疲れを癒すのもメイドの役目、一緒にお風呂に入りましょう」

「どうしてそうなる」

「……いや、ですか」


 すると、まるで飼い主に怒られた子犬のような表情で呟いた。

 そんな顔をされると俺としても拒否しにくくなるではないか。まぁ今日だけならいいか。今日だけなら。


「いやではない。今日だけだからな」

「はい、今日(こんにち)だけですね」


 何か別の意味で捉えているように聞こえるのは俺だけだろうか。

 とは言え、さすがに鎧を殴っていたせいか腕も少し腫れてしまっている。ゆっくりと冷やしておかないとな。

 そんなことを考えていると、風呂場の扉が開いたのが聞こえた。


「エレイン様、アレイシア様が出られましたよ」


 どこか嬉しそうにリーリアはそう言った。


「なんでそんなに嬉しそうなんだ」

「ご主人様とお風呂に入るのはメイドとして光栄なことなのです」


 全く意味がわからないのだが、どうやらそう言うことらしい。

 後で、アンドレイアに色々と愚痴を言われるのを覚悟して、俺はリーリアと一緒にお風呂へと向かったのであった。


   ◆◆◆


 エルラトラム国議会、会議室。


「何! 剣を抜かなかった?」

「ああ、あいつは素手で十五人を倒した」

「そんなことがあるか。魔族でもないんだぞ」

「魔族千体斬りの剣士だ。実力は人間を超えている。カメラだけの情報だが、俺の見立てではブラド団長と同等だろうな」

「どうしてそう言い切れる」

「あの体捌きと直感の鋭さ、どのような訓練をすればあのような力を手に入れられるのか気になるところだ」

「なるほどな。だが、剣はどうするんだ?」

「そこなんだよな。どんな剣を持っていて、どんな剣術を繰り出してくるかにもよる」

「奴を制御しなければいけない。それほどの力を我々が持っていると思うか?」


「……結局は数なんだよ。今回は十五人だったが、今度は三〇人、一〇〇人、一〇〇〇人で攻めればどうだ? 討伐軍全軍で攻めればどうだ? 俺たちには奴をコントロールできる権力を持っているんだ」

「ふむ、一万を超える軍勢には流石に勝てないだろうと?」

「権力を使えばそのようなことも可能だろう」

「確かに、確かにそうだな」


 二人の会話を遠くの方から聞いていた人物がいた。

 そして……


「あの話、本気でエレインに攻撃するつもりなのね」


 そう言って彼女はその場を立ち去るのであった。

こんにちは、結坂有です。


剣を抜かなければ剣術として情報が知られることはないとしてエレインは素手で対抗したようです。

確かにそうなのですが、それができるのはエレインだけですよね。

そして、議会の会話を録音していた人物は誰なんでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。

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