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赤黒く光る先を見つめて

 私、セシルは見慣れない赤黒い空間で目が覚めた。いや、本当はまだ目が覚めていないのかもしれない。体の感覚が以前と全く違うように感じる。


「……」


 今、私がどこにいるのか全く見当がつかない。記憶が曖昧なのだ。

 しかし、それでもはっきりと覚えていることがある。それはカインと訓練をしていたときに死んだはずの父が現れたことだ。


「っ!」


 思い出すだけでなぜか頭痛がする。頭蓋骨が砕けそうなぐらいに強いその痛みはまるでなにかの警告のようにも感じる。

 少し前の記憶を辿るのをやめると次第に痛みもなくなっていく。

 それにしても、ここは一体どこなのだろうか。近くに人の気配もなければ、魔族の気配もない。何もかもが無だ。ただ、赤黒い空間だけが広がっている。


「気味が悪いわね」


 真っ暗というわけでもないため、私は歩いてみることにした。なぜかはよくおぼえていないのだが、今の私には聖剣がない。当然ながら、魔族がいれば私は逃げることしかできないことだろう。ただ、こんななにもない場所で果たして逃げ切れるはずもないのだけれど。

 それから私はしばらくこのなにもない空間をさまようことにした。


「……本当になにもないわね」


 歩き続けて一時間ほど経っただろうか。

 ずっと歩いてみても景色は変わることはなく、ただ地面だけが動いているだけに感じる。まるで虚無と言う言葉がよく似合うような、そんな異質な空間だ。

 果たしてここは地球なのだろうか。

 現実とは思えない状況で恐怖がふつふつと心の奥底から湧き上がってくる。長らく感じていなかったはずの恐怖という感情は私の思考を徐々に支配していく。


「エレイン……」


 そうふと、名前が脳の中に浮かんだ。

 彼は確か、ヴェルガーに向かっていたはず。いつ帰ってくるのかはわからないが、彼はなるべく早く帰ってくると言っていた。任務が終わったら会えると思っていたのだ。

 しかし、今はどうだろうか。

 彼がエルラトラムに帰ってきたとしても私はいない。本当に帰っているのなら、彼はどう思っていることだろう。


 こんな弱い私をもう見放しているのかもしれない。正直言うとリーリアの方が私よりも強いのだから。単純に彼女の持っている魔剣の前では勝ち目はほとんどないわけなのだが、問題はそこではない。明らかに彼女の方が実力が高いのだ。

 剣術評価では彼女の流派はそこまで高くはない。しかし、実際にこの目で見てみると全く違う。そもそもあんな剣術評価は無意味なのだ。実戦の強さではなく美しさと合理性だけで判断している今の評価基準では本当の意味で評価はされない。


「はぁ」


 そんなことを考えているといろいろと思い起こされる。

 最初にエレインと出会ったのは学院入学のときだ。入学式当日は主に女子から注目されていたのを覚えている。

 私はそんな彼をただの顔の良い人気者にしか捉えていなかった。それで、ひょんなことから彼に接触した私はそれ以降、彼の本当の実力を目の当たりにする。


 まずは入学から少し経ったあたりで聖騎士団から応援がほしいと依頼された。そして、任された防衛拠点には私たち以外誰もおらず、どういうわけか大量に魔族が押し寄せてきた。ちやほやされていたと勘違いしていた私は彼のことをただの自惚れているだけかとも思っていたのだが、実際に魔族と戦っていくと彼の異常なまでの実力に私は驚愕させられた。

 それもそのはずで、彼は一人でほとんどの魔族を倒してしまったのだから。


 それからも彼の異常さは続いていき、そして私はそれに惹かれていった。いや、彼の剣術だけではないのかもしれない。そこには恋愛的な理由もあったことだろう。

 しかし、いくら自分も強くなりたいと願っていたとしても彼に追いつけるわけもなくただただ時間だけが過ぎていった。彼のパートナーという立場でありながらも、近づくことすらできなかったのだ。

 そんな無力な私はまったく役に立っていないはずだ。彼ならもっとうまく立ち回れたと思うことが何度もあったからだ。だからこうして私だけが孤立した。何もできなかった私にとって当然の罰なのかもしれない。

 こんなことを誰かに話せばマイナス思考だと言われそうだが、そう思いたくなるのはどうすることもできない。

 そう、どこまでも続く異質なまでのこの空間はその絶望的な現実を突きつけてくる。


『古きを脱するには新しきを得る』


 すると、そんなどこかで聞いたような言葉がどこからか聞こえてきた。


「え?」


 周囲を見渡してみるも誰かがいるわけでもない。しかし、はっきりと人の声が、言葉が聞こえてきたのだ。

 そして、しばらくすると地面が揺れ始める。


「っ!」


 地震のようにも思えるが、何かが違う。その揺れは徐々に大きくなっていくのが感じる。

 その直後、目の前の地面が大きく割れ、中から影のようなモヤが吹き出す。


「な、何?」


 巨大なカーテンのように広がったその影は迫ってくる。

 私はそれに飲み込まれまいと必死に走る。しかし、その影は容赦なく私へと襲いかかってくる。


「くっ」


 まだ死ぬわけにはいかない。そう心が訴えかけてくるが、今の私にはどうすることもできない。

 そして、その漆黒の影は私を追い越すように覆いかぶさってくる。

 全力で走った先にあったのは、虚無というにふさわしい漆黒だけであった。


   ◆◆◆


 私は再び目が覚めた。さきほどの奇妙な光景は夢だったのだろうか。それにしてもかなり現実味のあるものだった。

 周りを見渡してみる

 この岩だらけの空間はどこか見覚えがある。


「んっ……」


 起き上がると同時に強烈な痛みが全身を襲う。怪我とも筋肉痛とも違うその激痛は非常に耐え難い。


「目が覚めたのか」


 すると、少し離れたところから誰かの声が聞こえてきた。


「誰っ?」

「マジアトーデだ。お前の父でもある」

「……嘘。私の父はそんな名前ではないわ」


 聞いたことのない名前がその人から聞かされる。


「嘘ではない。その目ではっきり見るといい」


 そういって人影が近づいてくる。

 この洞窟のような空間は松明のような明かりがまったくないため、近くに来なければ誰が誰なのかわからない。少し警戒をしつつもその近づいてくる人影をしっかりと見つめる。

 そして、近づいてきたその人を見てみると懐かしく、それでいてはっきりと覚えている人がそこに立っていた。


「ど、どうして?」

「その言葉は二回目だな。体が変化して一部記憶が消えているのかもしれないな」

「ど、どういうことなの……」

「まぁ気にするな。これからお前にはいろいろと教えなければいけないからな」


 彼が、私の父が何を言おうとしているのかはまったくわからない。

 けれど、なにか嫌な予感がするのは間違いない。私の内側から妙な何かが侵食してくるようだ。まるで夢の中のような感覚がしたのであった。

こんにちは、結坂有です。


これから彼女はどうなってしまうのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに……



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