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強き者たちの戦い

 ルクラリズがエルラトラムに来てから二日経った。もちろん、セシルの救出作戦はまだ決行されていない。

 ただ、それは予定が遅れているというよりかはとある事情があった。その事情とは防壁がまだ作られていなかったということ。当然ながら、今この状態で魔族の攻撃があればすぐにでも防壁は突破される。

 議員も含め、今この国は魔族の攻撃に対して神経質になっている。そんな中で俺やミリシアがたった一人のために行動するとなればそう簡単に許可は下りないのだ。それはアレイシアの推薦があってもだ。


 まぁ色んな事情が絡んでそれができないのには納得できるのだが、俺はそんなことよりも気になることがあった。それはルクラリズの実力がどれほどのものなのかだ。議長室で俺が彼女に斬りかかったときは急な不意打ちだったために反応が遅れてしまったのは仕方のないことだ。

 そのため、俺は訓練場でルクラリズの実力を見てみることにした。少し離れたところではレイがラクアを指導している。どうやら彼らは実戦形式の訓練をしているようだ。ラクアにはすでにルクラリズのことを紹介している。


「……それで、ルクラリズの実力ってどれほどのものなの?」


 訓練場に入ったと同時にミリシアがそういった。

 今回は俺だけでなく、ミリシアも同行している。俺がセシルの救出に向かう時、もちろんだがルクラリズも一緒に行動することになる。そして、それに加えてミリシアとも行動することになるのだ。そのため彼女もルクラリズの実力について知っておく必要があるからな。


「それはわからないわ。でも、エレインみたいに強くはないと思う。だって、私は戦士として生活していたわけでもないし」

「まぁそれが嘘だって可能性もあるからね。エレイン、どうする?」


 そう、俺が学院で実力を隠したように彼女も隠している可能性だってあるだろう。それなら方法は一つしかない。本気にさせるしかないということだ。


「今回の話は実戦形式だ。もちろん、俺は聖剣を使って殺しにかかるつもりだ」

「え? それって……」

「手を抜けば死ぬことになるだろうな」

「いきなり死ぬかもしれないってハード過ぎるでしょ」


 確かに相手が人間であればハードなのかもしれないな。


「それが妥当ね。エレインに任せてもいいかしら?」

「ああ、別に構わない」


 そう俺がうなずくとルクラリズは息を飲み込んだ。

 彼女には急に殺されるかもしれない訓練をさせるのだ。当然、緊張するのも無理はないだろう。

 そして、俺は聖剣イレイラを引き抜く。


「早速始めようか」

「エレインたちもやるのか?」


 すると、少し離れたところからレイが声をかけてきた。その横で立っているラクアは息を切らしながら俺の方を向いている。


「そうだが、少し派手にするかもしれない」

「俺たちは休憩すっからよ。自由にしていいぜ」


 そう言って彼とラクアはベンチへと座った。

 その時、ルクラリズが小声ではっきりと「派手にって何よ」とつぶやいたのが聞こえた。


「私はルクラリズの動きに注目するわ」

「ああ、頼む」


 ミリシアは彼女の動きをしっかりと見ていてくれるようだ。どこまでの実力なのかわからないからな。戦いながらだと情報を見落としてしまう可能性だってある。それなりに真剣に戦うとなれば尚更だからな。


「ルクラリズ、先手は譲る」

「……もう、こうなったら仕方ないわねっ」


 そういって彼女が急に走り込んできた。その速度は非常に素早く普通であれば見落としそうになるぐらいだ。


「ふっ!」


 高速に近づいてきた途端、彼女は一瞬にして身を低くした。どうやら俺の足を重点的に攻撃するようだ。

 下方向からの攻撃は人間という体の構造上、受け切るのが難しくなる。相手がどれほどの実力化はわからないが、ここはまだ様子見といったところだな。


「なっ」


 俺は聖剣を使わずに前に出していた右足を瞬時に後ろに下げることで彼女の攻撃を避けることにした。この速さなら追いつけないだろうと思っていたみたいだが、俺相手ではあまり意味はなかったみたいだ。

 そして、空振りした彼女に俺は彼女よりも少し速く剣を振り下ろした。


「っ!」


 当然彼女は腕で受け止めることはせず、そのまま後ろへと下がって俺の攻撃を躱した。


「……無理な態勢でよく避けれたな」

「避けるのは得意だからね」


 動きとしてはミリシアに近いものを感じる。しかし、彼女とは違う部分が二つほど見つかった。それはルクラリズは技術ではなく明らかに筋力などで無理やりその動きをしていること、そしてもう一つは俺の動きを見てから動いていることだ。

 ミリシアの技は非常に素早いものではあるが、それらは戦略的な考えから来ている。相手の動きや癖などから次の攻撃を予測して動いているのだ。それに彼女の得意としている技術である”閃走”も相まってとんでもなく速い攻撃を繰り出すことができている。

 ただ、ルクラリズはそうではない。細かい技術を使っているわけでも、相手の行動を予測して動いているわけでもないのだ。全て、彼女の魔族としての本能がそうさせているのだろう。


「次は俺の番だな」


 俺はそう言って彼女へと近づく。

 もちろん、魔剣の力を使えばもっと早く移動することもできるが、今回は殺すことではないため、ここは自分の体を使って移動することにした。

 聖剣を下段に構え、それなりに素早い動きで近づく。彼女は慌てるわけでもなくしっかりと俺を見据えているように見える。しっかりと相手を目で追うことができるようだ。


「ふっ」


 下方向からの素早い一撃に彼女は上半身を後方に大きく反った。その勢いを殺さずに足を振り上げてることで蹴り上げる。

 しかし、その攻撃は俺には当たらなかった。俺が寸前で体を捻ったことで蹴り上げを避けたのだ。


「はぁ!」


 後ろに一回転した彼女は地面に着地した。俺はその隙を狙って彼女へと追撃する。


「くっ」


 一瞬だけ俺を見た彼女は目を赤く光らせ、俺へと飛びかかってきた。

 その速度は異常の二文字が似合うだろう。

 当然ながら、魔剣の”加速”という能力を使っていないために避けることができず、そのままルクラリズの突進を体で受け止めることにした。

 ズザァッという音とともに砂煙が訓練場に舞い広がり、俺は端へと飛ばされる。


「……勝負ありのようね」


 砂煙が晴れるとミリシアがそう言った。


「嘘……」


 その直後、ルクラリズがそうつぶやく。

 それもそのはずだ。腕を振り上げた彼女の眼前には聖剣イレイラがあるのだから。


「結果的には俺が勝ったが、ルクラリズの素早い動きは避けることができなかった」

「エレインも相当強いし、それなら飛びかかって力尽くで倒そうとしたの。力で言えば私の方が強いから……」


 ルクラリズの言っていることは事実なのだろう。力では人間の俺よりも強い。しかし、それだけでは俺に勝つことはできないのだ。


「まぁどちらにしろ、エレインには勝てないのよ」


 そうミリシアが言うと、ルクラリズは大きくため息を吐いた。

 それが何を意味しているのかはよくわからなかったが、悪い意味でのため息ではないことは表情からしてわかった。


「ミリシア、外から見ていてどう思った?」

「そうね。実力としては十分ね。技術はないものの、戦いのセンスはあると思うわ」

「俺もそう思う」

「……それで、この試験みたいなのは終わり?」


 すると、俺たちが結論付けるとルクラリズが質問してきた。


「ああ、救出作戦前でもあることだ。無駄な体力の消費は避けたい」

「終わり、なのね」


 俺がそういうと彼女は緊張から解放されたのか肩が下がった。

 こうして俺たちが彼女の実力を測り終えると、少し離れたところでラクアが「次元が違うわ」と言葉をこぼしたのが聞こえた。

こんにちは、結坂有です。


今回は少し戦闘シーンのある回となりました。

次回は平和なシーンとなる予定ですので、お楽しみに……



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