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隠れての訓練

 私、アレイシアは昼食をユレイナと食べた後に訓練をしていた。

 エレインには内緒でゆっくりとだが、剣の感覚を取り戻す必要があったのだ。


「アレイシア様、片足を軸にした構えはどうしてもバランスが崩れやすいです。体が慣れるまではゆっくりとした方がいいと思いますけど」

「……もう少しだけ頑張ってみる」


 フラドレット流剣術にはあらゆる状況でも戦えるように作られている。対複数戦でも自分が優位に立てるように剣の構えを変えたり、体勢が変わったりする。

 しかし、その中でも難しいとされているのは片足を失った場合での剣術だ。

 訓練はお父様から受けていないものの、あることは知っていた。


 だから、倉庫の中から資料を引っ張り出してユレイナと一緒にこうやって訓練している。


「始めて一時間ほど経っています。これ以上はエレイン様に気づかれてしまいますよ」

「いいの。私にもエレインの役に立ちたい」


 私には決意がある。

 エレインの強さは魔族の撲滅に必ず寄与するはず。

 そして、人類の平和にも影響を与える存在だ。それほどに偉大な人なのだ。


 それが今、議会や聖騎士団によって本人の意思に反した扱いをするのは私が許さない。

 彼には彼の自由にして欲しい。


「エレイン様は確かにお強く大事な人だと思います。ですが、アレイシア様も人類にとって大事なお方です」

「私はそうは思わないわ。あなたには言っていなかったけど、エレインは一人で千体規模の魔族を全滅させているのよ」


 そういうと、ユレイナは口元を押さえて驚いた。

 彼女がこんなにも驚くのは珍しいが、エレインの事実を聞けばどんな人でも驚くことだろう。


「は、初めて聞きました」

「私を守るために全力で戦ってくれたそうよ。だから私もそれに見合う恩返しをしてあげたいの」

「ブラド団長の精鋭攻撃隊でも千体の魔族を倒せるかわからないと言っているほどです。それを一人で全滅させたというのですね」

「ええ」


 これだけ聞けば、ありえない話だ。

 しかし、これは事実。私とブラド団長、そして一部の聖騎士団にしか知らない情報だ。


「……アレイシア様のご意志はよくわかりました。私はそれに従うだけです」

「じゃ、もう一度お願いするわ」

「はい」


 ユレイナはそう言って聖剣を引き抜いた。

 彼女の持っている聖剣は直刀で真っ直ぐな剣筋が特徴だ。

 斬撃というより刺撃を主体としている。


 その分高速であらゆる方向からでも反撃が可能という厄介な特徴を持っているのも確かだ。

 そして、何よりも両手での構えが強力だ。

 とは言っても私は聖剣を持っているわけでもない上に、片足がほとんど麻痺している状態だ。そのため彼女は私への配慮として本来の構えである両手持ちではなく片手持ちにしてくれている。


「では、行きますよ」


 合図とともにユレイナは走り出す。

 高速な刺突は防ぐのが難しい。それに私は自由に動くことができない。


「はっ!」


 突き刺してくる剣撃を私は剣の腹を使って、うまく躱していく。

 そして、片足を軸にして回転。その勢いでユレイナの腹部へと斬撃を入れる。


「ふっ」


 するとユレイナは体を空中に浮かせ、地面と平行な状態となった。


「!!」


 私の横方向の攻撃はそれにより完全に避けられてしまった。

 しかし、状況としては私の方が有利。それならこのまま畳み掛けるしかない。

 そのまま私は横方向の回転を活かしつつ、さらに下段から斬り上げる。


「っ!」


 それでもユレイナは片手で持っている剣でそれを防ぎつつ、着地する。

 ほとんど密着状態での打ち合いは俊敏性の高い方が有利、そのため私は彼女から距離を取る。

 それに追撃してくるように彼女は再度刺突をしてくる。

 そして、私は一旦剣を鞘へと収めた。


「くっ!」


 私は片足を折り曲げて、低い態勢になる。そうすることで刺突の有効範囲から少しずらす。

 もちろん、彼女もそれに順応してくることだろうが、それでも私には作戦があった。

 それは居合斬りだ。


「せい!」


 彼女が間合いに入った一瞬で私は抜刀し、斬撃する。


「ほっ!!」

「なっ」


 私の高速な一撃を目視で捉えることができたのか、私の斬撃をうまく受け止めた。

 さらにそのまま流れるように私の首元へと剣先を向けた。


「片手とは言え、一瞬でも私の実力に追いつけたのはすごいことです」

「そうかな。致命打を受けたのは私よ」

「そうでしょうか」


 そう言って、ユレイナは左肩を見せた。


「この汚れが見えますか。これはアレイシア様の剣の印です。致命傷とは言いませんが、私もそれなりに怪我を負っていたことになります」


 私の使っていた剣は模造刀である。手加減なく本気で打ち合えるようにとユレイナが用意してくれたもので、当然斬れることはない。そのため刃部分には触れたところに印が付くように色付きの粉を付けておいた。

 これで当たった箇所が汚れ、どの部位を攻撃できたかわかるのだ。


「やっと一撃を与えられたということね」

「ええ、そろそろ終わりにしましょうか」


 すると、背後から視線を感じた。


「っ!」

「アレイシア様?」

「今、誰かに見られた気がして」


 私がそういうとユレイナの目は殺気に満ち溢れた。


「……私が追います」


 すると彼女は走り出した。


「ユレイナ!」


 彼女が角を曲がるとすぐに剣を交わす音が聞こえた。

 私は様子を見るために歩いていくと、ユレイナが飛ばされてきた。うまく受け身をとっているようだが、相当な衝撃なのだろう。


「ユレイナ?」

「アレイシア様、お逃げください」

「え?」


 私がユレイナの言った言葉を理解すると同時に角から男が三人現れてきた。

 服装からして議会討伐軍の人たちだ。


「ど、どうしてあなたたちが」

「どうしてかって? それは議会が知りたい情報をあんたが持っているからに決まっているだろ」

「私の、情報?」

「アレイシア様、離れてください!」


 ユレイナがそういうと先ほどとは比較にならない速度で男に刺突する。


 キリィィン


 甲高い音を立てて、聖剣を破壊。しかし、周りには複数聖剣を持った男がいる。

 追撃で攻撃しようとするが、数には押し負けてしまう。


「これは警告です。次は容赦しません」

「おいおい、勢いがいいじゃねぇか。殺す気だな」

「ここはアレイシア・フラドレッドのお住まいです。侵入者は私が許しません」

「はっ! ユレイナと言ったな。もう聖騎士団でもねぇくせになんて強さなんだ」

「あなたには関係のない話です。お引き取りをお願いします」


 ユレイナの殺気の含んだ目が男の顔面を捉えている。

 しかし、それでも男は逃げる素振りを見せない。

 それと同時に、ユレイナの鋒が完全に男の首元へと向いている。

 お互いに間合いに入りかけている場所だ。一歩でもどちらかが動けばすぐに斬り合いが始まることだろう。


「さっきの話は聞いたぜ。千体の魔族を倒したってな」

「……なんのことかしら」

「お前らが養子として引き取ったエレインのことだよ」

「アレイシア様、話してはいけません」


 ユレイナが男を捉えたまま、私にそう忠告してくる。

 確かに私は彼女に話すために千体もの魔族にエレインは勝ったと言った。

 それがいつの間にか聞かれてしまったようだ。


「議会の命令かしらないけど、これは明らかに議会の越権行為よ。住民の生活を脅かすのはフラドレット家次期当主としても見過ごせないわ」

「議会の命令じゃねぇよ。議会に情報を売る犯罪集団、そう言えばわかりやすいか?」


 まさか、この人たちが議会に情報を売ろうというのだろうか。

 しかし服装は討伐軍の服装をしている。いや、あの服は……


「この服か? もう死んだやつの服だ。捨てるのがもったいねぇから俺たちが受け取ったんだよ」

「討伐軍以外の人がそれを着るのは犯罪行為……」

「犯罪集団だと言ったろ、今更そんな小さなこと気にするわけないだろ」


 確かに、その程度の軽犯罪ならばなんの躊躇もなく実行する人たちなのだろう。


「議会の連中が言ってたんだよ。エレインの情報を手に入れれば報酬をやるってな」

「そんなにも落ちぶれてしまっているの」

「ああ、あいつらはもはや魔族のことなんか考えてねぇよ。持っている武力を強化することだけを考えてやがる」


 エレインは一人で大隊規模の戦力、いやそれ以上の戦力かもしれない人物だ。

 そんな逸材を議会が対外手段として使うのはブラド団長も言っていた。そのために情報を得ようと考えているのも知っている。


「……はっ!!」


 するとユレイナが攻撃を仕掛けた。


「こ、こいつ!」


 彼女の剣先が凄まじい勢いで次々と男たちの聖剣を弾き飛ばしていく。


「アレイシア様。こちらへ!」

「わかったわ」


 ユレイナの肩を借りながら、私たちは急いでこの家から離れることにしたのであった。

こんにちは、結坂有です。


ついにアレイシアの身にも危険が迫ってきました。

訓練として庭に出ていたところを狙われてしまったようです。

これから彼女たちはどうなるのでしょうか。


それでは次回もお楽しみに。



アンケートについて…

意外なことにユレイナ・アンデレードに投票してくれた方がいました。

彼女も聖騎士団ではないのですが、強い剣士です。そして、リーリアやセシル、アレイシアも今後さらなる活躍を見せますので、これからもご期待ください!

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