目的に沿った計画
俺、エレインは議長室の中でアレイシアたちと話をしていた。話の内容は主に今後のことについてだ。
まぁ彼女に関してはしばらくの間、俺が監督することになるだろう。それに関しては彼女自身も同意してくれている。しかし、それ以外にも決めなければいけないことがまだまだ存在しているのは確かだ。
ブラドは無事に帰ってきたとはいえ、まだセシルの安否が不明だ。彼の話によると何かを食べさせられた後、ショック状態になっているという話までは聞いた。それだけでは生きているとも死んでいるともわからない。
そもそも何を食べさせられたのかすらわからないのだからな。
そんなことを話ししていると扉がノックされた。
「失礼します」
そう言って議長室に入ってきたのはリーリアとマナであった。
さきほどから外を走っていたのは彼女たちのようだ。
「エレインっ」
マナがそう俺の名前を呼んで走り込んでくる。
「……会いたかった」
「一日も空いていないのにか?」
「ずっと一緒にいたいの」
そう言ってマナは俺の服を強く握った。
すると、その様子をジト目で俺を見つめてくるミリシアが話しかけてきた。
「……あまり詳しくアレイシアから聞いていないけれど、後で説明してよね」
「わかった」
いつもと違う低めの声で彼女がそういった。あまり感情を表すような人ではないのだが、何があったのだろうか。
「それで、その女の人は誰?」
マナが上目遣いでそう聞いてくる。
思い返してみれば、彼女はアレクと同じく気配に敏感だ。ルクラリズは魔族の気配を隠していると言っていたが、それでも感の鋭い人には気付かれる。ただ、そういった人はほとんどいないことだろうがな。
「私はルクラリズよ。これからよろしくね」
ゆっくりとかがんだルクラリズが彼女にそう自己紹介をした。
「……魔族?」
「ええ、そうよ。でも人間になりたいと思っているの。もちろん、協力もしたいわ」
「なら……私と同じ?」
マナが俺の体から半分ほど顔を出してそういった。
確かに彼女は自分のことを魔族だと認識している。それに目の前にいるルクラリズのことも魔族だと察知していることからそう質問したのだろう。
すると、ルクラリズは目を細めてマナを見つめる。
「……おそらく、同じね」
彼女がそう返事をした。
どうやらルクラリズも自分と同じ魔族なのだと気付いたのだろう。マナは作為的に作られたために魔の気配は薄いものの純粋な人間ではまったくないからな。
「じゃ、よろしく……ね?」
「ええ」
マナも警戒を解いてくれたようだ。
俺としても妙な関係はあまり作りたくないものだ。これから彼女たちが友好的な関係になってくれるとなお良いことだ。
「ところで、エレイン様。何のお話をされていたのですか?」
すると、リーリアがそう話しかけてきた。
確かにルクラリズを紹介してくるとは言っておいたのだが、それ以外にも勝手に決めてしまったからな。その辺りは説明するべきだな。
「ああ、まずは当面の間ルクラリズは俺が監督することになる」
「……つまりは一緒に生活するということですか?」
「まぁそうなるな」
俺が監督すると言うことは当然ながら、リーリアにも間接的に世話になるということでもある。そのことはしっかりと了承を得るべきだろう。
「それは別に構わないのですが……」
「なにか問題でもあるのか?」
リーリアはルクラリズの体を眺めながらじっくりと考える。
「いえ、何でもありません」
「え? なによ」
当然ながらルクラリズはそうリーリアに話しかけた。
彼女の体をじっくりと見た上でリーリアが決断したのだ。気にならない方がおかしい。
「私の考えすぎですのでお気になさらずに……」
「気にするわよ」
「まぁ大したことではないのだろう」
「……はい。エレイン様のおっしゃる通りですよ」
そう言ってみるが、ルクラリズとなぜかミリシアまでも俺のことをジト目で見つめてきた。
俺としては大した問題ではないのだろうと思ったのだが、彼女たちはそうは捉えていなかったということなのだろうか。どちらにしろ、俺にはよくわからなかった。
「それはいいとして、エレイン。ルクラリズを頼んでいいのよね?」
「ああ」
「じゃ、くれぐれも無理をしないように」
「わかった」
ルクラリズの話などを含めてアレイシアはそう判断したようだ。
すると、リーリアは俺の方を真っ直ぐ見つめて何かを言いたそうにしていた。
「リーリア、話でもあるのか?」
「……セシルさんの救出を急ぎたいのです」
「それは俺も同じだ。ただ、今魔族の拠点に攻撃を仕掛けるのは危険だ」
「はい。私自身もわかってはいるのですが……」
ただ、そうとはいっても感情的に早く助けに行きたいというのも理解できないわけでもない。
「それでも助けに行きたい、か?」
「……はい。私のわがままになりますでしょうか」
確かにリーリアがここまで自身の発言を優先してくるのは珍しい。
もしかするとブラドからなにか言われたのだろうか。
「いや、別に問題はない」
「では、助けに行かれるのでしょうか?」
「そうだな。だが、リーリアを一緒に連れて行くことはできないだろうな」
「……どういうことでしょうか?」
「単純に戦力を分散させるというのは危険だからな。それにリーリアは他の人と違って魔剣を持っているだろ。それも強力な魔剣だ」
そう、彼女には俺や小さき盾には持っていないような特殊な力を使うことができる。それらの力はこの国にとって必要なものだ。
ミリシアやアレクが調べている組織もリーリアの魔剣の前では嘘を付くことができない。それは戦力に直接関わらないとはいえ、有効な能力なのには変わりないのだ。
「リーリアにはこの国でいわゆる裏の組織を調べてほしい」
「……また一緒に行くことができないのですね」
「そうなるかもしれないな」
俺がそう言うとリーリアは少し落ち込んだ。彼女自身も俺が何をいいたいのか理解しているようだ。当然ながら反論することもないだろう。
そう思った直後、奥の方で資料を手にしていたミリシアが立ち上がった。
「エレイン、私なら一緒に行ってもいいわよね?」
「どういうことだ?」
「セシルの救出によ。エレイン一人だけ行かせるわけにはいかないわ」
ミリシアの突然の発言にアレイシアが驚く。
「え? ミリシア、さっきまで……」
「ある程度は裏の組織は絞れているの。後はアレクとレイ、リーリアに任せればなんとかなるでしょ。それで余った私はエレインとともに行動する。それなら問題はないでしょ?」
確かにミリシアの言うように小さき盾二人でも十分過ぎる実力を持っていることだろう。当然、裏の組織とやらも簡単に制圧できることだろう。
ただ、問題なのが、この国としての戦力の減衰だ。
「小さき盾はこの国の切り札だ。そんな人間が国を離れるのは問題だと思うがな」
「……セシルはこの国でも才ある女性よ。それはこの前訓練をしたときに気付いた。彼女を助け出すこともこの国の利益を守るためよ」
「そうだね。ミリシアの言っていることも一理あるね」
すると、アレクもそういって小さくうなずいた。
彼女の言葉は確かに納得できるところもある。それに彼女には前のこともあるからな。ここは抵抗するべきではないか。
「……わかった。付いてきてもいい。ただ、今日、明日というわけではないからな」
「そう、なの?」
「すぐに助けには行くが、最優先なのはこの国の自衛力の維持だ」
まだ防壁が直っていないということもある。五日ほどは様子を見ることになるだろうな。
「エレイン様、私は……」
「リーリア、俺のためにもこの国の悪い組織を捕まえてほしい」
「……わかりました」
態度はいつもと変わらないのだが、声や表情からして明らかに落ち込んでいる。ここは少し励みになる言葉を言うべきだろうな。
「自分の仕事が終われば自由にしていい。休むも何かをするも自由だ」
「は、はいっ」
すると、彼女はそう元気よく返事をしたのであった。
こんにちは、結坂有です。
どうやら今回はエレインとミリシアのコンビが見れそうですね。そこで一緒に付いてくるルクラリズにも注目したいところです。
それでは次回もお楽しみに……
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