反議会組織
俺、レイはアレクと一緒に森の中に入っていた。
そして、そこでとある集団と出会ってしまったのだ。当然ながら、彼らは怪しい動きをしていて、俺たちはそれを阻止しようと飛び出した。
「……お前らは一体何者だ?」
すると、集団のリーダー的な人がそう聞いてきた。
「僕たちかい? 僕たちは小さき盾といってね。議会のために動いている部隊だよ」
そう、アレクは包み隠さず真実を伝えた。
小さき盾という部隊はすでに新聞などで告知されており、聖騎士団とは違う特殊部隊という認識で広まっている。特殊な訓練や技能を持った優秀な人がいる程度しか実態は知られていない。
「どうします? こいつら、相当強い奴らっすよ」
「……強いと言っても聖騎士団の連中よりかは弱いだろ」
「それに俺たちだって聖剣があるわけだし、人数だってたくさんいる」
俺たちに聞こえないよう小声では話しているが、はっきりと聞こえてしまっている。周囲は静か、それでいて俺たちは聴力訓練を受けている。
ただ、ここで聞こえていると彼らにわかってしまってはいけないだろうな。ミリシアの言うようにすぐに動いてしまう感情は抑えねぇとな。
「レイ、僕のことを信じてほしい」
「……今更何言ってんだ?」
アレクのことは同じ地下施設で訓練をしていた仲でもある。全てはまだ理解できていなくとも信頼できないわけではない。俺も彼を信じているし、彼も俺のことを信じていることはずだ。
そして、彼は俺から視線を外すと集団の方へと向いた。
「一つ話があるのだけど、いいかな?」
突然の彼の発言に集団は強く警戒し始める。
「なんだ?」
「僕たちのことは警戒しないでほしいんだ」
「な、何いってんだ?」
すると、彼は大きく息を吐くとゆっくりと口を開いた。
「小さき盾として議会に尽くしてはいるけれど、安い給料に過酷な労働にはうんざりしているんだ」
「……」
いきなりアレクがそのようなことを言った。
彼がうんざりだという言葉を使うのは珍しい。それに議会に忠誠を誓っていないというような趣旨のことを相手に伝えている。
一体何が目的なのだろうか。アレクが裏切るとは考えられないが、俺はどうすればいいんだ? どちらにしろ、今は流れに乗り続けるべきだな。
「議会に対していい印象を持っていないっていうのか?」
「そうだね。実際に僕たちは給料を一切受け取っていないんだ」
「……議会の奴ら、俺たち市民のことを金づるとしか思っていねぇんだなっ」
「落ち着けっ。それを俺たちに言ってなんの得があるっていうんだ?」
すると、リーダー的な人が言った。
確かに意味もなくそのようなことを言うのは不自然だ。きっとアレクにはなにかの意図があってそう言っているはずだ。
「得、ね。僕は君たちの活動に協力してもいいと思っているよ。僕には今の議長は薄汚く見えるからね」
「……アレク、まったく話が見えねぇんだが」
「レイ、僕たちには目的があっただろ?」
彼のその言葉を聞いて俺はあることを思い出した。
「へっ、俺も付いていけばいいだな」
「よかった。同志だと思っていたんだよ」
そう言ってアレクは俺に対して信頼の目を向けてくる。
そんな俺たちのやり取りを見ていたリーダー的な人が話しかけてきた。
「あんたらが何を考えているのかはわからないが、俺たちに協力したいって言うのは本当なんだな?」
「うん。そのためなら何だってするつもりだよ」
「しかし、リーダー、いきなりコイツラを信用するのは危険じゃねぇか? まずは尋問をしてからで……」
「もちろんそのつもりだ。とりあえず、彼らを拠点へと連れて行くか」
「「はっ」」
そのリーダーはそう言って部下に命令すると俺たちをロープで拘束し、目隠しをするとどこかへと連れて行った。
それからしばらく馬車に揺られ、フェーン村を出るとどこか大きな建物へと連れて行かれた。目隠しをされているためどのような場所なのかはよくわからないが、それでも危険な場所に連れて行かれているというのは間違いないようだ。
「そこの椅子に縛っておけ」
「はっ」
リーダーがそう言うと俺たちは近くの椅子へと縛られた。両手足を太いロープで簡単には解けないように縛られた。
「それにしても議会の連中が俺たちの仲間になりてぇとはな。世の中信じられねぇことばかりだぜ」
「ああ、まったくだな」
すると、男の一人が目隠しを外した。
「……ここはどこかな?」
「まだ教えられねぇ。あんたらを本当に信用していいのか知りたいからな」
「信用か。確かに君たちからすれば僕たちは敵だからね」
俺たちの剣はここから少し離れた場所に置かれ、すぐには取れないようになっている。周りを見渡してみると十人近くの人が俺たちを囲んでいる。少なくともここが彼らの拠点の一つであるというのは事実だろう。
「そうだ。まずは俺たちに接触してきたのはどういった意味だ?」
「僕たちは議会からいろんな権限を与えられていて、議会に仇なす存在を処分するのが目的なんだ。それで怪しい動きをしている組織がいるっていうことであの村に行ったわけだよ」
「フェーン村って場所にお前らが定期的に集まっているっていうのはもうバレてんだぜ」
俺がそういうと目の前の男は大きく舌打ちをした。確かに情報が全てバレていると知ったら怒るのも無理はないか。ただ、記録の残るようなことをしている方が悪い。
「議会にバレてんのかよっ。情報は筒抜けってことか……」
「でも、僕たちならそれを掻い潜れるよ」
「……まだ信用してねぇ」
「少なくとも、僕たちを信用したほうが君たちの得にはなると思うけどね」
更にアレクがそう交渉する。
どういった情報を探っているのかはわからないが、アレクにはなにか考えがあってそう言っているのだろう。
「なら、お前らの持っている重要そうな情報を一つでもいいから言ってみろ。話はそれからだ」
「そんなことか。それなら簡単だね。議会の警備にはユウナとナリアという女性がいるんだ。その人たちに僕からの許可があると言えば議会には入れるだろうね」
「……」
「試してみたらどうかな?」
すると、彼は少し考え込み始めた。交渉に乗ろうとしているのだろう。
「リーダー、流石に嘘だと思うぜ。適当な名前を言ってるだけだろ」
「嘘だと思うのか? 試してみればいいだろ」
俺はそう彼らに伝える。ここて彼らが試そうとすればなにかを俺たちとしても得られることがあるだろうな。だが、それだと彼女たちが危険な状態に陥ってしまうことだってある。
どこまでアレクが考えているのか知らねぇ。それでも信じてみるしかねぇか。
「……まだ信用できないかな。追加でもう少し言うと、ユウナは大きく弧を描いた剣を、ナリアは備品の棒を持っているはずだよ。二人とも特徴的な武器を持っているからね」
「見たことあるぜっ。その人、毎日のように議会の警備をしてる人だ」
「本当か」
「ああ、綺麗な女性がいるなと思ってたんだ」
確かに二人は容姿としてみると美人の部類に入るのだろう。整った顔立ちにきれいに手入れをした髪は美しいとすら思えるからな。俺以外にもそう思う人がいるってことらしいな。
「信じてくれるかな?」
「……有益な情報、だな」
「だったら、すぐにでも確認に行きましょう」
「そうだな。こいつらが裏切ったとわかればすぐにその情報は無意味になるだろうからな」
すると、リーダーは剣を携えて部下を数人引き連れてどこかへと走っていった。
俺たちが情報を渡したとはいえ、向こうの情報を何一つ聞き出せなかったみたいだ。
「へっ、気の早いやつだな」
「まぁ仕方ないよ」
俺はリーダーがこの建物から出ていったのを確認して、そうつぶやいた。
そして、それに答えるようにアレクがそういう。
「ちょっといいか?」
「なんだ」
アレクが一人の男にそう呼びかけた。
「水が飲みたいんだが、いいかな?」
「あ? これか?」
「こっちに持ってきてほしいんだ。縛られて飲めないからね」
「けっ、世話の焼ける奴らだな」
すると、その男は面倒くさそうに水をコップに注いで俺たちの方へと持ってきてくれた。
その時、アレクは俺に対して一瞬視線を向けた。そのアイコンタクトは……つまりそういうことだな。
こんにちは、結坂有です。
こちらでも戦闘が始まりそうな予感ですね。
詳しい情報は得られなかったものの、反議会組織を捕まえることができそうです。
それでは次回もお楽しみに……
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