人間に慣れるということ
訓練場にてルクラリズの実力を知った俺たちは少し休憩したあと、彼女の服装を選ぶために商店街の方へと向かった。魔族が攻撃してきてからかなり景気が回復した商店街は以前、俺が学院に入学したときと同じぐらいには戻っているように見える。しかし、それでもまだ建て直されていない建物などを見ているとその魔族の攻撃の凄まじさが伺える。
俺はリーリアとルクラリズを連れて商店街へと向かうことにした。
「エレイン様、彼女の服装は私が選んでもよろしいのでしょうか」
「ああ、俺は服について全くわからないからな。お願いしたい」
「わかりました。ルクラリズさん、行きましょうか」
「ええ」
そう言ってリーリアはルクラリズを個室の中へと連れて行った。おそらく体の寸法を測りに向かったのだろう。俺は個室の横にあるベンチでしばらく待つことにした。
すると、個室の中から服を脱ぐ音が聞こえてくる。
初めてルクラリズと出会った時の服は一枚の布をうまく体に巻いてドレスのようなものになっていた。聞いた話では魔族の街に服などが売っているわけでもない。ただ、鎧などの自分の身を守るための道具なら作ってくれたりするそうだ。そういった場所で生活していることもあって、このエルラトラムに来たはじめのときは下着なんてものは持っていない。それで議会からの帰りに無理を言って店で最低限の服を買ったのだ。
当然、そのときに選んだ服はとりあえずの最低限のもので、戦闘などの激しく動ごいたりするのに適したような服ではあまりない。そのため俺は自分の体にあった服にするべきだと言ったのだ。まぁ彼女自身はそこまで気にしていないようではあるが、この国では、いや人間社会としてはしっかりとした服で身だしなみを整えないといけないからな。
「ど、どうかしたの?」
個室の中からルクラリズの声が聞こえてきた。
「……本当に人間と同じなのですね」
「まぁ多分私が食べた女神のおかげなのかもしれないけれど、ほとんど人間だと思っているわ」
そう、ルクラリズは完全な魔族だ。もともと人間だったわけでもなく魔族として生まれてきたのだ。そして、天界での戦いで彼女はとある女神を喰らったことで何らかの能力とその人間の容姿を手に入れたようだ。もとが魔族ということもあり、隠しきれていない魔の気配は少なからず感じるからな。
気配をかなり薄くしているとはいえ、敏感な人間であればすぐにでも気づくことだろう。
「その女神様はお美しい方だったのですね」
「それって……っ!」
「服で隠れていましたが、こんなにも大きく立派なものがあったのですね。完全に見落としていました」
「ちょっと、そんなところまで測る必要があるの?」
「もちろんあります。必要なことですから」
少し騒がしい気もするが、順調に採寸が進んでいるようではあるな。ただ、ルクラリズのどんな部分に関してリーリアが言っていたのだろうか。もしかすると、服で隠れていた部分になにか秘密でもあったのだろうか。
それからしばらくすると、個室からリーリアとルクラリズが出てきた。
「エレイン様、お待たせしました」
「……本当にいろんなところを測るのね」
少し疲れた表情でルクラリズがそうつぶやいた。確かに細かい箇所まで測るとなれば疲れるのもしかたないか。俺も学院の制服を仕立ててもらったときも色々と計測されたのだからな。
「では、次は生地を見に行きましょうか」
「ええ」
それから店内を巡りいろんな生地を見て回ることにした。
一言に生地と言ってもその種類は多岐にわたる。伸縮性や通気性、耐久性といった機能面の他に自分に似合うか似合わないかも重要になってくるのだ。
「肌もきめ細かく繊細で美しいですから、この素材は避けるべきですね」
そう言ってリーリアは手慣れた手付きでいろんな生地を選んでくれている。
ルクラリズと俺はそれらをただ眺めているだけしかできなかった。当然ながら勉強すればある程度は理解できるのかもしれないが、それでもここまで大量の種類を網羅できるかと言われれば流石に無理かもしれない。あとはその服が似合うか似合わないかといった主観に関してはもはや俺には判断できない。
すると、ルクラリズが俺の横に立って話しかけてきた。
「……服ってこんなにもたくさんあるのね」
「みたいだな。同じ形状でも素材が違うだけで用途が変わってきたりもするからな」
「こうやって手にとって見ると明らかに違いがあるのはわかるけれど、それがどう着心地に変わってくるのかわからないわね」
彼女の言うように伸縮性があるから着やすいとか動きやすいというわけではない。それに通気性があるからと言って涼しいというわけでもない。素材の複雑な関係性の上で一つの服が出来上がっているのだ。
それに今回作る服は戦闘にもある程度耐えれるようなものということだ。俺的には機能性のあるもので十分だったのだが、リーリアには少しこだわりがあるようだ。
「ルクラリズさんの雰囲気に合うものでしたら、これらの素材ですね」
そう言ってリーリアが複数の生地を持ってきてくれた。
シンプルな暗い色を基調とした生地。確かに彼女の美しい銀髪を際立たせるにはちょうどいい色合いに見える。
そして、彼女はデザインも決めてくれたようで、店のカタログも見せてくれた。キリッとした目つきにはフォーマルな服装が似合うとのことでカジュアルなものではないデザインだ。それでいて軍服のような堅いわけでもなく、少し着崩せば普段着としても使えることだろう。
「本当にたくさんあるのね。服選びは大変だわ」
「そうかもしれませんが、楽しいですよ」
「まぁ今まで知らなかったことだしね。少し興味出てきたわ」
どうやら服飾に関して少し興味が湧いたようだ。
俺も最初は大量にある素材やデザインに驚いたからな。気になるのは当然のことではあるか。
それから俺たちは仕立て屋に頼み急ぎで作ってもらうことにした。そこの店主とリーリアとは仲がいいらしく、すぐにでも制作に取り掛かってくれた。店主は「お得意さんの頼みですからね。もちろん頑張りますよっ」と言っていた。
つまりは以前から彼女はよくこの店に来ていたということらしい。
「明日の夕方には完成するみたいですね」
「早いな。腕がいいのか?」
「はい。簡単な形状のものとはいえ、あの店主はすごいですよ。まさしく熟練が成せる早業と言えます」
それほどに腕のいい仕立て屋のようだ。それなら長い間、彼女が通うのもうなずけるか。
「お気に入りなんだな」
「……あっ、仕立て職人としてですよ?」
「そのことを言ったのだが……」
すると、リーリアは頬を膨らませて俺の方を向いた。
「エ、エレイン様は少し意地悪です」
「それは私も同感だわ……」
そう言ってルクラリズもため息混じりでつぶやいた。
二人がどういった意味でそう言っているのか、俺にはわからなかった。
◆◆◆
私、ミリシアは少し考えていた。
さきほどのルクラリズの戦いを見て気になることがあったのだ。
今は彼女の服を仕立ててもらうためにエレインはいないが、私は地下部屋でずっと考えていた。
どうしてルクラリズの動きが速いかだ。アレイシアがヴェルガーから連れてきたマナという女の子に関しても子どもにしては異様な力を持っている事も知っている。それらは魔の力が関係しているのは理解できるが、その力がどう身体能力を強化するのかまではわからない。
ただ、今回のことでわかったのはルクラリズは身体の素早さを引き上げているということだ。
マナは単に筋力が上がっているだけのようだ。もしかすると、それら魔の力というのは身体能力を引き上げるというよりかは一部の能力を引き上げるといった方が正確なのではないだろうか。
っと、そんな事を考えながら、私はソファでゆっくりと紅茶を口に運ぶのであった。
こんにちは、結坂有です。
今回は予告どおりの少し平和な回となりましたね。
ルクラリズの服、どういったものなのでしょうか。いろいろと想像できますね
それでは次回もお楽しみに……
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