行き着いた先から
私、ミリシアは議会でずっと資料とにらめっこしていた。
外はすでに真っ暗になっており、当然ながら、私はエレインに会いたい気持ちでいっぱいだ。とはいえ、今目の前にある課題をある程度終わらせない限りは帰ることができない。二時間ほど前、アレクが後は自分でやっておくよと言ってくれたが、それは流石に申し訳ない。私の勝手な感情だけで迷惑を掛ける訳にはいかないからだ。
今レイは食事を取りに下へと向かっている。
「……アレイシア様、何をなされているのですか?」
「小さき盾が自由に調査できるよう、特別な権限を与える書類よ」
「確かにそれがあれば、これから彼らはもっと活躍することができると思いますが、本来は小さき盾がするべきことではない気がします」
「というと?」
「本来、小さき盾というものは議会を守る最後の切り札です。高い権限を持つというのは当然だと思いますが、それが本当に必要なのか、必要ではないか考えるべきです」
すると、ユレイナがアレイシアに向かってそういった。
ただでさえ、高い権限を持っている上に資料を自由に閲覧できると言った権限まで付与されるのは彼女の言うように行き過ぎたことなのかもしれない。
「……そう、なのかもしれないわね」
「私は今のままでも十分高い権限を持っていると思っているわ。そうよね? アレク」
「そうだね。今のままでも大丈夫だよ。それよりも、アレイシアの信用の方が気になるね。そんなに僕たちの面倒を見て大丈夫かい?」
確かに彼の言うように私たちのためにアレイシアがいろいろと尽くしてくれているのは本当にありがたいのだが、それで信用が落ちていないかが心配だ。
融通を利かせるために裏で頑張っていることは私たちも知っているし、何よりもたくさんの恩恵を受けている。
「はい。アレイシア様は小さき盾以外のことでも前の議会の失態を全て解決するためにいろいろと手立てを考えていますから、議員からはかなりの信頼を得ています」
「それは、大丈夫なんだけど……。アレクの言うように一つの部隊に権限を与えすぎると小さき盾に変な目が向きそうだからね。これ以上は権限を与えることはできないかもしれないわね」
当然のことだろう。
私たちは今までも変な目で見られてきた。最初は魔族ではないかと疑われたりもした。それだけでは収まらず、一部の兵士たちからも妙な視線で見られることは今でもある。
高い権限を持っているとなればそれはそれで疑いをかけられるのも普通の流れだ。
「それにしても外部と関わりを持っている組織って案外多いわね」
「うん。エルラトラムは貿易で栄えていると言っても過言ではないからだろうね。一つ一つ調べていくのは本当に大変だよ」
「……私もお手伝いしましょうか?」
すると、ユレイナが私たちのところへと歩いてきた。
「他のお仕事は?」
「いえ、私はもうありません。それにアレイシア様もさきほど終わったところみたいですよ」
「ええ、書きかけていたこの書類も必要ないみたいだしね」
そう言ってアレイシアは書きかけていた私たちの権限を引き上げる内容の書類を捨てた。
「助かるよ。後三割近く残っているからこっちの資料を頼むよ」
「はい。わかりました」
アレクの指示に従ってユレイナとアレイシアが資料を見比べ始める。
私たちが探している資料は貿易相手が明確に書かれていない資料を探している。すでに二つほどの組織を見つけ出したのだが、他にも存在するだろう。
本来であれば議会が許可を出す前に精査するはずなのだが、以前の議会が適当に処理していたためにこのようなことが起きているようだ。
「……こんなこと、私が帰ってくる前からずっとやっていたのかしら?」
「ええ、もちろんよ」
「すごいとしか言えないわ」
こうして資料の山を見てみるとよくやったなと思うのだが、まだもう少しだけ資料が残っている。これらを片付けてから今日の作業は終わりにしよう。
すると、アレイシアはロングスカートを捲くり上げて移動が楽になるようにした。
「アレイシア様、はしたないですよ」
「いいわよ。気にしてないし」
「うん、僕も平気だから大丈夫だよ」
「ほら、みんなもそう言ってるわけだし」
「……そうですか。わかりました」
今の彼女の容姿はミニスカートと言っていい服装になっている。ドレスのような服に短めのスカートだといやらしいように思えるが、楽なのだから仕方ないだろう。
そう、私は時計を見ているとレイが戻ってきた。
「夕食の代わりになるのかわからねぇが、食べるものを持ってきたぜ?」
「助かるわ」
彼が持ってきてくれたのはスープの入った大きな缶と人数分のパンだ。
夕食にしては少ないように感じるが、小腹を満たすにはちょうどいいだろう。
そして、しばらくそれらの食べ物を食べながら、資料を眺めていると扉がノックされた。
時間的に議員がいない状況のため不審に思ったアレイシアが私たちの方を向いた。
「……誰かしら」
「エレイン、だね」
「え?」
「入って大丈夫か?」
扉の外から聞こえてきたのはエレインの声だ。
「あっ、えっと……大丈夫よっ」
少しだけ取り乱したアレイシアはさっと捲くり上げたスカートを下ろして身だしなみを整えると扉を開けた。
「え、エレイン。どうしたの?」
「ああ、下の階にブラドを連れ戻してきたんだ」
ブラド、確か連れ去られたって言われてた。
「連れ戻してきたってどういう……あと、その子……」
私も意識していなかったが、今エレインの横に立っているローブを被った女性から魔の気配が感じられる。ナリアとは違うもっと強力なものだ。
「この人は……」
「魔族だね。エレイン」
すると、アレクがそうエレインに言った。
「そうだ。だが、俺たちに協力したいと言っているんだ。話ぐらいは聞いてもいいだろう」
「魔族が協力?」
アレイシアが疑い深くつぶやいた。
魔族が人間に協力するなんてあるのだろうか。きっと何か裏があるだろうと思うのは当然だ。しかし、エレインが信頼できそうと思っているのなら本当に彼女は私たちに協力したいと思っているのかもしれない。
それに、彼女の見た目は本当に人間に似ている。彼女のその神秘的な赤と緑のオッドアイは人間とは思えないが、体格的に言えば人間と大差ない。というか、ほとんど人間だ。
「彼女にはもともとこのような巻角があったんだが、それを自らもぎ取って人間として生きていきたいと宣言したんだ」
そう言ってエレインが禍々しい角を見せた。
「今はカインに治療されて角はなくなってしまったのだがな」
「ええ、私には必要のないものだから」
どうやら本当に人間になりたいのだろう。
それから彼女から説明を聞いてみると、魔族ということは聖剣との相性はかなり悪く、そのため、治療をされればもう角は生えてこないらしい。
「でもあなたは魔族なのよね? 人間側に協力することでなにかメリットはあるの?」
「メリット、それは確かにないのかもしれないわね。だけど、私には力を授けてくれた神の意志が宿っているの。それは確かなのよ」
どういった意味なのかはわからないが、どうやら人間の力になりたいようだ。
「……そう、話だけなら聞いてみてもいいわ」
そういってアレイシアはエレインとその魔族の女性を議長室へと入れた。
それから私たちは魔族である彼女の話を聞くことにしたのであった。
正直、半信半疑ではあったものの彼女の言動に嘘はないように感じる。まぁ人間と魔族を一緒だと思ってはいけないのかもしれないが、少しぐらいは信じて見てもいいのだろう。ただ、アレクはどう思っているのかはわからないけれど。
こんにちは、結坂有です。
魔族であるルクラリズはこれからどういった活躍をするのでしょうか。
突然、現れた敵対勢力の彼女……みなさんなら信じますか?
それでは次回もお楽しみに……
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